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病院を知ろう

研修医の心をつかむ「雰囲気の良さ」。
その本当の意味とは。

 

 

半田市立半田病院


main実践的、総合的に学びたい医師が自然と集まり、
後期研修もそのまま残る者が多い。
その秘密は、目に見えない雰囲気の良さにあった。

半田市立半田病院の院長室。
デスクの上には、研修医たちの笑顔が並ぶ集合写真が飾ってある。
中根藤七院長が、研修医を家族のように大切に思う気持ちが、そこから伝わってくるようだ。
「雰囲気がいい」「風通しがいい」「人が温かい」と、研修医たちが口を揃える、半田病院の魅力の真髄に迫った。

 

 

豊富な症例に触れて鍛える真の実践力。



204098 半田市立半田病院の初期研修を受けた研修医は、特別な事情がない限り、後期も引き続き同院に残り、専門医をめざしていくという。そんな後期研修中の医師3名に話を聞いた。
 まずは、数ある病院のなかで、どうして半田病院を初期研修先に選んだのか。消化器内科の春田明範医師は、半田市生まれ・愛知医科大学出身。「生まれ育った地元に貢献したかったこと。そして、病院実習で、望めば望むほどチャレンジできる雰囲気を感じてここを選びました」と語る。外科の岸本拓磨医師は、滋賀県生まれ・名古屋大学出身。「大学のラグビー部の先輩が勤務していて、『良い病院だから、見学に来いよ』と誘われたのがきっかけです。第一印象で決めました」という。産婦人科の藤田 啓医師は、岡山県生まれ・福井大学出身。「同期の友だちから半田病院の存在を聞いて、実際に見学に来たら、とにかく雰囲気が良かった。遠方から訪ねたことを労って、皆さんが食事に誘ってくださったのも、うれしかったですね」と話す。
203100 入職のきっかけは三者三様だが、いずれも病院実習や見学での印象が決め手となったようだ。その直感は、正しかったのだろうか。藤田医師は、満足げにうなずく。「当院は座学より実践中心。まず体験して、自分で調べて、上の先生に助言をいただきながら、成長していく。2年間で知識も技術も飛躍的に向上しました」。岸本医師も同意見だ。「当院は救急搬送がすごく多いんです。1年目から救急外来のファーストタッチ(初期診療)に携わり、みっちり鍛えられました」。春田医師も「最初は不安でしたが、まわりの方々が支えてくださった」という。「看護師さんをはじめ、コメディカルの皆さんがすごく協力的。診療科・職種間の垣根が低くて、無理なお願いも頼みやすく、ありがたいです。規模的にも大き過ぎず、顔と名前がわかるので、チーム医療は非常に円滑です」

 

 

ある者は専門領域を深め、ある者は幅広く総合性を獲得していく。


204093 指導医・上級医や多職種のスタッフに支えられ、実践力を磨いた3人は、現在、それぞれ希望する診療科に分かれ、後期研修に励んでいる。藤田医師は、もともと皮膚科志望だったが、産婦人科へ転向。「2年間で多様な手技を学び、新たな自分の可能性を発見できました。産婦人科を研修した際、命の誕生に立ち会う医療に感動して決断しました」と話す。藤田医師は現在、上級医とともに204059年間100件ほどの手術を担当。週3回、外来診療にあたっている。患者に信頼されるように、ネクタイをビシッと締めて、診察室でにこやかに患者を迎える。もちろん現在も猛勉強中だが、実践的に学んできた自負があるから、不安感よりもやりがいの方が大きいという。
 藤田医師のように専門領域を深く掘り下げる者もいれば、岸本・春田医師のように、幅広くいろいろ吸収していく者もいる。岸本医師は外科を選んだが、「当院の外科は、心臓・脳神経・整形を除くすべてが守備範囲。呼吸器の手術もするし、消化器の手術もします。臓器別ではなく、外科領域全般を学べるのが魅力です」という。春田医師も消化器内科を選んでいるが、専門性へのこだわりよりも、幅広い経験を重視する。「最終的には、地域医療に携わるのが目標です。そのとき、終末期のがん患者さん、複数の病気を持つ高齢の患者さんにもスムーズに対応できるよう、内科医として幅広く学んでいきたいと考えています」。診療科の垣根が低く、職種を超えた活発なチーム医療が展開されるなかで、春田医師は内科医としての真の実力を磨いている。

 

 

