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術前訪問で必ず交わす“握手”は、
患者さんと私を結ぶ、神聖な儀式。

岡 みゆ紀/社会保険中京病院 中央手術室



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  社会保険中京病院は、名古屋市南区にある地域中核の急性期病院(663床)。合計28科目にわたる幅広い診療科を標榜し、名古屋南部地域を中心に重症患者を積極的に受け入れている。手術件数は年間約8000件に及び、手術室専従の看護師は約40名。そのなかでチーフリーダーとして活躍する看護師の姿を追った。

 

 

 

 

 


手術室看護師の使命は、患者さんの心に寄り添い、一緒に闘うこと。


 

幅広い手術に対応し、安全・安楽な看護を提供する。

140069  手術室看護は、病棟・外来看護とはまた違った専門性が問われる領域だ。手術前の周到な準備から始まり、術中は緊迫した雰囲気のなか、執刀医に次々と手術器械を渡し、スムーズな手術の進行をサポートする。また、麻酔導入を介助し、患者のバイタルサインを常に観察しながら、血圧低下などに対応するのも重要な役目となる。正確な判断力と持続的な集中力が必要とされ、執刀医や介助医、麻酔科医、臨床工学技士などと密接にコミュニケーションをとることが求められる。また、外科、心臓血管外科、脳神経外科、呼吸器外科など幅広い診療科をもつ中京病院では、手術の内容も実に幅広く、豊富な医療知識も身につけなければならない。学ぶことが非常に多く、看護師として、また一人の人間としても鍛えられるステージと言えるだろう。
 「手術室看護はとても奥が深いんです。だから楽しい」。そう語るのは、新卒入職以来、ずっと手術室に勤務している看護師・岡 みゆ紀だ。「私たちの準備不足が一つでもあれば、たちまち手術は滞ります。反対に、私たちが執刀医に一秒でも早く器械を渡せたら、それだけ患者さんのリスクも少なくなります。すべての業務が患者さんに繋がっていると思うと、大きなやりがいを感じます」。

 

術前訪問の30分、密度の濃い会話で信頼関係を築く。

180046 手術室に勤務する岡がとくに力を入れているのが、術前訪問だ。術前訪問は、患者に手術前の処置などを説明し、不安感を和らげるために行うもの。同時に、患者の情報をしっかり得て、手術当日の看護計画を立てることも大きな目的となる。
  岡は訪問する前に、カルテや病棟看護師からさまざまな情報を収集する。病状や既往歴はもちろん、家族背景も頭に入れたうえで、やわらかい笑顔とともにベッドサイドに向かう。コミュニケーションで一番気をつけているのは、声の調子だという。「最初のあいさつで患者さんの心境を察して、それに合わせた声のトーンや速さ、大きさでお話しするよう工夫しています」。それほど気を遣うのには、理由がある。術前訪問がかえって患者に緊張感を与えてしまうことがあるからだ。「いきなり手術の話ばかりをするのではなく、“会いに来ましたよ”という雰囲気が大切」と岡は語る。
 手術を目前に控え、患者の胸中にはさまざまな思いがめぐる。手術のことだけでなく、金銭的な問題、家族の心配など、多くの不安を抱えながらも、そのことを周囲の人に打ち明けられない人も多いという。「最初は硬い表情でも、心が解け始めると、本当の気持ちを話してくださったりします。そこまで引き出せたら、私のことを受け入れてくださったわけですし、“良し”って思いますね」。さらに、会話の最後には必ず、「明日はよろしくお願いします」と言って握手でしめくくる。「私がついていますので、一緒に頑張りましょう、という気持ちを伝えます。また、握手をすると、患者さんの力強さも感じますから…」。手と手の温もりを通じて、言葉では伝わらない思いを交換することは、岡にとって欠かせない儀式となっている。患者のなかには、手を握りながら思わず涙ぐむ人もいるという。
 術前訪問で築いた信頼関係は、翌日の手術へと繋がっている。「翌日会ったとき、患者さんの表情を確認します。“あ、岡さんだ”という顔で安心していただいている様子が見えると、本当にうれしいですね」。

