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シアワセをつなぐ仕事

救急看護に貫く一つの生き方。

和田 孝/大垣市民病院 救命救急センター救急外来(救急看護認定看護師)


 

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岐阜県西濃地区40万人の三次医療を担う大垣市民病院。
全国屈指の救命救急患者数を受け入れる同院の救命救急センターには、
20年来の志を貫き、看護一途に人生を歩む一人の看護師がいる。

 

 

 

 

 


願い続けた。求め続けた。そして、学び続けた。
そのすべてを発揮できる「大垣市民病院の救急」。


 

 

 

27名を率いる救急看護のスペシャリスト。

IMG_1275 救急外来受診者数4万6497人、救急搬送数8620人(どちらも平成24年度)を受け入れる大垣市民病院救命救急センター。生命の危機に陥っている重症患者、すなわち三次救急はもちろん、一次(軽症)・二次(中等症)の患者も受け入れている。
 平成24年1月に新しく建設された救急棟には、27名の看護師が在籍する。全員が救急外来専任である。その陣頭指揮を執るのは、救急外来師長の和田 孝看護師。同センターに次から次へと訪れる救急患者に対応するため、現在は看護師によるトリアージの強化に力を注ぐ。
 トリアージとは、重症度の判定である。医師の診察の前に、看護師が患者の訴えをしっかりと聞き、緊急性が高い患者は診察の順番を替えるなど、より迅速、適正な診療を進める。
 和田は言う。「トリアージは、救急看護師に必要なスキルの一つです。いかに患者さんから情報を聞き出し、問題点を抽出して、仮説、つまり病気を予測しつつ、最終的な判断に結びつけるか。しっかりとした思考プロセスを必要とします。緊急度と重症度の見極めですね。スタッフにはしっかりと学び、経験を積み重ねて、身につけてほしい能力です」。
 学ぶこと。経験を積み重ねること。和田の言葉には、それを実践してきた者だからこその熱い思いがある。和田 孝、49歳。救急看護認定看護師の資格を持つ、救急看護のスペシャリスト。彼にとって救急の現場は、自ら長い道程を切り拓いてきた先に辿り着いた、自己実現の場であった。

 

 

NICU、手術室、ICU。
学びを重ねる。

Plus顔写真1 和田が、救急看護を志して大垣市民病院に入職したのは、25年程前だ。精神科の病院に約2年勤めた後のことである。「地元の岐阜県で救急看護をめざすなら、何といっても当院です。<この病院に来てダメなら諦める>といわれるほど地域からの信頼は厚く、また、患者数・症例数が多くて、救急の経験をたくさん積めるのが魅力的でした」。
 とはいえ、入職してすぐ救急外来に配属されたわけではない。最初の勤務部署はNICU(新生児特定集中治療室)である。まったくの未知の世界。「それまで赤ちゃんに触れたことはなく、抱き方さえも解りませんでした。ほとんどが未熟児ですから、薬やミルクなど、とても細かな計算が必要なことを知りました」。先輩たちには質問攻めをし、あとは書籍を読み、ひたすら学んだという。
 NICUを2年経験し、手術室に異動。「お腹を開けたり、心臓を開けたり。初めは驚きの連続でした。手術件数は多く、夜を徹しての緊急手術もありました。医師ごとに異なる器具を用意し、手術進行に合わせ医師に器具を渡す。とにかくがむしゃらでしたね」。そう語る和田だが、単に器具を用意するだけなら誰でもできると考え、医師ごとに異なる術式をひたすら学び覚え、執刀医の先を読み、常に複数の選択肢を想定する能力や、容態急変にもすぐに対応できる能力を培う。そしてそのマニュアル化を図ったという。時間をかけ、確実に手術室看護師としての知識とスキル、そして医師からの信用を蓄積していった。
 8年後、ICU(集中治療室)勤務へ。救急の現場で力を発揮するために、重篤な患者を看る経験を積みたいと自ら希望した。ICUでは、急性機能不全や手術直後など、短時間に急変する可能性を持つ患者が集中治療を受ける。患者の生命維持を支えるのに必要な幅広い知識、治療介助、観察、医師への情報提供。手術室とはまるで異なる看護能力が必要であり、「これまた新たに勉強しなくては!と覚悟しました」と和田は笑う。
 NICU、手術室、ICUで積み重ねた学びと経験は、そのたびごとに、看護師としての和田を一つ上のステージへと押し上げた。

 

 

