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お母さんの目線で…。
一緒に考え、実践を指導する看護。

益山登喜恵/八千代病院 小児科・アレルギー外来(小児アレルギーエデュケーター)


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「小児アレルギーエデュケーター」。これは、患者教育を担うメディカルスタッフの養成を目的とした、日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会による認定資格だ。愛知県安城市の八千代病院の小児科外来で働く益山看護師も、この資格を取得し、専門知識を生かして患者への指導にあたる。自分自身の子どもが小児アレルギーで苦しんだ経験から、母親たちと同じ目線で「患者に寄り添う看護」を実践している。

 

 

 

 


患者さんとその家族が抱く誤解や不安を取り除き、子どもたちが笑顔になれる患者教育をめざして。


情報過多の時代のなかで誤解の多い小児アレルギー。

IMG_7898 パソコンやスマホの普及に伴い、ネットへの常時接続が当たり前の時代となった。ウェブ上では膨大な量の情報が生み出され、病気に関する疑問も検索すればすぐに答えにたどり着く。確かに便利だ。そして母親たちは、「我が子を何とか守りたい」という思いから、一途に情報を集める。だがウェブ上には、標準的な情報だけではなく不適切な情報も氾濫している。それによって母親たちが誤解することも多くなった。その最たるものが「小児アレルギー」である。不適切な知識から、一般的な治療法(ステロイド剤の治療、継続的な内服など)を頑なに拒絶し、逆に症状の改善が困難となるケースなども散見されている。情報過多の時代ゆえの“リスク”といえよう。
 八千代病院の小児科・アレルギー外来で働く益山登喜恵看護師。彼女は日本小児難治喘息・アレルギー疾患学会認定の「小児アレルギーエデュケーター」だ。この資格は、患者教育を担うメディカルスタッフの養成を目的に2009年度から始まった新しい認定資格。小児のアレルギー疾患や患者教育に関する講習を受講し、資格試験を合格した者に与えられる。
 益山看護師がこの資格を取得したのは、自身の子どもが小児アレルギーで苦しんだ経験があるからだ。食物アレルギーによるアナフィラキシー・ショックが起きたときは、看護師でありながらパニックに陥ったという。「病状自体は理解できましたが、我が子だと思うと頭が真っ白になりました。同じ経験をされるお母さんはたくさんいるはず。それならば、自分の経験を生かして役に立てないだろうかと考え、資格取得を決意しました」。
 小児アレルギーの治療を受けるのは子どもだが、日常的なケアを行う主体はその母親だ。益山看護師は、小児アレルギーに悩み苦しむ母親たちの誤解や不安を取り除き、長期にわたるケアを一緒に支える。いわば長距離走の“伴走者”だ。

医師だけでは徹底できない患者教育を看護師が担う。

94AA90E791E38DB782B591D682A6 小児アレルギーエデュケーターの資格は、文字通り、「エデュケーション=教育」に主眼が置かれている。アレルギー疾患では継続的なケアが不可欠だ。そのため、「EBM(科学的根拠に基づく医療)」を提供するのと同時に、継続的なケアを実践するための「患者教育」が重要となる。八千代病院では、この両輪を医師と看護師がうまく分担しながら進めている。
 医師の役目は、必要な情報の提供だ。標準的な治療法はどんなものか、どのような治療方法があるのかを説明し、そのなかで患者に合う治療法を指導する。八千代病院でも、薬を見せながらすべてをメモに書き、塗り方や1日の使用回数などを丁寧に解説する。
 ただ、これだけでは具体的な使い方が分からない母親も多い。そのため、看護師がさらに補足するのだ。
 また、共働きで時間的な余裕がない家庭では、医師の指導をそのまま実践するのが難しいことも多い。さらに、実際に子どものケアを行うのは祖父母というケースもある。こうした個別の生活シーンを把握したうえで、具体的な指導を行うことも大切な役割のひとつだ。
 「日々のスキンケア、1日2回のステロイドの使用が必要と分かっていても、実際には子どもが暴れたり、保育園に行くまでの時間に余裕がないときもあります。そんなときには蒸しタオルだけでもあててあげてくださいとか、朝が辛いのであれば、症状の強い部分だけこういう使い方をしてくださいだとか。子育ての経験を生かしながら、お母さんの気持ちを理解し、やれる範囲を見極めるようしています」。

