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病院を知ろう

世界の最先端を展開する
大垣市民病院の<遺伝子>。

 

 

大垣市民病院


大きな可能性を秘めた
アブレーション治療を追求し、
不整脈で苦しむ患者を救う。

main

大垣市民病院のある大垣市は、岐阜県南西部にある人口約16万人の岐阜県第2の都市。
この一地方都市の市民病院で、世界でも最先端の治療が行われているといったら驚くだろうか。
かつては治らないといわれた不整脈。その治療に絶大な効果を発揮するアブレーション治療を武器に、不整脈治療の最先端に果敢に挑戦する、大垣市民病院循環器内科に迫った。

 

 

 

 

 

世界的権威と共同で行われる
最先端の不整脈治療。

 930028 ある日の午後、ここ大垣市民病院のカテーテル室で、世界でも例のないアブレーション治療(※1)が行われた。患者の疾患名は「左脚前枝型脚枝心室頻拍」。不整脈の一つである心室頻拍(※2)のなかでも稀なもので、それが、心筋梗塞後の心臓に合併したという非常に珍しい症例だった。
 この難しい治療を担当するのは、同院循環器内科の森島逸郎医師。そして傍らには、同院関係者ではない医師の姿があった。治療中、森島は幾度か手を止め、その医師に助言を求める。すると、彼が治療の方向性を提案、森島からも意見を出しつつ、一緒に治療を進めていく。3時間後、治療は無事終了。2人はようやく笑顔を見せた。
 その場にいた医師の名前は野上昭彦。筑波大学 循環器内科学講座の教授であり、不整脈治療における世界的な権威だ。今回の治療例が過去に報告のない稀なケースであったため、森島が、不整脈治療に関して豊富な知識と経験を有する野上教授を招聘、共同で治療にあたったのだ。925044「野上先生に来ていただいたのは、患者さんの安全を担保した上で、最先端の治療に取り組むため。そのことで、考えうる最高の治療を患者さんに提供できます」(森島)。難易度の高い不整脈治療を安全に実施できる大垣市民病院には、その評判を聞きつけて、同院が担う岐阜県西濃地区を超え、東海3県、さらには滋賀県の一部からも患者が集まる。また他院で治らなかった患者が紹介されることもあるという。

※1 アブレーション治療とは、カテーテルを足の付け根などの太い血管から入れ、心臓内の不整脈の原因部分を高周波電流で焼き切る治療法のこと
※2 心臓下部の心室に由来する不整脈で突然死の原因になり得るもの

 

 

不整脈の救世主、アブレーション治療。

930021 そもそも不整脈とは、心拍数やリズムが一定でない状態のことを指す。心臓を動かす電気信号の発生や通り方が異常になることで起こり、命に危険を及ぼすこともある。
 大垣市民病院では、患者それぞれの症状や心臓の状況に応じて、オーダーメイドで、最適な治療を提供している。治療には、投薬治療、アブレーション治療、デバイス治療(ペースメーカー、植込み型除細動器(※1)などの器械(デバイス)を胸部に植え込み、異常な電気信号を制御する治療)などがあるが、特にアブレーション治療に関しては、保険適応になる前から取り組んでおり、現在までに、2100例、心房細動(※2)だけでも800例(平成26年現在)を超える実績を残している。
 不整脈治療のスペシャリストである森島は、このアブレーション治療が今後ますます重要になると語る。理由は、不整脈で最も多い心房細動を根治できるため。さらに、これから高齢化がいっそう進むことを考えると、年齢に従って発症率の上がる心房細動の患者は、ますます増えることが予想されるのだ。
 「とはいえ」と森島は言う。「アブレーション治療が心房細動にまで適用されるようになったのは、ここ10年あまりのこと。治療は未だ発展途上で、可能性を突き詰めるところまではいっていません」。可能性を追求するためには、常に新しい情報を得ることが必要だと強調する森島は、ほぼ毎年、ハートリズムソサイエティという世界最大の不整脈学会に参加するほか、著名な医師を病院に招いたり、治療の見学希望者を国内外問わず受け入れることで情報交換を図っている。そうした交流により、森島は世界的なネットワークを構築、不整治療の最前線に我が身を置き続けている。

※1 心室頻拍などの致死的不整脈を止め、心臓の働きを回復する補助人工臓器
※2 不整脈の一つ。正常なリズムで動いていた心房が変調を来たし、細かく収縮(細動)した状態を指す。脳梗塞の原因になるといわれている

 

 

