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アーカイブTOPタイトル13LINKEDではこれまで、地域の救急医療を守り、「地域が一つの病院のように」機能するために、基幹病院と中間的な病院の連携の重要性に注目してきた。そのなかで、連携を阻む大きな要因として、中間的な病院における深刻な医師不足があることを知った。では、中間的な病院に医師を適正に配分し、地域医療を安定させるためには、どうすればよいだろうか。今回は前号に引き続き「医師」に焦点をあて、そもそも医師はどのように育てられ、地域の病院に供給されていくかをレポートした。その仕組みを通じて、臨床教育と医師供給の関係を考え、中間的な病院の医師不足を解決し、その上で「地域が一つの病院のように」機能するためのヒントを探ってみたい。

※LINKEDでは、三次救急、もしくはそれに準ずる機能を持つ地域の医療機関を「基幹病院」と規定。また、基幹病院と診療所の間にあって、二次救急ができる急性期の医療機能を持ちつつ、それに続く亜急性期、回復期なども併せ持つ病院を、「中間的な病院」と規定する。

※医局とは、主に大学病院の診療科ごとのグループ組織をいう。大学医学部には講座という組織があり、講座の教授は大学病院の診療科部長(医局のトップ)を兼ねるため、医局講座制ともいう。この医局は、医師のキャリア形成を支援すると同時に、各地域の医師の充足状況と医局員の希望を兼ね合わせ、地域に医師を派遣する。


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IMG_5493 医師を養成する医学部は6年制だ。最初の4年間に基礎医学の知識や技能を学び、学生評価のための共用試験を受ける。これに合格した者が病院での臨床実習へ進み、座学で得た知識を実践の場で体感し修練していく。
 医師国家試験に合格すると、医学生は医師免許を手に入れる。だがそれだけでは、医師として診療業務に就くことはできない。そこから2年以上、大学病院を含む臨床研修指定病院(厚生労働省の審査を受け、指定を受けた病院)で、さまざまな診療科、地域での臨床研修が義務づけられる。これを新医師臨床研修といい、2004年に制度化された。通常、初期臨床研修と称される。
 研修先の病院は、医学生と病院が希望順位を出し合う「マッチングシステム」で決まる。医学生は研修を受けたい病院を、病院は採用したい医学生を選ぶ、医学生と病院のお見合いだ。近年では「臨床研修プログラムが充実、多くの症例を学べる、さまざまな診療科でバランス良い経験を積める」といった理由から、出身大学の病院ではなく、市中の臨床研修指定病院での研修を希望する学生が増えてきた。
 2年間を経て、研修医は、患者の診療に携わる臨床医として認められ、診療業務に就く。そこから大半の医師は、専門医をめざし、さらに研修を3〜5年間受ける。これを後期臨床研修(現在、新制度検討中)という。初期臨床研修と同じ病院で学ぶ者もいれば、別の病院に移る者もいる。そしてまた、専門医をめざす研修医の多くは、大学の医局に入る。専門性を極めるには、臨床と研究の両輪が必要であるため、その環境に適しているのが大学医局だからだ。入局すると、医局は、本人の希望に沿ったキャリア・デザインを構築。医師たちは大学病院とその関連病院の間を行き来し、自らの目標に向かっていく。
IMG_5139 医学部で6年、初期臨床研修で2年、そしてさらに…。なぜ多くの医師たちは、専門医をめざして学び続けるのか。背景にあるのは医学の進歩だ。各分野の治療技術は高度化、深化し、その技術を駆使するには、極めて高い専門知識・技術を持つ医師が必要となる。そのため大学医学部では、内科系・外科系といった括りの大講座制を、臓器別・疾患別に細分化し再編成。専門特化した教育を展開してきた。


 

 

 


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3 医師のベースとなる初期臨床研修。目的は、新制度の基本理念にあるように、「一般的な診療における総合的・基本的な診療能力」を身につけることにある。医師とは、生涯学び続ける職業だ。そのなかで初期臨床研修は、将来の進路を決める重要な期間である。そこで学ぶものは、最低限必要な知識と技術、診療のプロセス、医療の大きな仕組みだ。その後は自らが志望する専門分野の診療にかかわることが多いため、初期の2年間でより総合的な能力を修得する必要がある。そのため臨床研修指定病院は、さまざまなプログラムを提供している。
 たとえば、名古屋掖済会病院は、ER型救急の草分け的存在であり、そこでは高度な専門診療部門と連携し、総合的な初期診断とトリアージ(治療優先度の決定)のトレーニングを徹底させている。大垣市民病院は、「臨床研修センター枠」という時間を設け、研修医を各診療科から引き離して初期診断の指導を行う。名古屋医療センターでは、将来、どの領域に進む者でも、初期臨床研修の2年間のどこかで「総合内科」を体験させ、総合的な診療能力育成に力を注ぐ。また、春日井市民病院は、同じ建物に同院の救急外来と、春日井市医師会による休日・平日夜間急病診療所を併設予定。診療所医師による初期対応を研修医に学ばせる。
 後期臨床研修でも、総合性に注目し、内科系医師は最初の1〜2年間、各科を回らせる病院が増えてきた。なかには「統合内科(内科系診療科を統合した部門)」で教育する、社会保険中京病院のような形も生まれている。
 また、大学病院でも、たとえば愛知医科大学病院では、今年5月新病院オープンと同時に本格稼働させる「プライマリケアセンター」を設置。独歩で来る救急患者、また、受診診療科が特定されていない外来患者へのプライマリケア(病気の初期段階で総合的に診る医療)を、研修医に学ばせる。
2 こうした事例を見ると、団塊の世代が後期高齢者となる2025年を前に、複合疾患を抱える高齢者の増加に対して、総合性への研修プログラムは用意されつつある。だが、今日の医療は、病院が機能分化し、急性期、亜急性期、回復期、療養期などの領域を分け、役割分担して提供される。それに対して、新医師臨床研修制度では、初期臨床研修を受ける場が急性期の医療領域に集中しており、診療のプロセス、医療の大きな仕組みを学ぶという観点からいうと、不充分ではないかと考えられる。もっと柔軟な教育プログラムへの見直しが、必要なのではないだろうか。


