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認定看護師たちが見た東日本大震災。
そこで得たものを、明日への光とするために。

名古屋第二赤十字病院 奥田晃子(救急看護認定看護師)
宇佐美康子(摂食・嚥下障害認定看護師)
大野誉子(感染管理認定看護師)/名古屋第二赤十字病院


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東日本大震災が発生し、すでに2年が過ぎようとしている。いまだ「復興」と呼ぶには程遠い状況ではあるものの、東北の被災地にも、失われた「日常」が少しずつ戻ろうとしている。震災発生当日から現地に医療スタッフを送り続けた名古屋第二赤十字病院。被災地に向かった看護師たちは、なにを見て、そして学んだのか。認定看護師たちが感じた「それぞれの東日本大震災」を追った。

 

 

 


瓦礫に埋もれた被災地のなかを無我夢中で動いた。決して忘れることのない東日本大震災の記憶。


被災地の救急外来で見た中等症・軽症エリアの混沌。

救急看護認定看護師 救急外来 看護係長 奥田晃子

救急看護認定看護師
救急外来 看護係長
奥田晃子

 救急看護認定看護師の奥田晃子看護師。彼女が現地に赴いたのは、地震発生から約2週間後の3月27日だ。与えられた任務は「病院支援」。石巻赤十字病院の救急外来が非常に混雑していたため、救急外来ができる看護師が欲しいとの要請を受けて現地に向かった。
 「もう、ぐちゃぐちゃなんです」。先に現地入りして救急外来を手伝う看護師から、奥田看護師はこう告げられた。「ピークは過ぎているはずなのに…」。疑問を抱きながら現場を見渡すと、そこには言葉通りの光景が広がっていた。P1060372
 「中等症・軽症エリアに相当数の患者さんが押し寄せ、混乱した状態になっていたのです」。現地の看護師は重症エリアにかかりきりになり、中等症・軽症エリアは、入れ替わりで来る救護班が1~2日ずつ交替で、なんとかやりくりしている状況だった。
 そこで奥田看護師は動いた。同じ第一班に救急看護認定看護師が3人、集中ケア看護認定看護師が1人いたため、この4人が中心となって話し合いの場を設けた。「トリアージ(緊急性と重症度の識別)システムを入れた方がいい」。「中等症と軽症とをきちんと分けるシステムが必要だ」。意見はすぐに一致した。彼女らの働きかけにより患者の動線が整備され、診療がスムーズに流れるようになった。

救護班として現地に入り、直面した被災地の現実。

摂食・嚥下障害認定看護師 SCU 看護係長 宇佐美康子

摂食・嚥下障害認定看護師
SCU 看護係長
宇佐美康子

 摂食・嚥下障害看護認定看護師の宇佐美康子看護師は、第五班の救護班の一員として3月20日に現地入りした。現地では石巻赤十字病院を拠点として、寝袋で寝ながら救護班の任務を果たした。
 救護班としての活動の傍ら、食事ができなくなった患者の情報収集にも奔走した。口腔ケアグッズは足りているのか、歯科口腔外科医師や歯科衛生士は巡回しているかなど、摂食・嚥下に関わる動きを調べ、全国の認定看護師らとメールで情報共有。どんな問題があるのか、どんな介入方法があるのかを探った。

感染管理認定看護師 救急病棟 看護係長 大野誉子

感染管理認定看護師
救急病棟 看護係長
大野誉子

 同じく救護班として6月7日に現地に入った感染管理認定看護師の大野誉子看護師。彼女も石巻赤十字病院を拠点にしながら雄勝に向かい、午前中は現地の診療所で看護を、午後からは地域の巡回診療にあたった。「3カ月が経過してもこれだけ瓦礫が散乱している。社会の復興支援がすごく遅れていると感じました」と大野看護師は話す。
 被災地は「衛生的には話にならない状況」だった。本来であれば感染管理の指導活動をすぐにでも展開したい。ただ、被災者の関心はなかなか感染予防に向かなかった。「6月上旬でしたから、インフルエンザなどへの心配は薄らいでいく時期。そのなかで手洗いなどの重要性を説いて回るのは難しいことでした」。
 3人の認定看護師は、さまざまな想いを抱えながら被災地を後にした。

