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アーカイブTOPタイトル-08 愛知県は「救急搬送受け入れ率97.9%」という、誇るべき救急医療体制の整った地域である。この救急医療体制に死角はないのだろうか。救急医療は、かつて交通事故などの外傷が救急搬送の中心だったが、今や脳血管障害や心疾患などの内科系疾患が増え、その内容は大きく変貌してきている。今後、予想される高齢者の増加に伴い、この傾向は強まり、救急医療ニーズもさらに複雑化していくだろう。高齢社会に向けて、これからの救急医療はどうあるべきか。さまざまな病院の取り組みを通して、問題と課題を追う。


救急医療崩壊の危機から蘇った海部地域。

津島市民病院をみんなの力で救え。

 愛知県津島市にある津島市民病院。1階の総合案内に、ピンクのハート模様に彩られた「ありがとうポスト」が設置されている。海部地域の医療を考える「海部地域医療サポーターの会」から病院スタッフへ、感謝の気持ちを伝えるために届けられたものだ。「地域の方々から感謝の言葉をいただいて、うれしく思っています」と笑みをこぼすのは松崎安孝病院長である。「当院は年間約4,000件の救急搬送を受け入れています。ここまで回復できたのも、多くの方々の応援があったからこそですね」。松崎病院長が感慨深く語るのには、理由がある。今から5年ほど前、津島市民病院は深刻な病院機能不全に陥った。それまでの老朽化した施設を段階的に改築していた同院は、平成13年、海部医療圏の名古屋医療圏からの独立を機に、151床の増築・増床を行った。しかし、増床に見合うだけの医師の確保が十分できず、平成19年度になるとさらに内科系の医師が減ってしまった。この背景には、医師不足となった大学病院の医師の派遣機能が低下した事情がある。そのため、同院に残った医師の負担が非常に大きくなり、「体が持たない」と辞める医師が出てきたのだ。そうした影響は、救急において従来どおりの救急搬送患者数を、受け入れられないという事態を引き起こした。津島市民病院は、どのように立ち直ったか。津島市民病院の位置する海部医療圏について簡単に説明しておきたい。海部医療圏は愛知県西端に位置し、津島市・愛西市・弥富市・あま市・海部郡をカバーするエリアで、人口は約33万人。救急告示病院は厚生連・海南病院、津島市民病院、あま市民病院(元・公立尾陽病院)の3つがある。このうち緊急性の高い疾患に365日対応できるのは海南病院しかないため、隣接する名古屋市中村区にある名古屋第一赤十字病院も二次救急に対応している。救急医療において海部医療圏を東西に分けると、西部は海南病院と津島市民病院が担い、東部は名古屋第一赤十字病院とあま市民病院が担う体制だ。全体の救急搬送件数は年間約13,000件。このうち、下記のグラフで示す通り、津島市民病院は平成18年度は3,673件受けていたが、平成19年度は2,912件に減少。反対に、海南病院への救急搬送が増加し、その数は医療圏の救急搬送件数の約4割までになった。また、東部においても同様に、あま市民病院が著しい医師不足から診療体制の縮小に追い込まれ、救急医療への対応が不十分になった。その影響は名古屋第一赤十字病院への救急搬送増加という形で表れた。この状態がさらに悪化すれば、海部医療圏の救急医療体制が崩れてしまうのではないか。その危機感から行政や大学が援助の手を差し伸べる一方で、地域の病院・医師会も自発的に動き出した。万が一、一つの病院の救急機能が停止すれば、たちまち他の病院の負荷が増大する。西部・東部ともに、病院間の連携の必要性がより高まった。海南病院の山本直人院長はこう振り返る。「あの当時、津島市から当院に来られる患者さんが増員傾向を示し、さらにこれが進むと、当院は受け切れるか、医師をはじめとする職員が対応し切れるかという強い危機感を持ちました」。急を要するのは、津島市民病院の医師の確保だ。休止していた神経内科を再開するために、海南病院から津島市民病院へ医師を派遣。続いて、今いる研修医の教育を強化するべく、研修担当の副院長が津島市民病院へ赴いた。教育体制を充実させることで、研修医を戦力化するとともに、今後、研修医から選ばれる病院への整備を図ったのである。「いろいろ苦労しましたが、おかげで2つの病院の絆がいちだんと強まりました。当時は2つの病院間で各診療科の代表部長が集まり、いろんな意見交換をしました。今でも、管理職の連携会議は継続して行っています」と山本院長は話す。病病連携といっても、診療科の部長医師まで顔を合わせることは珍しい。顔の見える関係ができ、目前の課題を円滑に克服できるという。83f815B835E1

