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病院を知ろう

医師としての生き方・問題意識を、
育み、開花させる研修病院とは!

 

 

知多厚生病院


main臨床研修医を、枠にはめない。研修内容を、既定路線で進めない。
地域密着型の中規模病院だからこその臨床研修が、
知多厚生病院にはある。

 知多厚生病院には、少し変わった経歴と考え方を持つ研修医がいる。
医師としての知識や技術は、まだまだベテラン医師に及ばないものの、鋭い視点と抜群の行動力で、初期臨床研修の2年間を送っている。
 「この病院だからこそ、自分本位の研修が受けられるし、自由な発言ができる」。
自らの存在意義を自らに問いながら、医師として模索を続ける彼女の姿から、地域に根差した中規模病院で学ぶことの意義が見えてきた。

 

 


1年目の研修医が企画した初めての病院見学ツアー。

213046「私、やりたいんです!」。初期臨床研修1年目の西川菜摘医師は、ある企画を実現させたいと宮本忠壽院長に自らの思いを伝えた。じっくりと話を聞いた後、「いいよ、ぜひやってみて!」と快諾する宮本院長。今まで実施したことがなかった、知多厚生病院の「病院見学ツアー」の開催が決定した。
 この病院見学ツアーは、医学部で学ぶ学生たちに、知多厚生病院の魅力を知ってもらおうと、西川医師が考えたもの。「合同の病院説明会に参加すると、どうしても知名度の高い病院に学生が集中してしまう。だから、何とか違った方向から、学生に当院をアピールすることができないかと考えました」と話す。
 そして、平成25年、夏休み期間中の8月下旬、一泊二日の日程で病院見学ツアーは実施された。
 ツアーの対象者は、すでに病院見学をし始めている5・6年生ではなく、あえてその下の1〜4年生に的を絞った。特に重きをおいたのは、入学したばかりの1年生だ。「1年生は、医師を志すモチベーションが高い反面、医学についてはまだほとんど学んでいません。そうした学生たちに興味を持ってもらおうと思いました」(西川医師)。
 その思惑どおり、参加者のほとんどが1年生。5〜6名を想定していたが、実際には11名が参加し、学生たちからの評価も非常に高かったという。「なかでも篠島診療所への見学に興味を持ち、参加した学生が多かったのが印象的でした。知多厚生病院を広く知っていただくために、これからも研修医主導の企画として、定期イベントにしていけないかと考えています」と、西川医師は意欲を燃やす。

 

 

 

自分本位の研修がしたい。だからここを選んだ。

213002見学ツアーを企画した西川医師は、最初から医師をめざしていたわけではない。大学では教育学部に入り、子どもの教育について学んでいた。不登校や非行について、教育学的なアプローチから研究を進めるうち、すべてをしつけや教育環境、成育環境の問題ととらえるのは限界があると感じたという。「例えば、感情のコントロールを司る脳の構造、ホルモンの分泌の違いなど、教育学では片付けられない部分がある。だから教育の発展型として、医学を学びたいと考えました」。
 そんな西川医師が、研修先に知多厚生病院を選んだ理由は、「自分本位の研修がしたかったから」だ。自分本位とは何をいうのか? 「医学生のときには自分なりの将来像を抱いていました。でも研修で臨床現場に入り、患者さんと向き合い仕事を覚えていくなかで、思いや考えは変化するだろうと、最初から予測していました。そうしたとき、自分が求めていることに上手くフィットできるような、自分なりの道の進み方をさせていただける。既定路線ではなく、個々の研修医の志向に合わせていただけるのは、たくさんの研修医を抱える大規模病院ではなく、研修医数が少ない中規模病院だろうと考えました」。
 そもそも初期臨床研修とは、医師免許を取った後に義務づけられている2年間の臨床研修である。医学部で座学を中心に学んだことを、実際の医療現場で指導医のもと、患者さんと触れ合いながら、総合的・基本的な診療能力を修練していくのが目的。2年間はスーパーローテートといい、各診療科を順番に回って学ぶ。
 その2年間を通して、多くの研修医は、自分が専門とする診療科を選んでいくが、西川医師はそうではなく、わずか2年間で学べることには限りがある、それよりも自分なりの医師としての将来像を模索し、悩み、苦しみながらも自分本位、イコール自分の手で見つけていこうとしている。

 

 

 

