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シアワセをつなぐ仕事

子どもが大好きで選んだ道。
小さな小さな命と向き合い、一歩ずつ成長していく。

石神沙野/海南病院 NICU(新生児集中治療室)


 

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海南病院のNICU(新生児集中治療室)は、低出生体重児をはじめ、
重症黄疸など出生に際して病気を発症した新生児を受け入れている。
3床のベッドは、常に満床状態。
生まれたばかりの3人の赤ちゃんを、
9名の看護師が24時間体制で見守り、小さな命を繋いでいる。
NICUに配属されてまだ半年ほど過ぎたばかりという
石神沙野看護師の奮闘する日々を追った。

 

 

 


この子をどうしても救いたい。
赤ちゃんへの一途な思いが
NICU看護の原動力になる。


 

 

 

800グラムで生まれた赤ちゃんのお世話に全身全霊を傾ける日々。

331142 「あいちゃん(仮名)、おはよう」。海南病院NICUに勤める石神看護師は、朝、出勤すると、保育器のなかの小さな赤ちゃんに笑顔で声をかける。あいちゃんは、およそ800グラムで生まれた超低出生体重児。肺機能が未熟なため人工呼吸器を装着し、数々の困難を乗り越えて成長している。ミルクの量も体重も徐々に増えてきた。「今はまだ鼻から管を入れてミルクを注入していますが、もう少し状態が落ち着いてきたら、お口からミルクを飲めるようになります。そのときが今から楽しみですね」と石神はにっこり笑う。
 NICUでは1人の患者を、数名の看護師で受け持つ制度を導入している。あいちゃんは、石神がNICUに配属されて初めて受け持った患者だ。「最初は先輩について看護の技術を学んでいたのですが、一人での技術提供が増えた頃、『そろそろ赤ちゃんを受け持ってみる?』と、看護課長から声をかけていただきました。不安でしたが、『まわりでしっかりサポートするから』という言葉に背中を押され、頑張る気持ちになれました」。
 保育器の赤ちゃんは、言葉を発する331113ことも、ほとんど動くこともできない。石神は赤ちゃんの様子を絶えず観察し、「声にできない声」を全身で察知する。たとえば、触っただけで身体をふるわせて、手足をパタパタさせるのは、赤ちゃんがストレスを示すサイン。そんなときは体位を変えるなどして、赤ちゃんが落ち着くように導く。ちなみに、保育器のなかの基本的な体位は、横を向いて背中を丸めるようなポジション。これは、母親のお腹のなかと同じような状態を再現することで、ストレスなく過ごせるようにと考えられたものだ。

 

 

子どもが大好き。
そのシンプルな思いが 「今」へ繋がっている。

331079 石神が小児看護をめざしたのは、高校生の頃。「看護師というよりも、子どもがすごく好きで、子どもに関わる仕事がしたいと思っていました。助産師の叔母から『新しい命が生まれる瞬間はすごく感動するよ』という話も聞いて、医療分野で子どもと関わろうと決心しました」。高校卒業後、石神は看護大学に進学。卒業研究ではプレパレーション(※)をテーマに選ぶなど、小児看護に軸足をおいて看護の学びを深めた。
 平成24年、卒業と同時に海南病院に就職。選んだ決め手は、病院説明会で訪れた際に感じた︿雰囲気の良さ>だったという。「医師も看護師も、他の職種のみなさんも感じが良くて、働きやすそうだなと思いました」と石神は振り返る。
 入職後の配属希望は、もちろん小児科。海南病院では、配属先の希望を3つまで出せるが、小児科以外は何を選んだかあまり覚えていないほど、小児科への思いが強かったという。その思いは上司にも受け入れられ、まずは、GCU(新生児治療回復室:NICUでの治療を終えた赤ちゃんの継続治療を行う病棟)に配属。そこで、1年半経験した後、ハイリスク新生児を受け入れるNICUに配属された。
※ プレパレーションとは、小児の治療において、不安・緊張・恐怖心などを最小限に抑えるように子どもに説明し、子どもが乗り越えられるようにケアしていくこと。

 

 

一瞬も気が抜けない24時間看護を支える重厚な医療体制。

331101 NICUは、GCUとは違い、生まれたばかりの赤ちゃん、しかも小さく生まれた赤ちゃんを中心に看護を行う。「初めの頃は、小さな身体に触れるのさえ怖くて、緊張感でいっぱいだった」という石神を支えたのは、ハイリスク新生児の命を守るために結成された重厚なチーム医療体制だった。
 まず、入院早期から始まるリハビリテーション。NICUを担当する3名のリハビリテーションスタッフが、呼吸器を着けた赤ちゃんの呼吸理学療法や、手足のリハビリテーションなどを行う。また、人工呼吸器の管理では、臨床工学技士をはじめとしたRST/呼吸サポートチーム(麻酔科の医師・集中ケア認定看護師・救急看護認定看護師、理学療法士などから構成されたチーム)が適正な人工呼吸器設定などで強力にバックアップ。さらに、チームの一員として口腔外科の医師も必要に応じて同行し、人工呼吸器をつけている赤ちゃんの口腔ケアに細心の注意を払う。「多職種の皆さんや経験豊富な先輩方がいつもそばにいてくださるので、とても心強いですね」と石神はほほえむ。
 小児科の医師を中心に、他科の医師やコメディカルスタッフがチームを組む強力な医療体制。これは、小さな命を守るとともに、そこで働くスタッフを守ることにも繋がっている。ハイリスクな新生児医療の現場は、ほんの小さなミスが重大な医療事故に繋がる危険性を孕んでいるからだ。「当院では、NICUはもちろん、病院全体が一つのチームとして医療に取り組む風土があります。多職種が関わり、何でも相談できる体制があるので、若い看護師も安心して働くことができると思います」と、NICU看護課長の田邊弘子は語る。

