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病院を知ろう

救急を核とした伝統ある教育拠点病院が、
次にとらえた課題とは?

 

 

名古屋掖済会病院


main教育病院として、東海地区の医療界で高い評価を受け続ける、名古屋掖済会病院。
その伝統と歴史を継承するために、組織のさらなる高みをめざす。

 名古屋掖済会病院は、東海地区で最初(1978年)に、第三次救命救急センターの指定を受けた、「救急のメッカ」である。
ER(※)を核に、専門性の高い各診療科が一体となり、一次から三次まで重傷度にかかわらず、24時間365日救急患者を診療。
その組織力を最大限に活かし、現在の医師臨床研修制度が誕生するはるか以前より、救急を舞台とした確固たる「教育」を展開する。

※ Emergency Room/すべての疾患の診断および初期治療を行い、必要に応じて専門診療科に繋ぐ

 

 

東海地区の「救急のメッカ」で学ぶ。

IMG_5584 救急科専門医・金原佑樹。初期・後期の臨床研修を名古屋掖済会病院で学び、救急科の専門医となった今は、同院救命救急センターでの診療と後輩たちの指導に力を注ぐ。
 金原医師は、なぜ初期臨床研修先を名古屋掖済会病院としたのか? 「僕は学生のころから<救急>を意識しており、その実績がある病院、さらに、教育体制が整っている病院を探しました。いくつか見学するなか、この病院は、救急患者数・救急搬送数・救急医師数など、救急に関して圧倒的なボリュームを持っていた。それと、学生時代の実習の際に、ここの救急外来で初期研修1年目・2年目の医師が働く姿を見ています。研修医なのにとても頼もしく、僕たち学生にいろいろ教えてくれました。その研修医と学生を、救急科の先生が指導する。そこに各診療科の専門医も加わる。まさに<学べる環境>だと思いましたね。そして、看護師、放射線技師などのスタッフも協力的。救急を核にし、そこでの人間関係において教育がなされている、と表現すればいいかな。ここで、学びたいと思いました」。
IMG_5565 2年の初期臨床研修を終えると、医師の多くは、自らが志望する分野での専門医をめざし後期臨床研修へと進む。金原医師も、その時期が近づいた2年目後半、いくつかの選択肢から、救急科に進むことを決意する。では、どこの病院で? まずは当然、名古屋掖済会病院を考える。しかしそこで彼は「少し疑問を持った」と言う。「この病院で自分たちがやっている診療は、一般的に奨励されている診療方法なのか?」。 
 研修医は日々のすべてが学ぶことにあり、目の前にある一つひとつを吸収することで精一杯だ。新たな岐路に立ったとき、ふと周囲を見渡し、「ここでこのまま研修を続けてよいのだろうか?」。
 彼は、全国でも救急病院として著名な病院を、積極果敢に見て廻った。その結果、「疑問は払拭されました。この病院でやっていることに、間違いはないと」。金原医師は気持ちも新たに名古屋掖済会病院・救急科の後期臨床研修医となった。

 

 

救急医療を接点に全病院一体化。

IMG_5505 金原医師は、初期臨床研修から数えると今は7年目。後期臨床研修を受けるなかで、救急科専門医となった。救急科において、すでに強力な戦力であることはいうまでもない。その彼が今、後輩の指導教育に大きな力を注いでいる。彼にとって指導教育はどう位置づいているのか。「僕が後輩の指導を意識したのは初期研修医2年目のころです」と、予想外の返事があった。2年目にしてなぜそうした意識が持てたのだろうか。
Plus顔写真 「それは当院の医師なら自然に身につくものです」。そう語るのは、臨床研修センター長の長谷川正幸医師(小児科部長)である。「どの病院でも、医療を展開する上で核になるものがあります。当院の場合、それが<救急>です。但し、救急科単独の機能ではありません。まずはER(コラム参照)が、患者さんへの的確かつ迅速な初期診断とトリアージ(治療優先度の決定)を行う。そのあとを、優秀な専門医群がいる各診療科が引き継ぐ。それで成立するものです。診療科間の繋がりはとても強く、圧倒的な人数の救急患者さんを、そうした体制のなかで診てきました。そこでは研修医は、この地域の医療を守る仲間。診療科を問わず、当院の医師は後輩に自分の知識や技術を伝えることを当たり前に考えます」。
 さらに、医療は多職種による分業体制である。職種間で互いにリスペクト(尊敬)し、理解し合うことが大切。同院はそこでも救急医療を接点に、一体となっている。
 ERという核、そこを中心に非常に高い専門性を持ったチームとの融合。そして、垣根のない、上下関係のないスタッフの結びつき。同院の初期研修医は、<救急>を通して基本的・総合的な診療能力を培い、医療のあり方を学ぶ。

 

