5,770 views

シアワセをつなぐ仕事

病院と地域を繋ぎ、
私たちの活躍領域は外へ、未来へ、広がっていく。

花木佳子(がん性疼痛看護認定看護師)・大野美香(急性・重傷患者看護専門看護師)/名古屋医療センター


 

main

標榜30診療科、収容可能病床数740床を備える、
国立病院機構名古屋医療センター。
愛知県でも屈指の高度専門医療・看護を展開する病院である。
その基本は、地域に向けられた視線。
病院の高度な医療機能と地域を結びつける取り組みに、力を注いでいる。
本編では、その最前線にいる看護師たちの活動をレポートした。

 

 

 


専門看護師や認定看護師の
高度な専門知識・臨床実践力を活かし、
多職種を繋ぎ、病院と地域を繋いでいく。


 

 

 

相談支援センターで患者や家族の心に寄り添う認定看護師。

 IMG_2484 名古屋医療センターの正面玄関を入って、すぐ左側に、療養上の不安や医療費などの相談を受け付ける「相談支援センター」がある。利用者は同院の患者だけでなく、広く地域住民に開かれている。ここに、平成21年から専従看護師として配属されているのが、「がん性疼痛看護認定看護師」の花木佳子だ。
 花木はこのセンターで、医療ソーシャルワーカー、事務員とともに、地域住民のさまざまな相談に応えている。相談件数は年間2000件前後。そのうち400件ほどが医療、とくIMG_2504に「がん」に関わる相談で、花木が中心となって対応する。
 「相談内容は、症状や後遺症にかかわるものが多いのですが、まず不安な思いを残さず話してもらいます。そうやって気持ちをほぐしながら、何が辛くて何を解決すればいいのか、じっくり聞き出しています」と花木は言う。利用者のなかには、外来受診のたびに立ち寄る患者もいる。ほんの15分、30分ほどでも花木と会話を交わすことが、さまざまな不安を抱える在宅療養の心の支えになっている。また、同センターには「がん専用ダイヤル」が設置されており、院内外を問わず、大勢の人から相談の電話が寄せられる。民間療法に関する問い合わせも多く、「何を信じていいかわからない」と戸惑う声も多い。情報過多の時代、「気をつけて情報をみてくださいね」と花木は注意を呼びかける。
 こうした相談支援業務のほか、花木は緩和ケアチーム(多職種のメンバーで患者の痛み・悩みの軽減や緩和に尽力するチーム)のメンバーとしても活動している。呼吸器内科・外科病棟に勤務していた経験から、主に呼吸器がんの患者のケアを担当。痛みに苦しむ患者に寄り添うとともに、退院支援に力を注ぐ。「当院は高度急性期病院なので、<終の住処>の役割を担っていない病院なんです。それだけに、退院後の患者さんの暮らしが一番の気がかりです。医療ソーシャルワーカーとも協力しながら、ご自宅で安心して療養していただけるように、当院から在宅医療チームへの橋渡しに力を入れています」。

 

 

組織横断的に病院の機能を繋ぐ、専門看護師の活躍。

IMG_0422 花木と同じように、患者の退院支援に力を注ぐのが、「急性・重症患者看護専門看護師」の大野美香である。大野は2年間休職して、大学院で学び、病院に戻った後、専門看護師の資格を取得した。
 花木が「がん患者」を対象とするのに対し、大野は疾患にかかわらず「緊急度・重症度の高い患者」を対象とし、必要であれば、入院まもなく退院支援に着手する。「たとえば、身寄りのない方が救急搬送されてきた場合、その方の尊厳が守られるように看護IMG_2370師が代弁者となって、退院後の療養まで見据えたサポートをしなくてはなりません。患者さんの社会背景をいち早く把握し、社会資源が使えるように、医療ソーシャルワーカーに情報を繋ぎ、退院への道筋を支援しています」。
 こうした業務のほか、大野は院内を横断的に活動。専門看護師に期待される「実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究」という6つの役割を果たすとともに、新しい取り組みにも果敢にチャレンジしている。目下、進めているのが、「周手術期外来」の開設プロジェクトだ。周手術期外来とは聞き慣れない言葉だが、手術を受ける患者が安全に手術を受けられ、合併症を起こさずに回復できるように、術前から術後まで継続的にケアする外来である。「たとえば食道がんの手術後は、合併症予防のための口腔ケアが重要になります。そうした手術後のフォローも含めて、患者さんを手厚くサポートできるように、医師やコメディカルスタッフと連携のあり方を話し合っているところです」。
 大野は、組織や領域にとらわれない統合的な視点から、病院の入院機能と外来機能を繋ぎ、また多職種の機能を有機的に結びつけ、より良い医療を提供するための体制づくりをめざしている。

 

 