食物負荷試験を通じて「食べられるもの」を開拓。

IMG_7964 地域のクリニックでは、入院施設がないために処置が限られ、診療時間やスタッフにも余裕がないことが多い。地域の基幹病院のように踏み込んだ診療を行えず、結果的に“安全パイ”として「除去食」を選びがちだ。ただ、除去食を選択された子どもは、幼少期に悲しい体験をすることになる。「給食のときには私の子どもだけテーブルから離されていました。とても悲しい気分になりましたね」と益山看護師も打ち明ける。
 益山看護師の子どもは、ヨーグルトを食べてショックを起こして以来、陽性反応が出た牛乳と卵を、全部除去するようにかかりつけ医から指示を受けてきた。そのため、保育園にも毎日弁当を持たせ続けた。だが、日本小児アレルギー学会の専門医・指導医である増田進小児科部長に相談して状況が一変する。食事歴や病歴を細かく聴取し、問診を丁寧に受けた後、「食べられるものを開拓しましょう。除去する必要はないよ」と言われたのだ。
 八千代病院の小児科では、診察により必要と考えられるケースに「食物負荷試験」を実施する。採血データや子どもの症状、何を食べてどんな状態になったか詳しく聴取し、その後アレルギーの原因となった食品、考えられる食品を試験的に口にしてみる。その結果により、除去が必要であるのか、どれくらいの分量までなら摂取できるかを探り、食べられるものの開拓を進めていく。
 「私の子どもも、卵が除去終了となりましたし、アレルギーが出た牛乳も『この分量までならいい』という許容量が分かるようになりました。それまでは除去するのが当たり前だと思っていましたから、食べられるものを開拓するという方法には驚きました。それと同時に、同じように苦しんでいるお子さんの除去が解除されたら、とてもうれしいはずだと感じましたね」。

子育ての経験を糧にしながら地域の患者に貢献していきたい。

IMG_7992 益山看護師は、現在、3人目の子どもを妊娠中だ。「仕事と両立するため、子どもは2人でいい」。そう思っていた益山看護師だが、復帰後、内科・小児科で働くうちに心境に変化が生じた。「『なんて子どもはかわいいんだろう』って。子どもの可愛さに負けてしまいました」とはにかむ。現在、部分休業や夜勤免除を活用して勤務を続けるが、3人目を出産後も、できる限り早く復帰し、周りの理解や協力を得ながら仕事を続けていくつもりだ。
 益山看護師が今後めざすのは、病棟・外来全体に小児看護の知識を広げていくこと。現在、同院では内科・小児科の病棟58床のうち、小児の部屋は4床のみ。看護師は成人と小児とを掛け持ちする体制になっている。「院内のスタッフ数を考えると小児科を独立して広げるのは難しいです。だからその分、小児についてより深く理解してもらえるように、勉強会などを通じて病棟・外来全体にアプローチしていきたいと考えています」。
 八千代病院では、小児アレルギーの専門医である増田医師を中心に、食物負荷試験や入院にも対応することで、コンパクトな規模の病院ながら地域医療の核としての機能を果たしている。「この病院をかかりつけとして来院される地域のお子さんも多いです。今後も地域のクリニックと連携しながら、こうした患者さまを継続して看護していきたいですね」。そう決意を新たにするママさん看護師は、小児アレルギーと戦った経験を糧にしながら、今後も患者たちの“伴走”を続けていく。


column

83R83898380●今、医療の現場では機能分化が進んでいる。顕著なのが、地域の基幹病院による高度急性期化。重篤患者への手術や集中治療を高度な技術で、しかも短期間に行い、病状が安定した段階で早期退院を促すというものだ。その場合、本来は基幹病院からの退院患者を一般急性期、回復期、療養期、そして在宅へと繋ぐシームレスな医療提供こそが必要となる。しかし実際は大きな断層が生じ、いきなり在宅へというケースも多い。

●八千代病院では、救急医療を支える一方、シームレスな医療の提供にも注力してきた。救急センターから在宅介護施設までを法人内に網羅して設置することで、患者の幅広い要求に応える体制を構築しているのだ。それはあえて効率性を度外視した、いわば機能分化へのアンチテーゼ。すべてを整えることへの拘りは、コミュニティーホスピタルとしての確かな存在感を放っている。

 

 

backstage

83o83b83N83X83e815B83W● 小児医療を取り巻く問題は、核家族化が進んだ日本社会の家族のあり方とも密接に関係している。日本における核家族率は、1975年の約64%でピークを迎 え、その後は徐々に下降線をたどっている。だが、夫婦の共働きが増加したことで、以前よりも子育てに割ける時間が減少。とりわけ母親への負担が大きくなっ た。このため、育児への悩みやストレスを人知れず抱えていたり、家庭内での適切なケアが実践できていないケースが多くなっている。

●こうし た状況を打開するためにも、独りで悩みを抱えた母親たちに寄り添う医療が必要不可欠だ。益山看護師のような子育て経験のある“よき伴走者”は、母親たちの 心強い味方となるはずだ。また、同時に、父親や祖父母による育児参加を促したり、母親を孤立させることなく地域で支えるような体制づくりにも力を入れてい く必要がある。

 


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