 

 

 


 

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4 では、その教育プログラムの欠点を補うには、どうすればよいだろうか。注目すべきは中間的な病院の医療機能だ。中間的な病院では、患者の生活背景・環境を見つめ、急性期、亜急性期、回復期、療養期、そして在宅まで、時間の流れに沿って社会と繋ぐ医療が展開されようとしている。そこでは、一人の医師が自らの専門だけに限らず、患者の全身を診る。また、医療だけではなく、介護や福祉と密接にかかわることが必須だ。研修医にとっては、疾患、治療のプロセスを学ぶとともに、医療の仕組みへの理解も深まり、本当の意味での総合性を学ぶ恰好の場となろう。
 だが現実には、研修医たちは、広域から高度で専門的な症例が集まる基幹病院を研修先として希望し、地域のなかで発症する一般的な症例を対象とする、中間的な病院を積極的に希望する者は多くない。かつては大学医局が、医師本人の希望と地域の状況に合わせ、医師の供給のバランスを司っていた。だが新医師臨床研修制度では、医師の自由意志に任されるようになり、不均衡が拡大している。
IMG_1691 このような実態を踏まえ、基幹病院と中間的病院が連携して、地域(二次医療圏)全体で研修医が学ぶことができる教育プログラムは作れないだろうか。現在の初期臨床研修では、臨床研修指定病院ごとに研修医募集の定数を決めている。それを二次医療圏ごとに定数を定め、基幹病院と中間的な病院が合同で教育プログラムを設計。それに対して研修医を募集、研修医は基幹病院と中間的な病院を移動する。さらに、大学医局は、その教育プログラムに対し指導医を派遣。医師たちのキャリア形成を支援していく…。
 こうした仕組みができれば、急性期領域と専門医養成に偏りがちな臨床教育を是正するとともに、中間的な病院での慢性的な医師不足も解消される。また、副次効果として、基幹病院と中間的な病院との、顔が見える円滑な連携を生むのではないだろうか。

データ


 

 

 


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_H2H9912 基幹病院と中間的な病院との合同教育プログラム。これに対して、名古屋医療センターの川尻宏昭医師(卒後教育研修センター長)は、「確かに当院では、中間的な病院が担う軽症・中等症の治療領域は、充分に研修できません。そういう合同教育プログラムがあれば理想的だと思う」と言う。但し、理想ではあるが実現は難しいという声もある。名古屋大学医学部附属病院(以下、名大病院)の植村和正教授(卒後臨床研修・キャリア形成支援センター長)は、「関係者の利害が一致するか」と指摘する。
 理由として二つの要素を考えてみた。まず一つは、病院での研修医獲得の背景。いずれの病院でも、救急医療において、研修医は大きな戦力であり貴重な存在である。彼らがいなければ、今の救急体制を維持できない現実があり、その確保に力を入れるのは当然であろう。また、病院の死命を決する医師の供給元・大学医局との関係性もある。病院は、自院で育てた研修医を、大学医局に入局させることを前提に、医局から指導医=中堅医師の供給を受けているのだ。病院にとって、大学医局からの医師確保の可能性を維持するためにも、研修医の獲得は重要である。
1 要素のもう一つは、大学医局の考え。指導医を担える脂の乗り切った大切な中堅医師を送り出すのだ。その医師が、自らの専門性を活かすことができる規模と実績を有し、且つ、自己の専門外の診療をしなくてもよい、といった病院が派遣先としては望ましい。そしてそこで新たな医局員を確保する。対象となるのは、自ずと急性期領域を守備範囲とする基幹病院になるケースが多い。
 こうした状況下、基幹病院には、指導医が潤沢に配置され研修医も集まり、体系的な臨床研修を組むことが可能になる。一方、中間的な病院には、指導医の派遣は少なく研修医も集まらない。結果、現在のような医師不足をきたし、地域医療自体が円滑に回らなくなる。研修医獲得の自由競争において、基幹病院と中間的な病院、そして大学医局。関係者の利害は複雑に絡んでいる。
 だが、そもそも、基幹病院と中間的な病院という、条件や役割の違う病院を、同じ物差しで自由競争させ、医学生たちの自由意志で選択させること自体が問題ではないか、という意見もある。三重大学医学部附属病院の伊藤正明教授(病院長)は、「医療はライフラインの一部であり、完全な自由化はこの分野にはなじまず、国民の期待に応えることもできないと思う。また、医学教育には多額の国税が使われ、医療は国民より集められた保険料、税金が投入されていることからも、医師には一時的には少し自らを犠牲にしてでも、困っている人たちを救う倫理観、マインド、行動力が望まれる」と語る。


