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中京病院の森昌乃。
NICCU看護師という、情熱とプライド。

森 昌乃/社会保険中京病院 NICCU(新生児心臓治療室)


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熱田神宮から南へ2kmほど、名古屋市南部に位置する社会保険中京病院は、先天性心疾患の分野で東海地方で最も長い歴史を持ち、全国でも有数の実績を誇る。2013年4月に「中京こどもハートセンター」として装いを新たにする小児循環器科・NICCU(新生児心臓治療室)で、子どもたちを見つめ、家族に寄り添い続ける一人の看護師を追った。

 

 

 


患者さんを24時間看ているのは医師ではなく、私たち看護師だから。助からない命を、一人でも多く助けるために、「考え」そして「寄り添い」続ける。


 

赤ちゃんと家族を見つめ続ける。

104330 「森さん、私、大丈夫です」。毎年、小児循環器科の外来に訪れる患者のお母さんの言葉である。8年前、患者さんがNICCU(新生児心臓治療室)に入院していたとき、このお母さんは赤ちゃんの手術をためらっていた。赤ちゃんには、先天性の心臓疾患だけでなく、染色体異常も確認された。「見たくない。手術もやめてほしい。今の幸せな家庭がこの子によって壊される…」。そのお母さんは、自らの生んだ子どもを受け入れられず、途方に暮れて泣いていた。NICCUの森昌乃看護師は、そのお母さんを、とうてい責める気にはなれなかったという。「どうか赤ちゃんはお母さんが守ってほしい」、その一心で、幾度も話を聞き、そばに寄り添い続けた。その後、お母さんは手術を決意、今では年に一度、外来で病院を訪れると、森看護師に顔を見せに来てくれる。
 心臓病の子どもを育てていくことは、簡単なことではない。完治する子もいるが、いつ何が起こるか分からない不安を抱えたまま退院し、家に連れ帰らなければならない子どもも多い。森看護師は、入院中だけでなく、そうした子どもを抱える家族へのフォローに力を入れている。「例えば、患者さんのお母さん方が面接に来るときに、こういう顔色のときはどんなことに注意したらいいかなど、赤ちゃんの変化に気づけるような声かけをするよう、心がけています。家に帰ったら、お母さんが主治医であり、担当看護師であるような目線で赤ちゃんを見ていただけるようになってもらいたいですから」。

 

憧れの先輩に近づこうと、身につけた、〈考える癖〉。

104419 森看護師は、NICCUに配属された当初、毎日が怖くてしかたなかったという。「やはり、心臓ですから。顔色が急に真っ黒になったり真っ白になったり。なぜそうなるのかが分からず、どう対応すればいいかも分かりませんでしたので、とにかく怖くて、毎日ドキドキしながら過ごしていました」。
 そんな森看護師には、憧れの先輩がいた。「その先輩はいつも、起きたことの原因を考える人でした」。あるとき、不整脈の出た患者がいた。いつものことだとその状況をただ見ていた森看護師の前で、その先輩はレントゲン写真を開きだした。その日に入れ替えた点滴の長いチューブが患者の心臓に当たっているのではと予想したのだ。まさにそのとおり。チューブを抜くと、不整脈は治まった。「すごくよく覚えています。私もこうなりたいと思いました」。何においても、起こることには必ず原因がある。その日、森看護師は「何でこうなるのかを常に考えよう」と、心に誓った。
 今では習慣になった〈考える癖〉は、森看護師の仕事に大いに活きている。例えば、原因がよく分からず調子の悪い患者がいる。その患者に対し、主治医の出した指示が、間違っていると思うことが時折あるという。そんなとき、森看護師はためらわずに主治医に言う。そこには看護師の視点で患者を看ながら、常に考え、学び続けた結果得た知識と根拠がある。「主治医に報告するときは、それなりに自信を持っています。24時間患者さんを看ているのは、医師ではなく、私たち看護師ですから」。憧れの先輩に一歩でも近づこうと、懸命に走ってきた。プロとしての看護師の姿勢が、医師を納得させる説得力と信頼を生む。

 