医師会と住民の協力があってこそ。

 また、地元にある2つの医師会の支援も大きかった。地域診療所から週に1回、交替で医師を津島市民病院の救急外来へ派遣し、夜間診療をサポートすることを決 めたのだ。津島市医師会の杉山秀樹会長は言う。「当時の状態で市民病院に一次救急の患者さんが押し寄せたら、病院の救急機能がパンクしてしまう。少しでも一次救急をお手伝いしたかったし、夜間診療の場所を借りるという意味もありました」。独歩患者を診療所の医師が診て、必要に応じて院内の専門医に繋ぐことで救急外来の医師の負担を軽減した。「なによりも地域の先生方の応援を受けているという事実が励みになった」と松崎病院長は語る。 8AC93EC03
 医師会ではその取り組みを発展させ、平成21年10月、休日そして平日夜間も診療を行う急病診療所を開いた。医師会が一次救急を担うことにより、海南病院や津島市民病院は二次救急に専念できる体制に近づいた。急病診療所を利用する時間外患者数は、平成20年度10,593人だったが、平成22年度には14,048人(※1)に上昇。これに伴い、病院を受診する軽症患者数が減少したのである。海部医師会の谷本光保会長は「一次救急は我々が頑張るから、二次救急は市民病院の先生方に頼む、という気持ちでした。これからも市民の方に、一次救急はこちらを利用するよう理解を促していきたいですね」と語る。海部地域の取り組みはこれだけではない。地域医療のあり方について住民の理解を得るために、海部地域にある3つの病院(海南病院、津島市民病院、あま市民病院)と津島市が連携し、「海部地域の医療と健康を推進する協議会」を設立。この協議会が主催し、「地域医療と健康生活を守るためのシンポジウム」を平成22年2月から開催するようになった。
 「私たちの暮らす、この海部地域の地域医療を守り育てるために、住民として、医療関係者として、何をすべきか、何ができるか、いっしょに考えてみませんか」…こんな呼びかけに大勢の市民が足を運び、開催はすでに6回に上る。その一環として、「海部地域医療サポーターの会」の設立も働きかけ、冒頭で紹介した「ありがとうポスト」のような住民によるサポート活動へ繋がっている。海部地域医療サポーターの会・代表の横井千恵子氏は「海部医療圏の危機は感じていましたが、私たちには何もできないと思っていました。でも、シンポジウムに参加し、住民にも大きな役割があると知りました。住民が地域の医療を守るには、かかりつけ医を持つことが大切です。3病院に設置IMG_7931させていただいたありがとうポストには、医療関係者が少しでも気持ちよく働いていただければ、病院も安定していくだろうという思いが込められています」と話す。地域の救急医療崩壊の危機が一つの契機となり巻き起こった、地域医療を守るムーブメント。病院、診療所、行政、そして地域住民が皆、同じ方向に向かって海部地域の医療を守っていこうとしている。ちなみに津島市民病院の救急搬送受け入れ件数は、平成22年度には4,028件まで上昇。現在も精力的に病院改革を進めている。一方、海南病院の救急搬送受入件数は平成20年度に4,833件まで減少したものの、平成22年度には再び5,168件まで上昇した。この背景には、地域での救急搬送が増加していることと、三重県からの救急搬送患者が増えていることがある。同院では目下、一度に5台の救急車を受け入れ可能な高機能な救急センターを整備する計画を進めている。なお、海部東部においては名古屋第一赤十字病院があま市民病院をサポートし、現在もあま市民病院の病院改革が進められている(平成27年度新築移転予定)。

