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病院を知ろう

院長が蒔いた「改革のタネ」を職員みんなで育て、
松阪市民病院の未来へ繋いでいきたい。

 

 

松阪市民病院


目線は常に、市民の生活へ。
臓器別センター化を推進しつつ、在宅医療支援機能を強化していく。

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平成25年度を終え、5年連続して経常収支の黒字化を達成した松阪市民病院。
それは、十数年前から始まった小倉嘉文院長の病院改革が実を結び、着実に発展へ向かっていることを示している。
順調な病院経営をベースに、同院はどんな戦略を立てているのか、小倉院長に話を聞いた。

 

 

 

 

得意領域におけるセンター化(臓器別診療体制)を
さらに進展させていく。

 Plus顔写真 「平成25年度も前年度と同様に、飛躍の年でした」。そう語るのは、松阪市民病院の小倉嘉文院長である。前回の『病院を知ろう』で取り上げたように、同院では「呼吸器センター」に続いて、平成25年、「消化器・内視鏡治療センター」を開設。診断から治療まで一貫した高度な医療サービスを提供し、患者から高評価を得ている。限られた医療資源の選択と集中。それが、同院の経営改革の柱として着実に軌道に乗ってきた証といえるだろう。
 「以前は<市民病院は総合的な病院であるべき>というのが市民の皆さんの認識でしたが、今では当院の得意領域を理解し、上手に利用していただいています」と小倉院長は手応えを実感する。その上で、臓器別の診療体制づくりは今後も推進する計画だ。「さしあたって<腎臓内科+泌尿器科>、さらに、三次医療を担う病院(※)から心臓血管外科のバックアップを得ることで<循環器科>のセンター化も構想しています」と、改革の勢いは止まらない。だが、そのためには、医師の確保が必須だ。「一時期、減少した医師も徐々に増えつつありますが、まだ充分とはいえません。今後も継続して研修医の獲得に力を入れ、大学医局にも働きかけていきます」。
※ 日本では提供する医療の領域として、身近な医療を提供する 一次医療、入院治療などに対応する二次医療、重症な疾患や難病に対し、高度で先進的な医療を提供する三次医療まで設定されている。三次医療を担う病院は、通常、都道府県に一つであり、松阪市民病院は二次医療を担う病院にあたる。

 

 

地域医療連携を進め、平成26年度中に、地域医療支援病院へ。

IMG_0892 臓器別のセンター化を推進する一方で、小倉院長の目線は地域医療に注がれている。同院では「呼吸器センター」の開設と時期を同じくして「がん患者サポートチーム」を結成。緩和ケア病棟、訪問看護ステーションなど異なる領域の看護師が手を結び、肺がん手術など高度急性期治療を終えた患者を、在宅復帰へと繋ぎ、さらにターミナル期まで切れ目なくサポートする体制づくりに力を注いできた。
 さらに今後は、高度急性期を脱した患者を支える<亜急性期医療>の分野の充実もめざしていく方針だ。「その他にも、IMG_0975地域の診療所や介護・福祉施設と連携し、療養中に急性増悪した患者さんを速やかに受け入れることも、私たちの大きな役割です。患者さんが早期に在宅に戻れるように、リハビリテーション医療の充実も急いでいます」と小倉院長は話す。
 地域の診療所や施設との連携は、年々深まってきた。「診療所の先生方から患者さんを紹介していただいたり、逆に紹介する件数はどんどん増加しています。ちょうど<地域医療支援病院>の承認を三重県に申請したところで、平成26年度中の承認をめざしています」。地域医療支援病院とは、地域の診療所を支援するために必要な、救急・入院医療機能を備えた施設である。得意分野の急性期医療に特化する一方で、地域との繋がりをいっそう強化していく。同院の発展シナリオは、まさに第二章を迎えたといえるだろう。

 

 

松阪地区医療圏で病院間の連携を深め、
盤石な急性期医療体制を築いていきたい。

Unknown-1 急性期医療の充実と地域医療支援を両輪に、いっそうの飛躍をめざす同院だが、地域を見渡せば、さまざまな課題もある。その 一つが、松阪地区医療圏に三次救急を担う病院がないことだ。松阪地区には同院を含め、三つの二次救急病院があり、脳卒中、急性心筋梗塞などに対応するとともに、救急の当番日を決めて緊急の治療が必要な重症な救急患者を受け入れている。
 「当院は自治体病122279院の責任として、今後も救急の強化を図っていく方針です。その上で、3病院がそれぞれの得意領域を明確にして役割分担し、密に連携すれば、三つの病院全体で三次救急病院と遜色ない医療を提供できるはずです」と小倉院長は語る。そして、異なる病院同士の連携には「診療情報の共有化が必須条件」だという。すでに同院では、三重県内の三次救急病院と電子カルテをベースに診療情報を共有し、両院が協力して救急対応していく実験をスタートしている。「そういう情報の共有化を3病院の間でも進めていきたい。まずは早急に、トップ同士で話し合う場を設けたいですね」と小倉院長は連携に意欲を見せる。