一人でも多くの子どもの命を救いたい。

104269  社会保険中京病院の小児循環器疾患治療の歴史は、小児循環器科が小児科から独立した1981年から始まった。発足当初から先天性心疾患の診療と治療に力を注ぎ、NICCUも科の独立と同時に立ち上げた。小児循環器科部長の大橋直樹医師は「我々には、助からない病気を助かる病気にしていく使命があります。そのためのユニットが必要でした」と話す。現在、小児循環器科の患者の約8割が先天性心疾患、手術件数は年200件にのぼる。NICCUを立ち上げて30年。長い歴史のなかで、特別なスキルやノウハウも培われてきた。5年前には、心房中隔欠損症(ASD)のカテーテル治療を東海地方で初めて導入。これまでに治療例は230例を超え、広域から集まる患者のなかには、遠く金沢から訪れる人もいるという。
 先天性心疾患の手術の進歩で、患者の生存年数は大幅に延び、近年では85%が成人に達している。術後の後遺症や合併症、重篤な疾病を抱えたまま成人する患者も少なくなく、成長や症状に合わせた長期的なサポートが必要となる。中京病院では、小児循環器科、心臓血管外科、循環器内科が協力し、先天性心疾患の患者を小児期から成人期まで継続的に診療できる体制を敷いている。「病院内での連携を図り、横に繋がることで、患者さんを全人的に診ていくことが重要です」と大橋医師。
 来年4月から、毎週木曜に成人の先天性疾患外来を開始、NICCUは「中京こどもハートセンター」に名称を改める。胎児の心臓病ネットワークを構築し、産婦人科に協力してもらうことで母体管理をし、子どもが生まれた直後からの早期治療を実践する。大橋医師は、「なるべく多くの胎児を治療し、助けられる子を一人でも増やしたい」と語る。

 

笑顔の奥に情熱とプライドを秘めて、パステルカラーな看護師たち。

104515  大橋医師は「心臓病の子っていうのは異常に元気なんです。NICCUの看護師はその子たちを抱っこもするし、集中治療の管理もする。負わされている責務は非常に重いと思っています」と話す。NICCUの看護師は、最前線で24時間アンテナを張り、刻々と変わる赤ちゃんの状態を正確に把握しなければならない。それには知識と観察力、そして異常を察知する感性が必要だ。大橋医師は森看護師を「プライドと情熱を持ってプロフェッショナルな仕事をする看護師」と評価。「次代の森チルドレンをたくさん育ててほしい」と話す。 104431
 森看護師は、中京病院の看護師の印象を「ほんわりパステルカラー」と表現する。命に関わる厳しい現場にいながらも、常に患者やその家族の目線に立って、優しい、思いやる心を忘れない。パステルカラーは、彼女たちの看護師としての温かな視点を物語っている。中京病院のNICCUを訪れるお母さん方からは「看護師さんが、笑顔で仕事をしているとは思わなかった。その笑顔を見てすごく安心した」との言葉も。看護への情熱とプライドを秘めた強く、優しい笑顔。森看護師もまた、柔らかなパステルカラーに包まれている。

 


column

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●社会保険中京病院のNICCUでは、一人の看護師が一人の患者の入院から退院までを一貫して担当する「プライマリーナーシング」を行っている。担当ナースを決めることで患者への効果的で継続的な看護を提供するだけでなく、その家族へのフォローも行き届く。胎児診断をする場合には担当ナースも一緒に立ち会い、我が子が心臓病と診断される母親のショックをともに受け止め、家族の心のケアに努める。

●常に笑顔で、患者やその家族が安心できるようにというのも中京病院の看護の方針だ。NICCUでは、数年前から看護師がマスクや帽子をかぶることを禁止した。大橋医師は、「口元を隠さず笑顔で仕事をすることで、NICCUを、ご家族が安心して子どもを預けられる空間にしたいと思っています」と話す。



backstage

83o83b83N83X83e815B83W● 看護師不足の問題が取り沙汰されるようになって久しい。2006年の診療報酬改定では「7対1看護体制」が設けられ、7対1(※)を実践している医療機関 が、従来より手厚い看護を実現したと評価され、より高い診療報酬を得られるようになった。それに伴い各医療機関は看護師確保に力を入れるようになった。

● より多くの看護師を確保したとして、入職後、その看護師たちがプロとしての情熱と誇りを持った本物の医療者に成長するかどうかは、病院の姿勢や教育環境に かかっている。看護師が、疲弊せず、その力を十分発揮できる環境を整えていくことは、病院にとって重要な課題だ。そして、それだけではなく、森看護師のよ うな優れた人材を、地域の貴重な医療資産として守り育てる視点を、私たち一人ひとりが、また、地域全体が持つ必要があるだろう。

※「7対1」:平均して入院患者7人に対し、常時看護職員1名が勤務しているという看護体制。

 

 


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