※1 数字は海部医療圏地域医療連携検討ワーキンググループ資料より

 


次々と手を結ぶ病院と病院。

地域の三次救急を担う基幹病院同士の連携。

91E593AF95a8940 海部医療圏の危機は、この地域だけに起きた特殊な例だろうか。どの地域も、数少ない基幹病院(三次救急、もしくはそれに準ずる機能を有する地域医療機関:以下、基幹病院という)がフル稼働して救急医療に取り組んでいる。今後、高齢の救急患者が増加していくことが予想され、医療関係者の多くは救急医療機能低下への強い危機感を持っている。 そんな意識から、医療体制の強化に乗り出す試みが各地で見られるようになってきた。豊田市とみよし市で構成される西三河北部医療圏を見てみよう。救急を担う医療機関は、三次救急機能を有する厚生連・豊田厚生病院とトヨタ記念病院、その他に、救急機能を有する厚生連・足助病院、豊田地域医療センター、みよし市民病院がある。夜間・休日の二次救急は、上記の5病院が輪番で対応。小児二次救急は豊田厚生病院とトヨタ記念病院が当番で対応している。そして、一次救急は、24時間365日、地域医療センターが担うほか、休日の昼間については、豊田加茂医師会が受け入れている。愛知県内でも、本来の救急医療体制が比較的機能している地域と言えるだろう。96L93c8DX90B6
 豊田厚生病院の片田直幸病院長は語る。「5病院がそれぞれどういう役割を担うか、常に話し合っています。とくに三次救急同士の連携は緊密ですね」。豊田厚生病院とトヨタ記念病院、設立母体は違うが、非常に絆は強い。周産期医療については両院が患者をバランス良く受け入れ、ハイリスク分娩などは「地域周産期母子医療センター」であるトヨタ記念病院が担う。それによって、過重労働になりがちな産婦人科医の疲弊を防いでいる。また、トヨタ記念病院が電子カルテ更新のため診療を休止したときは、豊田厚生病院が救急患者を精一杯受けたり、反対に豊田厚生病院の新築移転時はトヨタ記念病院が救急患者を出来得る限り受けるなど、持ちつ持たれつの関係を構築している。このほか、研修医教育やドクターカー運用の連携、さらに、事務部門でも患者数、病床稼働率などのデータを交換し合うほど連携が進んでいる。「二つの病院の医療機能が必ずしも一致していないことで、両病院が相互に補完し合えるし、いい刺激を与え合えます」と、トヨタ記念病院の稲垣春夫病院長は話す。同じ地域に基幹病院が2つある。両病院は、その存在意義と使命を強く認識し、山間過疎地にあって医師不足に悩む厚生連・足助病院への支援を実施。自院の医師数に余裕があるわけではないが、現在、豊田厚生病院からは泌尿器科医が赴き、トヨタ記念病院からは整形外科医の派遣を、継続的に行っている。この地域は、全体で見ると現在は比較的若い年齢層が多いが、ある時期が来ると一気に高齢化が進む。「未来に向けての体制を今から作り始める」と、両病院長は言う。

 

