1,979 views

ƒvƒŠƒ“ƒg

地域に根ざした看護がしたい。
だから私は専門看護師として生きる。

高橋奈美/名古屋第二赤十字病院 地域医療連携センター


シアワセメイン_06八事日赤

全国で数えても、まだ63名しか存在しない「慢性疾患看護専門看護師」。神経難病や腎臓病、糖尿病といった、慢性疾患を抱える患者とその家族に対して、病気を持ちながらもより良い生活、人生を歩むことができるよう支援をする。ときには病棟で、あるいは外来で、さらには地域で。継続看護という視点から、人と疾患、病院と在宅、そして環境と時間のすべてを「繋ぐ」仕事である。

 

 

 


人と疾患、病院と在宅、そして環境と時間。そのすべてを見つめて、患者の生活を支える。



 

慢性疾患看護専門看護師、という仕事。

 慢性疾患は、多くが生活習慣を原因とし、患者は中高年齢層が中心である。回復までの時間が長く、また、完治し難く、長期間の治療が必要だ。その長い時間を、患者が自分の病気と上手に折り合いをつけ、そのうえで、自分らしく生きるためには、セルフケアマネジメント=自己管理が重要になる。だが、実際には容易なことではない。本人や家族の精神面はもちろん、悪化や合併症をいかに抑えるかという医学管理、入退院や在宅療養過程での環境のあり方まで、さまざまな要素のバランスを常に整える必要があるからだ。IMG_1362
 人と疾患、病院と在宅、そして環境と時間。そのすべてを見つめ、慢性疾患患者を支援するのが、名古屋第二赤十字病院地域医療連携センター看護係長“慢性疾患看護専門看護師”高橋奈美の仕事である。急性期病院における治療主体の療養から在宅における生活主体の療養へとシームレスに繋ぐなかで、患者自身がセルフケアマネジメントの重要性や、病気が悪くなる要素への理解を深め、生活上での対処ができるようサポートを行う。「治らない病気を抱えることは、誰にとっても大きな困難を伴います。その困難を乗り越え、正確に病気を理解し、いつのときも自分らしく病気を管理していただくために、患者さんの生活はもちろん、人生にも寄り添って、そのときどきの状況(生活・身体・心理)に合わせた支援を行っています」。

始まりは神経難病。
エビデンスに裏付けされた看護の重要性を知る。

928696CA2 高橋奈美は、看護師を志したときから「地域に根ざした看護がしたい」と思っていた。なぜなら患者の生活の主体は自宅であるからだ。「病院を退院した後、患者さんが少しでも上手く病気とつきあえるように看護をしていきたかったのです」。その思いを繋ぐなかで専門看護師となるのだが、それには一人の患者と出会ったことがきっかけとなる。
 少しずつ病気が進行する、ある神経難病患者との出会い。「長い経過のなかで病気が進行する患者さんを支えるとは、どういうことか。自分にもっと知識と技術があれば、もっと良い看護ができるのか、ずっと考えていました。また、そうしたなかで、私自身が手応えを感じたことを、医師や看護師に伝えることができない自分に気がついたのです」。
 自分への問いかけ、自分に足りないもの。高橋奈美はその答えを求め続けていた。そんな中、日本看護協会による“専門看護師”資格認定制度が始まったことを知る。その分野の一つに、慢性疾患看護があった。同認定資格を得るには、看護系大学院修士課程を修了しなければならない。IMG_1315高橋奈美はユニホームを脱いだ。
 そして現在、高橋奈美は言う。「慢性疾患の看護でいえば、個人のケアを地域に結びつける視点を学びました。病院での入院治療、在宅医療、それらを点で捉えるのではなく、双方向の線として見つめる眼ですね。看護を実践する上では、学問の裏付け=エビデンスをベースに、支援しなければならないことを学びました。そしてその成果を言語化しなければならないことを実感しました。ただ、どちらも最終の答えを得たわけではありません。これからも自分が常に患者さんと真剣に向き合い、紡ぎ出すしかないと思っています」。

