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病院を知ろう

禰宜田ビジョン、
着実に一歩一歩。
がん診療の拠点をめざす。

 

 

西尾市民病院


診断から手術、放射線治療、化学療法まで
がん治療の機能を充実させ、
西尾市民の命と生活を守っていく。

main

医師不足に端を発した病院機能の低下で赤字体質が続いている西尾市民病院。
平成25年から院長に就任した禰宜田(ねぎた)政隆の陣頭指揮のもと、病院を挙げて、自己改革、そして病院再生に邁進している。その改革の道筋は山あり谷ありではあるが、着実に一歩ずつ前進している。
今回は、がん診療領域の新たな展開にスポットを当ててレポートする。

 

 

 

 

 

乳がんは治る病気。
熟練の外科医が乳がん治療に取り組む。

 Plus顔写真1乳がんは女性の14~15人に1人はかかるといわれており、決して珍しい病気ではない。しかも、早期に発見して治療すれば、治る可能性も高い。
 その乳がん治療において豊富な実績を持つ乳腺外科医の和田応樹(外科部長)が、平成26年4月、西尾市民病院に赴任した。和田は実は、禰宜田と大学の同級生。同窓会などで顔を会わせるなかで、同院の窮状を聞き、病院再生に貢献すべく、転任してきたのだ。前院での乳腺手術実績は、年間130〜140件。乳房温存手術に力を注ぎ、女性の気持ちに寄り添った治療で定評のある名医である。同院の第一印象について尋ねると、「すごくいいですね。職員みんなが非常に熱心で、病院の団結した熱意が感じられます」という答え。さらに、「乳がんの治療では放射線科、そして乳房再建術を行う形成外科などとの連携が重要ですが、これならしっかり協力していけると思います」と続けた。
 がんに限らず、一般的に病院で行われる治療は、内科医が診断し、手術適応であれば外科医が引き受ける。しかし、和田は外科医であるが、乳がんの疑いのある患者の診断から手術、術後の化学療法まで一貫して担当する。「病院によっては乳腺内科医と外科医が分業するところもありますが、当院ほどの規模では治療の過程を外科医がすべて担うのが一般的です。それだけに、最初から患者さんの思いをしっかり聞いて、その後の生活も見通しながら、何を望んでおられるのか、何が一番いい選択かを絶えず考えながら治療しています」と話す。また、今はまだ乳腺外来に余裕があるが、患者の増加に伴い、地域医療連携にも力を注ぐ考えだ。「ゆくゆくは地域連携パス(※)を整備し、診療所の先生方と一緒に抗がん剤治療などを継続していくような仕組みを作りたい。また乳がんの早期発見や予防にも貢献していくつもりです」と意欲を燃やしている。


※ 地域連携パスとは、病院の専門医と診療所の医師の2人が主治医となり、患者の治療経過を共有していく治療計画表

 

 

胃・大腸・肝臓がんなど
消化器系がんの治療を一手に引き受ける。

Plus顔写真2 乳がんと並んで充実を図るのが、消化器系のがんに対する治療体制だ。まずは平成23年4月、肝臓・胆のう・膵臓のがん治療に精通した外科医の上村孝法(外科部長)が同院に着任し、消化器系外科治療を牽引してきた。そこに、平成26年5月、上部消化管(胃・食道)を専門とする外科医・藤竹信一(外科部長)を迎えたのである。藤竹も和田と同じく、禰宜田が尽力して招聘した経験豊富な医師だ。「禰宜田先生とは以前からよくお話ししていて、院長の熱意に共感し、ここで頑張ろうと決心しました」と藤竹は話す。藤竹のモットーは、患者一人ひとりにバランスのとれた手術を提供すること。「がんの手術では、安全に根治が得られることをめざします。切除範囲が広くなれば、身体への負担も大きく、危険と隣り合わせということもあります。がんの程度Plus顔写真3によっては、内臓機能をできるだけ残し、かつ根治が得られるよう切除範囲の縮小を考慮します。ときには、手術で根治が得られなくても、できるだけ普通の生活が送れることを目標とする手術もあります」と語る。
 先に外科部長となっていた上村にとって、藤竹が加わったことは非常に心強い。「診療に対する意見を求めることができ、患者さんにとって最善の治療法を提示できます」と、上村はにこやかに話す。
 また同院では、手術前後に行う放射線治療や化学療法(抗がん剤治療)の充実にも取り組んできた。平成22年には通院患者を対象にした「外来治療センター」を開設し、がん化学療法認定看護師が中心となって、安心の抗がん剤治療を提供している。診断から手術、術後の通院治療までトータルにがん診療を担う体制が整いつつある。

 

 

