22,264 views

アーカイブTOPタイトル14


すべての看護師の皆さんに告ぐ

1LINKEDでは平成25年1月に「みんなで幸せに老いていくために。いま考えたい看護という課題」と題して、高齢社会の医療を「看護」という視点から考えた。
今回はその第二弾である。超高齢社会に向けて、医療の仕組みや地域社会のあり方は変わっていかねばならない。
そのなかで、みんなが幸せに老いていく社会を実現する鍵を握る看護について考えていきたい。
この機会に、読者の皆さんに看護について理解を深めていただくとともに、読者のなかにいる現役看護師の皆さん、資格は持っているものの、今は休職中の看護師の皆さんにも、ぜひ読んでいただきたいと思う。
全体のナビゲーター役は、前回と同様、愛知県看護協会の中井加代子会長にお願いした。

 


01

 

暮らしが変わる。医療も変わる。

2
 読者は、「地域包括ケアシステム」という言葉を聞いたことはあるだろうか。これは、国が進めている社会保障と税の一体改革において「超高齢社会のあり方」を示すもの。医療・介護、介護予防、福祉などのサービスが、30分以内で駆けつけられる日常生活圏域で、一体的に提供できるような地域づくりをめざしている。私たちは誰もが老いる。そのとき、住み慣れた町で、住まいで、生活や医療に必要なサポートを気兼ねなく利用しながら、最期まで穏やかに暮らすことができたら、これほど幸せな人生はないだろう。そんな支援の行き届いた地域社会づ001くりをめざし、今、この国は大きく動き出している。
 この背景には、高齢化に伴い医療費が急増している問題がある。65歳以上の人口は、2025年には全体の3割強になり、2055年には約4割に達するといわれる。医療を必要とする人が爆発的に増えるのに対し、現状のままでは、医療保険財政の赤字は膨らむ一方だ。この財政危機を乗り越えるために、国は2年ごとの診療報酬(※)改定で、医療体制の見直しを促しており、平成26年度の診療報酬改定では、より明確に「病院(入院)から在宅(患者の自宅もしくは施設)へ」のシフトが打ち出された。急性期病床が約36万床と膨れあがってる現状を再編。病床の機能(高度急性期・亜急性期・回復期・慢性期入院)を明確に分けるとともに、在宅医療、外来医療を充実させ、超高齢社会に即した医療体制を整えていく方向にある。

※医療の公定価格で、医療機関にとって収入の構造を決めるもの。


 

 

 


02

 

