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シアワセをつなぐ仕事【vol.21】

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LINKED Vol.21:名古屋第二赤十字病院

2016年3月25日 金曜日
表紙大私を育て、支えてくれる、患者さん、チーム、そして教育。 宇都宮友鹿/名古屋第二赤十字病院 脳卒中センター(SCU)   名古屋第二赤十字病院の救命救急センター棟の5階。脳卒中センター(35床)では、24時間365日、脳卒中患者を受け入れ、高度なチーム医療を提供している。その脳卒中センターで4年目を迎える、ある看護師の気づきと成長を紹介しよう。         赤十字の理念を基に個性を尊重する教育が自立した看護師を育てる。   &nbsp [...]

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シアワセをつなぐ仕事

私を育て、支えてくれる、
患者さん、チーム、
そして教育。

宇都宮友鹿/名古屋第二赤十字病院 脳卒中センター(SCU)


 

main

名古屋第二赤十字病院の救命救急センター棟の5階。
脳卒中センター(35床)では、24時間365日、脳卒中患者を受け入れ、高度なチーム医療を提供している。その脳卒中センターで4年目を迎える、ある看護師の気づきと成長を紹介しよう。

 

 

 

 



赤十字の理念を基に
個性を尊重する教育が
自立した看護師を育てる。


 

 

 

ある家族との出会いから
 <感じる心>の大切さに気づいた。

 Plus顔写真1名古屋第二赤十字病院の脳卒中センターに勤務する、宇都宮友鹿。平成24年4月に入職、以来ずっと脳卒中センターに勤め、現在は重症患者を対象とするSCU(脳卒中集中治療室:8床)を担当する看護師である。
 宇都宮が看護において力を入れていることの一つに、家族とのコミュニケーションがある。家族が面会に訪れると、宇都宮はすすんで話しかけ、患者の様子などを伝え、少しでも家族の不安感を軽減できるように働きかけているという。このように、家族との会話を大切にすることは同院の看護方針でもあるが、それ以前に、彼女自身が経験した、ある家族との出会いが大きな動機づけとなっている。その出会いとは、くも膜下出血で緊急搬送されてきた患者の家族だった。「そのご家族は毎日、お見舞いに通って来られましたが、当時私は新人で、積極的にご家族に話しかけることができませんでした。それに対してご家族は、不安を感じていたかもしれません。それからしばらくして、何気ない雑談のなかで、ご家族の一人が『あのとき、こうしていれば…』とつぶやかれたんです。ぽろっと本音がこぼれた瞬間でした。その心細そうな表情を見て、『どうして今まで積極的に話しかけていなかったのだろう。もっとお話しして、この方の辛い気持ちを支えるべきだった』と猛省しました」。
 この出来事を境に、宇都宮の看護の姿勢が大きく変わったという。一つは、<家族看護>に力を入れること。もう一つは、<感じる心>を大切にすることだ。「ご家族は皆、不安や悲しみを抱えておられます。また、SCUの患者さんは意識障害や失語症で、自分の思いをうまく伝えられません。そんなご家族の気持ち、患者さんの苦痛や要望を感じ取り、それに寄り添うことこそ看護師の役割。<感じる心>を大切にしていこうと改めて思いました」と宇都宮は言う。

 

 

<怖さ>を感じる心を
忘れずにアセスメントを行う。

113067 SCUの入室者は、脳の血管が破れたり、詰まったりして、救急搬送されてきた脳卒中(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)患者である。手術や薬物治療によって一命は取り留めたものの、症状は不安定で、いつ急変するとも限らない。看護師には、容態の変化を見逃さないよう、細心の観察とアセスメント(判断や分析)が求められる。
 その緊張感あふれる現場で、宇都宮は今、<感じる心>を大切に看護にあたっている。感受性のアンテナを張り巡らせ、患者の言葉や動き、ちょっとした表情の違いなどをキャッチし、俊敏に対応していく。常に念頭に置くのは「<怖さ>を感じること」だという。<怖さ>を感じるとはどういうことだろうか。「たとえば、血圧が少しでも上がった場合、単に血圧を下げる薬を使おうとするのではなく、今、何が患者さんに起きているんだろうと考えます。そして、これから何が起きたら一番<怖い>か、いわゆるワーストシナリオ(最悪の道筋をたどった場合の予測)を想定し、万全の対応策を考えなくてはなりません」。
 ワーストシナリオに備えるには、脳卒中に対する専門的な知識が要求される。宇都宮は症状や血圧変化などで疑問にぶつかると、その都度、書き留め、自分で調べたり、上司や主治医に聞いて知識を増やし、現場体験へ活かしていった。<気づき→学び→実践>の好循環が、宇都宮の成長を促していったのだ。宇都宮が自分で作ったSCU看護ノートには、それらの学びの内容がぎっしり書き込んである。「<怖さ>を感じることを出発点として、専門知識を蓄え、根拠のあるアセスメントを行うこと。それが、患者さんの急変をいち早く察知し、命を救うことに繋がると考えています」と宇都宮は言う。

 

 

