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シアワセをつなぐ仕事

専門性の問われる臨床現場で、
輝きを放つジェネラリストナースたち。

塩田亜由美、加藤千晴/愛知県がんセンター 中央病院 4階西病棟、5階東病棟


 

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愛知県がんセンター 中央病院は昭和39年に設立された、国内初の県立がん専門病院。
最先端で最良のがん医療を提供することを使命とし、東海エリアのがん医療を牽引している。
そんな専門性の問われる臨床現場で、
看護師はどんな役割を果たしているのか。
二人のジェネラリストナースに注目して、その活動を追った。

 

 


手術療法、化学療法、放射線療法、緩和ケアの
すべての領域に関わり、ジェネラルな看護能力を発揮していく。


 

 

 

多職種と連携し、患者の苦痛や問題を解決していく。

 Plus顔写真1今や日本人の二人に一人は、がんにかかる時代。しかも、がん患者は年々、増えている。さまざまながん疾患に対応できる看護師が、今後ますます求められていくことは間違いない。今回の主人公は、そんながん看護の最前線で活躍するジェネラリストナースである。ジェネラリストナースとは、組織横断的に活動するリソースナース(※)に対し、病棟で患者や家族のそばに寄り添い、身体的・精神的な苦痛を軽減するよう手厚いケアを行っている看護師を指す。
 一人目に紹介する塩田亜由美は、入職11年目、4階西病棟(呼吸器外科・呼吸器内科・薬物療法科)に所属する。ここでは肺がんをはじめ、多様ながん疾患を対象に、手術療法、化学療法、放射線療法、緩和ケアなどのがん治療を行っている。入院している患者も、検査入院の人から終末期の人まで、実にさまざまだ。
 現場を訪ねると、さまざまな職種のスタッフと言葉を交わしながら、病室やナースステーションを軽やかな足取りで行き来する彼女の姿があった。「痛みを訴える方がいれば、緩和ケアチームのメンバーに相談したり、退院希望の方がスムーズに在宅に戻れるように退院調整ナースと一緒に退院調整カンファレンス(左頁下段写真)などで調整したり…。多職種と連携しながら、患者さんに必要な医療や看護、支援サービスを繋いでいます」と塩田は言う。
 塩田が同院を選んだ理由は、看護学校時代に実習で訪れた際、「時間がゆっくり流れている」と感じたから。同院では固定チームナーシング制度を取り入れ、入院から退院まで同じメンバーが責任を持って患者を支えている。「患者さん一人ひとりとしっかり向き合いたい」と考えていた塩田にとって、ここはまさに理想の臨床現場だった。704033入職後、7階西(消化器内科・外科)、8階西(放射線治療部・診断部・泌尿器外科)病棟を経験し、現在の病棟へ。患者の術後管理から放射線療法、化学療法、緩和ケアと、がん治療における看護をひと通り経験してきた。「異動するたびに、専門知識が広がり、深まってきたように思います」と振り返る。
※ 専門看護師や認定看護師など、より良い医療提供のためのキーパーソンとして活動する専門性の高い知識・技術を持つ看護師をリソースナースという。

 

 

患者や家族の気持ちにしっかり向き合い、心身ともにケアする。

Plus顔写真2 塩田と同じように、実習がきっかけで入職を決めたのが、入職8年目のジェネラリストナース、加藤千晴。加藤は大学の看護学部卒業。「大学時代はとくに<摂食・嚥下障害看護>に興味を持って学びました。当院に実習で来たとき、嚥下障害看護についていろいろ教えていただき、ここでもっと勉強したいと思いました。実習を受けながら、<私は来年ここで働いているな>と直感したんです」と笑みをこぼす。
 入職以来、加藤はずっと5階東病棟(頭頸部外科部)に勤務している。ここでは、喉頭・下咽頭・舌・口腔がんの患者を対象に、手術で声を失ったり、嚥下障害を起こした患者のケアや、放射線療法、化学療法を受ける患者を心身ともに支えている。「単に治療を補助して、患者さんの日常生活を援助するのではなく、ご本人やご家族が今後どうしていきたいという希望を理解し、それに沿うようなケアを心がけています」と言う。実は加藤は、今春(平成26年4月)、大学院から戻ってきたばかり。それまで3年間、同院の休職制度を利用し、出704073身大学の大学院に進学。成人急性期看護学を研究した後、学生の教育にも携わってきたという。
 一般に、看護師が休職して大学院に進学する場合、専門看護師の資格取得を目標とするが、加藤が選んだのは研究コースだった。「資格よりも、研究への意欲が先にあって…。自分が後輩を指導する立場になり、がん看護とは何か、もう一度勉強して、科学的根拠に基づくケアをしっかり指導できるようになりたいと思ったんです」。

 

 

