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病院を知ろう

「人を育てる」。
それを大切にする風土が、 豊田厚生病院にはある。

 

 

豊田厚生病院


main良い指導医を育てれば、良い研修医が集まる。 人材育成の好循環サイクルが、 病院づくりの原動力となる。

西三河北部医療圏の拠点病院として、地域医療に貢献する豊田厚生病院。救命救急センターを有し、豊富な症例数を研修できる臨床研修病院である。同院では、指導医の育成に力を注ぎ、各診療科の部長を筆頭に、看護師、コメディカルスタッフも含めて、みんなで研修医を育てる、層の厚い教育体制を構築している。

 

 

職員みんなで支える研修医教育。

0218豊田厚生¥IMG_6476「先生方はもちろん、コメディカルの皆さんもすごく面倒見が良くて、優しくて…。それがこの病院を選んだ一番の理由です」と語るのは、初期研修2年目の余語里美医師である。その期待通り、入職後もさまざまな職員に支えられてきたが、「とくに救急外来では、看護師さんに手厚くサポートしていただきました」という。
0218豊田厚生¥IMG_2009 同院の救急外来では、看護師が患者をトリアージ(※1)して、軽症患者は初期研修医へ繋ぐ。「看護師さんのレベルが高く、常に診療の一歩先を読んで動いてくれます。また、患者さんとの意思疎通がうまくいかず悩んでいたときも、ベテランの看護師さんが新米の私の立場に共感してくださり、何度も救われましたね」と、笑みをこぼす。
 コメディカルスタッフの温かいサポートについては、専攻医(※2)1年目の上原敬尋医師も同意見だ。上原医師は平成23年に初期研修医として同院に入職。初期研修修了後も引き続き、内科で研修を受けている。「看護師さんも技師さんも、僕みたいな若い医師の指示を尊重し、きちんと応えてくださいます。その一方で、それぞれの領域では高い専門性を持ち、いろいろ相談にのってくれます。たとえば、人工呼吸器の管理では、ME(臨床工学技士)さんから教わることが非常に多いですね」と話す。

※1 トリアージ 病気やケガの重症度や緊急度を判断し、治療の優先順位を決める行為。
※2 専攻医 初期研修を修了後、専門医をめざす医師。後期研修医ともいう。

 

 

 

態度・技能・知識をバランス良く揃えた医師を育てたい。

Plus顔写真  職員の優しさ、面倒見の良さ。それは、同院の理念に謳われている「優しさと温かさを大切に、地域の人たちと共に歩む」という精神を具現化しているともいえるだろう。そして、その精神は、研修医一人ひとりの行動規範ともなっている。
 医師に必要な診療能力は、態度・技能・知識の三つといわれるが、同院ではまず、「態度」から徹底的に叩き込む。最初の4月のほとんどは集中講義形式のオリエンテーション研修にあて、医師としての心構えや患者との対話方法を指導するのだ。上原医師は当時を振り返り、「<患者さんを尊重し、どこまでも丁寧に接してほしい>という副院長のお話は今でもよく思い出します」と語る。余語医師は、そのオリエンテーションに加え、「先輩医師の診療がお手本になっている」という。「どの先生も患者さんに優しく、丁寧な言葉遣いで説明されます。それを真似ているうちに、自然と基本的な態度が身についてきましたね」。
 そんな上原医師、余語医師の言葉を聞き、研修プログラム責任者・篠田政典医師は満足そうな表情を見せる。「人としての温かみといいますか、丁寧な言葉遣いや態度については、とくに力を入れて指導しています。研修医の皆さんにそれがきちんと伝わっているとしたら、うれしいですね」。
 篠田医師が研修プログラムを作る上で大切にしているのは、「医師の診療能力に必要な<態度・技能・知識>をバランス良く身につけること」だ。「手技に特化する、研究に強いなど、突出した個性がないことが、逆に当院の魅力かなと思います」と話す。篠田医師のもとには、研修医からさまざまな悩みが持ち込まれる。そんなとき、篠田医師はいつも、「病院の理念、研修の理念に戻って、考えてごらん」とアドバイスする。臨床研修理念に記されているのは、「謙虚さ、感謝の気持ちを忘れずに、地域の人たちから愛される医師をめざします」というフレーズ。ここに、同院がめざす理想の医師像が凝縮されているといえるだろう。

 

 

 

