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病院を知ろう

キーワードは「総合性」。
社会や地域が求める医師の育成拠点をめざす。

 

 

社会保険中京病院


main地域医療機能推進機構のミッションのもと、総合マインドのある専門医、そして総合診療医の育成に情熱を注いでいく。

 

社会保険中京病院から、独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院へ。中京病院は今、平成26年4月の新機構移行を目前に控え、病院機能の充実に取り組んでいる。その一つが、医師の教育である。今回は初期臨床研修(※)に焦点をあて、医師の総合性を強く意識して人を育てる中京病院の「医師教育」を探った。

※「初期臨床研修」は、医学部卒業生が医師免許を取得したあと、大学病院や臨床研修指定病院で2年以上臨床研修を受けるもの。以前は努力目標だったが、平成16年4月より法律で義務化された。

研修医と指導医が一緒に初期臨床研修プログラム(※)について語り合う。

120115  平成25年12月某日、中京病院の会議室には、臨床研修センター長の露木幹人医師を筆頭に、研修指導医、後期研修医、初期研修医たちが顔をそろえていた。「初期臨床研修プログラム見直しの作業部会」の定例会である。
 まずは、前回からの持ち越し議題である「ローテーション研修(複数の診療科を回る研修)のあり方」について意見交換が始まった。「全科を回るメリット・デメリットは何かな?」「初期研修医のなかで不平や不満の声は出てる?」。司会役を務める露木医師のもと、小寺雅也医師(皮膚科部長・臨床研修センター構成員)をはじめとする指導医たちは、ざっくばらんに新米医師の意見を聞き出していく。「僕は全科を回った方が良いと思う。知識が増えるし、人間関係も広がるので…」「全部回ると、希望診療科での研修期間が短くなるのが心配…」。そんな初期研修医の声に、「全科を回るとなると2週間ずつ。教える側にとっては少し短いかな」と指導医も意見をはさむ。まさに談論風発。会議の堅苦しさはなく、みんながオープンに語り合える雰囲気だ。
 ローテーション研修について一定の議論が尽くされた後、「外来研修のあり方(救急外来ではなく、一般外来)」へと議題が移った。注目の意見は、「秋田社会保険病院での外来研修が非常に勉強になった」という報告。院外研修先である秋田社会保険病院では、指導医の監督のもと、初期研修医が外来で風邪や高血圧など一般的な疾患に対応。主治医のように「自分で診断できる」醍醐味があるという。それに比べ、高度な急性期医療を担う中京病院では、一般的な疾患よりも重症度の高い疾患が主な対象となる。初期研修医が主体となって外来診療を行うのは難しいのが実情だ。小寺医師は「秋田まで行かなくても、近隣の病院で同じような外来研修をプログラムに組み込めたら理想的。将来の大きな課題だね」と私見を述べた。
 会議はおよそ1時間ほど。次回の議題や日程を確認し合って終了した。

※臨床研修の到達目標(厚生労働省より提示)に準拠して作られるもの。必修科目、選択必修科目が定められているが、研修医が希望する科を自由選択できる期間もあり、その間のプログラム作成は各病院に任されている。

 

およそ半年間かけて、研修プログラムを自分たちで作り上げていく。

Plus顔写真2  この作業部会がスタートしたのは、平成25年秋から。それから週1回のペースで会議を重ね、約半年間かけて平成27年度版研修プログラムの作成を進めている。同院の臨床研修センターでは毎年、研修プログラムの見直しを行ってきたが、研修に関わる指導医、初期・後期研修医たちを集めて議論を重ねていくスタイルは初めての試みだという。「以前は、厚労省から提示された臨床研修の到達目標に従い、私たち臨床研修センターのなかでプログラムを作成していました。それだと、研修の狙いが伝わりにくいし、不満も生まれる。今回、ディスカッションを重ねるなかで、みんなが研修の目的を理解し、自分たちで作り上げていくというポジティブなエネルギーが生まれました」と小寺医師は語る。
 研修プログラムを見直す上で、小寺医師らが大切にしていることがある。それは、「医学生の人気取りをめざしたプログラムにはしたくない」という決意である。「当院には、これまで優秀な医師を育ててきた伝統があります。それを受け継ぎ、私たちが理想とするプログラムを自信を持って医学生に提示したい。そうすれば、研修医は自ずと集まるだろうと考えています」と小寺医師は自負心をのぞかせる。IMG_4477
 もう一つ、作業部会のメンバーが共通認識にしているのは、「将来、どの専門領域に進もうとも、総合的な視点を持つ専門医をめざすべきである」という考え方だ。これについて、小寺医師は自身の専門分野〈膠原病〉をベースに、こう説明する。「膠原病の患者さんは全身に合併症を持つことが多いんです。そういう場合、肺が悪いから呼吸器内科へ、胃が悪いから消化器内科へ、と、患者さんの治療を切り刻むようなことはしたくない。ある程度は自分で診ることで患者さんも楽に受診していただけるし、これから育つ医師にもそんな総合性を身につけてほしいと考えています」。その思いもあり、小寺医師は専門医の道を急ぐ研修医に、しばしば「待った」をかける。たとえば、皮膚科医になりたいから、「できるだけ皮膚科で研修したい」という人には、「これから一生皮膚科をやっていくんだから、もっといろいろな科を回りなさい」とアドバイス。小寺医師のさりげない助言に、医師の本分に気づかされる研修医も多い。

