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LINKED Vol.15:安城更生病院

2014年7月29日 火曜日
main「キュアだけではなく、ケアの視点が必要」。ひとりの医師が問う、医療のあるべき姿。   安城更生病院 「死ぬまで先生に診てほしい」。在宅の患者たちから絶大な信頼を集める神経内科医が語った、これからの医療がめざすべきものとは。 西三河南部地域の基幹病院として高度急性期医療を担う安城更生病院には、在宅患者たちを訪問診療で力強く支援する、ひとりの神経内科医がいる。障がいなどを抱えながら退院する患者の「その後」と真摯に向き合い、全人的な医療を提供するための人材育成にも力を注ぐその姿を追った。 & [...]

LINKED Vol.15:安城更生病院


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病院を知ろう

「キュアだけではなく、ケアの視点が必要」。
ひとりの医師が問う、医療のあるべき姿。

 

安城更生病院


「死ぬまで先生に診てほしい」。在宅の患者たちから絶大な信頼を集める神経内科医が語った、これからの医療がめざすべきものとは。

main

西三河南部地域の基幹病院として高度急性期医療を担う安城更生病院には、
在宅患者たちを訪問診療で力強く支援する、ひとりの神経内科医がいる。
障がいなどを抱えながら退院する患者の「その後」と真摯に向き合い、全人的な医療を提供するための人材育成にも力を注ぐその姿を追った。

 

 

 

 

 

 「退院後」を考える必要性を感じ、神経内科医、そして訪問診療の道へ。

 610171 「僕たち、死ぬまで杉浦先生に診てもらいたい」。訪問診療で訪れた患者の自宅で、筋ジストロフィーを患う兄弟がこんな言葉を口にした。がんや難病の患者を中心に、退院後も安心して過ごせることをめざし、平成20年から訪問診療に積極的に取り組む安城更生病院。その陣頭指揮に当たるのが、在宅診療部長を務める神経内科医、杉浦 真医師だ。
 杉浦医師を訪問診療へと突き動かしたのは、大学卒業後の臨床研修先に選んだ安城更生病院での研修がきっかけだ。ローテーション研修で神経内科を経験したとき、退院後も障がいを抱えて暮らす患者が多いことに改めて気づかされた。「家に帰ってからどんなサポートが必要なのか」。研修医である杉浦医師は、看護師をはじめとした多職種のスタッフと知恵を絞り、退院後の暮らしを見据えた医療を必死に考えた。当初、別の科の専攻を希望していた杉浦医師だが、徐々に「神経内科医として患者さんの役に立ちたい」と思うようになる。
 その後、一旦大学院に進み、神経内科を専門的に学んだ杉浦医師。ただ、病気の治療、いわゆるキュアの部分に主眼を置いた極めて専門的な医療に触れるうち、徐々に「居心地の悪さ」を感じるようになる。「確かに学ぶべきことは多いが、自分がやりたい方向性とは違うのでは」。そんな風に感じていたという。
 神経内科医として再び安城更生病院に戻った杉浦医師は、大きな転機を迎える。同院で訪問診療に携わることになったのだ。「もっと患者さんに寄り添う医療が提供したい」と考えていた杉浦医師にとって、それはまさに「渡りに船」だった。

 

 

在宅医療のあるべき姿は、人生の物語に向き合うこと。

610001 杉浦医師が最初に訪問したのは、以前から外来で診察を続けてきたALS(筋萎縮性側索硬化症)の患者の自宅だった。しかし、杉浦医師はその場で衝撃を受ける。その患者は月1回の通院のため、ベッドから車イスに乗り、家のなかの段差をいくつも乗り越え、介護タクシーで30分かけて病院に向かい、到着後も1時間あまりの待ち時間を過ごしていた。以前から理解しているつもりだったが、患者が味わう「通院の大変さ」を肌で感じたのである。「何かあればすぐに病院に来てね」。そんな軽々しい言葉が、患者を苦しめていたと初めて知った。「診療時間はわずか数分ですが、そのためにどれだけの苦労を患者さんやご家族に強いていたのか。それがまったくイメージできていませんでした」と杉浦医師は振り返る。
 「今までの医療は、病気を治すというキュアの部分に重きが置かれてきました。ただ、医療は単なる病気の治療だけではありません。命ある患者さんの充実した人生を支える。こうした考えで患者さんと向き合うことが何より大事だと思います」。
 在宅医療の現場では、患者や家族との対話のなかで、本当の思いを引き出すことを大切にしている杉浦医師。その人のナラティブ(物語)に基づいて医療を進める「ナラティブ・ベイスト・メディスン」を実践し、今までの生活、仕事、趣味、価値観、死生観といった背景を理解しながら、患者の生き方に寄り添った本当の意味での患者中心の医療を提供する。これこそが杉浦医師がめざす在宅医療のあり方なのだという。

 

 

