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慌ただしい救急の現場のなかで、
「何かご心配なことはありませんか」。
そんな何気ない声掛けが、現状を変える鍵になる。

郡山明美/岡崎市民病院 救急外来


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愛知県下で最も救急搬送数が多い岡崎市民病院。一人ひとりの救急患者にどう対応するのかが大きなテーマだ、そんななか、同院の救急外来の看護師たちは。膨大な業務に追われるのでなく、看護の視点で患者中心の医療を実践。その最前線で陣頭指揮にあたる救急看護認定看護師に話を聞いた

 

 

 

 

 


救急の現場でも、大切なのは患者一人ひとりの生活背景に向き合うこと。家庭環境や普段の暮らしぶりを理解してはじめて、その人にとって必要な看護が実践できる。


 

 

帰宅時のさりげない声掛けと配慮が、救急患者を減らす一助になる。

 「何かご心配なことはありませんか」。救急外来部門の看護長補佐・郡山明美は、救急外来から帰宅する患者に対し、こうした声掛けを行うのが日課だ。郡山が勤める岡崎市民病院は、岡崎市と幸田町を合わせた約41万人の医療圏で、唯一の三次救急の機能を有する急性期の基幹病院として重要な役割を果たしている。院内にはER(緊急救命室)とICU(集中治療室)を含めた救命救急センターが開設されており、24時間体制の救急外来では、一次・二次・三次救急を含め、年間3万5000人の救急患者、約1万件の搬送患者受け入れに対応。その数は愛知県下最大だ。223017
 郡山も当然のように日々救急患者の対応に追われる。最近では「コンビニ救急」といわれる通り、軽症にもかかわらず救急外来を訪れたり、安易に救急車を呼ぶ患者が少なくない。ただ、郡山はこうした受診を減らすためにも、“帰宅指導”が大事だと話す。その方法のひとつが、帰宅時の声掛けなのだ。
 「例えば、救急外来を受診した患者さんに対して、『風邪ですね、薬出しておきますね』と単に帰すだけでは問題の解決にはなりません。『熱が出たときにはこうしてください』とお教えすることが大切です。そうすれば患者さんも次に受診するタイミングを知ることができます。小さなお子さんであれば、お母さんに『けいれんが何分で収まったら一晩様子を見て、翌日に小児科を受診すれば大丈夫ですよ』と。そういう言葉がお母さんに安心感を与え、安易な受診を減らすことにもつながると思います」。

生活背景を知ったうえで援助することの大切さを痛感。

 「入口部分のトリアージも確かに大事ですが、帰宅時のアドバイスも重要です。『自分でご飯を買いに行けないときに、どなたか連絡がつく人はいますか』とたずねるなど、帰宅後の家庭環境などを把握したうえで、患者さんが抱く不安を少しでも配慮してあげられるように努めています」。
223029 郡山にとっての転機は、ICUでの「ある気づき」だった。昭和62年に入職して以来、外科病棟や口腔外科・眼科・耳鼻科の混合病棟などを経験。その後、ICUに異動した。そこで郡山は、「患者さんのご自宅は実際どうなっているんだろう」という、何気ない疑問にぶつかったという。「普段から患者さんの情報は収集しています。ただ、患者さんやそのご家族から得られる情報だけでは、限界があるのも事実です。例えば、自宅で看てくれる方はいるのか、自宅の状況はどうなのか。こうした背景をきちんと理解したうえでしか、看護計画は立てられないはず。そんな風に考えているうちに、自分でも実際の現場に足を運び、そこで得た情報を看護に活かしたいという思いがどんどんと強くなっていきました」。
 その後、郡山は救急外来に勤務し、ドクターカーで数多くの現場を訪れることになる。看護長補佐になった現在も、人員が足りないときには自らドクターカーに乗り込む。「現場ではショックを受けることもあります。ゴミに埋もれたような部屋から患者さんを探し搬送したこともありました。こうした状況から患者さんを救うためには、医療だけではなく社会支援も必要です。現状を把握したうえでソーシャルワーカーに一声かけておけば、退院調整もよりスムーズに進みます。帰るところは一緒でも、支援の手が差し伸べられるかどうかで、その後の生活も大きく変わりますからね」。