屋根瓦方式ではなく、寺子屋方式の教育。

058_ChitaKosei_Linked2014 医師の臨床研修で、「屋根瓦方式」という言葉がある。屋根瓦は、上から下まで重なって構成されていることから、研修医1年目を研修医2年目が、2年目を3年目が、3年目を4年目が、という具合に、下の年次の研修医が、すぐ上の年次の医師から指導を受ける形を指し、臨床研修での理想形であるといわれている。
 だが、知多厚生病院は、この屋根瓦方式ではなく、いうなれば寺子屋方式での教育を実施しているという。寺子屋方式とは、実際にどのように学ぶのだろうか。
 「診療科の部長先生をはじめ、経験ある先生が直接教えてくださるのです」と西川医師は言う。「それぞれの専門医である先生方が、とても身近な存在としていてくださる。院長先生も積極的に研修医とコンタクトを取ってくださる。そうした先生方からは、診療内容だけではなく、医師とはどうあるべきかを学ぶことができます」。
 「それだけではありません。副院長先生のお一人が常々おっしゃるのですが、病院は医師だけで成り立っているのではない。医師とは異なる職種の、専門的な知識や技術を学ぶことは大切であると。私自身、この病院で研修を進めていくうちに、その意味がとてもよく解りました。多職種の方々の仕事を間近に見て、視野が広がったと思っています」。
 知多厚生病院が医師の臨床研修を始めたのは、平成17年である。新医師臨床研修制度が開始されて1年後のことである。医師数に限りがある中規模病院では、院長、副院長さえも救急、入院治療において大きな戦力である。そこに研修医の指導教育が加わると、その負担はさらに大きくなる。それでも同院が臨床研修を始めたのはなぜだろうか。
 宮本院長は語る。「当時の医師たちは、そして、現在もですが、みんな教えることが好きな人ばかりで、次世代の医師を育てることに、まったく反対はありませんでしたね。そもそも臨床研修の目的である、<総合的・基本的な診療能力の修練>を考えると、当院のような病院こそが適していると、みんな考えていました。なぜなら、当院は中規模病院でありながら、離島を含めた知多半島南部の医療を支えています。そこにおい115_ChitaKosei_Linked2014て、医師には、急性期治療が終了したらそれで終わり、という発想はなく、患者さんが退院後、どういう生活をしていくのかを深く知った上で、治療の到達点を考えます。家族構成などを含めて、患者さんをしっかりと見つめる、さらには地域をしっかりと見つめる目がある。すなわち、超高齢社会に必要である全人的な医療を展開しています。もちろん、医療連携を含めて地域との繋がりも深い。医師としての第一歩を踏み出す研修医には、地域密着型の当院で、総合的な医療を学ぶ意義を、肌で感じてほしいですね」。

 

 

まだ結論は見えていない。彼女は進化の途中。

Plus顔写真 こうした環境のなかで研修2年目を過ごす西川医師。研修前と現在と、その思いは変化したのだろうか。「医学部に入り、医療には教育学的視点が必要だと感じました。例えば生活習慣病では、薬物治療の前にまずは生活習慣の改善が必要です。患者さんが自らの身体や病気について学ぶことが治療の第一歩となります。それで糖尿病内科など内科系の診療科に興味を持ちました。でも実際に患者さんと接するなかでメンタルケアの重要性に気づき、今は精神科医としてキャリアを積んでいくことも考えています。ただ…メンタルの問題は、患者さんの抱えている経済的問題や生活環境など、医療や病院といった枠組みだけでは解決できない側面が大きいとも感じています。
 当院には<世界健康半島をめざす>というスローガンがあります。実は私が当院を研修先に決めたもう一つの理由はこれなんです。医療の視点から地域の発展を考える。すばらしい!大変共感を覚えました。知多南部は高齢化が進んでおり、住み慣れた地域で豊かに老いる社会作りが重要テーマの一つとなっています。それにはさまざまな角度から地域活性化への取り組みが必要。そこで医療の観点から「豊かな老い」を実現し、それを「知多半島モデル」として国内だけでなく世界に向けて発信する、そんな壮大な目標を胸にいろんな取り組みを行っているのが当院です。だから、ここは私にとってとても面白い病院。病院だけではなく、地域も見つめていける。ですからこれから先、自分がどう進んでいくかまだ結論づけてはいません」。
 あくまでも、自分の問題意識を見つめ歩んでいく西川医師。彼女は進化の途中にある。

 


 

columnコラム

●知多厚生病院は、知多郡南知多町にある篠島に、附属の篠島診療所を有している。篠島は、知多半島の先端である師崎港からわずか4㎞の海上にあるが、いわゆる医療過疎地域。地元住民、そして、南知多町の強い要望を受け、平成3年に開設した。島には、毎日、医師、薬剤師、看護師などを派遣し、外来診療、在宅診療を実施。もちろん、救急にも対応する。

●この篠島診療所で、同院の2年目の初期臨床研修医は、1カ月の研修を行う。

●篠島住民と知多厚生病院との信頼関係は厚く、島民は島に訪れる医師たちを、たとえ若い新米医師でも、温かい眼差しで見つめるという。とはいえ、施設も設備も非常に限られた医療資源のなかで、どう患者に向き合うのか。

●研修医たちは、島の人々と触れ合い、そして、島の生活を肌で感じた上で、医師として何ができるかを考えなければならない。この体験は研修医にとって、「医師とは」、「医療とは」という原点を考える大きな経験となっている。

 

backstage

バックステージ

●初期臨床研修の2年間は、基礎的な知識や技術を磨くと同時に、これからの医師人生を通じて、「どんな医師になりたいのか」を、改めて自らに問う期間でもあるはずだ。学生時代の限られた世界から解き放たれ、現場を知ることで、新たなビジョンを描き直すこともあるに違いない。

●だが、現状の臨床研修を見てみると、急性期医療という限られた領域のみを、急性期病院で学ぶ場合が多く、研修医たちの視野はどうしても偏りがちだ。

●知多厚生病院がそうであるように、今後の超高齢社会で必要とされる医療、すなわち、急性期医療だけではなく、その後の回復期、療養期、在宅まで、患者の時間軸に沿って医療をとらえることができる学びこそ、初期臨床研修には大切ではないだろうか。

●そうしたさまざまなステージを見渡し、そのなかから改めて自分のなりたい医師像を描く。こうした環境の大切さを、知多厚生病院の臨床研修から知ることができる。

 


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