大垣市民病院で受け継がれる伝統。

930008 苦しむ患者を救うため、あらゆる治療法のなかから、最適なものを選ぶ。そのために、患者の安全を守りつつ、常に最先端の治療に取り組んでいく。この大垣市民病院の姿勢は、今に始まったことではない。東海地方で最も早いCCU(冠疾患集中治療室)の設置、全国トップクラスのPCI(※1)施行症例数、世界初の人工心肺装置を使用した劇症型心筋炎(※2)の救命――。循環器内科においても、その姿勢は、大垣市民病院の伝統として、脈々と受け継がれてきた。
 森島は言う。「研修医としてここに来た当時、現病院長の曽根孝仁先生が治療の第一線に立たれ、急性心筋梗塞の治療、PCIで日本の最先端を走っていました。大垣初のアブレーション治療も曽根先生です。実際に曽根先生とともに治療にあたり、常に最先端の治療に挑戦する姿に感銘を受け、『自分もこうありたい!』と強く思ったんですよ」。
DSCF2712 その後一旦、大垣市民病院を離れた森島だったが、「曽根先生のもとで不整脈治療を確立しよう」と思い、平成13年、再び同院に戻ってくる。そんな森島に、曽根院長は自らの後継として、治療のほとんどを任せるようになる。森島もその期待に応えるかのように自己研鑽に励んでいく。「新しい治療法の場合、教科書がないので、経験豊富な医師の手技を直接見聞きすることが非常に重要」。そう話す森島は、平成17年にはロサンゼルスの病院に留学。アメリカ、ドイツ、イタリア、台湾などの海外施設にも積極的に足を運んだ。病院もそんな森島を積極的にバックアップ。知識と経験を蓄えた森島は、大垣市民病院の伝統を受け継ぐ一人となっていく。

1 PCI(冠動脈形成術治療)とは、カテーテルを使用して、狭くなった冠動脈の血管を内側から拡げる治療法のこと
※2 心筋炎(心臓を動かす筋肉が炎症を起こしたもの)のなかで、死に至るほど急激な病状変化を示すもの

 

 

世界の最先端を次世代へと繋ぐ。

930079 平成26年10月9日、森島は「日本不整脈学会 カテーテルアブレーション関連秋季大会2014」において、特殊な不整脈患者のアブレーション治療のライブ中継に臨んだ。およそ1000人の来場者がモニターを見守るなか、座長である野上教授や会場の医師たちと意見を交わしながら、治療は進められた。中継は、アブレーション治療の発展にとって非常に有意義なものとなり、果敢に新しい治療に挑戦する森島の姿は、会場内の後輩や若い医師におおいに刺激を与えるものとなった。
 その森島が現在、不整脈治療の発展とともに力を注ぐのが後進の育成だ。「後輩たちには、思考能力を養うため、学会発表を強く求めています。たとえば、アブレーション治療では、診断が非常に重要。個々の症例において、不整脈の原因がどこにあるのかという診断を確定して、初めて治療する対象が決まるわけです。診断を行うには、症例ごとに自らの頭で考え、判断する能力が不可欠です。人前で発表するとなれば、嫌でもいろいろ考えますから」。
 自身を高めることを怠ることなく、後進の教育に励む森島。その目線は院内に留まらない。「今まで私は、病院、大学医局の垣根を超えて、本当にいろいろな方に教えてもらいました。私もそういった先生方のように常にフェアで、オープンな姿勢でありたいんです」。そう力強く話す森島は、大垣市民病院の伝統を受け継ぐ者として、ここ大垣の地から、常に新しい治療に挑み続ける。ありふれた地方の一都市にある大垣市民病院。だがここには、世界の最先端がある。

 

 


 

column

コラム

●大垣市民病院循環器内科の最先端の治療を支えているのが、「非常にレベルが高い」と森島が評する看護師、放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士などのコメディカルスタッフだ。たとえば、アブレーション治療では、心電図の検査や心臓を3次元に表示する機器の操作などが欠かせない。彼らは最先端の治療を支える一人として、スペシャリストの自負を持ち、日々研鑽に励んでいる。

●加えて、大垣市民病院が各科レベルの高い総合病院だということも同科の強み。患者が循環器以外の合併症を起こしても、直ちに同院の誇る専門医たちに診てもらうことができる。

●それをさらに強めたのが、平成26年に完成したハイブリッド手術室。カテーテルを使う内科的治療と外科手術を一つの部屋で行えるハイブリッド手術室の存在により、高いレベルにある内科と外科が協業、さらに高度な医療を提供している。

 

backstage

バックステージ

●岐阜県西濃地区の住民は、大垣市民病院において、最先端の不整脈治療を受けることができる。しかし、それがどの地域でも可能かというとそうではない。病院が最先端の治療を提供できるか否かは、一部の大学病院などを除いて、個々の医師の能力や努力、またそれをハード・ソフトの両面で支える病院の姿勢などに頼っているのが現状だ。

●本文で述べたように、森島が大垣の地で最先端の治療を追求できるのは、大垣市民病院の伝統とサポート体制に負うところが非常に大きい。
 そうした病院のある地域によって、住民の受けられる医療レベルに差が出ないよう、今後は、医師が最先端の治療を学ぶことができる環境、病院がそれを提供できる仕組みを、行政を含めた地域で作っていくことが求められているのではないだろうか。

 


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