9,603 views

シアワセをつなぐ仕事

私たち、ママさんナース。
出産・育児で仕事を辞めるなんて、考えたことありません。

山本茉衣・長谷川沙依/豊橋市民病院 産婦人科


 

main

第三次救急医療機関として、東三河地域の医療を支える豊橋市民病院。
そこでは常時70名あまりの看護師が、出産後の育児休暇を取得している。
その人数は看護師全体の約10%。
そして、そのほとんどが職場復帰を果たしている。
大きなライフイベントを支える秘密はどこにあるのだろうか。

 

 

 


素晴らしい人生を、この病院を通して勝ち取ってほしい。
看護師へのそうした思いから生まれた、
仕事環境がここにある。


 

 

 

安心して職場復帰できる看護局長とのぶっちゃけトーク。

Plus顔写真1 山本茉衣看護師と長谷川沙依看護師。二人とも、豊橋市民病院の産婦人科に勤務する。そして二人とも出産後、山本は1年、長谷川は1年半の育児休暇(以下、育休)を取り、職場復帰した。その間、「看護師を辞めるなんて、考えたこともなかった」と言う。それはどうしてだろうか。
 「私たちの病院は、ママさんナースを支援する制度がしっかりあります。最長で満3歳までの育休のうち、1年間は基本給の約70%の手当をいただけるし、職場復帰後は、子どもが3歳になるまで夜勤回数は半分なんです。そうしたことを知っていましたから、不安感なく育休に入りました」と山本看護師は話す。
 Plus顔写真3長谷川看護師も「私も同じです」と言う。「ただ、スムーズに復帰できたのは、育休中の懇談会への参加が大きかったと思います。自分でも不思議ですが、出産で病院を離れると、看護師でもごく普通の母親になるんですね。子どものことで頭がいっぱい。いろいろ不安や悩みが出てきます。そろそろ復帰もしたいのに…と考えているころに、この会がありました」。
 それは、年2回行われる<看護局長とのぶっちゃけトーク>。育休中で今後復帰を考えている人を対象としたものだ。この会では、何をするのだろう。「子どもがミルクを飲まない、夜泣きがひどいといった、私たちの悩みや困っていることを、先輩たちが親身に聞いてくれてアドバイスしてくれます。保育士さんの子どもへの接し方を見たり、参加者同士がおしゃべりもできる。知識を得るとともに気分がすっきりして、子育ての悩みも解消しました」(長谷川看護師)。「育休復帰者向けに行われる、看護スキルを取り戻す技術演習、電子カルテ利用にあたってのパソコン操作研修など、現場での感覚を取り戻すためのプログラムもあり、スムーズな復帰につながりましたね」(山本看護師)。

 

 

自分の経験を生かして、看護の幅を少し広げる。

047_ToyohashiShimin_Kango 育児相談、技術支援を得た彼女たち。復帰後の様子に触れる前に、彼女たちの職場を少し説明しよう。
 同院の産婦人科は、小児科とともに総合周産期母子医療センターの核となる診療科のひとつだ。同センターは妊娠・出産の過程で母体・胎児・新生児に生じる突発的な事態に、24時間体制で対応する緊急医療施設。MFICU(母体・胎児集中治療室)、NICU(新生児集中治療室)を備える。また、正常分娩や里帰り分娩に対応するほか、助産師が中心となるバースセンターを併せ持ち、東三河の妊婦から新生児までを救う最後の砦として機能している。
 そうした職場で、すでに夜勤にも入っているという二人は、不安や悩みがなく過ごしているのだろうか。
 「まったくないですね。さっきお話したように、夜勤回数は減っているし、1週間に2回夜間も子どもを預かってくれる院内保育所があって、夜勤でも安心して仕事ができます。それに最大一日2時間の部分休業も可能なんですよ。そのおかげで保育所に早く子どもを迎えに行って、『ママ、お仕事頑張ってきたからね』なんて子どもに自慢したりしています(笑)」と話す山本看護師の横で、長谷川看護師も笑顔でうなずく。そして、「出産を控えた妊婦さんがどういう気持ちでいるかわかるようになりましたから、自分の経験を生かして言葉をかけるようにしています。『私のときはね…』と話し出すと、最初は緊張していた妊婦さんも、少しリラックスできるみたいですね。そういう意味では、出産前と比べ、看護の幅が少し広がったように思います」と言う。
 育児と仕事に頑張る二人。それはそうと、最長で満3歳まである育休をすべて使わず復帰したのはなぜだろう。「だって、私たち看護師の仕事が大好きですから!」。

 

 

