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病院を知ろう

孤高の存在から、
地域と一体化する大学病院へ。
2つのセンター機能が、
その扉を開く。

 

愛知医科大学病院


「命を繋ぐ」、「診断をつける」。2つの機能が融合したことで、
地域の患者を大学病院が持つ高度医療へと繋ぐ、
新たな試みが始まった。

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平成26年5月、新病院をオープンさせた愛知医科大学病院。
その大きな目玉となるのが、病院の入り口の機能を担う2つのセンターだ。
 「高度救命救急センター」と「プライマリケアセンター」。
それぞれの機能や役割を詳しく紐解きながら、同院がめざす、地域と大学病院との新たな連携のあり方を探った。

 

 

 

 

 

 難度の高い重症患者を救う、
県内唯一の高度救命救急センター。

 Plus顔写真1 高度救命救急センターとは、救命救急センターのなかでも、広範囲熱傷や指肢切断、そして急性中毒などの特殊な疾病患者への救急医療を提供するために厚生労働省が定めた機関のこと。この高度救命救急センターを、愛知県内で唯一展開するのが愛知医科大学病院だ。
 同センターは、救急蘇生外傷治療室や24時間検査可能な緊急検査室を備えるほか、ドクターヘリやドクターカーを配備し、病院前救急医療にも対応。救命救急科医を中心に、各診療科の専門医と連携しながら、多職種のチームで診療にあたっている。
 ここでセンター長を務めるのが、中川 隆救命救急科部長。中川部長はこのセンターのことを「県下に20数カ所の救命救急センターがありますが、そのなかでも当院は救急医療のリーダー的な役割を期待されています」と話し、こう続ける。「当院は愛知県唯一のドクターヘリの基地病院です。将来的にはそれを最大限活かしつつ、各地に点在する救命救急センターを繋いでいきたい。例えば、熱傷な702039らばそれに強いA病院へ、またあるときは受け入れに余裕のあるB病院へ…というように、症例やそのときどきの状況に応じて、救急患者さんに最適な医療を最短で提供する。そのハブ機能を果たしていきたいと考えています」。
 「そしてそれは災害時にも非常に有効に働きます。当院は、県内に2つある基幹災害拠点病院のひとつ。災害時には、平時に培ったそのハブ機能を活かし、コントロールセンターとして機能することを想定しています」。

 

 

高度医療へのゲートキーパー、
プライマリケアセンター。

Plus顔写真2 「専門医集団の大学病院のなかに、小さい総合病院を作ってしまおう。単純にいえばこういう発想から生まれたのが、プライマリケアセンターです」。こう説明するのは、同センター長を務める前川正人総合診療科部長。
 特定機能病院である愛知医科大学病院は、広域圏を対象に、さまざまな病院や診療所から紹介を受けた患者に対し、高度で先進的な専門医療を提供するのが基本。だが実際には、かかりつけ医である診療所の医師が、どの診療科に紹介すればいいのかの判断に苦しむ場合もある。こうした患者を同センターがまずは受け入れ、前川部長をはじめとする総合診療医(※)が診察。「どの臓器に関わる疾患か」という初期診断を行い、適切な診療科での専門治療へと繋いでいく。
 また、紹介状を持たない患者への対応も本センターが受け持つ。「都市型の大学病院とは違い、当院では地域の基幹病院、市民病院的な役割をずっと果たしてきました。そのため、紹介状のない方も相当数来院されます。でもそれでは、本当に高度医療を必要とする方の診療を妨げる可能性がある。そこで、患者さんの振り分けを行うのもこのセンターなのです」(前川部703210長)。
 さらには、夜間や休日の救急外来患者にも24時間体制であたることで、対応が難しい地域の診療所を強力にサポート。加えて、24時間対応の機動力を活かし、高度救命救急センターに搬送される患者のうち、帰宅可能な軽症患者の診療も担当する。高度救命救急センターが命にかかわる患者に注力できる環境を整える一方、潜在的な重症患者を見落とすことなく適切なトリアージを行い、高度医療へと導くゲートキーパーとして機能している。


※ 原因を特定しにくい疾患や複数の臓器にまたがる疾患を持つ患者に対して、幅広い知識を駆使して診断をつけ、適切な専門医療へと繋いでいく医師のこと

 

 