 

およそ10年前から、「総合性」に着目してきた中京病院の先見の明。

IMG_4573  超高齢社会を迎えた今、日本の疾患構造は、従来の急性疾患中心から慢性疾患中心へと変化している。また、高齢者の場合、一人の患者が複数の病気を持つことが多く、臓器別の専門治療だけではなく、総合的な診断能力が問われ、その重要性が大きくクローズアップされている。
 しかし、同院では、総合的な診断能力が世間の注目を集めるずっと以前、10年ほど前から、各専門の診療科だけでは対応できない内科系疾患を総合的に診療するための部門を開設してきた。それが、内科系診療科(循環器、消化器、呼吸器、血液、内分泌代謝、腎・透析、神経内科)を統合した「統合内科」である。同院では、その診療現場において、初期研修医が基本的な診察法や手技を習得するよう指導してきた。さらに、初期研修の修了後も、内科系に進む後期研修医には、1年間、統合内科を経験するシステムをとっている。外科系ではなく、内科系へ進む医師を対象としているのは、総合性は初期診断を担う内科において、より必要だからだ。
 「統合内科を体験すると、誰でも広いスタンスで物事を考えられるようになれます」と、露木センター長は言い、こう続けた。「私は腎臓の専門医ですが、透析や腎移植といった治療だけが専門医の役割ではないと考えています。患者さんの心理状態や家族の支援の有無、社会復帰の道筋まで考えなくてはならない。そういう広い視野を学ぶためにも、統合内科は最適な場です」。社会や地域が必要とする、幅広い視野で患者を診る医師。そこに焦点を当てて、同院の医師教育の歴史は積み重ねられてきたのである。

地域医療機能推進機構へ移行し、総合性を備えた医師の育成に一層力を注いでいく

Plus顔写真1 平成26年4月、中京病院の母体は社会保険から地域医療機能推進機構へ転換する。この新機構は地域医療への貢献を最大の使命として、総合診療医の養成に積極的に関わることを表明している。新機構の一員である同院では、後期研修医を対象とした総合診療医育成プログラムを作成した。このプログラムでは、特定の臓器や疾患に限定することなく幅広い視野で患者を診ることのできる能力を養い、超高齢社会における地域医療のリーダーの育成をめざす。内科系の研修医にとっては、「総合性を備えた専門医をめざすか。それとも、新しい専門医制度(詳しくはバックステージ参照)の基本領域の一つとなる総合診療専門医をめざすか」という選択肢が増えたことになる。
 ただし、総合診療医養成プログラムは、その他の内科系専門医の養成と全く別軸で展開されるものではない。「総合診療医の育成はあくまでも、これまで築いてきた、総合性を備えた専門医育成プログラムの延長線上にあると考えています。すべての専門医が総合マインドを持つべきという当院の教育方針は変わりません」と露木センター長は語る。
 新機構に改組しても、中京病院に受け継がれてきた医師教育の信念は変わらない。その上で、超高齢社会の地域医療のニーズに対応できる総合診療医の育成をめざす。「今後は、研修プログラムを実際の病病連携や病診連携と連動させていきたい」と力強く語る小寺医師。中京病院はこれからも、地域を見つめ、地域の声を聞き、地域とともに歩む、その牽引役となる病院であり続ける。

 


 

column

コラム

●同院の後期臨床研修プログラムのなかに、1カ月間の「国立長寿医療研究センター(※)の病院研修」というユニークな選択分野がある。これは、同院 の絹川常郎病院長の発案により実現したもの。その狙いを絹川病院長はこう語る。「高齢者の場合、手術して疾患は治ったものの、入院中に認知機能や身体機能の障害が進行してしまうこともよくあります。そういう高齢者特有の問題にも対応できる知識を、すべての専門医に学んでほしいと考えています」。

● 平成25年、この老年科研修への希望を募ったところ、実に多くの後期研修医が手を挙げたという。すでに数名、同センターで研修を受けてきた研修医が戻ってきている。今後さらに研修者が増えれば、高齢者の入院による弊害を減らし、退院後スムーズに在宅療養へ導く上で確実に効果を上げていくだろう。

※日本で唯一の長寿科学や老年学・老年医学に関する総合的・中核的な国立研究機関。併設する病院で、高齢者の一般内科診療や認知症診療などを行っている。

 

backstage

バックステージ

●平成27年以降、大学医学部・医科大学を卒業した医師を対象に、専門医制度が大きく変わろうとしている。中立的な第三者機関を設立し、専門医の認定と養成プログラムの評価・認定を標準化すること。そして、内科や外科などの基本的診療領域の上に、循環器内科や消化器外科などのサブスペシャリティ領域(臓器別領域)を積み上げる2段階制をとることが決定した。

●内科系であれば、従来は卒後2年の研修を経て、認定内科医へ。さらに3年以上の研修を経て、専門医へ進んだ。新制度では、卒後5年の研修を経て、新・内科専門医へ。さらにそこから、臓器別の専門研修を経て各内科系専門医へ進む。より社会のニーズに応え、総合性と専門性をバランス良く備えた内科医を育てていくことが目標だ。中京病院の「すべての医師に総合マインドが必要」とする伝統的な医師教育は、この制度改革とまさに合致する。患者を全人的、臓器横断的に診る医師の育成に力を注ぐ同院のこれからに期待したい。

 


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