手術支援ロボット・ダ・ヴィンチの導入で得た新たな“気づき”。

140007  患者の心に寄り添う方法を自ら見出し、実践する岡。しかし、もちろん最初からこうした看護ができていたわけではない。「入職して数年間は、本当に覚えることが多くて、どうしても手術の業務が優先され、患者さんがまったく見えていなかったと思います。でも、4年目で卒後1年生を教える立場になって、ひとつステップアップできました。その後もサブリーダー、リーダーとなり、階層別に与えられた仕事をコツコツ重ねるなかで、患者さんと向き合う余裕が生まれてきたと思います」。
 そして今、岡はチーフリーダーとして、すべての手術の入室時間の管理や緊急時の手配を行うとともに、後輩たちの指導育成にあたっている。中堅看護師として、さて、次に何を目標にしようか。そう考えていた岡に、絶妙のタイミングで新たな課題が与えられた。それは、手術支援ロボット・ダ・ヴィンチの導入である。ダ・ヴィンチ手術は、医師の遠隔操作により、ロボットを介して切除や縫合を行うもの。人間より関節が多いアーム。手ぶれ補正機能。肉眼と同じに見える3D画面など。より安全で正確な手術ができると、世界中で導入が進んでいる。この導入にあたり、岡が研修スタッフに抜擢された。他院でダ・ヴィンチ手術を見学し、手術の準備や流れ、術後の観察ポイントなどを細かく教わった。「ロボットの手術ってまったく想像できず、すごく不安でした。でも、実際に見学すると、腹腔鏡下手術の延長で、意外にすんなりと会得できましたね」と振り返る。
 今は週1〜2回のペースで、ダ・ヴィンチ手術を行う中京病院。医療技術の画期的な進化は看護にも影響を与えているのだろうか。「いちばん痛感したのは、観察の大切さですね。ダ・ヴィンチによる前立腺摘除術では、患者さんが“頭低位”の体位になります。ほとんど逆立ちの状態なんですね。そうなると、循環器、呼吸器、皮膚障害にも影響を与えますし、血液が頭側に流れるので、顔がはれぼったくなるんですね。術前に患者さんの顔のラインを覚えておかないと、そういう浮腫(むくみ)に気づけません。まだまだ観察が甘いなと気づかされました」。

良い看護師になりたいという思いは変わらない。

140085  最新鋭のダ・ヴィンチ手術にも携わるようになり、また一歩、手術室看護の世界を広げた岡に、今後の抱負を聞いてみた。「これから力を注ぎたいのは後輩の教育ですね。後輩には私がもっている知識や技術を100%教えるつもりで指導しています。でも、教育って与えるものだけじゃありません。自分なりの看護を考えて自分で発展させていくことが大切ですし、そういう視点からフォローしていきたいですね」。
 その一方で、「ずっと後輩への指導に力を注いできましたが、自分がスキルアップするための勉強は、まだ十分とは考えていません。今後は手術室看護師として、もっと自分を高めるために勉強をしたいです」。
  将来めざすべきは、エキスパートかジェネラリストか。その道筋を決めるのはまだ先になりそうだが、結論を急ぐ必要もない。「いずれにしても、“良い看護師になりたい”という気持ちは変わりませんし、そのためのステップアップがこの病院ならできると思います」。岡は晴れやかな笑顔でそうしめくくった。

 


 


column

-83R83898380●長い看護師人生のなかでモチベーションを維持していくには、目標管理が鍵を握る。新人からリーダー、そして、その先へ。常に目標を設定し、それを一つひとつクリアすることで達成感を得ながら主体的にステップアップしていくことが重要だ。

●中京病院では、看護師一人ひとりが目標をもって成長できるよう、階層ごとに必要な研修が用意され、認定看護師の資格取得も積極的にバックアップしている。目標を見出せなくなったときは、上司がきめ細かく相談に応え、院外研修や配置転換などの対応策を提案する。ゆくゆくは、特定の領域で専門看護を極めることも、幅広く対応できるジェネラリストを選択することもでき、さらに、病院運営に携わる管理者をめざす道も用意されている。自ら学ぶ姿勢をもつ人にとって、安心してキャリアを重ねられる環境と言えるだろう。

 


 

 

backstage

-83o83b83N83X83e815B83W●看護師の役割が記されている「保健師助産師看護師法」では、看護師は“療養上の世話”や“診療の補助”を行うことと定められている。そこから考えると、執刀医をサポートする手術室の看護師は、“診療の補助”的役割がもっとも要求されると言えるだろう。

●しかし、実際に手術室の看護師の日々を見ると、決して診療補助だけに終わらない。患者が少しでも不安なく手術に臨めるように、術前訪問に最善を尽くし、術中も患者のことを何よりも思い、執刀医をサポートし、細かい観察に神経を張り詰める。手術という非日常の場面だからこそ、患者にもっとも近い存在として患者に寄り添うことが手術室看護師の使命となる。病棟や外来とは違う、手術室という特殊な看護の仕事を通して、看護師の仕事の奥深さをあらためて実感した。

 

 


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