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病院を知ろう

沈黙の臓器、<肝臓>。
その治療を支えるチームの力。

 

 

安城更生病院


診断体制の確立、最新治療の導入、
そして地域医療崩壊の危機――。
さまざまな課題を乗り越えてきた消化器内科代表部長が描く未来とは。

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安城更生病院において、先進的な取り組みを果敢に進め、注目を集める診療科の一つが、<消化器内科>である。
同科では、他の病院に先駆けて<ラジオ波焼灼療法>を導入。
地域の肝細胞がん治療のけん引役として確かな存在感を放っている。
新たな治療の導入に尽力した肝疾患のスペシャリストを追いながら、肝臓がん治療に情熱を注ぐ消化器内科の足跡を辿った。

 

 

 

 

 

保険適応前に導入を決めた
ラジオ波焼灼療法。

 924048 日本人の死因の第1位に挙げられる<がん>。なかでも肝細胞がんは、その7割以上が5年以内に別の部位に再発するといわれ、治療が一度では終わらない難しい疾患とされている。そんな肝細胞がんにおいて近年、治療の柱の一つとなっているのが<ラジオ波焼灼療法>である。
 ラジオ波焼灼療法とは、体の表面から針を刺し、腫瘍を焼いて治療する方法のことだ。3センチ以下・腫瘍2~3個までの早期の肝細胞がんに用いられ、患者の負担が少なく、高い治療効果が得られるのが特長だ。従来から使われてきた<エタノール注入療法>では、腫瘍を壊死させる範囲がうまく特定できない上、腫瘍の中に隔壁がある場合、完全に壊死させるのが難しい。一方、ラジオ波焼灼療法では、治療範囲を特定でき、腫瘍の根治性も高い。
 そのラジオ波焼灼療法の有用性にいち早く着目し、安城更生病院で主導してきたのが、肝臓を専門とする消化器内科代表部長の山田雅彦医師である。山田医師は名古屋大学医学部を卒業後、厳しい臨床研修で知られる大垣市民病院で経験を積んだ。その時期に消化器、なかでも肝臓に大きな興味を抱き、自らの専門領域と決める。そして、東京の癌研究会附属病院(現在のがん研究会有明病院)で1年間勤務、名古屋大学に戻り研究を進めるなど、肝疾患の幅広い知識を培った。そんな山田医師が発案したのが、平成13年当時、まだ保険適用前だったラジオ波焼灼療法の導入である。
 「すでにラジオ波焼灼療法の有用性が学会で発表されるなど、医師たちの間では注目を集めていました。そこで、当時の市川正章消化器内科部長に相談し、当院での導入を受け入れていただきました」と山田医師は振り返る。
 「肝疾患を抱えた患者さんを何とかしたい」という、山田医師の強い思いに応えるように、その背中を押した市川元部長。そして、安城更生病院の新たな治療への積極性や寛容な風土が、先進的な治療法の導入を実現させたのである。

 

 

診断と治療機能の確立。
さらにはチーム医療構築に注力。

Plus顔写真 山田医師が安城更生病院に赴任したのは平成10年。市川元部長が赴任を打診したのがきっかけだ。胆嚢と膵臓を専門とする市川元部長は、院内に肝臓の専門医がいなかったことから、新進気鋭の医師として注目を集めていた山田医師に白羽の矢を立てたのである。
 山田医師は赴任後、まず診断機能の確立に取り組んだ。肝疾患は、ほとんど自覚症状がなく病気が進むことから、何よりも早期に診断することが重要である。そのため山田医師は、臨床検査技師、診療放射線技師らと連携し、検査機能を高度化するとともに、新たな機器の導入にも注力。2年余りの歳月を費やし、一定の診断機能を作り上げた。
 適切な診断が行える体制を整えた山田医師は、肝疾患の専門医の立場から治療面でも改革を進めていく。前述の通り、市川元部長の協力のもと、腫瘍の根治性が高いラジオ波焼灼療法の機器導入を病院側に訴え、実現させたのである。
924082 その後、市川元部長の退任と複数の医師の退職が重なり、医師数が低下した消化器内科の部長となった山田医師は、新たな組織づくりに力を尽くした。それは医師が個ではなく、チームで動く診療科づくりである。すべての医師が広く消化器全般に対応でき、その上で、より専門性が要求される場合は、個々の専門能力を活かすという流れを作った。それまでとは異なる体制だが、山田医師の明るい人格に支えられ、消化器内科の団結力は生まれた。また、こうした動きのなかで、看護師をはじめとしたコメディカルとも、職種を超えた協力関係を結び、消化器内科チームとして強固な体制が築かれたのだ。
 消化器内科チームの力は、平成18年から数年におよぶ、西三河エリアにおける消化器内科の医療体制崩壊の危機をも乗り越えた。当時、医師臨床研修制度の変更から地域の消化器科医師が極めて不足する事態に陥ったのだ。しかし、安城更生病院の消化器内科は、この難局をチーム医療のもとで乗り切った。その経験が、チーム力をさらに高め、強めていったのは言うまでもない。