医療機能の分担を前提とした連携。

8AF2958C8CA7918D8D87  三次の救急医療を担う基幹病院は、同時に、地域の急性期医療をも担う。その基幹病院においては、今後の急性期病院の指標となるDPC支払い方式(※2)を導入している。急性期機能を維持、高度化するには、速やかな患者の退院、受け入れという回転を保たなくてはならない。そのためには、急性期を脱した患者を次のステージに送り出すことが必要であり、それを担う入院機能を有する地域の医療機関(以下、地域医療機関という)との連携が重要となる。地域全体の医療機能の分担という視点から、地域医療機関のなかで、積極的に基幹病院との連携を行う病院が増えてきた。名古屋市東部エリアを見てみよう。名古屋市名東区にある独立行政法人国立病院機構・東名古屋病院は、いち早く急性期以降の領域を担う病院として名乗りをあげた。もともと東名古屋病院は結核と神経難病に特化しつつ、回復期リハビリテーション病床も備えた病院である。平成21年に副院長として赴任してきた内海眞院長(平成22年院長就任)は、「一般医療の拡充」を新たな方針として打ち出し、強力に改革を推し進め、総合内科、血液・腫瘍内科、歯科口腔外科、泌尿器科といった新しい診療科を開設。同時に医師が足りなかった循環器内科、消化器内科を充実させた。 8AC93EC04
 この狙いについて内海院長は「当院の近隣には名古屋第二赤十字病院、愛知医科大学病院などの基幹病院があります。重症疾患はそちらにお任せして、当院はやはり急性期後の亜急性期、回復期、慢性期医療を担うべきと考えました」と語る。病院の性格を明確にしたことで、病病連携は一気に進んだ。基幹病院から患者を引き継ぎ、在宅復帰をめざし、質の高い継続医療を提供している。また、一般医療の拡充は高齢者のニーズに応える意味もある。「結核医療でも神経難病でも高齢者の方が多く、ほとんどは合併症を持った方です。専門医療をきちんとやっていくためにも、一般医療の機能が絶対に必要だと思いました」(内海院長)。診療科が増えたことで、広範な領域に亘って病気の再発予防に取り組む体制もできた。実は病気の再発予防は、救急医療を守るために非常に大切なポイントだ。高齢者の場合、一旦、基幹病院を退院しても、その後に病気が再発したり、他の持病が悪化して再入院する確率が非常に高い。そうなると、ますます基幹病院に患者があふれてしまう。東名古屋病院は退院後の健康管理に力を入れ、患者を重篤化しないよう努めることで、基幹病院への救急搬送という事態を引き起こさせない役割も担っている。同じようなケースが、名古屋市中村区でも見られる。医療法人珪山会・鵜飼リハビリテーション病院や医療法人衆済会・増子記念病院が、基幹病院である名古屋第一赤十字病院と連携。両院とも早期退院患者の受け皿を用意し、在宅へ橋渡しする機能強化を図っている。また、西三河南部西医療圏でも、社会医療法人財団新和会・八千代病院と医療法人仁医会・あいちリハビリテーション病院が、厚生連・安城更生病院の機能を補完する病院として連携を深めている。今後も増え続ける救急患者に備え、病院がそれぞれの個性を打ち出し、機能分担を図ることで、高齢化に伴い複雑化する今後の地域医療を守っていこうとしている。
※2 DPCとは、「Diagnosis Procedure Combination」の略で、医療費の定額支払い制度に使われる評価方法とその制度を指す。


