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シアワセをつなぐ仕事

誰かが二次救急を守らなくてはならない。 だから、僕が守る。

相沢 努/西尾市民病院 救急看護認定看護師


 

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深刻な医師不足に苦しむ西尾市民病院。
その救急医療の最前線に、地域医療を守るために闘う、
一人の救急看護認定看護師がいる。
外来・副主任の相沢 努。
どんな厳しい状況も前向きに受け止め、決して諦めない不屈の精神の持ち主。
相沢の目線は常に、西尾市民へと注がれている。

 

 

 


圧倒的に医師が足りない状況下で、
救急看護認定看護師が胸に刻む大きな使命感と責任感。


 

 

 

交通事故で救急搬送されてきた幼児との出会い。

Plus顔写真1 今から4年ほど前のことである。当時、相沢 努看護師は、西尾市民病院の放射線科と救急外来を兼務していた。ある日、同院の敷地に救急車のサイレンが鳴り響き、2歳の子どもが搬送されてきた。交通事故による外傷だった。「痛い痛い」と声を上げる子ども。放射線科に勤務していた相沢は、その子がCT検査を受ける間中、「頑張るんだよ」と励まし続けた。検査が終わり、しばらくして、「あの子はどうなったのかな」と気になって様子を見にいったところ、すでに三次救命救急センターに転送された後だった。CT画像で骨盤骨折が確認され、同院では対応できないと判断されたためだ。
 翌朝、新聞を開いて、相沢は息をのんだ。「2歳児、交通事故死」という小さな記事、そこに昨日CT検査を受けた子どもの名前を見つけたからだ。「まさか…。どうして救えなかったんだろう。もっと自分に専門的な知識があれば、何か対処ができたのではないか…」。相沢の胸中は、悔しい思いでいっぱいになった。当時、相沢にもかわいい盛りの子どもがいた。亡くなった子の姿が、我が子と重なった。
 その出来事があってから、相沢は救急看護への思いを強く抱くようになる。名古屋市内の病院で、同じく看護師として働いている姉から「本気で救急をやっていくなら、専門的に学んだ方がいい」と助言も受けた。相沢の目の前に、「救急看護認定看護師」という一本の道が見えてきた。相沢が学校に通うために設けた準備期間は、約1年間。仕事が終わってから、救急看護について自己学習し、平成24年、愛知医科大学看護実践研究センターへ入学。半年間の通学中は休職したが、その間の基本給は確保され、入学金や授業料も病院側が支援してくれた。「家庭のある身なので、とてもありがたかったですね」と相沢は振り返る。

 

 

救急外来でトリアージ(※)体制を構築していく。

402114 学校から戻った相沢に用意されていたのは、<救急外来専従>のポジションだった。以前、放射線科と兼務していたときに比べ、当然ながら、関わる救急患者数は格段に増えた。「たくさんの症例に関わり、学んだ知識も活用でき、非常にモチベーションがあがりました」と相沢は笑みをこぼす。
 救急外来の看護体制は、相沢が専従、外来の師長が救急外来の師長を兼任。その他の看護師は、他の部署と兼任している。全員が専任でないだけに、看護のやり方も統一できていなかった。そこで、相沢はまず救急看護のアプローチの標準化に着手した。「救急看護では、患者さんの重症度を判断するトリアージが重要です。当院では僕と師長以外はトリアージ技能を修得していません。でも、トリアージまではできなくても、全員がまずは診察前に患者さんの血圧や体温、脈拍などを測り、簡単な問診をする。そこで、容態が悪いようなら、診察の順番を待たずに処置室へ入っていただくような救急看護体制を作りました」。これによって、少なくとも待合室で重症者が急変するような心配はなくなった。
 同院の救急外来には、年間、救急搬送患者が約4200名、独歩で訪れる患者を合わせると、1万8000名を数える(平成25年度実績)。診察前の看護師のいち早いアプローチが、二次救急病院としての機能を最大限に活かすことに繋がる。

※ トリアージとは、病気やケガの重症度や緊急度を判断し、治療の優先順位を決める行為。

 

 

