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病院を知ろう

一番大切なのは、地域住民。
これからも地域の期待に全力で応えていく。

公立陶生病院


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地域から何を期待されているか、我々は、何ができ、どう応えていくか。常に考え、実践していく。

公立陶生病院は今年ちょうど設立75周年。名古屋市の東約20kmに位置する愛知県瀬戸市を中心に、隣接する尾張旭市と長くて町が協同で開設する組合立の公立病院である。地域住民の期待を担って生まれた病院として、地域のニーズにどこまでもこたえていこうとしている。

 

 

年間約6700台の救急車を受け入れる、24時間365日の救急体制。

001-1 暗闇の中でひときわ明るい光を放つ、公立陶生病院の南棟1階。深夜の救急外来はその日も救急車で次々と搬送されてくる患者の対応に追われ、慌ただしい緊張感に包まれていた。
 公立陶生病院に搬送される救急車は、一日平均18台。年間にすると6700台にのぼり、近隣の救急車のおよそ9割を引き受けているという。救急外来の担当医師は日中4名、夜間6名の配置。さらに、休日・夜間でも重症な患者が運ばれてきたときは、救急外来の要請でどの診療科の医師でも駆けつけることになっている。また、救急外来では救急隊員の臨床実習や勉強会なども開催しており、まさに地域の救急医療の中心基地として重要な役割を果たしている。
 公立陶生病院が救急医療に力を注ぐ理由はなんだろう。「それは、地域の方々が一番望まれることだから」と、院長の酒井和好はシンプルに答える。「当院は、地域住民の要望があってできた病院である。その地域の方々が望むのは、いついかなるときでも診てくれる、そういう病院。だから、当院は“24時間365日、すべての救急患者さんを受け入れられる救急医療体制の整備”を最優先課題として考えている」。
 公立陶生病院は、昭和11年、産業組合法という法律に基づいて、医療組合病院として設立された。その後、昭和34年、瀬戸市、尾張旭市、長久手町の2市1町の組合立の公立病院として、現行の組織になった。「地域住民の大きな期待を担って設立された病院だからこそ、“地域から何を期待され、それにどう応えていくのか”を常に意識した病院づくりを志向している」と、酒井院長は語る。
 救急患者で多いのは、循環器疾患や脳神経外科疾患。そのニーズに応え、循環器科・心臓血管外科では、来院から30分以内に緊急の心臓カテーテル検査が行える体制を整え、救命センターに匹敵する「心臓・血管センター」として高度な医療を提供している。5029また、脳神経外科では、1年365日24時間態勢で専門医が待機し、脳卒中をはじめとした急性疾患に迅速に対応している。さらに、周産期母子センターを設立し、地域から強く求められる新生児の救急医療にも力を入れている。
 救急医療の崩壊が叫ばれるなか、公立陶生病院は全力を投球して「24時間・断らない医療」を実現しているのである。

 

 

限られた医療資源を活かし、地域の拠点病院としての使命を果たす。

 公立陶生病院がもう一つの柱として力を注いでいるのは、がん診療である。その理由も、「がんは国民の死亡原因の第1位であり、地域にがんで苦しんでいる患者さんがたくさんいるから」(酒井院長)という明快なものだ。
 平成19年1月には尾張東部の「地域がん診療連携拠点病院」に指定され、胃がん、大腸がん、肝がん、膵臓がんなどの消化器がんや乳がん、前立腺がん、さらに白血病や悪性リンパ腫などの血液がんの治療、緩和ケアなどに幅広く取り組んでいる。
 病院をあげてがん診療に取り組むものの、先端医療として注目される「陽子線治療」などの最先端治療は行っていない。「がんという病気は、急を要するものではなく、患者さん自身がじっくり検討して病院を選ぶことができる。より高度な治療を受けたいのであれば、愛知県がんセンター、さらに国立がん研究センターという選択肢がある。002だから、当院はあくまでも、地域の基幹病院としてできる範囲の放射線治療や化学療法、手術、そして地域との連携の高度化が基本だ」と、酒井院長は説明する。
 限られた医療資源を最大限に用いて、この地域で自分たちがやるべきこと、自分たちにしかできないことを、優先順位を間違えずに行うのが、公立陶生病院の基本スタンス。より高度な医療を要する疾患などは大学病院をはじめとした高機能医療機関に紹介する、いわばハブ空港のような役割を果たしている。

 