※トリアージ 病院やケガの重症度や緊急度を判断し、治療の優先順位を決める行為。

 

知識によって手に入れた根拠に基づき、
自分のなかで組み立て直すこと。

222030 郡山は、救急外来に異動する前、実は救急看護認定看護師の資格を取得していた。半年間に及ぶ認定看護師の教育課程は、「本当に貴重な体験だった」と振り返る。
 「知識をもつことの重要性に、まず気づきました。そのうえで、得た知識に振り回されるのではなく、知識によって手に入れた根拠に基づいて、自分のなかでもう一度組み立て直すことができるかどうか。そのためには、単に知識を得るのではなく、知識を得ることができる器を作ることが目標だということです」。教育課程の後半に行われたグループワークで、郡山はそれに気づいた。そして最終的には、「ひたすら自分と向き合い、自分が成長することが求められる期間だったと思います」と語る。

経験値を共通言語化することで、組織全体のレベルアップを促す。

221013 認定看護師を取得し、救急外来に異動した郡山。今までのICUと比べてベテラン看護師が多く、「コミュニケーションも抜群で、とてもいい雰囲気だな」と感じたという。ただ一方で、問題点にも気づいた。それは看護の大部分が経験値に委ねられており、きちんとした根拠が示せないことだった。「経験値による行動にも必ず根拠はあるはず。ただ、それを周りに示したり、伝えたりすることができない状況でした」。例えば、患者の急変を見分けるのは難しい。ただ一方で、経験的に「この人は危ない」と察知できることもある。そんなとき、「なぜ危険だと思ったのか」をきちんと言語化することが大事だと郡山はいう。「病状を見極めるのは難しいといわれますが、私は客観的なデータに基づけばある程度は判断できると思います。モニターをつけて数字を出せば絶対に何かが崩れているはず。こういった部分を言語化して示すことが必要なのです。経験値に基づいて単に仕事をするだけではなく、その根拠をきちんと明確にし、看護局全体で共有できる言語に変換するようにしていかないといけない。きっとそれが組織全体のレベルアップにつながるはずですから」。




column

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●岡崎市民病院では、住民の高まる期待に応えるため、ER向上推進会議を発足。安全で効率的な救急外来をめざした取り組みを続けている。また、救急外来の状況を院内全体に発信するシステム“ERみえる化プロジェクト”なども推進する。このほかにも、平成18年からは平日の日勤帯にドクターカーを運用。救急患者さまにとっては、病院に至るまでのプレホスピタルケアも重要な任務のひとつだと位置づけ、医師・看護師の現場医療に対する理解を深めるようにしている。

 

backstage

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●「コンビニ救急」といわれる現状を変えるためには、救急搬送の安易な利用は慎まなければいけない。ただ一方で、一見、症状が見えなくて も、脳梗塞のように重篤化するリスクが隠れている場合もある。だが、生活者にその判断を委ねるのは無理な話だ。実際、自己判断を誤り、救急搬送が遅れた結 果、重篤な症状を招く事態もある。今の救急医療における大きなジレンマといえよう。

 

●さらに、救命救急の現場には、 複雑な事情を抱えた患者が多い。麻薬中毒、自殺、家庭内暴力、児童虐待など、単に医療行為を行うだけでは、根本的な問題の解決にならないケースもたくさん ある。生活環境、家族関係、お金など、さまざまな背景が複雑に絡みあった患者への支援は、医療機関だけでは解決できない。医療を社会基盤のひとつとして捉 えた場合、すべてを医療機関任せにするのではなく、地域全体でその実態を知ることが何より必要だ。

 


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