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病院を知ろう

地域の高齢化と真摯に向き合ってきた伝統。
そこに「医師育成の未来像」があった。

 

 

江南厚生病院



main急速に高齢化が進む地域の病院として、地域の医療を支え続けてきた歴史。
病気だけでなく「人」を診ることを叩きこまれてきた医師たちの存在が、かつてない輝きを放ち始める。

「内科医たるもの、すべての症状を診る力を養うべきだ」。
急速に高齢化が進むこの地域のなかで、住民の安心・安全を守るため、江南厚生病院では、専門性の追求だけでなく、全人的、総合的な視点を持った医療にずっとこだわり続けてきた。ただ社会が、専門医療ばかりを望む時代背景には逆行していたかもしれない。
しかし、それが今、全国各地で高齢化が進むなか、時代の先端となりつつある。地域とともに育んできた伝統が、医師たちの志が、今こそ花開く。

 

研修医が心惹かれる先人たちの姿。

_H4074 「この病院を研修先に選んだのは、病院を見学したときの雰囲気が良かったからですかね」。こう振り返るのは、江南厚生病院の安達慶高医師。現在2年目の初期研修医だ。
 この初期研修医とは、大学、医科大学の医学部を経て国家試験に合格後、国が定めた2年間の研修を受けている医師のこと。研修先の病院は自ら選択可能で、自身の医師としての将来像を見据えながら自分に合った病院を選んでいく。安達医師が同院を選んだのは、学生時代から志望する内科に強い病院であり、さらに病院見学の際、指導環境の良さを目の当たりにしたからだ。
 Plus顔写真1「研修医が担当する患者さんに対して、毎日、先輩の医師たちが回診で状態を逐一確認するだけでなく、丁寧な指導も行っていました。これなら自分も着実に成長できるだろうと。さらに救急外来の様子を見て、初期研修1年目と、2年目の研修医や上級医との距離が非常に近くて雰囲気が良く、気になったことはその場ですぐに聞ける環境が整っているなと感じたのも大きかったですね」。この他に、同院の研修では、各診療科をローテーションする順番を研修医同士で話し合って決めるなど、自主性を重んじている点にも魅力を感じたのだという。
 「将来的にはどんな症状にも対処でき、患者さんの全身を診ることができる内科医になるのが目標です」と安達医師。初期研修2年目の現在は、一般内科の知識を幅広く身につけようと奮闘中だ。

 

 

医師としてのあるべき姿は先輩たちが「背中で見せる」

Plus顔写真2 同院で活躍する研修医たちの成長を、研修プログラムの責任者として見守る河野彰夫医師。彼もまた、一流の内科医を志して同院の門を叩いた医師のひとりだ。「内科医たるもの、すべての症状を診なければならない」。そんな志を持った先輩医師たちの背中を見ながら、患者の全身を診る総合的な診療能力を自らに叩きこんだ。こうした経験が、教育を司る立場になった今でも活きているという。
 「研修では、一般的な疾患に対処するための基本的な診療能力を身につけてもらいますが、そのなかでも、できる限り研修医たちが臨床という実践の場で修練できるように考えているのが当院の特長です」と河野医師は話す。
 河野医師が医師のイロハを学んだ頃は、言葉ではなく、先輩医師の実際の行動から学ぶ「背中から盗093_LinkedKonan_2014め」が当たり前の時代だった。そんな教育環境は今やすっかり様変わりし、当然のように研修医育成のための手厚いプログラムが用意されている。ただ、河野医師は「すべてが『背中から盗め』では、得られるものも限られる。だから教育プログラムの高度化は絶対に必要」と前置きした上で、「志の部分は、背中を見ながら覚えてもらうしかない」と力説する。「医師としてのあるべき姿。これは先輩医師たちが背中で見せなければならない。だから私も、研修医に面と向かって話しているときだけでなく、ふと背中を見せたときに、どんな背中が研修医の眼に映っているのかも常に意識するようにしています」。
 先輩医師の背中を見て育った研修医たちが、次代の後輩たちへ自分の背中を見せる——。そんな良いサイクルができあがってくれることを河野医師は願っている。

 

 