気持ちや思いだけではだめだ。

IMG_3544 和田が看護師を志すきっかけは何だったのか。「最初はちょっとした興味です。医療事務の専門学校を卒業後、ある病院で働いていたのですが、仕事で見る診療報酬明細書から、看護師は実際にどんなことをしているんだろうかと。医療の現場が好きでしたから、そこに自分も飛び込みたくなりました」。22歳からの再出発である。
 では、救急看護への志は何だったのか。「これも些細なことで(笑)。テレビで救急の特集番組を見たんです。改めて、看護師は人の生命を救うこともできるのだと気づき、自分もその現場に立ちたいと思いました」。
 めざす看護師像が明確になった和田は、目標に向かい猛進する。だが20数年前は、男性が看護師になることがまだ少ない。受け入れる看護学校も限られ、また、准看護師から正看護師になるしか道はなかった。准看護師には2年、正看護師には3年かかる。平日の午前中は病院で働き、午後からは学校へ。土日も勤務し、休日はなし。だが、日々の忙しさに比例して、看護師としての知識とスキルは磨かれ、和田の士気は高まるばかりだった。
 NICU、手術室、ICUと常に学び続けてきた彼は、ICUでの6年目、救急の現場に立つ最終ステップとして、救急看護認定看護師の資格取得を決意する。ここでもまた働きながら、週に2日大阪の学校に通うことになる。朝、始発の列車に乗り、9時半からの授業を受ける。ビジネスホテルで一泊し、次の日は授業が終わってから大垣に帰ると夜の8時か9時。勤務と、受講とレポート作成に時間を費やし、自由な時間はほぼゼロの1年間だった。
 それでも和田の心は折れなかった。「絶対に救急をやると心に決めていましたが、救急で有名な病院から来ている同期生に比べ、自分の知識やスキルは負けていました。気持ちや思いだけでは、だめだと痛感したんです。でも、大垣市民病院の救急に僕は誇りを持っている。この人たちに負けてはいけないと思いました」。
 1年後、同院初の救急看護認定看護師が誕生。資格取得を通じて、和田は「すべての看護行為にはエビデンス(科学的根拠)がある。それを人に伝えられる力を得た」と言う。

 

 

医療と患者・家族を繋ぐのが救急看護。

IMG_3521 満を持して、ついに和田は42歳で救急の現場へ。「ずっと昔、テレビで見た世界に実際に立った瞬間、言い表せない感情が湧き上がってきました」。
 振り返れば、願い続け、求め続け、そして、学び続けた日々がある。なかでもICU時代、ある外国人家族と出会い、家族フォローの重要性に気づいたことが、自分の転換期であるという。「外国の方は、愛情の表し方、私たち医療者への要求がストレートなんです。そうだ、本来、家族ならそういうものだ、と思いました。日本人は言動に出さないだけ。ならば、こちらからアプローチしなければいけないと気づきました。救急外来では、それがもっと顕著です。看護師にとって、患者さんに対しては、ご本人が重症であれば医師の補助が主となりますが、家族へのフォローはどれだけでもできる。いや、それこそが看護だと思います」。
 人は誰しも、突然の出来事を冷静に受け入れることは難しい。そこには、医療と患者・家族を繋ぐ機能が必要であり、それが救急看護であると和田は言う。
 現在、和田は49歳。看護師長として他の看護師を指導する。「今は全体的なスキルアップが課題ですね。それぞれの目標や個性を引き出し、それに適した学びの場を提供する。例えば研修に参加できるよう勤務の融通を利かせたり、手術室やICUを経験することの意義を伝えたり。また、認定看護師の資格取得も勧めています」。組織力の強化が現在の目標だ。その一方で、和田は日本救急看護学会のインストラクターとして、各地で開催される講習会に参加したり、救急看護に関する書籍や教材の執筆活動を行う。「教えることは、自分も学ぶこと。常に外にアンテナを立て、それを持ち帰り、当院で全国レベルの救急看護をしたいと思っています」。
 看護師は、学んだことのすべてを患者さんに活かせる。それがうれしいと、和田は言う。


 

 

columnコラム

●大垣市民病院では、看護師のスキルアップに対して、積極的なサポートを行っている。申請すれば受講した研修費が戻ってくる制度や、無理なく研修に参加できるような勤務スケジュールなど、費用や時間により、貴重な学びの機会を失わないように環境を整え、個人のスキル向上を病院全体のレベルアップに繋げている。

●その一つとして、看護師は3年目になると、全員がJNTEC(外傷初期看護セミナー)という院外研修を受ける。この研修は外傷患者に対する適切な治療・ケアを学ぶもので、防ぎえた外傷死を無くすためのもの。救急隊、医師にも、それぞれに合わせた同様のセミナーがある。

●「救急の現場は繋がっています。救急隊・医師の機能・役割を知り、共通言語を持たなければ、看護師はその輪に入っていけません。現場で円滑にコミュニケーションを取り、治療に取りかかるスピードを上げることが目的であり、救急看護をめざすなら重要な研修です」と和田は言う。

 

backstage

バックステージ

●大垣市民病院では、救急外来の看護においても、患者の社会的背景を理解した上での対応を行っている。

●例えば、救急搬送患者やその家族が高齢の場合、特に気持ちが動転し医師の説明が伝わり難いことが多々ある。そうした場合、大垣市民病院では、親族だけではなく、地域コミュニティまで広げた範囲から、家族をサポートしてくれる人を探す。

●和田看護師は言う。「入院患者さんも救急患者さんも、その背景は一人ひとり違います。まだ入院の場合は、時間をかけて情報を入手することができる。でも救急には時間が限られています。いかに患者さんやご家族を短時間に知るか。救急看護師には、そこまで視線を伸ばすことが必要です」。

●超高齢社会の今日、高齢の救急患者はますます増加する。生命を救うことはもちろんだが、「常に患者の側に立つ」という、同院看護師の姿勢が、今後はますます重要となるであろう。

 

 


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