 

 

気づかないうちに
着実に進んでいく肝疾患。

924072 さて、話を<肝臓>に戻そう。そもそも肝臓は、<沈黙の臓器>と呼ばれ、患者の自覚症状がないまま病気が進行し、発見時には手遅れとなるケースが多い。こうした状況が変わってきたのは、診断機器が発達し、異常が発見されやすくなった比較的最近のことだ。また、肝細胞がんは発見が遅くなる傾向にあることから、肝臓の機能を保つためには切除が難しい場合が少なくなく、ラジオ波焼灼療法などの登場により、やっと治療法が確立されてきたところなのである。
 肝細胞がんは、再発率が非常に高く、肝硬変を持つ患者だと、肝細胞がんの術後1年間で20~25%が再発に至る。運良く早期のステージⅠで発見された場合でも、5年生存率は50%程度。さらにステージⅢまで進行が進むと約20%まで低下してしまう。
 肝細胞がんの原因は、ほとんどがC型肝炎かB型肝炎である。これらの肝炎ウイルス感染は、集団予防接種などの注射器の使い回しや、非加熱血液製剤などとの関連が指摘され、1980~90年代にかけて大きな社会問題となった。特にC型肝炎については、インターフェロンによる治療法が登場するまでは、肝炎が蔓延する時代が続いたのである。その後、さまざまな治療法が開発され、蔓延時代は終了したものの、現在でも約150万人のウイルス感染者がいるとされる。肝炎ウイルスに感染した場合、その多くが持続疾患となり、徐々に慢性肝炎、肝硬変、そして肝細胞がんへと進行していく。

 

 

早期発見、持続管理のため
地域との協業を進めていく。

_B0558 肝疾患の特徴から見ると、単に疾患を治すだけでなく早期発見が非常に重要である。また、たとえ肝細胞がんを治療したとしても、基礎疾患としてウイルス性の慢性肝炎や、肝硬変を抱えている場合がほとんどであり、治療後の肝機能の低下も考えられることから、持続的な管理が必要となってくる。
 加えて、肝疾患は、ウイルスといった外的要因とともに、生活習慣との密接な関わりが大きく叫ばれている。アルコールの過剰摂取、過栄養などである。
19007 こうした肝疾患に対し、生活習慣の見直しや早期発見を促すとともに、持続的な管理を行うのは、専門医だけではできない。地域住民の日常生活と身近に接し、異常にいち早く気づき、きめ細かな継続管理を行うことができる、かかりつけ医の存在が不可欠だ。<かかりつけ医>と専門医、両者の視点で患者をしっかりと見守ることが大切なのである。
 チーム医療をはじめとして、院内の機能強化を進めてきた山田部長も、今後はこれまで以上に地域との連携を深めていきたいと考えている。「すでに診療所の医師の方々を招いた勉強会などを開催していますが、こうした活動を通じて、かかりつけ医の先生に、肝疾患に関する最新の情報をもっと広く発信していきたい」と話す山田部長。リスクを抱えた地域住民、あるいは、患者を、かかりつけ医と専門医が一緒になってきちんと見守っていく。その体制をどう作り上げるか。安城更生病院消化器内科は、院内だけでなく地域で協業するという次のステージに向けて、新たな歩みを始めている。

 

 


 

column

コラム

●<消化器>は肝臓・胆嚢・膵臓などの臓器と、食道・胃・大腸・小腸などの消化管から構成されている。それぞれが専門特化された分野であり、疾患の診断や治療には高度な専門技術が求められるとともに、医療ニーズも非常に高い。安城更生病院の消化器内科は、そうした専門性を融合させ、広くて深い診療体制を築き上げてきた。

●また、消化器内科チームは、外科とも定期的に合同カンファレンスを実施。患者の治療方針について活発な意見交換がなされている。あわせて、現在では内視鏡下のがん治療が内科で行われ、外科でも術前・術後の化学治療が実施されるなど、内科・外科を区別する境界は少なくなってきている。すなわち、安城更生病院では、消化器内科において、円滑にチーム医療が展開されているだけでなく、内科と外科がそれぞれ持つ特長や強みをうまく活かした<ハイブリットな医療>が行われている。

 

backstage

バックステージ

●<沈黙の臓器>と呼ばれる肝臓は、何より予防が大切だ。そして、その前提となるのが毎年1回、健康診断を必ず受けることである。最近では、インターフェロン治療が効かない患者にも使える新薬が開発されるなど、医学の進歩は目覚ましいものがあるが、こうした治療の大前提となるのが、早期発見である。だからこそ、生活者自身も肝疾患の正しい知識を身につけることが大切だ。


●安城更生病院では、かかりつけ医と専門医の両者の視点から、地域の患者を見守っていこうと力を入れている。だが、患者が健診などを自発的に受けようとしなければ、せっかくの高い診断能力や最新の医療も宝の持ち腐れになってしまう。アルコールの過剰摂取や肥満による脂肪肝が肝細胞がんの原因となるケースもあり、患者側も肝疾患への意識を高めていく必要があるといえるだろう。

 


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