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シアワセをつなぐ仕事

これまでの頑張りが花開く。
新病院での私たちの看護。

吉川雅巳・森 明美・村上友貴恵/稲沢市民病院


 

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平成26年の秋、現在建設中の新病院に移転する稲沢市民病院。
その一大事業の一端を担うのは、現場をよく知る看護師たち。
患者目線の建物設計から働く環境の整備まで、
より良い形を求めて尽力する同院の看護師たちに、その思いを聞く。

 

 

 

 

 


辛い経験を貴重な財産に変えて、
新病院に託した看護部の理想、看護師の夢。


 

 

 

一人ひとりを成長させる機会と姿勢。

IMG_0431 稲沢市民病院の看護部は、キャリアに関係なく、看護師一人ひとりの意見が言い合えるオープンな風土を持っている。例えば、ワークライフバランスの 一つとして取り組む勤務体制の見直し。平成25年から2交代制に12時間夜勤を試験導入しており、その中心的役割を担ったのは森 明美看護師長である。「12時間夜勤の2交代制については、導入を決める前から看護師の意見を丹念にヒアリングしてきました。未婚、既婚、子どもの有無など、人それぞれ事情が違いますからね。できるだけ本人の希望に沿うシフトを叶えてあげたい。そのため運用後も、その実施状況や生活の変化についてアンケートを取るなど、看護部全体で取り組んでいます」。
 新人看護師の育成に関しても、病棟全体、さらに看護部全体で、一人ひとりを大切に育てようと取り組んできた。入職2年目の村上友貴恵看護師は言う。「ここでは新人の私を、先輩の皆さんが常に『大丈夫?』と気にかけてくださり、家族のような雰囲気です。教育についてもすごく丁寧で、オン・ザ・ジョブ、つまり現場での実務を通した指導だけでなく、実務で学んだことを座学の場で振り返る研修、オフ・ザ・ジョブも1年間きめ細かく行われています。おかげで、看護学校で習ったことの見直しや、業務において自分がクリアすべき課題がはっきり解りとても有意義でした」。
Plus顔写真2 まだ入職して1年の村上看護師だが、その意識はとても高い。「看護師は、患者さんの人生の一ページにいる」という思いのもと、「退院後の患者さんや家族の支援を見据えて看護に取り組まなくては」という気づきをすでに持っている。そうした彼女の秀でた特性を温かく見守り、育てていこうとする土壌ができているのが、同院看護部の良さだ。
 森看護師も、看護師歴は長いものの、同院に入職してまだ2年。それにもかかわらず、勤務体制の見直しという大事な職務を任された。経歴に関わらず、個人の能力を育んでいこう。そうした看護部の姿勢を物語るものだ。

 

 

新病院設計に、看護部の意見を活かす。

Plus顔写真1 看護部の姿勢は、平成26年秋の移転をめざし建設中の新病院にも影響を与えている。吉川雅巳看護師長(看護師教育担当)が、新病院の設計にも携わっているのだ。「今まで老朽化した病院で、治療に専念できる療養環境ではありませんでした。現場の看護師が患者さんと接する度に感じた思いを、何としても設計プランに繋ぐために私が関わることになりました」(吉川看護師)。
 患者の一番そばにいる看護師だからこそできる、患者目線の設計。「例えば、入院病棟では、患者さんがベッドの上で天井だけ見て過ごすのではなく、外の景色を見て少しでも気分転換できるよう、病室の窓を大きくしてもらいました。その窓からはエアコンの室外機が見えないように、バルコニーを病室の床より一段下げてあります。4人床の部屋では、作りつけのロッカーで個室感が出るよう工夫も凝らしたんですよ。また、光が入るところで、患者さんとご家族がお話できるコーナーも設置しました。外来では、感染症が疑われる患者さん専用の部屋もあります。患者さんが気を遣わなくてよいように、職員が出向き、薬も支払いもその部屋で済むようになりました」と吉川看護師は言う。
 さらに今回、もう一つ配慮したのは、働く看護師のための快適な職場環境だという。病棟では、部署を超えて看護師同士が交流できる休憩室を設計。また、ロッカールームには仮眠室とパウダールーム、さらにはユニットバスを完備させた。外来でも、休憩室としても使えるスタッフのミーティングルームを設置したという。そして、子どものいる看護師のために、院内保育所も充実。25名預かることができる広さを確保し、場所も2階のセキュリティゾーンに確保された。

 

 