危機感から生まれた継続的な努力が教育環境を整えてきた。

0218豊田厚生¥IMG_6596同院には毎年、十数名の研修医が入職し、病院に活気を与えている。1年目の研修医を2年目が教え、2年目を専攻医が教える「屋根瓦式」の指導体制ができあがり、みんなで学び、支え合う環境が築かれている。
 豊田厚生病院の研修医教育の歴史は長い。新医師臨床研修制度の始まる前、研修医が出身大学の大学附属病院で研修を受けるのが一般的だった頃から、大学関連病院として、例年5〜7人の研修医を受け入れてきた。そのような同院が、研修医不足の危機に陥ったことがある。平成11年頃のことだ。当時、同院はまだ臨床研修病院の指定を取っていなかった。その結果、医学生たちは指定のない同院を敬遠するようになったのだ。
 何とか再び、研修医が集まる病院に戻したい。そこで、医師の3代目教育担当に抜擢されたのが、篠田医師だった。篠田医師は平成16年度に発足する新・医師臨床研修制度に照準を定め、院内の教育体制を着々と整えていった。時を同じくして、同院の設立母体であるJA愛知厚生連も、教育体制の充実に動き出した。指導医層の充実をめざし、指導医講習会を毎年開催。同院も初回から積極的に参加し、今では7年目以降の医師の9割以上は、講習会を修了した臨床研修指導医だという。
 指導医講習会を受講する意義について、篠田医師は次のように話す。「まず、今の研修医を理解することができます。現在の大学教育の内容は昔とは全然違いますし、若い人の気質も変わり、<俺の背中を見て育て>方式は、もう通用しません」。同院では、研修医が指導医や指導体制を評価するシステムも作っており、その結果を分析して指導の改善に結びつけているという。

 

 

研修医獲得の競争原理が、病院を活性化させていく。

274027 第1・第3土曜日の午前中、同院では初期研修医の勉強会が開催される。これは、ある研修医が症例についてプレゼンテーションし、みんなで議論するもの。学会発表のトレーニングにも繋がる勉強会だ。その会にしばしば、各診療科の部長(指導医)が顔を出し、ディスカッションの輪に加わる。研修医にとってはうれしいサプライズだが、部長にとっては<自分の診療科をアピールしよう>という思惑もあるという。
 この部長の飛び入り参加を仕掛けたのは、同院の片田直幸院長。各科の部長に、自分の診療科を研修医たちにもっと宣伝するようにハッパをかけているのだ。その意図はどこにあるのだろう。「初期臨床研修プログラムでは救急科などの必須診療科以外は、研修医が希望の診療科を選べます。そこで、研修医がくる診療科は活性化しますが、研修医がこない科は活力を失ってしまう。診療科同士が切磋琢磨して成長するように、部長の意識改革を促しているのです」。同院の場合、初期研修医の8〜9割は、専攻医として同院に留まる。専攻医を獲得するためにも、部長たちは研修医の指導に熱が入るという。
 片田院長はそもそも「臨床医は全員、教育に携わるべき」という持論を持つ。「教えることは負担ではなく、自分を鍛えるチャンスです。下の者に教えるには、自分の知識を高めなくてはならない。逆にいうと、人に教えるのはどうも…という人は、当院には向かないかもしれません」。
 研修医獲得の競争原理は、院内に活気をもたらすとともに、病院全体の医療の質の底上げにも繋がる。なぜなら、優秀な研修医は、優秀な診療実績の病院を選ぶからだ。ある意味、研修医は、病院の実力を推し量る<リトマス試験紙>でもある。研修医に選ばれるような、より良い病院づくり。同院はその目標に向かって、これからも地道に努力を重ねていこうとしている。

 


 

columnコラム

●豊田厚生病院では、「地域医療」研修において、足助病院、または、みよし市民病院での4週間の研修が用意されている。余語医師は研修2年目に、足助病院で研修を受けた。訪問診療、訪問リハビリテーション、療養型病棟回診などを体験し、「すべてが有意義な体験で、患者さんの生活背景まで目の当たりにできたのはとても勉強になりました。また、足助病院に対する地域の方々の信頼が絶大で…。病院と住民の強い絆にも感心しました」と語る。
●同院の「地域医療」研修の目的は、急性期病院である同院で治療を終えた患者が、「病病連携」を通じて、引き続きどのような治療を受けていくのかを現地で体感し、理解することにある。また、高齢化の進む地域で、医療・介護・福祉の連携の重要性を学ぶ絶好の機会でもある。その体験はきっと、これから超高齢社会の医療界へ飛び込む医師たちにとって貴重な財産となるだろう。

 

backstage

バックステージ

●卒後臨床研修の成功は、指導医の善し悪しで決まるともいう。教育は、「人間」対「人間」。プログラムやシステムも大事だが、何よりも指導医の資質が、教育の鍵を握るといっていいだろう。では、指導医にはどんな資質が求められるのか。優れた臨床能力、柔軟な患者対応力、チーム医療の統率力、尊敬できる人柄…など、さまざまな条件が並びそうだ。
●厚生労働省が定める制度では、7年以上の臨床経験を有し、厚生労働省の開催指針に則って実施される「指導医養成講習会」を受講した者を指導医と認めるという。だが、指導医の資格をとってすぐに、立派な指導医になれるわけではない、指導医もまた、下の医師を教えることで、教えるスキルを学んでいくのである。互いに教え、教えられる。指導医と研修医がそれぞれ高め合う相乗効果が、より大きな研修成果に結実するといえるだろう。

 


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