 

 

 


 

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122104 さまざまな利害関係を抱える医師の臨床研修。そのなかでLINKEDは、この間の取材で多くの可能性を見出した。初期臨床研修の必須項目である「地域医療」研修において、実際に地域で医療連携する、足助病院やみよし市民病院と研修を組み立てている豊田厚生病院の事例、海南病院をはじめ、木曽川を挟んだ海部・津島地区と三重県北部の病院が、名古屋大学の支援を受けながら初期・後期研修医の共通の学びの場を作ろうとする試み、また、伊勢赤十字病院による医療過疎地域の尾鷲総合病院への、継続的な後期研修医の派遣という取り組み。このような個々の病院の努力の先に、今後、地域(二次医療圏)をベースに、基幹病院と中間的な病院がそれぞれの利害を乗り越え、胸襟を開いて話し合い、大学がそこから生まれる新しい臨床研修プログラムを支える。LINKEDは基幹病院と中間的な病院の合同プログラムが、東海地区のさまざまな医療圏で、同時多発的に生まれ出すことを強く期待する。

 LINKEDは、違う側面において、もう一つ大きくて根深い問題があることに気づきを持った。それは、名大の植村教授が指摘する「社会のニーズが、本当にそのような医師の臨床教育を求めているのかどうか」である。
 社会のニーズとは何だろうか。植村教授は、自分の疾患・症状の如何にかかわらず、「患者さんは基幹病院による高度な医療を求めており、大病院指向・専門医指向が根強い」と警鐘を鳴らす。確かに、未だに、救急車ではなく独歩で深夜の救急外来に訪れ、「専門医に診て欲しい」と要求する患者が後を絶たないと聞く。さらに、緊急時、医師が専門外であっても、使命感から診療した結果、「専門医が診なかった」と医療訴訟に発展するケースも少なくない。
 象徴的な事件として、かつて救急での患者死亡事故で、当直医が「業務上過失致死」容疑で書類送検されるという事件があった。最終的には無罪判決が下りたが、この事件以降、医師たちには、自己の専門外の患者の診療を避ける傾向が一気に強まったと、取材協力いただいた多くの病院長たちが指摘する。当時の報道を思い起こすと、「専門外の医師が患者を死亡させた」という事実のみに重点がおかれ、医師のおかれた環境や病院の状況についての理解や背景分析も無く、患者目線でのエキセントリックなものであった。こういった報道が、今回の医師の臨床研修のテーマに即して考えても、研修医たちの大病院指向、専門医指向に深く陰を落としているように思える。
 後期高齢者の人口がピークに達する2025年以降、医療の最前線を担うのは、まさに今、臨床研修を受けている研修医たちである。そのとき私たちは、どのような医療を求めるのだろうか。専門分野の高度治療に特化した医師と、複合疾患を抱えた高齢者に、生活の時間軸に沿って適切な治療を提供してくれる医師。彼らが地域にバランス良く配置され、「地域が一つの病院のように」機能して、超高齢社会を支えてくれる医療ではないだろうか。だが、今のままでは、私たちはそうした医療を手に入れることはできない。
 最後に名大病院・植村教授の言葉を紹介しよう。「大学は、医師供給という社会とのかかわりにおいて、社会のニーズを見つめて動きます。社会のニーズが変われば、大学も病院も医師も変わります。鍵を握るのは、顕在化された社会のニーズなのです」。

 


 

HEYE

元厚生労働副大臣大塚耕平/
意識改革が必要な医師偏在・不足対策

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私たちは忘れない、3.11を。

東日本大震災に遭遇した一人の医療人から、地域医療への熱く、そして、冷静な眼が、私たちが3.11の教訓から学ぶことの大切さを教えてくれる。

EEYE

 


SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
足助病院
渥美病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
稲沢市民病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
海南病院
春日井市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
岐阜市民病院
江南厚生病院
公立陶生病院
社会保険中京病院
市立伊勢総合病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
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豊川市民病院
トヨタ記念病院
豊田厚生病院
豊橋市民病院
名古屋医療センター
名古屋掖済会病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
尾西病院
藤田保健衛生大学病院
松阪市民病院
松波総合病院
八千代病院

 

※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作:中日新聞広告局

編集:PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦

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