超高齢社会に突入し、変わりゆく医師の理想像。

_H3967 今、日本では「2025年問題」が注目を集めている。この年は、我が国の人口構成比で大きな部分を占める団塊世代が、75歳の後期高齢者に達する年であり、医療・介護の問題がより一層深刻化するだろうと指摘されている。
 これまでの医療は、医学の進歩に伴い、各専門分野の治療技術が高度化。それゆえ臓器別・疾患別の専門的な知識・技術を習得する必要があった。しかし、本格的な超高齢社会を迎えつつある今、従来の専門特化した医療だけでは立ち行かないことは明白である。なぜなら、高齢者はいくつもの慢性疾患を抱えており、その医療は単に臓器別・疾患別にとらえればこと足りる、というものではないからだ。一疾患の治療をすれば終わりという時代は、すでに終焉を迎えようとしている。
 そして現在、そのような状況に対応できる医師、つまり、患者を全人的、総合的な見地から診療できる医師が圧倒的に不足している。今までの医師教育が、専門分野の知識や技術習得にウェイトを置き、総合的な視点を育むことを軽視してきた結果である。
 だからこそ今、研修医を育てる初期研修で、こうした総合的な診療能力を養う必要性が強く主張されはじめてきた。かねてから「内科医たるもの、すべての症状に対処すべき」と諭してきた江南厚生病院の医師教育は、今まさに時代が求めている医師像にマッチする教育となりつつあるのだ。

 

 

時代のニーズに合致した総合性を持つ医師の育成拠点に。

026_LinkedKonan_2014 江南厚生病院のある江南市周辺は、愛知県下でも比較的高齢化率の高い地域だ。そのため、全国的に高齢化の問題が顕在化する以前から、同院はずっと高齢者と向き合い続けてきた。こうした「江南厚生病院のDNA」が、総合的なものの見方や診療能力を重んじる教育方針に表れている。
 「当院の内科医は、初期研修を修了後も、一般内科的な疾患を診る機会が非常に多い。また、外科医においても、当直制度を見直すことで、自分の専門領域以外の外科系患者さんについては、救急の場で対応してもらうようにしています」と話す森下剛久副院長。一般的な病気を広く診る救急の場を「教育の場」に変え、さらに救急のシステム自体も「教育の場」として機能するように変えていく。このようにして、江南厚生病院は総合的な視点を養い、高齢社会が求める理想的な医師の育成の場を醸成し続ける。
 今後は、「以前の昭和病院時代から続く指導医と研修医の距離の近さを活かしつつ、研修医の意見を汲み入れた教育のシステム化を図っていきたい」と語る森下副院長はこう続ける。「これからの地域医療を考える上で大切なのは二つ。一つは、地域に大きく開かれている場所である救急です。その救急医療を支えている若い医師たちが、地域の特性や患者さんの生活背景を知り、地域の人たちを深く理解した救急を行うことが大事です。もう一つは、地域への情報発信。市民講座などで病院の考え方を発信し、お互いに理解を深める交流の場が必要だと感じています」。
 地域の高齢化に向き合うことで、住民たちのニーズに合致した総合性を持つ優秀な医師を輩出し続けてきた江南厚生病院。これからも同院では、住民たちとの相互理解に心を砕き、地域のなかで次代を担う医師が育成されていくに違いない。

 

 


 

column

コラム

●江南厚生病院は、専門性の高い医療についても確かな実績を積み上げてきた。その最たる例が、同院の血液・腫瘍内科だ。同科の前身は、統合前の昭和病院血液内科で、その設立は昭和40年代のこと。東海地区でも屈指の長い伝統を持ち、尾張北部、岐阜県南部を中心とした広い地域を代表する血液病センターとして大きな役割を果たしてきた。とりわけ造血幹細胞移植療法の分野においては、国内有数の症例数を誇っている。

●現在は、名古屋BMTグループ(東海4県を中心に、造血幹細胞移植を行っている大学や病院により構成)の参加施設と連携し、最良の医療の提供に努めるほか、日本骨髄バンク、臍帯血バンクネットワーク、海外バンクを介した移植実施施設の認定も受けている。また、医師教育の面でも、血液化学療法および造血幹細胞移植の専門医を多数輩出。名古屋大学をはじめとした教育研究機関や臨床の第一線でこの分野をリードする立場の医師も多い。

 

backstage

バックステージ

●現在、我が国では、今後さらに進む高齢社会を見つめ、医療提供体制の変革が進められている。しかし、その体制を支える総合性を持つ医師の育成はまだまだ進んでいないのが現状だ。

●医学のめざましい進歩を背景に、市民である我々はこれまで、病院、医師に対し、過度なまでに専門医療を求めてきた。だが、これからの高齢社会では、専門医療だけでなく、生活の時間軸に沿った継続的な医療の必要性を、まず我々自身が認識することが大切だ。

●江南厚生病院は、地域の事情で全人的に患者を診てきた歴史があり、医師教育においても総合性を持つことを重視してきた。臨床現場と密接に結びついた同院の医師教育には、今後求められる教育の形があるのではないだろうか。


 


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