3,354 views

ƒvƒŠƒ“ƒg

病院や看護部全体の温かいコンセンサスが、
個人の成長に合わせて、自立した看護師を育てる。

中迫瑛梨奈刈谷豊田総合病院 整形外科病棟 


シアワセメイン_06刈谷豊田

新人看護師の育成は、どの医療機関にとっても大きな課題だ。全国的に見ても「入職1年目の離職」に悩む病院は少なくない。そんななか、刈谷豊田総合病院では、2011年度に入職した65名の新人看護師の「1年未満の途中退職者ゼロ」を達成した。個人の成長に合わせて一人前に育て上げるその教育体制の根底には、新人を温かく見守るという、院内全体のコンセンサスがあった。

 

 

 

 


職場環境や教育システム、そのすべてを見直し、 個人の成長に合わせて新人看護師を育てることの意味。


 

整形外科で見た友人への献身的な姿が、
看護師をめざすきっかけに。

975C94F55 「看護師をめざしたのは、小学1年生の頃の入院がきっかけです」。まだあどけなさが残る笑顔でそう話すのは、刈谷豊田総合病院の整形外科に勤務する看護師・中迫瑛梨奈さん。入職1年目の現在は、周りの先輩看護師の助言を受けながら、目の前の仕事に奮闘する毎日だ。幼少時代の記憶から看護師への憧れを漠然と抱いていた中迫さんだが、中学生のとき、のちの進路を決定づける出来事が起こる。「友だちがケガで入院することになり、お見舞いのために病院に通うことになりました。そこで目にしたのが、友だちのリハビリテーションに付き添う看護師の献身的な姿。これをきっかけに看護師の仕事に強い憧れを持つようになりました」。
 高校卒業後、岐阜大学医学部看護学科へと進学。2年生の冬の実習では、看護師という仕事が“死”に直面する職業だというリアルな現実も味わった。「実習で初めて担当した患者さんの容態が急変したのです。担当は外されましたが、まだ看護師としての心構えもできていない当時の私には、予想以上にショッキングな出来事でした」。975C94F53
 辛い現実を突きつけられ、看護師になるべきかどうかを改めて見つめ直した中迫さん。ただ、答えは変わらなかった。患者さんから「ありがとう」と言われるこの仕事がしたい――。そう決意を新たにした中迫さんは、大学卒業後、刈谷豊田総合病院へ入職。看護師をめざすきっかけを与えてくれた整形外科で勤務しはじめる。

入職して初めて気付いた学生時代の実習と、
実際の現場とのギャップ。

928696CA2 「命に関わるような患者さんが少ないですし、手術後の回復をサポートし、元気に退院される姿を見守りたいという希望があったので」と、整形外科を選んだ心境を振り返る中迫さん。学生時代から憧れていた整形外科で働きはじめた中迫さんだが、働きはじめてからは、想像以上の忙しさに驚いた。また、学生時代の実習とは異なり、病棟を担う一人の看護師として常に責任が付きまとう。さらに、受け持つ患者の数も実習のときのようにマンツーマンというわけにはいかない。「一人を看るだけなら十分に時間を費やせますが、受け持つ患者さんが徐々に増えてくると、清拭、注射、検温など、するべき仕事が膨大な量になります。先輩のようにはなかなか効率よく回れませんし、こんなに忙しいのかと本当に衝撃を受けました」。自分の犯したミスが悔しくて、人知れず涙したこともある。「日勤帯中に終えなければいけない仕事を、夜勤の方に押しつけてしまったことがありました。先輩はきちんとフォローしてくれましたが、仕事に無責任だった自分が許せなくて。その場はなんとか涙をこらえましたが、家に帰った後、あまりのふがいなさに思わず泣いてしまいました」。
928696CA4 周囲のアドバイスを受けながら、自立した看護師をめざして努力を続けてきた中迫さん。その成長の記録ともいえるのが、自学自習のための反省ノートだ。初めて実施した業務を振り返るため、勤務後に欠かさず自宅で書き綴っている。年間を通じて少しずつたまったメモは、今後あらためてまとめ直し、再復習に使う予定だという。「勤務終了後は自分の時間を充分に持てるので、毎日を振り返り続けてきました」とはにかむ中迫さん。「急変時にも冷静に対応できるように、将来的にはもっと高いレベルの知識と技術を身に付けたい。そして、日々何気なくケアするのではなく、患者さん一人ひとりの想いを汲み取りながらケアできる看護師になりたいですね」と、理想の看護師になれるよう、さらに努力を重ねていきたいと意気込む。