2つのセンターが融合することで弱みを補完し、強みを活かす。

703263703241 愛知医科大学病院では、新病院の開設に伴い、高度救命救急センターとプライマリケアセンターの2つを融合させる形で運用するようになった。ハードの面からもドア一枚を隔てて隣接する造りとなり、前川部長は「高度救命救急センターの協力の下、敷居をなくしてフラットに行き来できる関係を築くことができました」と話す。
 2つのセンターの融合は、両者の弱点を補完し合い、疾患を高度医療へ繋ぐ質をさらに高めるためのものだ。「私たちは蘇生や全身管理など救命の部分ではプロですが、内科的に原因が特定しづらい疾患を的確に判断する部分は弱い。その点、全人的に患者を診て判断を下せるプライマリケアセンターの存在はとても心強いですね」と語る中川部長。一方の前川部長も、「先日、自分で歩いて来院した患者さんが、いきなり意識を失ったことがありましたが、すぐに隣に運んで救命処置に入ることができた。面倒な手続きを省いて即座に患者さんを運べる。これは本当に助かります」と口にする。新病院建設をきっかけに、「命を繋ぐ」高度救命救急センターと、「診断をつける」プライマリケアセンターとが、協力体制を最大限発揮できる場所が完成したのだ。
 盤石な体制を築いた2つのセンター機能だが、実はまだ、解決すべき課題がある。両氏が口を揃えていうのが「さらなる連携」の必要性だ。その連携とは、2つのセンターと、大学病院が本来果たすべき役割である「高度医療」とのより密度の濃い連携だ。

 

 

地域に開かれた大学病院へ。
そして「群を抜いた病院」へ。

Plus顔写真3 一般的に大学病院には、高度かつ難易度の高い疾患に対応すべきであって、救急患者や紹介状のない外来患者は本来診るべきではないという傾向がある。今でも大学病院の医師のなかには、地域で発症する一般的な症例まで診ることに、根強い抵抗感があるという。
 野浪敏明病院長はそれに対し、「当院は大学病院であると同時に、地域の基幹病院でもあります。大学ならではの研究・教育が大切なのと同じく、地域の急性期医療を担う責任がある」と強調した上でこう話す。「他の大学病院に比べると、当院は医師からの理解があります。ただ、今まで以上に、両センターが患者さんにとっての高度医療への入り口だという理解が深まり、連携と協力が進めば、当院の誇る各診療科の専門能力もさらに発揮できると思うのです」。
 そのための試みも始まりつつある。例えば、高度救命救急センターでは、循環器内科の専門医が救命救急科に出向するような形で、専門の疾患を診ている。「今後は、各診療科の専門医とともに、専門診療科をめざす後期研修医たちも2つのセンターへ出向し、専門性とともに総合性(総合的・全人的に患者を診る力)を学んでもらいたい。センターと専門診療科とを往来する仕組みができれば、専門性を高めながら、患者さんを総合的に診る能力を磨ける。超高齢化社会が求める総合性を持った医師が育つだけでなく、新しい愛知医科大学病院を担う存在が生まれてくると思います」(野浪病院長)。
 入り口である両センターと専門診療科の連携がさらに強まれば、必要とするすべての患者に高度医療を提供できる。地域から隔絶され孤高の存在だった大学病院が、地域と一体化した新しい病院へと変わることができるのだ。そしてそれは、新しい大学病院の姿でもある。新病院建設の目的である「群を抜いた病院になる」という悲願成就は、もう、目前にまで迫っている。

 

 


 

column

コラム

●愛知医科大学病院は院内連携に尽力する一方で、院外連携にも力を注いでいる。その院外連携におけるツールとして、大きな役割を果たすと考えられているのが、新病院の建設を機に新たに導入された富士通のITシステム「ヒューマンブリッジ」だ。


●「ヒューマンブリッジ」は、双方向のネットワークを通じ、連携先の医療機関に、医師の記載、オーダー、検査結果、画像などほぼすべての診療情報を提供することができるものだ。さらに、紹介状のやりとりや地域連携パスの共有も可能。同じ地域に点在する患者の情報を一つに集約し、患者情報をリアルタイムで確認できる。


●この「ヒューマンブリッジ」の導入により同院は、自身の持つ先端の検査や診療データを地域の医療機関へと還元。連携する医療機関とともに、地域全体で質の高い医療を提供することを図っている。

 

backstage

バックステージ

●新病院建設を機に、背後に専門診療科が控え、その入り口として重症度の高い患者から一次・二次の軽症・中等症患者まで、幅広い診療を行うことのできる体制を整えた愛知医科大学病院。


●そのようななか、注目すべき動きがある。それは、ここ数年の専門医制度の見直しのなかででてきている19番目の専門医「総合診療医」の存在だ。もし総合診療医という新たな専門医が誕生すれば、当然、その医師育成のカリキュラムを整備する必要が生じてくる。


●こうした状況を踏まえると、本文で紹介した愛知医科大学病院の高度救命救急センターとプライマリケアセンターは、初期研修、後期研修の場として、一層注目されることが予想される。今後、同院で展開されるであろう医師育成の仕組みは、全国のロールモデルとなっていくのではないだろうか。

 


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