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生まれ育ったこの地で看護を。
一つでも大くの命を繋いでいきたい。

宮川亮太/大垣市民病院 集中治療室(ICU・CCU) 


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岐阜県西部、人口約40万人の中核的基幹病院として地域住民の信頼が厚い大垣市民病院。その心臓部を担うICU(集中治療室)で、命と向き合う看護師がいる。「回復を最大限にするためにICUのなかでのダメージを最小限にする。それが僕の使命」。集中ケア認定看護師として、より高い看護をめざす。

 

 

 

 

 


ICUは最後の砦。集中ケア認定看護師として、最善を尽くしたい。


 

 

ドクターより患者に近い、看護師になりたい。

160321 「病院のなかで患者さんに最も寄り添うことができるのは、ナース。だから僕はナースになりたかった」。
 宮川亮太が看護師をめざしたのは、大好きな祖父が癌で入院したのがきっかけだった。術後、痛がる祖父に何もしてあげられない自分がもどかしく、日に何度も祖父の様子を見に来る看護師の姿が目に焼き付いた。看護師は女性というイメージが強かったが、高校2年生のとき、男性看護師を取り上げたテレビ番組を見て男性でも看護師になれると知り、迷わず進路を決めた。
 勤務する大垣市民病院は、高度な医療技術を持つ総合病院だ。地域住民の間でも信頼度は高く、「何かあれば市民病院へ」という意識が定着している。
 宮川は「今までお世話になった人たちに自分ができることはないか」という思いで看護師をめざした。市民病院は、身内や親しい人が常にかかる病院だ。勤務先として、ここよりふさわしい場所はなかった。

起こりうる可能性を考え続ける、それがICUでの看護。

160306 就職してすぐICUに配属された。以来、今年で8年目になる。「配属されて最初にした仕事は、亡くなった方のエンゼルケア(死後の処置)でした。先輩に言われるがまま必死でしたが、すごくショッキングだったことを覚えています」。重症患者ばかりのICUでは、死に直面する場面も多い。最初の1、2年は危機的な状態の患者に関わることに「怯えて過ごしていた」と振り返る。
 何もしなければ消えていく命を繋ぎとめ、回復を促すためにダメージやストレスなどのリスク因子を排除していく、それがICUの役割だ。慢性期病棟と違い、患者の状態は刻々と変わる。急変する要因を自分のなかで見つけ、予測を立て、要因を排除し、それでも急変した場合にどう対処するか。「ICUでの看護は、起こりうる可能性を考え続けていく看護」だ。
 仕事を始めて4年目に、プリセプター(先輩看護職員)として心電図の勉強会を担当した。「循環器内科の先生に講義をお願いしたら、君がやればいいって…」。心電図を必死で勉強するうち、不整脈が出る理由や、疾患のリスク、心臓病が起こってから社会復帰するまでの経緯など、ただデータを読むだけではなく、そのデータの元となる現象に目がいくようになった。
 「自分の看護に、根拠と説得力がほしかった」。キャリア6年目で、集中ケアの認定看護師に挑戦した。高度医療、救命医療の発展で、集中治療領域では看護職の専門家が求められている。「集中ケア」とは、重症かつ集中治療を必要とする患者、家族への看護。生命の危機にある人間の反応に対処する看護だ。宮川は日本看護協会の指定する教育機関に合格し、9カ月の研修の後、審査を経て認定を取得した。