看護師一人ひとりの
個性や考え方を尊重する教育。

Plus顔写真2 宇都宮はここまで、集合研修やOJT(現場教育)、さらに自主的な学びを通じて、一歩ずつキャリアを磨いてきた。その成長を支える専門部署として、同院には<看護教育支援室>があり、新人看護職員研修をはじめ、看護職員継続教育などさまざまな教育支援を行っている。その部署の立ち上げに携わり、同院の看護師教育体制作りを牽引してきたのが、看護副部長の川崎登茂子である。川崎看護副部長は宇都宮の成長ぶりを「自ら気づきを得て、順調に成長してくれています」と評価する。「最初の3年間で学んでほしいのは、看護に必要なアセスメント能力です。病状や生活環境など患者さんの情報をしっかり把握し、患者さんに必要な援助を考え、実践していく能力。それが宇都宮さんはしっかり身についていると思います」。 
113077 川崎看護副部長が教育で大切にしているのは、「看護師一人ひとりの個性を大切に、個々の自主性を育てること」だという。「当院は付属の看護学校を持っていないため、全国のいろいろな学校を卒業した看護師が集まってきます。異なる学校で学んだ者は当然、看護に対する考え方ややり方も違います。受け入れる私たちとしては、まず、そういう多様な個性を認める、その上で、決して型にはめて教え込むのではなく、個々の気づきや学びへのモチベーションを引き上げるよう指導しています。それが、当看護部の伝統的な教育方針ですし、これからも大切にしていきたいところですね」。みんながお互いに認め合い、刺激を与え合い、高め合っていく。その自由で前向きな風土こそ、同院看護部の教育の根底に横たわるものなのである。

 

 

SCUのリーダーとして
さらにチャレンジしていく。

113084 宇都宮はこの4月(平成28年度)から、SCUのリーダーとして、後輩たちの教育においても重要な役割を果たしていくことが決まっている。今後の抱負について聞いてみた。「集合教育では年に2回、<事故シミュレーション>の実習を企画運営していきます。これは、急変時のシーンを想定し、どうやって対応するかを実践的に学んでいくもの。今からどんな風に教えて、<怖さを感じる心>に気づいてもらおうか、いろいろ考えているところです。また、私自身も、急変時は自分のことだけでなく、不安な気持ちで対応する後輩たちをフォローしていかねばなりません。みんなから頼りにされるリーダーになっていきたいですね」。
 そうした直近の目標とともに、宇都宮は将来的なキャリアプランについても、思いを巡らせているという。「SCUでは、摂食・嚥下障害看護や脳卒中リハビリテーション看護の領域で認定看護師の資格を持つ先輩がいます。また、病棟をマネジメントする看護師長、退院調整の分野で専門的に活動している先輩、災害救護や国際救援の領域で活躍している方々もいます。周囲に、いいお手本がいっぱいあるので、先輩方の働くスタイルを見て、どの道に進んでいくか決めていこうと思います」。
 同院の看護部のスローガンは、「チャンス・チャレンジ・チェンジ」。何かをやってみたいという人がいれば、惜しみなくチャンスを与え、その人のチャレンジを精一杯応援する。さらに、チャレンジによってもたらされたチェンジ(変化)を看護部の発展力に活かしていこうという方針を貫いている。宇都宮はその恵まれた環境のなかで、自らの可能性をどんどん伸ばしていこうとしている。


 

 

columnコラム

●名古屋第二赤十字病院では、現場がビジョンを持ち、自発的に行動する組織変革をめざして、平成24年からコーチングを導入している。コーチングは、対話によって相手の自己実現や目標達成を図る人材育成の手法だ。ティーチング(教える)とは違い、答えはその本人が持っているとし、対話を通してモチベーションを引き出し、目標達成をサポートするものである。

●看護師個々を尊重し、<気づき>を引き出す看護部の教育にも、コーチングの考え方が反映されているといえるだろう。川崎看護副部長は「若手の能力を育てるには、リーダーシップを握る管理者の能力を育てることが大切。コーチングのノウハウをベースに、看護師長以上の人が確かな根拠を持って後輩たちの教育にあたれるようにサポートしたいと考えています」と話している。

 

backstage

バックステージ

●人が自発的に行動を起こすには、誰かの指示ではなく、自らの<気づき>がきっかけとなる。そして、自らの気づきから良い結果を生み出すと、本人は大きな満足を得て、さらなる自己実現を求めて学ぼうとする。まさにこれこそ、人材が成長する好循環といえる。しかし、あまり上から<教え過ぎる>と、<気づき>は得られにくく、本人の自発性の妨げとなってしまう。

●名古屋第二赤十字病院の看護部では、一人ひとりの個性を大切に、本人の<気づき>をじっくり促す指導方法で、<自分で感じ、考え、実践できる>看護師を育てている。その風土は、川崎看護副部長、宇都宮看護師のインタビューからも充分に伝わってきた。看護師には個々の自立性(自律性)が必要不可欠だと言われる。その自立性を育てる起点は、<気づき>を引き出す教育にあるといえるだろう。

 

 


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