さらなる高次元をめざすために。

IMG_5513 病院全体が、救急マインドと教育マインドを持つ名古屋掖済会病院。その同院において、課題はまったくないのだろうか? あえて、一人の専門医に質問を投げかけてみた。「あると思います」と言うのは、循環器科の専門医・近藤 徹医師である。
 「当院は、医療現場でのオペレーション、そして、人材教育の仕組みは、とても素晴らしいと思います。ただ、自院のことだけならそれでよいのですが、当院は、平時の救急医療はもちろん、災害という緊急時にも、医師やスタッフが、現場での医療活動をリードしなければなりません。そうした最前線に飛び出すのは中堅医師です。その彼らの意見を、今以上に取り入れる仕組みが、もう少しあればと思います」。
 それは組織としてのしなやかさをいうのだろうか? 「僕は常に高みをめざして、常に何かを<変える>姿勢が必要だと思っています。教育を通して<人を変える>、高度で全人的な治療で<患者さんを変える>、研究活動を基に<医療や医学を変える>。大切なのは、変える必要性を認識した人間が、その時点で行うこと。実際、中堅医師のなかには、変えようとする人材はいます。そして、変えることに挑戦させてくれる病院です。但し、そうした一中堅医師の声を、一診療科だけに留めず、組織全体で吸い上げ、検討し、病院経営全体に活かす仕組みが弱い。それがより強まれば、変えようとする人材がもっと増える。その総和でさらに強い組織体となり、地域の教育病院として、より高い次元に繋がるのではないでしょうか」。

 

すべては地域医療の向上をめざして。

IMG_5579 長谷川センター長は語る。「組織としてのしなやかさを、今以上に持つことは大切であると、私も考えます。臨床研修センター長としての眼で見ると、若い医師たちは時代の変化や物事の着眼点においては、敏感であり、新しい。そのなかから次代を担う中堅医師たちも育っています。彼らが持つ良い面をもっと吸収し、組織全体に活かすことは必要ですね。ではその仕組みをどう作るのか。地域医療の向上を支える当院にとって、これからの課題であると受け止めています」。
 名古屋掖済会病院は、第三次救命救急センターであり、災害拠点病院、DMAT(災害派遣医療チーム)指定医療機関でもある。院内の医師やスタッフばかりでなく、広く地域の医療人に対して、救急診療トレーニングを実施するなど、東海地区の教育病院として、医療界からの期待は高く、信頼も厚い。そのなかから、各地域で中核となる病院のトップを務める人材を、数多く輩出してきた。
 その根底には、<すべてを当院だけで完結してはならない>、<当院から仲間が巣立っていくことで、地域の医療がより良くなる>という、問題意識がある。それこそが同院の伝統であり、そして、地域医療の向上に向けて、教育という観点から、救急医療を通して実践してきた歴史がある。それをこれからも継承し続けるために、名古屋掖済会病院は、同院だからこその課題に向き合おうとしている。
 最後に、金原医師の言葉を紹介しよう。「みんな救急医になって、当院で一緒に働いてほしいとは思わない。それよりも、救急を理解した専門医がたくさんいてくれた方が、よっぽど地域医療のためになります」。

 


 

columnコラム

●日本の救急医療は、比較的軽症な「初期」、入院治療を必要とする「二次」、生命にかかわり高度な治療を必要とする「三次」と、重傷度に応じて役割分担された提供体制が取られている。但し、患者にとっては自らの状態を判断することは難しく、右記の役割分担が正常に機能しているとはいいがたい。
●それに対し、名古屋掖済会病院救命救急センターは、平成11年より救急科に救急専従医を配し、他院に先駆け「北米型ERシステム」を確立した。
●ER(Emergency Room/救急救命室)では、24時間365日、救急搬送患者・独歩来院患者のすべてを受け入れる。そしてまずは救急専従医が、診療科を問わずすべての患者の診療を行い、その上で必要に応じ各専門診療科へと繋いでいく。
●そこで医師に必要とされるのは、疾患の初期段階での総合的な診断/治療能力。換言すると、同院で学ぶ研修医にとっては、まさにプライマリ・ケアの本丸での教育を受けることになる。

 

backstage

バックステージ

●近藤医師の言葉の背景には、医師の<所属>に関する特殊性がある。初期臨床研修の2年間は、診療科ではなく病院に所属し、何かあれば病院が対応してくれる。それが後期臨床研修以降は、自らの専門を決め特定の診療科に入る。すなわち、その診療科の所属となり、何かあっても、あくまでもその診療科の問題となるのだ。従って、診療科内で問題の検討や改善を行ったとしても、それが全診療科の共通事項とされることはない。
●こうした形は、大学医局制度から端を発している。めざましい医学の進歩に対応するには、専門特化した上での探究は不可欠といえよう。だが、医学の実践の場である病院においては、近藤医師の言う診療科に縛られない全病院的な視点も大切であろう。
●教育病院として定評ある名古屋掖済会病院が、より広範な面で他病院の模範となる組織づくりに挑戦する姿を期待したい。


 


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