 

 

経験を積み重ね、ゆくゆくは、家族の精神的な援助もできる看護師に。

Plus顔写真2 一瞬たりとも気の抜けないNICUで、専門的な知識や手技を一つひとつ身につけている石神。今、直面する最大の課題は、家族、とくに母親の精神的なフォローだという。
 抱っこもできず、ミルクを飲ませることもできない、ただ祈ることしかできない母親の精神的な苦痛は計り知れない。しかも、小さく生まれるほど、脳性麻痺や視力・聴覚障害などのリスクが高まる。母親の胸中には、我が子に障害が残ることへの不安がうずまき、そのために自分を責めて、追いつめてしまうケースも多いという。まだ若く、看護経験の浅い石神にとって、母親への声かけはハードルの高い課題だ。「落ち込んでいるお母さんにどんな言葉をかければいいのか、いつも悩みますね。私にできるのは、辛い気持ちに寄り添うことぐらいで…。お母さんの気持ちを理解し、ときに叱咤激励している先輩方の接し方を見て、学んでいるところです」。
331156 また、NICUでは常に生と死が隣り合わせにある。治療の甲斐なく、生後まもなく息を引き取る赤ちゃんや、順調に回復していたのに、病状が急変して亡くなる赤ちゃんもいる。先日もそんな悲しいできごとに遭遇し、石神をはじめ、NICUのスタッフはみな、言葉にならない沈痛な思いにつつまれた。同院のNICUでは、こうしたケースを振り返る特別なカンファレンスを実施。そこでは、今後のケアの質を高めるための検討を行い、落胆したご家族をいかに支えていくかについても模索を続けている。
 家族への精神的な援助はこれからの課題として、田邊は、若いながらもNICU看護に情熱を注ぐ石神に期待を寄せる。「石神さんは経験は浅いですが、この子を何とか助けたいという一生懸命な気持ちが強い看護師。赤ちゃんに向き合う気持ちが真剣だから、これからの成長が楽しみです」。
 石神に今後の抱負を聞いてみた。「経験を通じて看護の技術を高め、できれば結婚・出産しても、小児看護に携わっていきたいですね。産前・産後休暇、育児休職制度などの整った当院なら、それも可能じゃないかなと思います」。子どもが大好きだから、一人でも多くの子どもの命を救いたい。その一途な思いと情熱を、石神はこれからも変わらず貫いていこうとしている。


 

 

columnコラム

●海南病院は平成13年7月から、愛知県の「地域周産期母子医療センター」の認可を受け、産科とNICUが連携して周産期医療に携わっている。地域周産期母子医療センターとは、周産期に関する高度な医療を行い、総合周産期母子医療センターを補完する施設。同院の診療圏は海部・津島医療圏、名古屋市南部、三重県桑名市を含む北勢地域まで広がっている。

●ハイリスクの分娩になるケースは、妊娠中に母体搬送し、同院で出産することでリスクを最小限に抑えている。「少しでも長くお母さんのお腹のなかで赤ちゃんを育ててもらうことで、4、5年前に比べると、1000グラム未満の超低出生体重児はかなり減少しています」と、田邊看護課長は成果を語る。ハイリスク妊婦(母体・分娩・胎児のリスクの高い妊婦)が安心して出産でき、赤ちゃんの発育を促せるように、同院の地域周産期母子医療センターは24時間休むことなく機能している。

 

backstage

バックステージ

●女性の社会進出などを背景に、高齢出産が増加。それに伴い、低体重の新生児も増加している。2500グラム未満の低出生体重児の割合は、昭和55年には全体の出生数の5.2%だったが、平成22年には9.6%と増加した(厚生労働省資料より)。しかし、周産期医療・新生児医療の進歩により、低出生体重児の死亡率は激減し、日本の新生児(生後4週間までの児)死亡率は先進国のなかでも最高水準を維持している。

●世界最高水準の新生児医療を支えるのは、産科とNICUが一体となった地域周産期母子医療センターの取り組みである。母体搬送・産科救急に24時間対応し、小さく生まれた命を救うために全力を注いでいる。今後の課題は、命を救った赤ちゃんの後遺症をいかに減らせるかだろう。脳性麻痺や視力・聴覚障害などの後遺症をできるだけなくし、健康な身体で退院できる赤ちゃんが増えるように、海南病院の闘いは今日も続いている。

 

 


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