在宅のキーパーソンは誰か。

3
 国が、医療体制を大きく転換し、地域包括ケアシステムを構築する目途としているのは、団塊の世代が後期高齢者になる2025年である。その近未来の地域社会では、年齢を重ねて何らかの病を抱えるようになっても、必要なサポートを受けながら在宅で暮らしていけるという。しかし、果たしてそんな地域社会の仕組みが、わずか10年余りで本当に実現するのだろうか。
 これまでは、医療というと、病院における入院治療に重点が置かれた。病院のなかでは、すべての医療サービスが揃っており、一元的に提供する体制が整えられており、患者は必要な治療やケアを病院に委ねていれば良かった。しかし在宅では、地域に点在するさまざまなサービスを、患者の自宅や施設へ集めてこなくてはならない。しかも、患者をめぐる住まいや地域の環境は決して恵まれているとはいえない。核家族化の進展により、高齢者の夫婦二人暮らし、一人暮らしが急増するとともに、古き良き日本にあった近所づきあいは年々希薄化している。家族や近隣者のサポートを期待できないなかで、身体が弱り、一日の大半を寝て過ごすようになったとき、誰が様子を見にきてくれるだろうか。深夜、病状が急変したとき、誰に相談できるのだろうか。
409042 そんな不安を、中井会長にぶつけてみた。「その不安は実にその通りだと思います。今はまだ、地域包括ケアシステムという概念ができたところ。その中味を作っていくのはこれからです。そのとき、やはり患者さんに最も近い所で生活を援助し、必要なサポートを集めてくるキーパーソンが必要です。そして、その役割を担うのは、看護師が最も適しています」。なぜ、看護師なのだろうか。「それは、看護師がもともと<生活>のなかから生まれた職業だからです。看護師の成り立ちを振り返ると、明治・大正時代にさかのぼります。その当時、看護師は派出看護婦、家庭看護婦などと呼ばれ、ご自宅に出向いて、個人の患者さんの生活環境を整え、健康管理をするのが仕事でした。病院ではなく、患者さんの生活空間のなかで、一対一で健康と生活を支えるのが看護師の役割だったわけです」。
 なるほど、看護師はもともと生活の場で活躍していたというが、その役割は今は介護職に引き継がれたようにも思えるのだが…。「介護という言葉は非常に新しく生まれた言葉で、看護の役割の一部が分化していったものです。そもそも法律で定められた看護師の役割には、<療養上の世話>と<診療の補助>という二つがありますが、歴史的にみると、このうち、<療養上の世話>から分かれていったものが介護職。<診療の補助>から派生していったものが、リハビリテーションスタッフや臨床検査技師など、いわゆるコメディカルスタッフの職種であり、404112今ではそれぞれの専門性が高められています。看護師は介護職と違い、療養上の世話をしながら、診療を助けるための観察やアセスメント(判断や分析)をします。<療養上の世話>と<診療の補助>という二つの領域にまたがり、患者さんをケアするのは、看護師をおいて他にありません」。
 看護の本質は、ナイチンゲールが示している通り、いかに患者の生命力の消耗を抑え、安楽にいられるかを考え、援助することにある。患者の命を守り、人間としての尊厳を守りながら、穏やかに生活していけるようにサポートしていく看護師。医師が在宅医療のリーダーだとすれば、看護師は医療・介護を含めた「生活の質」を高めるキーパーソンなのである。

 

患者に必要なサポートをつなぐ力。


003 では、生活の場で、看護師はどんな機能を果たしていくべきか。中井会長は「必要に応じて、医療の担い手である医師をはじめとする医療職と、生活支援の担い手である介護職などをつなぐ機能」を挙げる。在宅療養は多職種のチームプレイで成り立つ。医療分野では医師、看護師、リハビリテーションスタッフ、薬剤師など、介護分野ではケアマネージャー(介護支援専門員)、介護士など、実に多彩なプレイヤーが顔を並べる。「看護師は患者さんの身近IMG_3352にいて、症状を観察し、そこからアセスメントをして、どうすれば生活の質が向上するか考えていきます。そういう技能を持ったスペシャリストだからこそ、その患者さんにどのような援助が必要かを考え、つないでいくことができます」。
 在宅療養をする患者の病状は、ずっと安定しているわけではない。例えば、食欲が落ちた、痛みがひどくなった、床ずれができたなど、さまざまな身体的変化が生まれる。看護師がいち早くそういう情報を得て、他職種と共有することができれば、より適切な医療サービス(かかりつけ医の治療、リハビリテーションなど)や介護サービスを患者に提供することができる。また、看取りの時期が近づけば、患者と家族を支え、かかりつけ医と連携し、やすらかな最期までを見守っていくのも看護師である。超高齢社会は、言い換えると「多死社会」である。高齢者を在宅で看取るために、看護師が果たしていくべき役割は大きい。
 だがしかし、そういった在宅での看護師像は、私たちが一般的に抱く「医師のかたわらで、医師の指示のもとに血圧を測ったり、注射をしたりする看護師のイメージ」とはかなり違うのも事実だ。「医療の高度化・専門化が進み、看護師のいる場所は入院治療の場が中心になっています。そこでは生活の視点で患者さんを看る、という機会は持ちにくいのです」と中井会長は話す。


 

 

 


 

03

 