看護師としての人間力と、看護の円熟味を養う。

053_ToyohashiShimin_Kango 看護師という職業には、圧倒的に女性が多い。そのため、結婚・出産・育児を理由に離職する看護師たちも多く、それをきっかけに、いわゆる潜在化してしまう場合が多い。看護師不足が叫ばれるなか、これは女性中心の職種において、仕方のないことであろうか。
 「確かにそうした一面はあります。でもそれは、本当にもったいないことだと思います」と菱田由紀子看護局長は語る。
 「看護には、答えがありません。看護師が人として成長する段階で、いろいろな経験をし、そこから社会性を培ったり、価値観を育んでいくと、それがすべて看護につながっていきます。それまでは見えなかった相手の立場を理解できる。だから、その人にふさわしいコミュニケーションが取れる。患者さんからの信頼につながる。いわば看護師としての<人間力>が増すことで、看護の<円熟味>も増していきます。
 結婚・出産・育児は、女性にとって大きなライフイベントです。また、年齢が高くなれば、女性・男性を問わず、親の介護という問題も出てきます。そういった人生のさまざまな局面を、仕事でもプライベートでもどう有意義に過ごすことができるか。それは個人だけの問題ではなく、その職場である病院が考えることでもあるのではないでしょうか」。

 

 

一人ひとりの看護師を、大切に育てていく。

Plus顔写真2 豊橋市民病院では、常時70名あまりの看護師が育休を取得し、かつ、そのほとんどが職場復帰を果たしている。その一方で、同じような制度を持ちながら、職場復帰をする看護師が少ない病院もある。この差を生んでいるのは、単に制度を設けるだけではなく、その根底にある看護部門、そして、病院の<個人>に対する考え方が大きく作用するようだ。
 菱田看護局長は語る。
 「プライベートの事情で病院を離れても、その人を決して独りにさせたくないという思い。そして、仕事のことばかり考える看護師になってほしくないという思い。私が大切にしているのは、この二点です。なぜそう思うかと正直に言えば、当院では毎年、新人看護師を採用しますが、大都市にある病院のように、100名単位の採用はなかなかできません。そのため発想を転換し、採用した一人ひとりを大切にし、急性期病院として、現在の看護職員配置の7対1水準を守っていきたいと考えているからです。
 育休看護師を対象とした、<看護局長とのぶっちゃけトーク>の開催はその一つ。他にも、育休前や後のきめ細かな面談や、復帰後の日々のなかでの看護師長たちの気配りなどなど。大きなことから小さなことまで、一人ひとりを大切にすることは工夫次第です。
 院長はよく<お互い様精神>と言いますが、そのとおりなんですね。自分が困ったこと、苦しかったこと。それを乗り越えるときに、病院の存在を感じてもらうことができれば、次の人のとき自分が支える側になれます。そうして看護師が、働きながら素晴らしい人生を送ることができるように、「HOPE」、「HAPPY」、「HARMONY」の合言葉で、これからも<希望の看護>を実践していきたいと考えます」。


 

 

columnコラム

●豊橋市民病院では、平成25年度から日本看護協会のワークライフバランス推進事業に参加。この事業の一環として、2つのワーキンググループを組織し、より良い職場づくりに向けた活動を展開している。

●昨年、同院では日本看護協会によるアンケート調査が実施された。この結果、育児休暇は知っていても、部分休業などその他の休暇制度をあまり知らない人が多いことが判明。そこで「制度グループ」を立ち上げ、各種制度を解りやすい表にまとめた。平成26年度は表を基にしながら、制度の周知を図る予定だ。

●もう一つのワーキンググループ「業務グループ」では、5時に仕事を終わるためにはどうすればいいのかを考え、「司令塔大作戦」を実施。3時ごろになると病棟の主任が声をかけ、まだ仕事が残っている人がいれば、スタッフ間で業務調整を行い、早く帰れるように工夫している。今後も同院では、2つのグループを中心に、働きやすい職場づくりに向けた努力を重ねる方針だ。

 

backstage

バックステージ

●看護師は、社会になくてはならない存在である。特に超高齢社会になる今後を見つめると、急性期、回復期、慢性期など、いずれの領域においても、看護師の役割がより重要性を帯びてくる。

●その看護師たちの離職、そして潜在化が進んでいるという事実は、医療界にとって大きな問題となっている。その対策として、病院はつい<採用>に目が行きがち。いわば、不足する看護師の人数分を、常に補充するという考え方が優先される視点だ。

●だが、豊橋市民病院はそうではなく、一人ひとりを大切にするという発想で、離職が誘発される事由において、工夫を凝らした対応策をとっている。そうした一つひとつは、ついつい仕事中心に物事を考え、自分を追い詰めがちな看護師を守ることにつながっている。

●より良い病院、より良い医療、そして、より良い看護を考えたとき、これは注目すべき姿勢ではないだろうか。

 

 


9,603 views