救護活動での経験を踏まえ、よりリアルな災害訓練を実施。

14088 震災の支援活動でのこうした経験は、院内の災害対策に生かされている。2012年10月31日、名古屋第二赤十字病院では、東海地震の発生を想定した災害訓練が実施された。これは例年大掛かりに行われるもので、今回は、午後の外来予約診療を休診し、手術室の一部も停止して職員全員が訓練に参加した。
 この災害訓練では、地震発生後のシナリオはあえて作られなかった。石巻赤十字病院での経験を踏まえ、災害時の状況をよりリアルに再現するためだ。
 災害訓練は、2011年に改訂された災害マニュアルに従って実施。改訂に伴って新たに導入された「アクションカード」の活用が試された。これは、スタッフが互いの業務内容をひと目で理解できるように、役割を明確化して記入したカードのこと。東日本大震災の発生後、混乱を極めた石巻赤十字病院の状況を目の当たりにし、その必要性を痛感したスタッフらが作成したものだ。「これを見れば、誰でも災害発生時に動くことができる。災害本部が立ち上がるまでの繋ぎとなるものです」と奥田看護師は解説する。P1090894
 ただ、災害訓練では想定外の事態がいくつか起こった。各自がそれぞれの持ち場につく前に傷病患者が殺到。治療の優先順位を付けるトリアージエリア班は、その受け入れに追われた。また、エレベーターを使えない院内では、患者の搬送が難航。検査や治療にも限界があり、設備を充分に使えないなかで、いかに最良の医療を提供するのか、といった課題も浮上した。現在はこれらの反省点をもとに、「アクションカード」の改訂を含めた改善を進めている。すべては、想定外の事態を「想定内」にするためだ。

東北から持ち帰ったものを、明日への糧とするために。

28DB791D682A6 東日本大震災は、決して“対岸の火事”ではない。東海・東南海地震はいつ起きてもおかしくない状況にある。そのときに私たちはどう振る舞えばいいのか。被災地の支援活動を経験して以降、「自分たちが受け入れる側になったとき、どうすべきかを考える重要性を痛感した」と奥田看護師は話す。一方で、認定看護師としての役割には手ごたえを感じていた。「トリアージシステムの導入時には、認定看護師同士で円滑に意思疎通できたのが大きかった。災害について同じレベルの知識を共有できているうえ、認定看護師として日常的に組織のシステムづくりにも関わっている。だから『何をしなければいけないか』という話し合いが瞬時にできたのです」。
 認定看護師だからできたこと。スタッフナースとして新潟県中越沖地震の救護を経験した宇佐美看護師は、認定看護師として参加した東日本大震災で「確かな違い」を感じたという。「摂食・嚥下の認定看護師だからこそ、緊急時の食事にまで頭を働かせることができた。それがなければ、同じようにただノルマをこなして帰ってきただけかもしれないですね」。
 現地では、摂食・嚥下障害の認定看護師の視点から「食べ物のことが気になった」と話す宇佐美看護師。「院内のスタッフが何を食べているか見てみると、廊下におにぎりが置いてある程度。患者さんの食事の種類や回数、胃ろうの患者さんの栄養状態なども気がかりでした。そこで現地から戻ってすぐ、当院の栄養科のスタッフと一緒に、災害時の食事の提供や、栄養剤のストックなどについて議論しました」。
 大野看護師は被災地から帰還以来、救護班として活動したメンバーらとディスカッションの場を設けるなど、災害時の感染管理のあり方を考え続けている。「大切なのは感染管理の大切さを伝える手段。病院だけでなく被災地域の方々への理解を深めるためには、公的機関との協働が不可欠だと思います。東日本大震災を通じて具体的なイメージを持てたことは、きっと今後に生きてくるはずです」。
 あらゆる事態を想定内にしておかなければいけない。震災を通じて得たものを胸に秘めながら、想定内を広げる彼女たちの活動は今後も続いていく。


 

column

-83R83898380●日本赤十字社では、災害時の救護活動を、赤十字の本来の使命に根ざした重要な活動だと位置づけている。このため、名古屋第二赤十字病院でも、国内で発生した地震や台風などの自然災害、航空機墜落事故などで幅広い活動を行ってきた。古くは1953年、幡豆郡吉田町(現・西尾市)に甚大な被害をもたらした台風13号にはじまり、伊勢湾台風、中華航空機墜落事故、阪神・淡路大震災のほか、東海豪雨の発生時などにも、救護班を現場に派遣して最前線で救護活動を展開している。

●名古屋第二赤十字病院では、常日頃から災害時に迅速な活動が展開できるよう、常設の救護班を編成。救護訓練を繰り返し実施している。この常備救護班は9個班編成で、1個班は医師1名、看護師長1名、看護師2名、主事2名の6名体制。このほか、必要に応じて、薬剤師や助産師、特殊救護要員などが加わり、いつでも出動できる体制を整えている。




backstage

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●看護師の教育は、配属先の病棟でのOJTが基本だ。忙しい臨床現場で働きつつ、仕事の進め方を先輩ナースに教えられながら覚えていく。そこでの教育は、いわば「日々の業務をこなすための指導」になりがちだ。新人ナースをいかに早く戦力に育て上げるかに主眼が置かれ、指導の中心はあくまで実技。看護の根拠、 いわゆる「エビデンス」を教えられる機会はほとんどないのが実情だ。

●認定看護師の3人が認定取得の教育課程で学んだのは、このエビデンスだった。今まで何の疑問も持たずに行ってきた看護の根拠がどこにあるのか。それを一つひとつ突き詰めていく。その過程で数多くの気づきを得たという。看護師が活躍する領域はますます広がりを見せている。エビデンスに基づいた良質な看護を実践する認定看護師の存在は、これからの看護師の新たな可能性を示してくれているように思う。


 


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