重症疾患に特化した高度急性期病院だからこそ、地域との繋がりが重要。

IMG_2317 専門看護師の大野、認定看護師の花木が共有しているのは、いかに病院という巨大な組織と地域を繋ぐかという課題だろう。
 名古屋医療センターは数ある高度急性期病院のなかでも、ひときわ多彩な役割を担う。血液難病については高度医療専門施設(準ナショナルセンター)、がんや免疫異常(リウマチや膠原病など)については基幹施設、循環器疾患や精神疾患などについては専門医療施設、さらに、エイズ治療東海ブロック拠点病院、創薬開発などに貢献する臨床研究中核病院、また、第三次救命救急センターにも指定されている。
 このように広い領域にわたり、高度で先進的な医療と研究を推し進める病院だからこそ、地域に開かれた病院づくりが求められる。なぜなら、高度急性期病院だけでは地域医療を支えることはできない。地域の医療機関が役割分担し、一体となって地域住民に医療を提供していかねばならないからだ。たとえば、同院が持つ高度で専門的な医療機能を、いかに地域の医療機関や住民が使いやすいようにコーディネートするか、また、退院する患者を、いかにスムーズに在宅へ繋いでいくか。そうしたさまざまな地域との接点において、専門性の高い看護師が、多職種の機能を有機的に繋ぐ重要な役割を担っており、そして今、そうした看護師の活動が広がりを見せている。

 

 

リソースナース(※)を地域へ役立てていく。

IMG_0467 同院では現在、大野のような専門看護師が3名、花木のような認定看護師が15名在籍(平成26年4月末現在)。さらに、医療安全管理看護師、教育専任看護師、治験看護師、HIV・AIDSコーディネーターナースといった各分野のスペシャリストが組織横断的に活動している。従来、病院に勤務する看護師といえば、病棟で入院患者のケアを行ったり、外来で診療の補助をするというイメージが一般的だった。しかし今、そんなイメージをやすやすと超えるほど、看護師の活躍領域は広がっている。
 同院の小川惠子看護部長は、そのような役割を担うリソースナースたちの活躍に大きな期待を寄せる。「患者さんやご家族が抱えるさまざまな問題を解決し、より良い医療を提供する上で、リソースナースの存在は欠かせません。今後も、多職種連携のキーパーソンとなって活動できるような看護師を一人でも多く育てていきたいと思います」。さらに、小川は、リソースナースの力を地域に役立てることに重点を置いている。たとえば、花木のような「がん性疼痛看護認定看護師」は一般には病棟に配属されるケースが多いが、それを敢えて相談支援センターに配置しているのも、同院が地域への目線を重視している現れといえるだろう。「今後は、中小病院の看護師さんや診療所の方々を対象に、リソースナースが勉強会を開くなど、当院で培われた専門的な看護の知識や技術をもっと地域へ広げていきたいですね。当院と地域の看護師が連携し、地域全体の看護の質を高めていきたいと考えています」。
 超高齢社会を迎え、<治す医療から、支える医療へ>と転換が図られるなか、地域においても、より高度な看護の力が必要とされている。そんな時代のニーズを見つめ、同院の看護部はますます地域との繋がりを深めていこうとしている。


※ リソースナースとは、専門看護師や認定看護師など、より良い医療提供のためのキーパーソンとして活動する専門性の高い知識・技術を持つ看護師をさす。


 

 

columnコラム

●「自分の役割に制限をつけず、いろいろチャレンジしたい」と語る大野。その幅広い任務の一つに、臓器提供の院内コーディネーターがある。名古屋医療センターは、臓器移植法に基づく脳死下・心停止下臓器提供施設。院内で臓器提供者(ドナー)としての可能性があるケースが発生した際、大野は患者の家族に、臓器提供について説明し、家族の意見を尊重しながら臓器提供について最終的な意思決定ができるよう支援する役割を担う。

●移植医療は、善意の心で「命」を繋ぐリレーである。「もしも地域の方に、臓器を提供したい、という意思があれば、それを尊重するのが私の役目です。地域の医療者、そして住民の方々に、臓器提供について理解を深めてほしい。そのための研修会なども開催していきたいと考えています」と、大野は語る。臓器提供という最先端医療の現場で、専門看護師の高度な倫理的調整能力が発揮される。


 

backstage

バックステージ

●超高齢社会を迎え、病院・病床機能の役割分担・連携の推進が加速されている。高度急性期病院は重症な疾患に特化した病院として、より短い入院期間で高度な急性期医療を集中的に提供。退院した患者は、回復期リハビリテーション病院などが受け入れ、在宅療養へ繋いでいく医療体制だ。

●こうしたなかで、高度急性期病院に勤務する看護師には、地域医療に対する広い視野が求められている。たとえば、早期退院する患者を在宅へ橋渡しする、地域住民の相談に応える、地域全体の看護の底上げを図るといったさまざまな側面で、名古屋医療センターのリソースナース(専門看護師や認定看護師など)たちが活躍している。従来の「病院における看護師」という枠組みを超えて活躍する彼女たちの姿から、看護師という職種のさらなる可能性を実感した。

 

 


5,770 views