看護師のいる場所。

4
 現在、現役で活躍する看護師の大半は、病院に勤務している。愛知県内のデータによれば、働いている看護師の71%が病院に勤務。診療所を入れると87%、実に9割弱が病院・診療所勤務である(平成24年12月末)。大半の看護師は病院にいて、在宅医療を担う訪問看護師や介護・福祉施設の看護師はほんのひと握りの状態である。
 病院勤務の看護師に求められるのは、チーム医療の一員として多職種と連携し、医療と看護を提供することである。また昨今は、医療の高度化・専門化に伴い、より専門性の高い看護が求められるようになった。たとえば急性期病院では、救急看護や集中ケア、脳卒中リハビリテーションなIMG_0525ど、さまざまな専門分野に特化した看護師が高度な看護を実践し、患者の早期回復・早期退院をめざしている。
 だが一方、前述の「生活の視点で患者を看る機会が持ちにくい」という点について、中井会長は、「若い看護師たちは病院での看護しか経験がなく、患者さんの実際の生活の場を知りません。そのため、退院前・退院後の患者さんの状態が解り難く、病院内での看護の実践においても、生活になかなか思いが至りません」と言う。それでは「患者に寄り添い、患者の生活充足を援助する」という、看護の本質を見失う危険性もはらんでいるのではないだろうか。
 「確かに、病院で働く看護師のなかには、<このままでいいのだろうか>という葛藤を抱えた人が大勢いると思います。患者さんの個別性を大事にして、その人の生活を良くするために看護したいと考えても、多忙すぎて診療の補助行為が優先される面もありますから」と中井会長は語る。

 

二の足を踏む看護師たち。


002
 病院という環境で働くことに慣れた看護師にとって、在宅の現場はどのように映っているのだろうか。「ハードルが高いと感じていると思います。在宅では、たった一人で患者の情報を収集し、アセスメントをして、看護計画を立案、実践したうえで評価しなくてはなりません。病院のチーム医療で働くのとは違い、自信がないとできないし、また、看護師として自律していないと、対等に他の職種と渡り合うこともできません」と中井会長は言う。
IMG_2172 自律した看護師とは、自らの判断に従い的確な看護を実践していけるプロフェッショナルだが、病院ではたくさんの看護師がチームを組んで複数の患者を受け持ち、交代しながら24時間看護を提供する。そのなかでチームの責任や成果は問われても、看護師一人ひとりの責任や成果は曖昧になりがちだ。「たとえば、病院では患者さんから<看護師さん>と呼ばれることはあっても、<○○さん>と呼ばれることはほとんどありません。個人が見えないから、個人が成長しないし、自律しにくい状況にあると思います。しかし逆に、目的・目標に向かい、日々、チームで協力しながら仕事を進める能力が身についており、在宅での多職種連携や生活と医療をつなぐ要として、これからの地域包括ケアシステムのなかでの活躍が期待されます」と話す。
 また、中井会長は、「地域へ看護師を呼び込もうとする動きも遅れている」と指摘する。地域包括ケアシステムを推進するために、各市区町村に次々と地域包括支援センター(地域の保健・医療・福祉を向上させるために活動する拠点)が設置されている。しかし、この地域包括支援センターには、疾病予防や健康増進を指導する保健師(有看護師資格)、福祉サービスの専門家である社会福祉士、居宅サービス計画を立てるケアマネージャーはいるが、在宅療養の要を担う看護師は配置されていない。「こうした拠点にもっと看護師を配置し、地域包括ケアシステムの中味を作る作業に参画するようにしなくては、看護師を在宅へシフトする大きな流れは作れないのではないでしょうか。高齢者の命と生活を守る看護師は、介護・福祉の専門家に対しても貴重な助言ができると思います」。


 

 

 


04

 