看護師の働きやすさを考え、
今までの職場環境や教育のあり方を見直す。

975C94F52 “ゆとり教育”を受けてきた若者が、一人前の看護師へと育っていく――。その過程には、実は、刈谷豊田総合病院の充実した職場環境と教育システムが大きく関わっている。
 近年、日本看護協会では、看護師のより働きやすい環境づくりを推進しようと“ワーク・ライフ・バランス”を提唱しているが、刈谷豊田総合病院では、看護師の働く環境の重要性に早くから着目してきた。一方で、新人看護師を無理なく育成していける教育システムの構築にも着手。“ゆとり世代”の若者を一人前に育て上げるため、院内全体で「新人看護師を個人の成長に合わせて育てよう」というコンセンサスを図った上で、従来の教育カリキュラムを見直し、時代に即した育て方を実践するようにしている。
 看護師の働きやすい環境を整備するため、まずは「働く場所」を変えた。病院の建て替えに合わせ、看護師の声を反映した病棟へとリニューアル。患者と看護師がいつも同じ動線で動く従来の構造を見直し、患者が通る廊下とは別に、職員専用の通路とスペースを設けるようにした。これにより、ほんの一瞬、あるいはひとときでも、持ち続ける緊張感を、少しだけ緩めることができるようになった。また、ナースステーションから死角になる部分を少なくしたことで、「見ていない間に急変があったらどうしよう」といった不安や心配からも解放された。260244
 看護師の福利厚生の面でも徐々に制度を改善。なかでも、ママさん看護師が育児をしながら仕事を続けていけるよう、院内保育の制度の見直しに力を入れた。保育時間を長くし、休みの日でも子どもを預けられるように内容を変更。また、小さな子どもを育てる看護師は、子育てと仕事を無理なく両立できる時短勤務を選べるようにもした。

先輩看護師たちによる経験を元にしたサポートが、
「途中退職者ゼロ」の原動力に。

 「自分たちの時代には十分な制度がなかった分、新人看護師にはもっと働きやすい環境を用意してあげたい」。刈谷豊田総合病院が推し進める「ゆとりのある教育カリキュラム」や「働きやすい環境づくり」には、こうした先輩看護師たちの想いが込められている。「看護師全体が“みんなで育てよう”という考えで動いていますね」と話すのは看護師長の稲吉美紀さん。「看護部全体での取り組みのほかにも、整形外科病棟では、新人を迎え入れる際のメッセージカードを独自に制作しています。私たちの『待っていましたよ!』という気持ちをきちんと表現しようと、260239新人教育担当の発案で始まりました。また、新人と直接関わる機会が少ない看護師にも現状を把握してもらうため、部署内全員に、教育の進み具合を定期的に報告する“ひよこニュース”というメールを配信しています」。
 じっくりと時間をかけ、みんなで大切に新人を育てていく――。こうした取り組みが功を奏し、2011年度に入職した看護師の「途中退職者ゼロ」を達成。時代の変化に対応した積極的な数々の施策が、徐々に実を結びつつある。



 

 

column

83R838983808AA092J96L93c● 刈谷豊田総合病院が“ゆとりある教育”を実践できる背景には「7対1看護」がある。一般的にはあまり知られていないが、患者に対する看護師の数は、病院に よって違いがある。入院患者に対する看護師数の比率を規定した基準として、従来から「15対1」「13対1」「10対1」の3種類の看護配置基準があった が、2006年には、診療報酬改定にあわせて、重症患者への手厚い看護ができるよう、患者7人に対して看護師1人を置く「7対1」の看護配置基準が新設さ れた。

●刈谷豊田総合病院では、この“最高水準の看護体制”ともいえる「7対1」看護師配置を早々に達成。患者に対する看護師の絶対数が増え、今まで人員が少なくてできなかった患者看護ができるようになり、加えて新人看護師への教育にも目を向けられるようになった。

 


backstage

83o83b83N83X83e815B83W83R83898380●看護師の職場は、危険・汚い・きつい・暗い・臭いの頭文字から「5K」だと言われてきた。看護は「忙しくて当たり前」の仕事。こうした発想を根本から変えなければ、慢性的な看護師不足を解消し、より充実した医療体制を築くことは難しい。

● 看護師は、地域社会を医療面から守る貴重な人的資産である。本来、看護師とは、幅広い知識や経験をもとに、医師とは異なり、患者側に立った視点を持つ医療 のスペシャリストであるはず。すでに欧米諸国では、独立した専門職として社会的に認知されている。病院のみならず、在宅医療の分野でもますます欠かせない 存在となる看護師。その育成を、個々の医療機関の問題として片付けるのではなく、私たちが暮らす“地域医療の大切な担い手”として、地域住民が温かく見守 る目を持つことが大切といえよう。


3,354 views