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シアワセをつなぐ仕事

命を救う。
命の質を高める。
私たちにできる救急への挑戦。

有我夏美(救急看護認定看護師)・川村知子(急性重症患者看護専門看護師)/岐阜県立多治見病院 救命救急センター


 

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岐阜県立多治見病院(以下、多治見病院)の三次救命救急センターは、年間1万3957名の救急患者を診る。
そのなかで4,368名は救急搬送である(どちらも平成24年度実績)。
センターに勤める40名の看護師のなかで、今回は二人の看護師を紹介したい。
地域への思いは熱く、救急を通して、全身で地域貢献に取り組む姿がある。

 

 

 


三次救命救急センターに勤める救急看護認定看護師と急性・重症患者看護専門看護師。
二人の看護師の行動には、医療資源の不足する東濃医療圏にあって、
救急医療を死守するという覚悟と決意があふれている。


 

 

 

救える命は、救いたい。

 IMG_1484有我夏美。救急看護認定看護師。「認定看護師」とは、日本看護協会の認定資格であり、特定の看護分野において、熟練した看護技術と知識を有すると認められた者である。有我は、入職5年目に救命救急センター配属となり、17年目に認定看護師の資格を取得した。
 病院に戻り有我が力を入れたのは、経験則ではなくエビデンスに基づいた救急看護のレベルアップだ。看護部の協力を得て、全国レベルの標準化された研修を実施したのである。
 そうしたリソースナース(※)としての動きとともに、日中も夜間も、センター内を飛び回るように、有我は救急患者のケアに全力を注ぐ。
 「当院には東濃医療圏全域から救急患者さんが来ます。遠方から運ばれる方のなかには、当院に着く前に亡くなられる方、もっと早く治療ができれば助かった方もいて…。悔しい思いを何度もしました。日中はドクターヘリが飛びますから、まだいいんです。でも夜間はドクターヘリが飛べず、救急車での搬送しかありません。当院に運ばれる前に、何らかの応急処置がなされていたら救えたのにと、そう思うこともあります」。
 医療資源が乏しい地域でどう救急医療を守るか。それを考えると「地域に出ていきたい」と有我は言う。「例えば、出血性ショックの患者さんは、陸路1時間以上かけて当院に運ぶ、そんな時間的余裕はありません。ならば発生した段階ですぐに当院から飛び出し、患者さんのところに走りたい。救える命は救いたいのです」。
※ リソースナース/患者への直接的なケアだけではなく、他職種への働きかけ、看護部全体の質の向上を図る役割を持つ看護師

 

 

命の質を、高めたい。

238 特定の専門看護分野において、実践・相談・調整・倫理調整・教育・研究の6つの役割を果たし、保健医療福祉や看護学の発展に貢献する。それが「専門看護師」の役割である。資格取得には看護系大学院修士課程を修了し、看護系大学での専門看護師教育課程基準を満たさなければならない。
 川村知子は、入職9年目に急性・重症患者看護専門看護師をめざし、3年後の平成25年に資格を取得した。その動機は「もっと深く看護実践を学びたい」。入職以来、救命救急センターで主にICU勤務が中心の彼女にとって、そこでの看護の高度化を自らに強いたのだ。
 「有我看護師が必死になって救った命。それを単に引き継ぎ集中管理するのではなく、救った命の質を高めることが、ICUの使命だと思います」。治療時の苦痛をどう緩和させるか。センターや院内の人的資源を、患者の必要に応じて、迅速にどう調整し活用するか。そして残念にも、ICUで死を迎えざるを得ない人への終末期看護もある。いずれも患者だけではなく、その家族へのケアも忘れてはならないという。
 それらはすべて、「患者、家族のその後の生活へ繋ぐ」ためにある。「救った命には、その後の生活があります。この目線を職員全員が持ち、ICUのリハビリテーション開始、ソーシャルワーカーの早期介入などを果たせば、患者さんに310とって質の高い早期社会復帰に繋がると思います」。
 看護倫理の研究、病棟看護師の目標、そしてスタッフ教育と、リソースナースとして看護部全体を見つめるとともに、ICUでの日常勤務も果たす川村。視線は常に、患者をどのように地域へ帰すかにある。

 

 

