4,285 views

シアワセをつなぐ仕事

人と人、病院と地域をつなぐ
緩和ケア認定看護師の仕事。

田中美帆/緩和ケア認定看護師


 

main

西濃医療圏の高度専門・高度急性期医療を担う大垣市民病院で緩和ケア認定看護師として日々患者と向き合う、田中美帆看護師。
患者と家族が本当に望む生活とは? ケアとは?
人と人、チームとチーム、病院と地域をつなぎながら理想的な緩和ケアを行うためにまい進する彼女に話を聞いた。

 

 

 


自分が変わることでみえてくる。
人とつながることで深まる。
患者と家族に寄り添った緩和ケアを追求。


 

 

 

田中看護師が行う緩和ケアとは?

 IMG_096815時から、そして15時20分からと続けざまに病棟看護師たちに薬の説明会を開き、その後、自分のデスクで事務作業を始めたかと思うと、席を温める間もなく、治療に不安を抱く患者を担当する病棟看護師へのコンサルテーションに走る。その間にも、別の病棟看護師から受け持ち患者の退院後について相談の電話が入り、また対応に向かう――。
 大垣市民病院には、毎日ほとんど分刻みで病棟から病棟へと忙しく駆けまわる一人の看護師がいる。
 緩和ケア認定看護師、田中美帆だ。
 「緩和ケア」とは、患者・家族の痛みやその他身体的・精神的・社会的・スピリチュアルな問題を早めから適切に評価し対応をして、苦痛を予防し、緩和することによりQOL(生活の質)を改善する取り組み。患者の疾患や状態に合わせて医師と看護師、理学療法士、臨床心理士、栄養士など各分野の専門職がチームとなって行うのが一般的で、ここ大垣市民病院でも緩和ケアチームが結成され、田中はそのチームの一員として活動している。
 田中の主な業務は三つ。緩和ケアチームへの依頼者に対し、チームと病棟スタッフと共に週2回のラウンドを行い、それ以外の日のフォロー対応。二つ目は病棟看護師や医師から個別に相談や依頼があった場合の対応。そして三つ目は退院する患者の緩和ケア連携パスの調整だ。
 田中は言う。「緩和ケアチームIMG_0999が活動し始めた当初は、病棟看護師の緩和ケアに対する理解はまちまちで、どのようなことを相談したらよいかわからない様子でした。でもその後、一緒にディスカッションをして、チームの一員として共に取り組むというスタンスを心がけていくうち、最近では緩和ケアに関心を持つスタッフも増え、向こうから相談を持ちかけてくれることもあるんですよ」。

 

 

患者と家族の希望を叶えるため、「つなげていく」のが仕事。

Plus顔写真 前述の二つのような院内における彼女の主な役割は、患者やその家族の声に耳を傾け、スタッフと緩和ケアチームの連携を図り、状況に応じたフォローや情報共有、問題解決のための具体的な提案を行っていくことにある。患者と院内の人々をつなぎ、最大限の効果が上がるよう努めることが重要となる。
 院内の活動が院内の人と人、チームとチームをつなぐ活動なのに対し、三つ目の「緩和ケア連携パスの調整」は、院内スタッフと地域スタッフ、病院と地域をつなぐことにある。
 そもそも「緩和ケア連携パス」は、「地域連携クリニカルパス(治療計画)」の一つで、「地域連携クリニカルパス」とは、院内で進める疾患別の治療計画を地域まで切れ目なく延ばしていくものだ。それにより患者は、退院後、施設や在宅と場所を移っても、医療の質を保ったまま、継続した治療・ケアを受けることが可能になる。
 その連携パスがスムーズに行われるよう調整し、人と人、病院と地域をつないでいくのが田中の仕事だ。
 こうした「つなぐ」役目を担う田中には、大切にしていることがある。「緩和ケア連携パスとはあくまで手段であって、目的ではありません。導入の件数にとらわれては本末転倒です。患者さんやご家族が現状のなかでも本当に望んでいることを実現するという本来の目的を見失わないよう導いていくのが私の役割。そして、それが当院の理念の<患者中心の医療・良質な医療の提供>につながっていくんだと思うんです」。

 

 