いつのときも、<繋ぐ>看護を見つめて。

IMG_0442 就労支援、キャリア支援に大きな力を注ぐ同院の看護部だが、その背景には、決して満ち足りた歳月だけが流れていたわけではない。この病院とともに、看護師としてのキャリアを積んできた石田久恵看護部長は言う。
 「地域医療の変化のなかで、当院では医師が随分減ってしまったんです。それに合わせて産婦人科、整形外科、血液浄化センターなど、次々に診療科が閉鎖になって…。その領域を極めたい看護師たちは、辞めざるを得ない状況にもなりました。これは本当に辛かったですね。
 でもそれにもまして、建物の老朽化が進んだことが大きな問題でした。働く環境がどんどん悪くなったんです。その建物については、これまで何度も建設の話が出ては消え、出ては消えという状況。それに職員も一喜一憂を繰り返しました。Plus顔写真3病院としては、結果、救急や外来の受け入れにも、支障が生じることにもなりました」。
 急性期病院として考えたとき、ハード機能の低下は大きなダメージを受ける。これでは看護師の誰もが下を向いても仕方がない。「でもそうはなりたくなかった。私たち看護師の存在意義は、建物にあるのではないと考えたのです」と石田看護部長は言う。
 「看護とは<繋ぐ>ことが仕事です。患者さんの人生を繋ぐ。患者さん、ご家族、医師、メディカルスタッフ、そのすべてを繋ぐ。そのためにはまず、たとえ器が古くても看護師が安心して働けること、そして、個々の能力を発揮できることが大切だと思いました。<一人ひとりが輝く看護部でありたい>との思いから、業務に何か不都合があれば、みんなで相談し合い、みんなで考える。良い仕組みを作るためには、誰でも意見を言えて、そして、みんなでやってみる。また考える…。試行錯誤の繰り返しですが、スタッフも師長も、新人もベテランも、自分たちの看護を見つめ、みんなで必死に助け合ってきました」。

 

 

めざすのは、市民に評価される病院!

IMG_0448 現在の稲沢市民病院看護部をひと言でいうと、<雰囲気がいい>。これが、ほとんどの看護師の口から自然にこぼれる素直な思いだ。新人から大ベテランの看護部長までが、まるで一つのファミリーのよう。無形のものだけに言葉で表現するのは難しいが、どの看護師の表情を見ても、しなやかで、オープンで、真面目で、明るい。かつての辛い経験が、今となっては大きな財産へと結びついてきたようだ。
 その看護部が、この秋、いよいよ新病院に移る。建物の設計に関わった吉川看護師は、「私たちの夢をいっぱい詰め込みました!」と、その完成度に胸を張る一方、「まずは患者さんに安全に引越しをしてもらうこと。それが私たちの一番大切な仕事ですから」と気を引き締める。
 そして、石田看護部長は語る。「当院は市民病院です。稀な病気を診る特別な病院でもなく、三次救命救急センターでもありません。地域密着型で、地域の皆さんの日々の生活を見つめていくことが使命です。そのなかで私たち看護部は、患者さんが当院での治療を終えたあと、安心して幸せに暮らしていけるように、地域と病院、生活と医療を繋ぐ存在でありたいと思います。評価するのは地域の皆さんです。『安心できる病院だよ』『あそこの病院の看護は良かったよ』、そう言っていただけるように、新病院でもみんなで考え行動する、柔軟な姿勢で日々改善を繰り返していきたいですね。その総和で、活気があった昔の稲沢市民病院と変わらない、いえ、それ以上の病院にしていきたいと思います」。
 看護部がさらに大きく花開く、新病院オープンが待ち遠しい。


 

 

columnコラム

●新病院ではいたる所に看護師の視線が活かされている。

●例えば病棟。トイレや汚物室など臭気が発生するところには、空調の引き込み口が作られた。臭いのある空気を引き込み、廊下や隣室にはきれいな外気が入ってくるという仕組みだ。それは内視鏡の洗浄室をはじめ、職員しか使用しない箇所にも徹底されており、職員の作業環境にも配慮がなされている。

●外来は全体に明るく広いスペースが整備された。例えば、リハビリテーション室。高齢患者にとって、リハビリテーションは大切な治療の一つだが、その部屋も全面窓に向いている。自転車を漕ぐような形のマシーンが設置されるが、それも外に向かって行うことができる。単に明るいというだけではなく、通常の生活とは異なる閉鎖的な環境での治療に終わることがないよう、社会との接点を意識した設計といえよう。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会が加速する今後、地域医療においては、専門的な治療を短期間で効率的に提供できる医療機関と、その後安心して住み慣れた自宅で暮らしていくための連携が必要となる。

●稲沢市民病院は急性期の機能を持ちつつ、その後の連携もふまえて、新病院ではスタートを切ろうとしている。

●同院においては、生活の質を少しでも向上させるための、全人的なケアの提供が使命といえよう。そうした医療領域において、看護師の存在は大きい。石田看護部長は、「私たちは生活を援助します。将来も見越して、退院したときの生活をしっかりと考え意識し、そのための援助をしていきます」と話す。

●高度で、専門性の高い医療が何かと注目を集めるが、より身近で健康的な日々を支える医療、看護の重要性を、これからは生活者自身が認識することが大切ではないだろうか。


 

 


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