東濃医療圏救急医療の実態。

061IMG_1887 東濃医療圏全域をカバーする多治見病院の三次救命救急センターは、本来であるなら、救急患者のなかでも、最も重症・重篤な患者への治療を担うことが使命である。だが、実際には、独歩で訪れる一次(軽症)患者、二次(中等症)患者の救急搬送もある。多治見病院病院長の原田明生医師は言う。「一般の方には、自分の症状が軽症か中等症かなど解りません。ですから一次の患者さんが頼って来るのは、仕方ないと思います。三次の方も、発症率からいえば、実質的な数字はそれほど多いわけではありません。問題は二次の患者さんの多さですね。当院に来る前に処置ができるかできないか、悩ましいところです」と言う。
 その「悩ましい」とは、東濃医療圏全体に、医療機関や医療従事者の絶対数が不足していることである。絶対数が足らなければ、個々の医療機関においての負荷は大きい。救急医療ではそのマイナス点が大きくクローズアップされる。救急搬送が重なったとき、また、専門の医師が自院にいない場合、多治見病院への搬送を選択せざるを得ない状況が生まれるのだ。受ける多治見病院も、医療資源には限りがある。現在は、100%以上のフル回転で対応しているのが現実だ。
 限られた医療資源のなかで、それぞれの医療機関が、必死に救急医療を守っている。そこに何らかの解決方法はないのだろうか。

 

 

相互理解に基づく総力で守る。

Plus顔写真 原田病院長は、「東濃医療圏における救急医療の問題を解決するには、各地域の核となる病院間の<連携>しかありません」と言う。「いずれの病院にも、病院固有の事情があります。例えば、医師数、看護師数、得意・不得意分野…。当院においても然り。救急はもちろん、地域で頻回に発生する疾患のすべてに対して、一定水準の医療を提供するべく努めていますが、ハード的にまだまだ問題はあります。それでもどの病院も、今ある医療資源を活用し、懸命に取り組んでいることは事実です。その懸命さを病院間で繋げる。単独ではなく総力で、医療圏の救急医療を考えることが必要だと思います」。
 そのためには、病院間の相互理解が大切であり、そこに達するにはステップがあると原田病院長は言う。「まずは院内の職員一同の意識統一ですね。どの部署においても、自院のことだけではなく、地域全体に対する意識を持つこと。一部の職員だけでは、本質的な取り組みにはなりませんからね。地域全体に目を向ければ、自らがどのように機能するべきか、見えてくるPrefectural_tajimi_189でしょう。そうした風土の熟成を図りつつ、一方で、病院のトップ同士が胸襟を開いて会話をする。自院の強みは何か、反対に不都合が生じているのはどこか。これを出し合ってはじめて、どう補完し合うかを考えることができます。そのトップ同士の会話がスタートしました。まだ時間は必要ですが、地域のために、みんなで前進を図りたいと考えます」。
 「よその病院で救急にいる看護師と情報交換をしています。みんな頑張っているのがよく解る。そうした人たちとネットワークを作りたいですね」「私は一般の方々と接点を作りたい。疾病予防や病院への適切な受診の仕方など、公開講座などができればいいと思います」。有我看護師も川村看護師も、地域への思いは熱い。


 

 

columnコラム

●本文で紹介したトップ同士の会話。それは、多治見市・土岐市・瑞浪市・恵那市・中津川市・可児市にある総合的な病院の「病院長・事務長連携会議」を指す。第1回は平成26年6月に開催され、第2回も予定されている。

●「東濃地域の事情だけではなく、超高齢社会における医療全体の流れにおいても、病院同士の連携は不可欠です。その連携に向けて、まずはスタートラインに立つことができました。ここでは各病院が自らを語り、全体としての東濃医療圏の医療の実態を、浮き彫りにすることが必要と考えます」(原田病院長)。

●その会話を進めるためにも、多治見病院自体は医師や看護師をきちんと確保し、きちんと医療を行うことが前提と、原田病院長は言う。「自らの責任を果たし、そのうえで、互いに何でも相談し合うことができる信頼関係を育むことが可能になると思います」。

 

backstage

バックステージ

●医療過疎地の救急医療をどう守るか。多治見病院は大きな課題を突きつけられている。東濃医療圏において、他の二次救急病院がギリギリの状態で救急を行い、それでも現実問題、やれない事情も生まれる。それが同院に押し寄せているのだ。

●そうした状況で何ができるか。伊藤淳樹救命救急センター長は、東濃地区全体の救急隊員へのアプローチを続けている。それは救急隊員を対象に月1回定期開催する「検証会」。同院の専門診療科の医師が、隊員に対して具体的な症例に基づきレクチャーするものだが、毎回東濃全域から60名は参加するという。

●原田病院長が「連携会議」に積極的に取り組む一方で、こうした別のアプローチをも果たす多治見病院。いずれも、顔と顔が見える関係をより深め、東濃地区救急医療の総合力を高めるための取り組みといえよう。

 

 


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