自分が変われば周囲も変わる、を実感。

IMG_8421 田中が院内外のスタッフとの連携に心を砕くのには、病棟看護師だった頃の苦い経験がある。
 「認定看護師の資格を取る以前は、患者さんに対する自分の思いを、周りが共有していないことに苛立ちがあり、意見が合わないと相手を責めてしまうこともあって…」。そんな田中が、自分の考えに疑問を持つきっかけとなった出来事があるという。
 「患者さんにとって良かれと思ってやったことが、他の看護師との意見が合わず、異なる対応をしてしまい、結果的に患者さんのご家族に心労をかけてしまったことがあって…。患者さんの家族やスタッフも含めて、皆が同じ方向を向かないと良いケアはできないという気づきを与えてくれました」。
 「一人だけで頑張ってもダメだ」。そう感じた田中は、資格のなかでも「特にチームや多職種の連携を学ぶことができると思った」緩和ケア認定看護師の取得を決意。そして緩和ケアは、看護学校のターミナル期実習での経験により、苦しむ患者とその家族に寄り添った看護を大切にしていた田中にとって長年のテーマでもあった。
 「認定看護師の教育課程に通いだして、自分の考えが本当に独りよがりだったことを痛感しました。<患者さんのために何かをしたい>という気持ちはみんな一緒。それが価値観や得ている情報で変わってくる。また患者さんやご家族に対しても、自分の価値観を当てはめ、自己満足に浸っていただけだということがわかりました」。
 「自分の視点だけで動く怖さを学んだ」という田中は言う。「スタッフ一人ひとりの価値観や意見が違うことは当たり前で、違うからこそいろんな選択肢を患者さんやご家族に提案できるんだ、という考え方ができるようになりました。そう切り替えて行動するようになってからは、スタッフとの関係性も変わってきた気がします。実際に『以前と変わったよね』と声をかけられることも多いですし(笑)」。
 さらに患者への看護意識にも変化があったと語る田中。「以前はどこかで無意識に『してあげる』という看護をしていたのかな、と思うんです。でも、今は『共に』『一緒に』という思いを大切にしています」。

 

 

病院から地域へと緩和ケアはつながっていく。

IMG_0985 苦い経験を糧に意識改革をし、緩和ケア認定看護師として日々院内を奔走する田中。今の彼女の視線の先は病院のなかだけでなく、外にも向けられている。
 「当院のある西濃医療圏は在宅医療が充実しており、ほとんどの方が在宅で対応できる状況です。でも、地域の皆さんには緩和ケアや連携パスなどの情報を知らない方も多い。家族に負担をかけたくないと希望の療養先を諦めてしまう患者さんもいると思うんです」。
 だからこそ、地域連携でどういうサポートを受けられるのかを、もっと早い段階で地域住民が知ることのできる環境を整えたいと言う田中。「がんになって入院し、治療がスタートしてから知るのではなく、例えば市民講座などを開いたりして、地域の皆さんにそういうものがあることをもっと広めていきたい。ベースとなる同じ情報を患者さんと医療チームが共有して一つのチームのようになれれば、同じ方向を向いて治療やケアを進めていけると思うから」。
 そのためにも、田中は病院スタッフのケアを充実させたいと話す。「スタッフ自身がもっと自分のことを知って、自分を大事にできてこそ、患者さんを大事にできると思うんです」。
 人と人、病院と地域をつなげることで、患者や家族、ひいては地域の人々が安心して生活できる医療を提供したい、そう考える田中看護師の緩和ケアの意識は、今後もどんどん多くの人へとつながっていくに違いない。


 

 

columnコラム

●岐阜県の西濃医療圏の基幹病院である大垣市民病院。地域がん診療連携拠点病院として、より専門的ながん医療を提供、その症例数は年間2070件にのぼり、化学療法658件、放射線治療228件、手術1335件を数える(平成24年実績)。その実績を支えているのが、専門知識を持つ優秀な看護師やコメディカル。例えば看護職では、今回紹介した緩和ケア認定看護師をはじめ、がん看護専門看護師、がん化学療法看護認定看護師など、がんに特化した資格取得者たちが多数在籍している。

●慢性疾患であるがんは、経過の状況によって入院治療や通院治療が必要であり、病院と診療所との連携が不可欠だ。同院では緩和ケア連携パスを積極的に導入、累計で274例を超えるパス運用がされ、地域診療所との連携が行われている。また地域医療者向けの研修なども定期的に行い、病院全体で積極的に在宅医療従事者を支援している。

 

backstage

バックステージ

●大垣市民病院のある西濃医療圏は、診療所や訪問看護ステーションなどの在宅医療従事者の意識が非常に高い。例えば、がん患者のターミナルケアで使われる麻薬。通常、医師が使用するには管理免許が必要だが、この西濃医療圏では免許を取得する診療所の医師が増えており、多くの診療所で投与が可能だ。高い意識を持つ在宅医療従事者が、高度急性期病院である同院との連携を深める。そのことで、地域の人々に安心をもたらしている。

●とはいえ、まだ足りない部分もある。深刻な高齢化の進行を踏まえ、国は現在、「地域があたかも一つの病院のように」という地域完結型医療体制を推し進めている。しかし、それを実現するには、在宅医療と高度急性期病院との間をつなぐ、一般急性期や回復期の患者を受け入れる中間的な病院が必要だ。今後はこの部分の補完が課題となるのではないだろうか。

 

 


4,285 views