地元の病院で安心して
高度ながん治療が受けられる環境を。

701120 今なぜ、同院はがん疾患に着目し、医師の集中配置に踏み切ったのか。その理由について、禰宜田はこう説明する。「がんは日本人の死因の第1位であり、高齢のがん患者さんも増えています。西尾市民約17万人の命と生活を守るために、我々が第一に優先すべき領域だと考えました」。
 だが、その一方で、「がんは緊急症例が少ないこと、また、集学的な治療(※)を要することから、二次医療圏単位に1カ所程度、高度な医療機関を整備すれば充分である」という意見があることも事実だ。この意見に対し、禰宜田は異論を唱える。「がんの治療は患部を摘出して終わるものではありません。多くの場合は、退院後も長きにわたり、抗がん剤治療やホルモン療法などのために通院が必要です。特殊な症例は除き、乳がんや消化器系がんなどスタンダードながん701044は、やはり生活圏のなかで治療できる体制を整えるべきだと思います」。上村や藤竹も同意見だ。「若い人なら少々遠い病院でも通えますが、高齢者はそうはいきません。高齢化が進むことを考え、通える範囲に信頼できる病院があることが大切です」と口を揃える。
 <市民のための病院>という強い責任感があるからこそ、同院は<がんとともに生きる>人たちの拠り所として発展をめざしているのである。


※ さまざまな専門医・スタッフがチームを組んで、外科療法、放射線療法、化学療法など複数の治療法を効果的に組み合わせて、治療効果を高めていく治療

 

 

禰宜田ビジョンは
いよいよこれから。

701065 優秀な外科医を揃え、がん診療の充実を図る西尾市民病院。一時期、減っていた外科医は現在8名。常勤の麻酔科医も2名増え、緊急手術にも対応できる体制が整った。今後の課題は内科の充実である。「外科医は揃ってきましたが、診断機能を担う内科医はまだまだ不足しています。たとえば消化器内科では少ない人数で懸命に内視鏡検査・治療に取り組んでおり、医師に大きな負担がかかっています。そうした負担に対する軽減策を早急に練らなくてはなりません」と禰宜田は語る。一方、外科領域については、広報に力を注ぐ必要性を痛感しているという。「今まで外科領域が手薄だったので、地域のがん患者さんの多くは市外にある高度な急性期病院まで足を運び、入院の順番を何日も待って、手術を受けていらっしゃいました。それは当院にとって大変残念なことですし、患者さんにとってもご不便なことだと思います。当院の外科における手術への対応体制の充実について、市民の皆さんにアピールしていかなくては、と考えています」。
 禰宜田ビジョンが掲げる、限られた医療資源の選択と集中。その第一弾として、がん診療において地域のコアとなる病院づくりは新たな一歩を踏み出した。これをベースに、禰宜田は研修医の獲得と教育にも力を注いでいく方針だ。「当院の研修医教育の利点は、ジェネラル(総701178合的)な力が身につくことです。とくに外科の研修は、一般には手技中心になりがちですが、当院では外科医も術前術後のフォローに密接に関わり、患者さんを全人的に診る能力が自然と養われます」。外科医である禰宜田自身、常に<外科医である前に、医師であれ>ということを意識して日々の診療にあたっており、その信念が若手へと伝承されているという。
 「当院はこれからも<人を診る医師>を育て、診療所の先生や地域の患者さんからも選ばれる病院をめざしていきます。もちろん、救急医療の強化など、課題はまだまだあります。私たちは、もっと変わらなければならない。その決意のもと、全職員が力を合わせて改革を断行していく決意です」。病院再生計画は、いよいよこれから。山積する問題を一つひとつ解決しながら、禰宜田はその先に明るい未来を展望している。

 

 


 

column

コラム

●医師不足により、病院機能が低下している西尾市民病院。その厳しい環境下で、平成25年4月、院長に就任した禰宜田が掲げた病院再生のシナリオが「禰宜田ビジョン」だ。全職員がその方針のもと一丸となり、病院再生に向けて日々奮闘している。
●禰宜田ビジョンでは、さまざまな面で再生へのアプローチを計画している。まずは、大学医局への医師派遣要請の強化、主要疾患治療の<選択と集中>、入院環境の向上を図った病棟改修など。それらの成果は着実に少しずつ実を結びつつある。たとえば、本編で述べたように、医療資源の選択と集中により、地域のがん診療のコアとなる病院をめざして一歩を踏み出した。医師から選ばれ、市民から必要とされ、信頼される市民病院へ…。同院は禰宜田ビジョンのもと、従来の旧態依然とした組織風土を打ち破り、新しい市民病院に生まれ変わろうとしている。

 

backstage

バックステージ

●人生80年時代を迎え、「病気の完治をめざす医療」から、「慢性の病気とともに生きる人を支える医療」への転換が進められつつある。手術後長く通院治療の必要ながんもまた、慢性疾患の一つといえる。
●がんをはじめ、地域で頻回に発症する一般的な疾患(コモンディジーズ)、通院治療の必要な慢性疾患の診療は、どんな病院が担うべきか。その答えは、本編で述べたように、地域の人が通える距離にある地元の病院であろう。地域の病院が一般的な疾患をしっかりと診て、その上で、対応の難しい特殊な疾患については、周辺の専門的な病院へスムーズに紹介する。そんな︿病病連携﹀体制があれば、地域医療体制はより盤石なものとなる。
●自院の持つ医療機能を最大限に活かすと同時に、近隣の基幹的な病院との連携強化にも精力的に取り組む西尾市民病院。市民の命と健康を守るために奮闘する同院の取り組みに、これからも注目していきたい。

 


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