スペシャリストの機能を必要な患者へと活かすのがジェネラリストナース。

704080 看護師がキャリアアップを図る上で、ある特定の分野を選んで、専門・認定看護師をめざす人は多い。しかし、加藤や塩田が、ジェネラリストナースの道を歩むのはなぜだろうか。
 「<患者さんのそばにいたい>というシンプルな思いですね。朝から晩まで、そして深夜も患者さんのそばで寄り添っているのは、私たちなんだという誇りがあります」と加藤は言う。がんと闘う患者と家族は、誰もが大きな不安や苦痛のなかにいる。「今の治療を続けていいのか」「もとの職場や生活に戻れるのか」「経済的にやっていけるだろうか」…など、不確実な将来を思い悩み、絶望感に襲われることもある。そのとき、患者と家族が頼りにできる医療者は、いつもそばにいるジェネラリストナースをおいて他にはいない。
 「何気ない会話のなかでも、患者さんの悩みや苦しみを把握するように心がけています。問題を発見できれば、適切な医療スタッフと協力して解決できますから」と、塩田は言う。また、そんなときに頼りになるのが、同院に38名いる専門・認定看護師だ。「疼痛コントロールをはじめ、いつでもリソースナースに相談できるから、とても心強いですね」と加藤は話す。ジェネラリストナースとリソースナース。それぞれの強みを組み合わせることにより、同院では身体的・精神的・社会的な問題を抱えるがん患者を支えているのである。

 

 

地域全体で、がん看護のジェネラリストナースを育てていきたい。

Plus顔写真3 同院ではかねてより、病棟で患者に寄り添うジェネラリストの育成に力を注いできた。その狙いはどこにあるのか、同院の副院長 兼 看護部長である高木仁美に話を聞いた。「当院では大勢のリソースナースが、さまざまな側面で看護の質を向上させています。でも、その専門性を引き出し、活かせるのは、病棟で24時間365日の看護を実践しているジェネラリストナースに他なりません。彼ら・彼女らが自らの看護観を持ち、イキイキと活躍してくれることもまた、当院の看護の質を向上させる原動力だと考えています」。
 高木看護部長がめざすのは、病棟に勤務する看護師全員がジェネラルな視点や看護実践力を備えていくこと。そのために、充実した院内研修プログラムを用意し、教育に力を注ぐ。同時に、女性が結婚、出産を経ても、ずっと仕事を続けられるような環境整備を図り、長い目で看護師一人ひとりのキャリアアップをサポートしている。平成26年春から、院内に保育所もオープンし、子育て支援もいちだんと充実した。
 さらに高木看護部長は、地域でがん看護に携わるジェネラリストナースの育成にも力を注いでいる。同院では愛知県内にある23のがん診療連携拠点病院と連携して、平成21年度から「がん看護ジェネラリストナース育成プログラム」を開催。地域でがん看護に携わる看護師の知識・技術の向上を図った。「当院は、愛知県、さらには国内外のがん診療水準の向上をミッションに掲げる病院です。看護においても、当院がリーダーシップを発揮して、地域とともにがん看護の質の向上をめざしていかなければならないと考えています」と、高木看護部長。がんは決して特別な病気ではない。がんとともに生きる地域の人たちを支えるために、同院はジェネラリストナースの力をさらに地域で役立てていこうとしている。


 

 

columnコラム

●がん診療連携拠点病院には、都道府県の中心的ながん診療機能を担う「都道府県がん診療連携拠点病院」(都道府県に1カ所程度)と、「地域がん診療連携拠点病院」(二次医療圏に1カ所程度)がある。愛知県がんセンター 中央病院は厚生労働省の指定を受けた、都道府県がん診療拠点病院。県内の地域がん診療連携拠点病院に対し、症例相談や診療支援、研修を行うなど、愛知県のがん診療をリードする存在である。

●その一方で、同院は地域医療連携や退院調整に積極的に取り組み、患者が退院後も安心して地域で生活できるよう、継続的医療体制を整えるサポートをしている。また、専門・認定看護師による看護外来(がん看護、ストーマ、緩和ケア・疼痛看護)や、患者と家族を対象にしたサポート活動なども活発に展開。地域で暮らすがん患者と家族を、病院全体で支えている。

 

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 バックステージ

●近年、わが国では、専門医養成に偏りがちだった反省から、患者を全人的に診る総合診療医(ジェネラリスト)の育成に力を入れる気運が高まっている。総合診療医は患者の全身を診て的確に診断し、然るべき臓器別専門医に繋いだり、あるいは、患者が抱える問題を総合的に判断し、患者にとって最良の治療を提案する。

●医師と同じように、看護の世界では今、専門・認定看護師が続々と誕生し、特定の分野に精通したスペシャリストが活躍している。しかし、医師がそうであるように、看護師もまたスペシャリストだけでは成立しない。患者に24時間寄り添い、総合的にケアを提供するジェネラリストナースがいて、初めて専門・認定看護師の能力が引き出されるといえるだろう。愛知県がんセンター 中央病院は、そのことをいち早く認識し、専門・認定看護師と同様に、ジェネラリストナースを育て、その力をより質の高い看護実践に活かしている。

 

 


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