 

 

人こそすべて。
人を輝かせる組織づくりを推進する。

IMG_1741IMG_0876 振り返れば、もともと70億円もの累積赤字を抱えていた同院に小倉院長が赴任し、懸命に病院再生に取り組んできた。その成果がようやくカタチとなってきたわけだ。病院のハード面では、築約20年を経て老朽化した建物の改修や建て替えなど、避けては通れない問題も山積している。だが、今日までの変革を支えてきたのは「職員の力に他ならない」と小倉院長は強調する。
 同院では職員のモチベーションを引き出すために、常勤医師、看護師に対する人事評価制度に続いて、昨年はコメディカルに対する人事評価制度も導入した。さらに、成果主義の報酬だけでなく、院外研修への派遣、研修医の国内留学など職員教育にも力を注ぐ。その延長線上に、小倉院長は「市民病院の独立行政法人化」も視野に入れている。「たとえば、訪問看護ステーションに非常勤看護師を雇い入れるにしても、市民病院の給与体系の枠組みがネックになります。今まで以上に柔軟性・機動性の高い病院運営を行うには、運営形態そのものを見直していくことも必要でしょう」。
 平成26年度、診療報酬が改定され、消費税増税の影響もあり、同院の経営環境は厳しさを増している。しかし、今回の診療報酬改定を通じて、うれしい発見もあったという。それは、職員の成長ぶりだ。「事務職員や看護師がいち早く自発的に勉強会を開き、平均在院日数や在宅復帰率など必要なデータを揃えてくれたんです。これには驚きました。職員みんながこの病院を良くするために動いていることを知り、私も勇気がわいてきました」と顔をほころばせる。十数年前に小倉院長が蒔いた「改革のタネ」は、今、職員の手に渡り、それぞれの職場で芽吹き、大きく成長している。「人こそ財産、人こそすべて。職員 一人ひとりを輝かせる組織づくりにこれからも全力で取り組んでいきます」と、小倉院長は語る。同院のホームページを訪ねると、「恋するフォーチュンクッキー 松阪市民バージョン」という動画がアップされている。小倉院長をはじめ、さまざまな職員が楽しそうに踊る姿から、同院の明るい未来が予感された。

 

 


 

column

コラム

●医療界では今、病院から地域へのパラダイムシフトの動きが始まっている。国が描く高齢者医療は、患者が自宅や施設で暮らすのを基本とし、急性期病院への入院はできるだけ短期間にするような体制を志向している。こうした医療制度の転換に対応し、同院では急性期病棟のあり方を検討するとともに、以前から進めてきた訪問看護など、在宅医療の支援にいっそう力を注いでいく方針だ。

●さらにまた、院内に「地域包括支援センター(地域に住む高齢者を、介護や健康などさまざまな面から支援するための拠点)」を開設し、ケアマネジャーを常駐させる計画も進行している。自宅や施設で暮らす高齢者や家族の相談にきめ細かく応え、医療だけでなく、介護・福祉も含めて、市民の生活をトータルに支える拠点づくりをめざしている。

 

backstage

バックステージ

●地域の自治体病院は、主要な5疾病(がん・脳卒中・急性心筋梗塞・糖尿病・精神疾患)・5事業(救急医療・災害医療・へき地医療・周産期医療・小児救急を含む小児医療)および在宅医療を提供する上で重要な役割を担う。しかし実際には、病院勤務医の不足や医師の地域偏在、診療科偏在の問題もあり、とくに郊外にある自治体病院が総合的に診療科を揃えることは難しいのが現状だ。

●では、これからの自治体病院はどんな方向をめざすべきか。個々の病院が全診療科をカバーできないのであれば、それぞれが得意領域を受け持ち、地域の他の病院と連携することで、地域全体で5疾病・5事業および在宅医療を切れ目なく提供することこそ重要ではないだろうか。地域に必要なもの、足らない医療サービスをカバーしていく役割こそが、これからの自治体病院に必要不可欠であり、松阪市民病院の成長戦略もまさにその方向性に合致している。

 


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