施設は古い、勉強会も多くない。それでも 「選ばれる」理由は。

203063 後期研修医たちの話を聞いて、「『うちに来てよかった』と言われると本当にうれしいですね」と顔をほころばせるのは、研修プログラム責任者の木村信行医師(麻酔科統括部長)である。「当院はどこにでもある地方の中核病院。お世辞にも施設や設備がきれいとはいえません。また、実践中心で、アカデミックな勉強会なども充実していませんから…」と、謙遜する。
 それでもなお、研修医の満足度が高いのはなぜだろうか。「もちろん、医療の質や症例数の豊富さといったメリットもありますが、一言でいうと、<雰囲気がいい>ということに尽きると思います」と木村医師は答える。雰囲気の良さを謳う病院は数多いが、半田病院の雰囲気の良さはどこから生まれているのか。「うちは医療資源が限られているんです。医師も看護師もその他のコメディカルスタッフも充分に揃っていません。逆にいうと、みんなで協力しないと、一人の患者さんに最善の医療サービスを提供できないという現実があります。だから、自然とみんなが協力して、患者さんの命を守ろうというポジティブな雰囲気が育まれているのではないでしょうか」と木村医師は説明する。
 なるほど「実践力が磨ける」背景には、研修医にそれだけ頑張ってもらわなくてはならない、という事情もあるわけだ。しかし、そんな病院サイドの事情を押しつけるだけでは、研修医たちはハードな業務に音を上げてしまうだろう。「そうならないように、研修医が医師業務に専念できるよう、その他業務を引き受けていますし、研修医に不足する知識や技術は、まわりの上級医がサポートする体制が整っています」と木村医師は語る。さらにまた、メンタル面のフォローもきめ細かい。つまずいたり、落ち込んでいる研修医がいれば、まわりの指導医や上級医がさりげなく悩みを聞く。「医師免許を取った後のわずか2年間で立派な医者になれるかというと、やはり無理だと思うんです。悩んだり、発見したりするなかで、時間をかけて育っていく。その一人ひとりの成長を、長い目で見守っています」と木村医師はほほえむ。

 

「研修医は地域医療の財産」と考える、伝統の風土。

203080 木村医師は、半田病院の雰囲気を語る上で、もう一つ欠かせないのが、「中根院長の人柄」だという。中根院長は毎朝6時過ぎに出勤すると、真っ先に救急外来を訪れ、当直した研修医に「大変だったか?」「おつかれさん」と気さくに声をかける。研修医1年生を全員、自宅に招いて、院長夫人の手料理でもてなすホームパーティも、毎年の恒例行事だ。
 研修医を大事にする病院の姿勢は、中根院長自ら率先して示すことで幹部たちに伝わり、幹部から全職員へと伝わっている。その結果、指導医や上級医は自然と研修医に心配りする。職種の壁を超えて、看護師、コメディカルスタッフも研修医を積極的にサポートする。そんな気遣いの好循環が、縦にも横にも繋がるチームワークの良さを生んでいるのだろう。
 中根院長以下、全職員が共有する、研修医教育への熱意。その根底には、「研修医は病院の財産であり、地域医療の財産だ」という強い思いがある。知多半島医療圏唯一の救命救急センターとして、同院が機能しなければ、たちまち地域医療は崩壊してしまう。この地域を選んでくれた研修医に感謝するとともに、一人ひとりを大切に育て、地域医療を守っていくことは、半田病院に課せられた使命でもある。地域に貢献する医療人を育成するために、同院は今後も「職員みんなで研修医を育てていく」風土を継承していこうとしている。

 


 

columnコラム

●半田市立半田病院は、救命救急センター、地域周産期母子医療センター、地域中核災害医療センター、愛知DMAT指定医療機関、愛知県がん診療拠点病院などの指定を受け、半田市を中心とした知多半島医療圏の基幹病院として重要な役割を担っている。

●とくに救命救急センターは、知多半島医療圏で唯一の存在であり、その使命は大きい。年間の救急患者数は、2万5806名(平成24年度実績)。軽症から重症(一次〜三次救急)まで、幅広い患者が24時間365日、センターに運び込まれる。同センターでは平成25年にドクターカーの体制を構築。消防署との協力のもと、救急現場に医師が積極的に出向き、いち早く重症者の治療を行っており、その数は年間150件以上に達している。文字通り、地域医療の「最後の砦」として、地域住民に大きな安心と信頼をもたらしている。

 

backstage

バックステージ

●半田市立半田病院の臨床研修の特徴は、「研修医を病院の財産と考え、大切に育てていこう」という考えが病院全体に浸透しているところだ。研修医が働きやすいようにすべてのスタッフが支え、みんなで協力して患者に最善の医療を提供している。この背景には、少ない医療資源を活かすために、職員一人ひとりのパフォーマンスを最大限に引き出そうとする病院の努力がある。

●「研修医が病院の財産」とするならば、「病院は地域の財産であり、そこで働く人々もまた、住民の健康を守るために欠かせない財産」だといえる。「知多半島医療園唯一の救命救急センター」という病院の希少価値を地域住民が正しく認識すること。その上で、夜間や休日など時間外に安易に受診する「コンビニ受診」を自粛し、病院と診療所を上手に使い分けるなど、病院の医療機能を自分たちで守っていく住民の意識づけが重要なのではないだろうか。

 


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