高齢化の進む地域で何が求められるかを考え、地域医療連携に力を注ぐ。

003 地域のニーズに応える上で、酒井院長が近年危機感を募らせているのが、「地域の高齢化」だという。とくに公立陶生病院のある瀬戸市は基幹産業の陶磁器産業が伸び悩み、徐々に高齢化が進んでいる。「高齢者の場合、一つの疾患を治して終わり、というわけにはいかない。一人が複数の病気をもち、入院治療が終わっても、社会復帰までの道のりは険しい。当院は急性期病院だから“慢性期以降は後方の医療機関や介護施設にお願いする”というのではなく、当院自らが能動的に医療・福祉に関わるさまざまな施設と協力し、いかに共同して役割を果たすかが大切だ」。
 地域完結の医療連携、さらに介護・福祉も含めた地域連携が、今後さらに必要になっていくことは間違いないだろう。その一環として、公立陶生病院では「登録医制」を取り入れ、地域連携クリニカルパスの運用に力を入れるなど、地域での病診連携に力を注いでいる。地域連携クリニカルパスとは、疾患別の標準的な診療計画に従って、退院後も診療所などの医療機関で継続した医療が受けられるシステムである。
 「当院は、救急医療、がん診療に力を注いでいるが、その根幹に位置づけているのが、地域医療連携である。現在、地域医療支援病院の承認取得に向けた条件整備を図っているところで、今後さらに近隣の医療機関と連携を強めながら、地域の中核病院として役割を果たしていきたい」と、酒井院長は語る。

 

災害拠点病院としてハード設備を拡充。さらに地域から必要とされる病院へ。

004-2 公立陶生病院では現在、建物の建替工事に着手し、既存施設の耐震補強とともに、敷地の一部に地上10階、延べ床面積約18000平方メートルの新棟建設を進めている。目的はどこにあるのか。
 「主軸は、救急部門の強化。救急外来、手術室、ICUなどをより充実させて、地域の中核病院として確固たる救急医療体制の確立をめざす」と、酒井院長は言い、こう続けた。「同時に、災害対策も視野に入れている。新棟は免震構造の設計で、屋上にはヘリポートを設置し、災害時に、ドクターヘリや防災ヘリが降りられるようにする計画である」。
 公立陶生病院は、平成21年10月1日、「愛知県災害拠点病院」の指定を受けた。将来、東海地震、東南海地震などの大規模地震の発生が確実視されるなか、災害時の受け入れ態勢を万全にする構えだ。
 「まずは救急、そして災害医療と、急務の課題に対応する。そして、限りある医療資源を有効に活用して、この地域になくてはならない病院として発展をめざしていく。地域を一番大切に考え、地域の医療を守っていくことが、私たち自治体病院の何よりの使命だ」。酒井院長は力強くこう締めくくった。


columncolumn●病気になったら治療するだけが、病院の機能ではない。病気やけがのない生活を送るための予防医学的なアプローチも、病院の重要な役割になってきた。とくに高齢化が進む現代において、がん、心臓疾患、高血圧などの生活習慣病の予防は優先すべき課題となっている。

 

● 公立陶生病院においても、地域の高齢化に伴い予防医学に力を注いでいる。たとえば、生活習慣病の診断、予防を目的にして行う人間ドック、そのなかでも脳梗 塞や脳動脈瘤などの診断、予防を目的として行う脳ドックなどを通じて、病気の早期発見・治療に力を入れている。また、地域住民を対象に病気についてわかり やすく解説する「公開医療講座」や各種健康講座、セミナーなど、さまざまな企画を実施。疾病予防と健康増進の両面から、地域住民の健康な生活を支えていこ うとしている。


 

backstagebackstage2● 都市部には、多くの急性期病院がある。地方自治体や独立行政法人などの公的組織病院はもちろん、たくさんの民間病院が存在し、地域の救急医療を支えてい る。一方、地方にいくほど病院の数は減少し、自治体病院が地域医療を支え、救急・急性期医療を担うことになる。公立陶生病院もそういう自治体病院の一つで ある。

●自治体病院は税金が投入されると批判される向きもあるが、決して税金に頼った経営に安住しているわけではな い。「健全経営と良質な医療サービスを両立させつつ、地域に貢献していきたい」と酒井院長は話す。自治体病院への理解を深め、貴重な医療資源を守っていく という意識を住民がもつことも、地域医療崩壊を防ぐ重要な鍵を握っていると言えるのではないだろうか。


 


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