ハードルの高い認定資格。
医療職にも、まだその活かし方を知られていない。

 日本看護協会の認定資格には、認定看護師と専門看護師とがある。認定看護師は、特定の看護分野において熟練した看護技術と知識を持ち、すぐれた実践能力を持つ看護師。専門看護師とは、複雑で解決困難な看護問題を抱える患者やその家族・集団に対し、水準の高いケアを提供するための特定の専門分野の知識及び技術を深めた看護師である。資格取得者を全国で見ると、認定看護師8994名(2012年1月現在)に対して、専門看護師は795名(2012年2月現在)とはるかに少ない。そのうち高橋奈美の慢性疾患看護専門看護師は63名である。
 この違いは、認定審査を受けるまでのハードルの高さにある。認定看護師が実務経験5年以上で、協会指定の教育課程(半年以上)を修了した時点であるのに対し、専門看護師は、看護系大学院修士課程修了者で、日本看護系大学協議会が定める専門看護師教育課程基準での単位を取得。さらに実務経験通算5年以上のうち、半年は修士課程修了後でなくてはならない。
 これだけの高いハードルを越え、専門的な知識や実践能力を備えた専門看護師だが、残念ながら一般的には医療職においても充分に理解、認識し、活用されていないのが現状である。

患者の生活の営みを見つめて、みんなの一所懸命を繋ぐ。

IMG_1350 高橋奈美の活動は、患者や家族に対する「看護相談」というカタチで、病棟や外来で行われる。また、地域の診療所医師や在宅関連施設の職員に向けてもアプローチする。そのときのキーワードは“繋ぐ”だ。「慢性疾患の患者さんにとって、入院は一つの局面でしかなく、自宅での自分の生活に戻る過程です。それを患者さんとご家族はもちろん、病院・地域で患者さんを支えるすべての医療職全員の目線や思いを繋いで、患者さんの生活の営みを支援したいと思います」。
 それは彼女一人でできるのだろうか。高橋奈美は微笑む。「当院にはすばらしい財産があります。一つは救急も病棟も外来も、とにかく職員みんなが一所懸命であること。そしてもう一つは、地域にある多くの医療機関や施設と、顔が見える関係を築き上げていることです。これを最大限に活かして、病院内で一番多くの人数を抱える看護部の仲間たちとともに、歩んでいこうと思います」。
 専門看護師、高橋奈美。「看護相談」というステージから、「看護専門外来」という次なる新たなステージ創造に向けて、今はその瞳が輝いている。






column

93FA90D483R83898380●専門看護師には、がん看護、精神看護、地域看護、老人看護、小児看護、母性看護、慢性疾患看護、急性・重症患者看護、感染症看護、家族支援看護の10分野がある。

●重きをおかれた役割は、「実践」「相談」「調整」「倫理調整」「教育」「研究」を通して、保健医療福祉や看護学の発展に貢献することだ。

●本来、看護は生活の視点から組み立てられている。生活に密着しているがゆえに、医師よりもベッドサイドに近いところにいて、患者のプライベートな部分にも踏み込んだ仕事をしているにもかかわらず、特別視され難い存在だった。

●専門看護師の存在は、医療における看護の重要性を、患者はもちろん、医療従事者にも再認識させる大きなきっかけとなろう。

backstage

83o83b83N83X83e815B83W●慢性疾患の多くは、完治し難いため、治療を継続するとともに、生活のなかで病気と折り合いを付けながら生きていくことが必要となる。

●だが、医学の進歩に比べると、病気とともに生きることへの支援は、まだまだ確立されていない。

● 慢性疾患は、元になる病気や合併症による急性増悪での再入院、緊急入院というケースが多々ある。急性期治療を提供したら終わりではなく、名古屋第二赤十字 病院のように、継続看護という視点から患者を支えることは、今後の社会において、とても大きな意味を持つ。地域医療を支える急性期病院のあり方として、意 義のある試みといえよう。

 

 


1,979 views