看護師たちよ、〈生活〉に帰ろう。

5
 平成26年度診療報酬改定で、病院(入院)から在宅(患者の自宅もしくは施設)へのシフトが明確に打ち出された。看護師を手厚く配置する、急性期病院の要件が厳格化され、急性期病床が大幅に絞り込まれる。それに伴い、看護師の余剰人員が生まれ、看護師を在宅へ移行する流れが想定される。しかし、看護師の力を活かす環境が整わなくては、看護師を在宅へ促すことはできない。それどころか、病院を辞めた看護師を、単に潜在化させるだけに終わる恐れもある。
 「病院から在宅へという大きな流れのなかで、生活の視点に立って患者さんを支えていく看護師を育てると同時に、決して看護師を潜在化させない、地域での看護師の就労支援やキャリア支援の仕組みを作っていかなければなりません。それらを率先して取り組むべきなのは、やはり私たち看護協会だと自覚しています。看護師一人ひとりが、自らの新しい可能性に、果敢に挑戦し続けられる環境を整備し支援していくことを、看護職能団体としての重要なコンセプトに加え、取り組んでいきたいと思います。例えば、愛知県の委託を受けて運営しているナースセンター(※1)についても、職業斡旋という狭い枠組みから脱し、これからは地域へ出て行き、二次医療圏(※2)ごとに、必要とされる場所へ、必要とされる看護師を充足させていく仕組みづくりに、積極的に関わっていくこIMG_0396とが必要だと考えています」と中井会長は今後の構想を熱く語る。
 看護師のキャリアアップの方法として、認定看護師、専門看護師の制度があり、さまざまな領域・分野で専門性を発揮している。なかでも、訪問看護認定看護師は、地域包括ケアシステムのなかでリーダーシップを発揮し、「生活の質」を高める役割を務めてくれるだろう。
 但し、看護協会がこうした事業を展開するには、財源やマンパワーが必要だ。医療の整備を進める都道府県、地域包括ケアシステムを運営する市区町村が中心となり、看護力の活用に目を向け、支援していくことが望まれる。
 こうした体制づくりが整ったと仮定して、最後の決め手になるのは、看護師一人ひとりが「在宅に進む決意と覚悟」を持つかどうかである。中井会長は語る。「病院402067勤務から在宅へ進むことは、<生活の場>という看護本来の場所に帰ることです。そこには患者さんと一対一でじっくり向き合える看護の喜びがあり、本質的な看護を実践できる環境があります。学生時代、そして、病院のなかで学んだことをベースに、在宅医療に関わる。暮らしのなかで活躍する看護師が増えることで、看護師に対する社会の評価も上がっていくのではないでしょうか」。
 「生活に帰ろう」とは、単に在宅だけをめざそうという意味ではない。病院においても、看護を実践するために、それはとても重要な視点である。最後に看護師のあなたに問いかけたい。
 あなたが、看護師になりたいと思った原点は何ですか。
 そして、看護師として、本当にやりたいのはどんな看護ですか。

※1「看護師等の人材確保の促進に関する法律」に基づき設置された拠点。47都道府県に一つずつナースセンターがあり、看護師の就労支援などを行っている。
※2病床の整備を図るために都道府県が定めた地域区分。この地域単位で医療機関が連携し、医療サービスを完結させることをめざす。


 

 

 


 

HEYE

元厚生労働副大臣大塚耕平/
病院看護師から地域看護師へ

90CE8AAA82A982E7

私たちは忘れない、3.11を。

東日本大震災に遭遇した一人の医療人から、地域医療への熱く、そして、冷静な眼が、私たちが3.11の教訓から学ぶことの大切さを教えてくれる。

EEYE

 


SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
足助病院
渥美病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
稲沢市民病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
海南病院
春日井市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
岐阜県立多治見病院
岐阜市民病院
江南厚生病院
公立陶生病院
市立伊勢総合病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
大同病院
知多厚生病院
中京病院
東海記念病院
豊川市民病院
トヨタ記念病院
豊田厚生病院
豊橋市民病院

名古屋医療センター
名古屋掖済会病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
成田記念病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
尾西病院
藤田保健衛生大学病院
松阪市民病院
松波総合病院
みよし市民病院
八千代病院

 

※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作:中日新聞広告局

編集:PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦

Editor in Chief/黒江 仁
Art Director/伊藤 孝
Copy Director/中島 英
Planning Director/吉見昌之
Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ランドスケープ
Editorial Staff/猪塚由衣/吉村尚展/佐藤さくら/伊藤研悠/村岡成陽
      /小塚京子/平井基一/村島事務所/木下郁子/林 美智子/谷口有紀
Design Staff/山口沙絵/大橋京悟
Web制作/GPS Co.,Ltd./Media Pro

 

 

 


22,264 views