二次救急医療に影を落とす、深刻な医師不足。

402074 たった一人の専従スタッフとして、看護師たちを指導しながら、救急外来を担っていくのは大変ではないだろうか。そう投げかけると、「僕ら看護師よりも多分、医師の方が疲弊していると思います」という答えが返ってきた。
 西尾市民病院は、他の地域にある多くの自治体病院と同様に、長年にわたって医師不足に苦しんでいる。現在の医師の数は、研修医を含めて52名。そのなかで、内科Plus顔写真2系医師1名、外科系医師1名、研修医1名の合計3名が、交代で24時間の救急医療を担っている。全体の人数が少ない分、救急当番の回数も多い。当直するときも一晩中、診療が途切れない状況が続くことも多く、医師の疲弊を助長している。
 看護部の鈴木育子部長は、そんな医師たちの苦労を間近に見て「確かに厳しい状況が続いています。でも、院長以下、医師や看護師、コメディカルスタッフまで、地域の皆さんの命と健康を守るため、一致団結しています。病院の機能は充分ではないにしても、『いざというときは市民病院にかかりたい』という市民の皆さまの気持ちに応えようとみんなで頑張っています」と、力強く語る。

 

 

医師の不足を看護師が補うことで、救急医療を守る。

402155 医師の不足を補うために、相沢は医師とのチーム医療に力を入れている。激務の疲労から医師が患者への言葉が少なくなったときは、やさしい気遣いで患者を温かく包む。また、患者の言葉に耳を傾け、「先生、ここも痛いと言っておられたので、診てもらえますか」と伝える。診察前に問診した情報をもとに、「症状をひも解いて、より良い治療に繋げていくことも看護師の使命」だと相沢は言う。
 また、相沢は経験の浅い研修医の育成にも積極的に関わっている。「検査オーダーが適切だったか、一緒に振り返ったり、診断についてディスカッションすることもあります。飛び込んでこられた救急患者さんを前にして、一緒に考え、答えを出していくなかで、僕自身も成長できますね」と語る。そんな相沢に対し、医師たちは「相沢君と一緒にやっていると安心だ」と、全幅の信頼を寄せる。
 相沢が今、切実に願っているのは、「救急医」の招聘だ。「救急医が来てくれれば、看護師も研修医もしっかり学べるし、ICU(集中治療室)などの設備も拡充され、当院の救急医療が数段レベルアップできると思うんです」と、将来のビジョンを熱く語る。医師不足などの逆境に屈することなく、相沢は常に、同院の救急外来の発展を願う。
 だがしかし、相沢個人には、取得した救急看護認定看護師の資格を活かし、三次救命救急センターでスキルアップを望む欲はないのだろうか。「正直にいえば、三次救命救急センターの高度な看護には、魅力を感じています。でも、三次には医師も看護師も揃っているからいいのですが、当院のような二次救急病院はそうはいきません。医師がどんどん減り、このまま救急も縮小したら、西尾の人たちはどうなるのかなと思うと、僕がやるべきことは自ずと決まります。西尾市民病院で少しでも救急外来のボトムアップを図り、地域に貢献することこそ、僕の使命だと考えています」と、きっぱり語る。揺るぎない信念を胸に、相沢はこれからも西尾市民のために救急医療の第一線を守り続けていく。


 

 

columnコラム

●西尾市民病院では、平成25年に禰宜田(ねぎた)政隆院長が就任し、病院改革を強力に推進している(詳しい内容は、『リンクト・プラス 病院を知ろう 病院再生への第一歩、禰宜田ビジョン』を参照してほしい)。医師不足の打開策についても、院長は大学医学部・医科大学の医局を精力的に訪問し、医師派遣を要請しているところである。

●相沢は、そんな院長の姿勢に共感を寄せる。「院長は気さくな人柄で、食堂でご飯を食べながら、よく話したりします。そんなとき、救急がなくなったら市民の要望に応えられないし、厳しいと思うけれど頑張ってほしい、と言われることもあります。やっぱり僕らがやらねば…と気持ちも新たになりますね」。院長の熱い思いを職員が共有することで、相沢をはじめ、一人ひとりがそれぞれの持ち場で内なる改革を推進している。

 

backstage

バックステージ

●西尾市民病院が位置する西三河南部西医療圏(碧南市、刈谷市、安城市、西尾市、知立市、高浜市)には三次救命救急センターが2カ所あるが、常に大勢の救急患者が押し寄せ、満床状態が続いている。その患者のなかには、三次(重症)だけでなく、二次(中等症)・一次(軽症)の患者も多く含まれる。

●三次救命救急センターが、本来の高度な診療機能を発揮していくためにも、西尾市民病院をはじめとした二次救急医療機関の機能充実が急務の課題である。しかしながら、本編で述べたように、二次救急医療機関の多くが医師不足にあえぎ、地域医療崩壊の危機を瀬戸際で懸命になって食い止めている状況だ。地域医療を守るために、まず二次救急を守らなくてはならない。そのことを、地域住民一人ひとりが認識し、たとえば軽症の時間外受診(いわゆるコンビニ受診)を自粛するなど、救急医療の健全化を意識していくことが重要なのではないだろうか。

 

 


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