 97.9%救急応需の死角。

現在の基幹病院の救急医療機能は万全なのか。

83f815B835E2 高齢社会の到来、それに伴う救急患者増大の危機感から、基幹病院を軸に地域医療機関との連携が強化され、現在の救急医療体制を守ろうという動きが各地域で見られる。それ自体はとても重要な試みといえる。しかし、それ以外に、救急医療機能を危機にさらす問題はないのだろうか?「多くの基幹病院が、実は限られた医療資源で、爪先立ちで今の救急医療を支えている点に大きな問題がある」と語るのは、名古屋掖済会病院の加藤林也院長だ。同院は昭和53年、東海地方で初めて救命救急センターを設置。平成11年より救急科に救急専従医を配し、他院に先駆けて「北米型のER救急システム」を確立。先進の救急医療を実践してきた草分けである。同院の救急現場で鍛えられ、さまざまな病院に巣立っていった医師も多く、東海地区の救急医療のトレーニングセンターとして大きな貢献を果たしている。「救急患者は一次から三次まで決して断らない」が同院の確固たるポリシーだが、それでもどうしても断らざるを得ない事情がある。その原因を調べると、昨年一年間の受け入れ困難件数は564件に上り、最多は「手術室使用不可・医師対応不可」249件(44.1%)である。これらは「手術室が使用中で空きがない」「現在、他の急患を処置・手術中」などが原因で、受け入れたくても、受け入れられないケースなのだ。「手術室は常時予定が入っています。そこへ緊急手術を割り込ませると、予定手術が後回しになってしまい、執刀医や麻酔科医、看護師の手配、やりくりが大変になるのです」と、救命救急センターの北川喜己副院長兼センター長は言う。実際、同院では限られた麻酔科医数にも拘わらず、彼らの献身的な働きで多くの救急患者の緊急手術に対応してきた。それでも受け入れ困難が生じる。ことに麻酔科医の不足は深刻だ。難易度の高い手術を数多く行う同院では「手術室の数だけ麻酔科医が必要」という。三次救急を考えた場合、救命救急センターの運営形式は北米型ERシステムあり、各科相乗り型ありと、それぞれ基幹病院の特性にあった形式が採られる。共通することは、重篤な患者を受け入れるためには、救命救急センターの後ろに控える基幹病院の急性期医療機能との円滑な連携が不可欠ということ。すなわち、どの形式を採ったとしても、救命救急センターと急性期医療機能を繋ぐブリッジになるのは、集中治療機能と手術機能だ。これがフル稼働状態になると、加藤院長が指摘するように、重篤な患者の救急不応需という事態が引き起こされる。実はこの両機能の維持・確保が、多くの基幹病院を悩ませている。右上の表を見ていただきたい。愛知県下の救命救急センターの緊急手術件数・常勤麻酔科医・常勤手術室看護師数だ。絶対数の多寡はあえて論じないが、基幹病院ごとで大きな格差があることが解る。ことに麻酔科医の少ない基幹病院では、各診療科の医師が自ら麻酔をかけるといった工夫を行うことで、何とか対応しているのが現状だ。今後、各地域の救急機能を維持・強化するためには、救急医だけではなく、これらに関連する医療スタッフの適正な配置や安定的な供給が必要であり、個々の医療機関任せではなく、社会全体で取り組まなければならない、非常に大きな課題と考える。


医療資源の適正配置と、安定供給の仕組み。

地域医療再編の動きと、実情に合わなくなった二次医療圏。

9Dt8DCF89EF95a894003 救急医療を含む地域医療全体の方向性を考えるとき、重要になるのが「二次医療圏」。二次医療圏とは医療法で規定される、特殊な医療を除く一般的な医療サービスを提供する枠組みで、「地理的条件等の自然的条件及び日常生活の需要の充足状況、交通事情等の社会的条件を考慮して、一体の区域として病院における入院に係る医療を提供する体制の確保を図ることが相当である」と規定されている。すなわち、この二次医療圏ごとに医療計画が練られ、必要な病床や人材の供給が論じられる。 しかし、これまで見てきたように、地域医療は、基幹病院とその機能を補完する地域医療機関との連携を軸に、再編されようとしている。こうした動きに対して、二次医療圏の現在の枠組みは、実情に合わなくなっているのではないか。たとえば、名古屋第一赤十字病院は名古屋医療圏に属する。だが先述のように、海部医療圏をはじめ尾張中部医療圏をもカバーし、平成15年に救命救急センターの指定を受ける際、両医療圏の三次救急を担うことが期待された経緯がある。「既存の医療圏に縛られず、当院における“責任医療圏”という気持ちで地域医療を考えている」と、小林陽一郎院長は語る。今、地域医療の現場で起こっている、基幹病院を軸にした地域医療連携の動きに合わせ、二次医療圏の線引きをし直す必要はないのか。厚生労働省も医療計画の見直しに際しては、従来どおり、人口規模に限らず、すべての医療圏の現状について検証を行い、現在の医療圏が適切かどうか、検証を行う必要があるとしている。課題は、二つある。一つは、地域の医療体制再構築の動きを加速することだ。病院間の連携はまだ緒についたばかり。地域にあるすべての医療機関が、救急を含めた地域医療全体を見つめ、自らの立ち位置を決定させる。そして、相互に補完し合う関係にある病院と、顔と顔が見える関係を構築することが必要と考える。もう一つの課題は、従来の医療圏に囚われず実情に合わせた新たな線引き。すなわち、新たな医療圏決定へと、自治体、住民、そしてすべての医療機関が自ら動くことが急務となる。そのうえで、注意を要することは、東海地区の基幹病院の多くが市立病院である点だ。実際は、市町村という行政単位を超えて広域から患者を受け入れ、公的医療を支えている。だが、設立母体は「市」という行政単位のため、限定された自治体財政から、公的医療に対する財政支援を受けることになる。そのため、経営判断には財政支援を行う「市」の意向に左右される傾向が、少なからずある。今後、期待される医療連携も、自治体行政圏の違いにより、阻害される要因にもなっていくように考える。従来の二次医療圏の見直しを計る際に、小林院長が指摘する“責任医療圏”、また、市民の生活での行動傾向を見つめた“生活医療圏”という発想を取り入れ、複数の自治体がそれぞれの行政圏を超え、地域にある医療機関を公正にサポートする仕組みづくりが必要ではないだろうか。そのモデルとして、厚生連・海南病院が現在進めている大規模な改築計画がある。この計画は自治体病院を持たない弥富市のほか、愛西市、海部郡蟹江町、飛島村、三重県木曽岬町が財政支援し進められている。今後、こうした広域圏で地域医療をサポートする動きが進むことを期待する。