家族、仲間に支えられて取得した認定。

CIMG2660 認定看護師の研修を受けて変わったことは、患者やその家族の心理にまで踏み込むようになったことだ。ICUに入る患者は、話せる状態の人がほとんどいない。自ずと看護も、その病気をどう治すかというミニドクター的な視点になりがちだ。認定の勉強をして「立ち位置がより看護師的になった」と話す。
 認定取得に要した9カ月、ICUで6年のキャリアを持つ宮川の不在は、病院側にとって痛手だったに違いない。「ICUのスタッフには本当に負担をかけたと思います。それでも、帰ってきた僕を、専門の教育を受けてきたのだからここで教えてくれと、温かく迎え入れてくれました」。教育機関への入学費や授業料など、病院側の金銭的サポートも大きかった。
 何よりも宮川を後押しし、支えたのは奥さまの存在だ。「結婚2年目、子どもも生まれたばかりでした。別居や金銭面での不安もあったと思いますが、快く送り出してくれて…」。CIMG2329奥さまは同じく市民病院に勤務する看護師だ。6年先輩で、就職当時は憧れの存在だった。自身も認定看護師をめざしたことがあり、「思いは分かる」と、何も言わず協力してくれたという。
 多くの人のさまざまな思いに支えられ、取得した認定。これから、果たさなければならない役割は大きい。

命を繋ぐための、ここが最後の砦です。

160516 認定を受けるための研修を受け気付いたことがある。市民病院スタッフの、職務に対する考え方のレベルの高さだ。「ICUの看護師はどうあるべきか、認定を受けなくても、自ずとそれを身につけている」。
 現在、ICUで認定を持っているのは宮川だけ。身につけた知識とスキルをできるだけ多くのスタッフと共有し、病棟全体のボトムアップを図るのが今後の目標だ。地域の中核となる病院として、遠方からも多くの重症患者が運ばれてくる。「ここが最後の砦。そう意識しています」。理想は、全員が元気になって帰っていくことだが、理想通りにはいかないのが現実。「患者さんがより早く社会復帰できるよう、ダメージを最小限におさえる。それがICUの役割」。どんなときもスタッフが同じ気持ちで、全力で患者やその家族と関わっていくことが大切だ。
 自分の祖父も、友達の父も、大垣市民病院のICUに入ったことがある。近所のおばちゃんは「僕が市民病院にいると思うと安心できる」と言ってくれる。「自分の生まれ育った地で、自分が関わった人たちに恩返ししたい」。宮川が大垣で働き続ける一番の理由だ。大きなビルが建ち並ぶ都会よりも、大垣の青い空と豊かな自然、肌に感じる風や夏の暑さを愛している。宮川はこの地で、自分をとりまく温かな人たちの命を繋ぐために、看護師を続けていく。


column

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● 大垣市民病院では専門看護師、認定看護師の取得を推奨している。資格取得のため日本看護協会などの修学機関に修学する場合は、入学金・授業料を病院が負担 し、修学期間中の給与と手当ても支給する。また、認定資格取得者は特別に昇給もされる。現在、皮膚・排泄ケア、新生児集中ケア、救急看護、感染管理、がん 看護、集中ケア等の領域で認定看護師が活躍している。

●集中治療室は全15床。年間約1200人の入室があり、延入室者数は4200人に上 るという。職員数は、看護師35人、看護補助員3人。集中ケア認定看護師が患者さまの重篤化回避の指導・相談に取り組み、多職種と連携しカンファレンスを 行いケア方針を検討する。医師、薬剤師、臨床工学技士、理学療法士等と協働し、チーム医療としての看護実践をめざしている。


backstage

●大垣市民病院では平成19年に委員会を作り、社会動向や職場の声を吸い上げ、看護師の労働環境を整備した。子育てを理由に離職を考える看護師に対し、短時間正職員、部分休業を導入。最大3年間の育児休暇後、部分休業・短時間勤務を行うことで、子育てに専念できるようにしたのだ。

●その背景には、同院の「人材は地域の財産」と捉え、「地域」「看護師」「生活」を結び付けて考える視点がある。すなわち、地域における看護師の重要性、看護師にとって自分の生活の大切さ、これを切り離すのではなく、「一住民として、この町で働き、充実した生活を得る」ための環境づくりに注力したのである。

●現在では看護師の既婚率は46%、平均年齢は33・9歳。病院とともにこの町で生きる看護師たちが、地域の医療をしっかりと支えている。

 


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