訪問診療が始動したきっかけは、病院が抱える 「出口の問題」。

610048 安城更生病院が訪問診療を始めた平成20年頃、高齢者の増加に伴い、全国的に救急搬送される高齢患者が増え続けていた。高齢の救急患者の場合、急性期を脱した後も若い人に比べて症状が安定するまでに時間がかかる上、障がいが残ったり、複合疾患の影響で速やかな退院が難しいケースが多い。そのため各地の高度急性期病院では、空き病床が慢性的に不足する事態が続出。結果的に新たな救急患者が受けられなくなるという「出口の問題」が顕在化し始めていた。加えて、国の方針による在院日数の短縮にもさらなる拍車がかけられ、問題は一層深刻化していた。
 そしてそれは安城更生病院も例外ではない。しかも当時、西三河南部地域には、急性期を脱したとはいえ、濃厚な医学的管理がまだ必要な患者を受け入れることができるような設備・人員を持つ病院が絶対的に不足していた。医療依存度の高い患者が自宅に戻り、それを設備の整わない地域の診療所が見ざるをえない状況だったのだ。610118
 「出口の問題」、退院を余儀なくされる医療依存度の高い患者、そして診療所の医師への過度な負担。これらを解決するために、安城更生病院は持っている総合的な医療機能を使い、診療所のサポート役として、自ら訪問診療を実施しようと考える。そして白羽の矢が立ったのが、神経内科医の杉浦医師だった。
 在宅移行を促して、慢性的な空き病床不足の解消、そして、地域に欠けている部分の在宅医療を提供したい病院と、患者を自宅で診てあげたいと願う杉浦医師。両者の想いが一致したことで、安城更生病院の訪問診療は本格的に始動することになった。

 

 

患者の「退院後」を見ることで、医療のあるべき姿を感じてほしい。

610099 「地域の医療を支えていくためには、高度急性期を担う安城更生病院の医師や看護師、コメディカルであっても、QOL(生活の質)を高めるための全人的な医療、いわゆるケアの意識を持たなければいけない。だからこそ、これから当院で経験を積んでいく彼らにも、キュアだけでなくケアの視点をしっかりと養ってもらいたいのです」と杉浦医師は語る。
 同院には、多くの研修医のほか、併設する看護学校や県内の薬剤部から毎年実習生が訪れる。安城更生病院では、彼らにキュアとケアの両輪がきちんと機能することの大切さを伝えるため、研修プログラムの一環として訪問診療に同行する機会を設けている。病院では経験できない在宅の現場を見ることで、医療者としての基本的610027な姿勢や態度を学んでもらうのが狙いだ。訪問診療に同行した研修医1年目の今岡永喜医師は、将来、専門医としての道を歩む意向だが、「在宅医療を経験することで、患者さんのバックグラウンドを見られて良かった」と率直な感想を口にする。
 「訪問診療に同行した者の感想はさまざまですし、必ずしもすぐに意識が変わるわけではありません。ただ、10年後、20年後、何かの気づきに繋がってくれればいいなと思っています」。すべての医療者に、目の前の病気だけでなく、退院後の生活にまで思いを馳せて医療を提供してほしい。そんな強い願いを持つ杉浦医師とともに、安城更生病院はこれからも地道に種をまき続けていく。

 

 


 

column

コラム

●安城更生病院では、本格的に訪問診療に取り組み始めた平成20年9月以降、訪問診療で介入した数は359例(平成26年4月現在)。訪問件数は平均で1日5、6件、月に70〜90件にも及ぶ。訪問エリアは西三河南部地域全域にわたり、疼痛管理や在宅酸素療法、胃ろう管理など、医療依存度が高く、地域の診療所ではカバーできない患者を支えてきた。


●院内外との連携に力を注ぐのも同院の訪問診療の特徴だ。在宅医療において重要な役割を果たす訪問看護においては、現在、20カ所以上の訪問看護ステーションと連携をとっており、さらに、平成23年からは同院の緩和ケア内科医師もバックアップを開始。院内外の連携を密にとることで、在宅療養の患者にとって、より良い医療の提供を図っている。

 

backstage

バックステージ

●現在、日本の高齢化率(65歳以上の高齢者人口の割合)は23・1%。2050年には40%を超えると試算され、今後は医療・介護ニーズの爆発的な増加が予想される。こうしたなか、国が推し進めているのが、生活者が可能な限り、住み慣れた地域で自立的に暮らせるよう、包括的な支援やサービスを提供する「地域包括ケアシステム」の構築だ。


●「地域包括ケアシステム」においては、それぞれの病院が特化した機能を持つことが要求される。しかし現在、本文で述べたように、急性期後の患者を受け入れる病院が不足。包括的な支援やサービスの提供にはほど遠いのが現状だ。今のような過渡的な状況から「地域包括ケアシステム」を実現するためには、急性期後から在宅までをシームレスに繋ぐ、中間的な病院が現れることが切実に求められているのではないだろうか。

 


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