 

人材の適正配置と安定供給への試み。

9Dt8DCF89EF95a894002 人口動態等の統計資料を使えば、医療圏単位で、今、必要とされる医療、そして今後、必要とされる医療は、ある程度予測することは可能だ。どこに、どのような人材が必要かも見えてくる。但し、現状、医師や看護師の確保は、個々の医療機関の自助努力とされている。それで良いだろうか。大きな偏在をもたらす危険性はないだろうか。医師についていえば、この調整機能は大学医局の機能に頼っていた部分が大きい。但し、平成16年に施行された新医師臨床研修制度により、医局の医師に対する影響力が大幅に低下し、研修医たち自らの判断で研修病院を選択するようになったことが、この偏りを拡大する方向に作用している。新たな試みはすでに始まっている。各県の地域医療再生計画に基づき有識者会議が配置され、その進捗状況を把握し、必要な助言を行うとともに、医療機関相互の機能分担・連携のあり方について、医師の派遣体制も含めた検討が行われた。結果、愛知県下では「医師派遣連絡会議(県、県医師会、四大学)」が発足。個々の病院に医師を派遣するのではなく、地域の実情に合わせ、救急医療に携わる医師を計画的に派遣しようとする動きが生まれた。また、LINKED前号で取り上げた、大学医学部入試で、地元高校の出身者らを特別な枠で選抜する「地域枠」制度や、「寄附講座」という切り口での試みも本格的に動き出している。寄附講座とは、行政や企業が大学に寄付し、その寄付で研究や教育活動をするものである。名古屋大学医学部附属病院総合診療科では、岐阜県下で医師不足が深刻化する東濃医療圏のニーズに応え、中津川市と寄附講座の契約を締結。市が平成24年3月から5年間名古屋大学に寄付を行い、大学が「地域総合ヘルスケアシステム開発講座」を開設するとともに、昨年開設されたばかりの中津川市地域総合医療センターへ名古屋大学から常勤医師3名、非常勤医師1名を派遣、中津川市民病院の総合診療科で診療にあたるほか、地域の診療所などで診療を行うことが決まった。こうしたさまざまな試みの総合コーディネーターとしての役割を担われた、名古屋大学医学部附属病院の松尾清一病院長は、「地域の医療資源は限られており、これからの救急医療を健全なカタチで維持するためには、三つの鍵があります。一つは、各医療圏でそれぞれの病院が役割分担し、顔の見えるネットワークを結ぶこと。もう一つは、疾患ごとに急性期と急性期以降の医療を、途切れることなく繋いでいくこと。最後に、医療だけでなく、介護・福祉を含んだ地域のヘルスケアのグランドデザインを、具体的に描き切ること。そうしたことにより限られた医療資源を、有効に使うシステムを作り上げることができると思います」と指摘する。これまで見てきた地域医療再生への公的な支援の動きは、各医療圏の基幹病院を中心に、地域のバランスに焦点を合わせた改善活動のように思われる。その視点は大切である。だが、そこに限定するのではなく、“責任医療圏”“生活医療圏”におけるすべての医療機関が、あたかも一つの病院として機能するという、地域医療再編の動きを加速させるために、急性期を脱した患者を受け持つ地域医療機関、さらには、介護・福祉施設、そして、在宅医療に対する公的な支援が急速に整備されることを大きく期待したい。

 


 

HEYE

元厚生労働副大臣 大塚耕平
目指そう、先駆的な地域医療モデルの実現

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私たちは忘れない、3.11を。

東日本大震災に遭遇した一人の医療人から、地域医療への熱く、そして、冷静な眼が、私たちが3.11の教訓から学ぶことの大切さを教えてくれる。

EEYE
※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局医療チームとHIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作:中日新聞広告局

編集:有限会社エイチ・アイ・ピー

Editor in Chief/黒江 仁

Art Director/伊藤 孝
Cory Director/中島 英
Planning Director/吉見昌之

Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一
Web Director/大和誠司/藤田春菜
Editorial Staff/猪塚由衣/吉村尚展/波村美絵/倉橋聡美/太田紀子/佐藤さくら
                     /小塚京子/平井基一/村島事務所
Design Staff/古澤麻衣/山口沙絵/大橋京悟
Web制作/(株)グランフェアズ

 

SPECIAL THANKS(編集協力)
「PROJECT LINKED」では、「LINKED」vol.8制作にあたり、多くの医療機関に取材を行いました。 ご協力くださいました皆さまに、厚く御礼を申し上げます。 (病院名は、あいうえお順にて掲載)

愛知医科大学病院
野浪 敏明 病院長

あいちリハビリテーション病院
中澤 信 副院長

足助病院
早川 富博 院長

安城更生病院
浦田 士郎 病院長

一宮市立市民病院
中條 千幸 院長

犬山中央病院
竹腰 昭道 院長

鵜飼リハビリテーション病院
鵜飼 泰光 院長

大垣市民病院
曽根 孝仁 院長

岡崎市民病院
木村 次郎 院長

海南病院
山本 直人 院長

春日井市民病院
渡邊 有三 院長

刈谷豊田総合病院
井本 正巳 病院長
岐阜県総合医療センター
渡辺 佐知郎 院長

江南厚生病院
加藤 幸男 院長

公立陶生病院
酒井 和好 院長

小牧市民病院
末永 裕之 院長

社会保険中京病院
渋谷 正人 病院長

市立四日市病院
一宮 惠 院長

総合大雄会病院
伊藤 伸一 院長

総合病院中津川市民病院
浅野 良夫 院長

大同病院
小谷 勝祥 院長

高山赤十字病院
棚橋 忍 病院長

中部ろうさい病院
吉田 純 院長

津島市民病院
松崎 安孝 病院長
豊川市民病院
吉野内 猛夫 院長

トヨタ記念病院
稲垣 春夫 病院長

豊田厚生病院
片田 直幸 病院長

豊橋市民病院
岡村 正造 院長

名古屋掖済会病院
加藤 林也 院長

名古屋記念病院
藤田 民夫 院長

名古屋第一赤十字病院
小林 陽一郎 院長

名古屋大学医学部附属病院
松尾 清一 病院長

名古屋第二赤十字病院
石川 清 院長

はちや整形外科病院
蜂谷 裕道 院長

半田市立半田病院
中根 藤七 病院長

東名古屋病院
内海 眞 院長
藤田保健衛生大学病院
星長 清隆 病院長

増子記念病院
黒川 剛 院長

松波総合病院
山北 宜由 病院長

八千代病院
松本 隆利 院長



海部医師会
谷本 光保 会長

津島市医師会
杉山 秀樹 会長

海部地域医療サポーターの会
横井 千恵子 代表

愛知県病院協会
小林 武彦 会長

愛知県看護協会
中井 加代子 会長

愛知県健康福祉部
健康担当局医務国保課
救急・災害医療グループ

愛知県防災局消防保安課
救急・救助グループ

 


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