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病院を知ろう

肺がんとの闘い。
最新の放射線治療の導入を契機に
地域で完結する医療をめざす。

 

 

岐阜県立多治見病院


闘い続ける岐阜県立多治見病院のがん治療。
集学的アプローチを核に、広域からの患者を見つめ、
地域を見つめる。

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肺がんは、日本人のがんによる死亡者数で、男女ともにトップを占める。
換言すると、早期発見にも、また、治療にも高度な医学水準が必要とされるといえよう。
その肺がん治療に、岐阜県立多治見病院は、真っ向から挑戦し続けている。それは長い年月をかけたものであり、今現在も闘いは続いている。
多治見病院が、がん治療で見つめているのは何か。その姿を追う。

 

 

 

 

ノバリスの導入という選択。

  Plus顔写真1平成25年4月、岐阜県立多治見病院(以下、多治見病院)に、がん治療における世界最高レベルの放射線治療装置が導入された。ノバリス(Novalis Tx※)である。この装置を簡単にいうなら、病巣に合わせ放射線量の強弱を調整して照射し、がん細胞を叩くというものだ。
 放射線治療というと、副作用の強さを危惧する人も多いだろう。それは、これまでの放射線治療装置では、病巣に対し広く浅く照射していたため、がん細胞だけではなく、正常な細胞まで傷つけてしまうからである。
 それに対してノバリスは、コンピュータによるシミュレーションが用いられ、複雑な形の病変でも瞬時にその形を読み取り、なおかつ、腫瘍の動きにも合わせ、多方向から強弱をつけた放射線を集中的に照射する。つまり、正常な細胞の損傷を最小限に抑えつつ、病変のみに高線量を照射することが可能なのだ。
10048 多治見病院・高精度放射線治療センター長である林 真也医師は言う。「放射線治療装置の初期段階は、上下左右からの二次元照射でした。それが10年以上前に、立体的に放射線をかける三次元照射の誕生によって、放射線治療は大きく進展しました。さらに、腫瘍の動きに合わせ照射するという、革新的な四次元照射が生まれています。これによって、放射線治療は格段の進歩を遂げています」。その四次元照射も可能な最先端装置が、ノバリスなのである。
 多治見病院では、ノバリス導入以来、さまざまながん治療を展開しているが、なかでも、腫瘍の動きが多い肺がん治療には大きな有用性を示す。今回はその肺がんに対しての同院のアプローチを紹介しよう。

※ 定位放射線治療装置(強度変調放射線治療機能・呼吸同期照射機能搭載)

 

 

がんに対する集学的アプローチ。

  肺がんの治療は、従来から手術、化学療法、放射線治療が三本柱である。乱暴な言い方をすれば、呼吸器内科が診断をして、呼吸器外科が手術し、その後、化学療法か放射線治療が行われるケースが多い。但し、その順番は、腫瘍の進行ステージ、大きさ、そして、患者の年齢や体力によって変わるものであったが、放射線治療が前面に出ることは少なかった。
Plus顔写真3 そうした標準的治療の常識を覆したのが、ノバリスである。四次元照射によって、放射線治療の有用性が大きく高まったのだ。例えば、早期がんであるなら、放射線治療単独でも根治が可能。少なく見積もっても、5年生存率が70%という。
 「以前は、体力的に手術が無理と思われる高齢者には放射線治療を、という考え方がありました。今日でも手術が標準治療であることは大前提ですが、年齢にとらわれず、小さながんにはもう少し積極的に放射線治療を行ってもよい症例もあると、私は思っています。今後、症例を積み重ねることで、手術と放射線治療を横並びに考えられる時代がくるかもしれません」と、呼吸器外科部長の伊藤正夫医師は言う。
Plus顔写真2 但し、こうした革新的な治療においては、集学的なアプローチが必要である。すなわち、各診療科の専門医たちが、自らの領域だけに固執せず一体となることが必須なのだ。
 「それについては自信があります」と呼吸器内科部長の市川元司医師は言う。「自信というより、当院のスタイル。毎週金曜日に呼吸器内科、呼吸器外科、放射線治療科、放射線診断科でカンファレンスを行っていますが、そこでは各科の専門医たちが、互いにプロフェッショナルとして臨みます。例えば、極めて小さな腫瘍の場合、診断がつくのかつかないのか。手術が本当に必要か否か。それとも放射線治療なのか。診断および治療方針に対して、みんな遠慮なく意見を出し合いますね。もちろん、カンファレンスだけではなく、日常的にそうした会話がとても多い。当院に、診療科の壁はありません」。

 

 

限られた医療資源を最大限に。

10075 多治見病院を受診する肺がん患者は多い。多治見市や土岐市、瑞浪市、恵那市、中津川市で構成される東濃医療圏だけでなく、可児市、美濃加茂市や加茂郡といった中濃医療圏の東部、さらには、下呂市金山町(飛騨医療圏)や長野県の南木曽町(木曽保健医療圏)など、実に広域から患者が集まる。その理由は、肺がんを診ることができる医師が極めて少ないからだ。つまり、自然に多治見病院に集まってくる。
 しかし、多治見病院も元々肺がん治療に強かったわけではない。他の地区と違わず、肺がんの医師は少なかった。
 最初の一歩は、10年前だ。呼吸器外科の伊藤医師が赴任した。彼の存在は、多治見病院だけでなく、前述の広い地域で唯一の呼吸器外科専門医。まさに孤軍奮闘、独りで広域圏を支えていたのだ。「でも私一人では、1年間でできる手術数は限られます」と振り返る顔には、悔しさが滲む。
 そこに2年前、援軍が加わった。呼吸器内科の市川医師が赴任。「進化を続ける放射線治療を活かすためにも、診断の精度がとても重要になっています。2年間で、当科の医師の診断レベルを一定水準にすることができました」。
10054 そして、平成26年には、高精度放射線治療センター長として放射線治療医の林 真也医師を迎える。「ノバリスがあるだけでは、意味がありません。医師がいるだけでも動きません。この最先端治療装置を活かすには、医学物理士や診療放射線技師、そして、がん治療専門の看護師など、<専門家>の集団があってこそ、最善の治療を提供することができます。当センターは充実したチーム医療で、ノバリスの機能を使い切っています」。
 多治見病院は、一足飛びに現在の機能を有したわけではない。だが、ゆっくりではあったが、確実に歩み続けてきたのだ。

 

 

医学の進歩と、賢い活用。

Plus顔写真4多治見病院は、地域がん診療連携拠点病院である。その役割は、継続的・全人的な質の高いがん医療の提供体制確保、地域医療機関との緊密な連携に基づく医師等への研修機会提供、地域医療機関および住民へのがん診療の情報提供がある。
 多治見病院 原田明生病院長は語る。「拠点病院としての責任と、地域から期待される医療需要に応えるために、当院はこれまで医師の拡充、医療スタッフの育成、そして、ノバリスをはじめ先進医療機器の導入など、一歩一歩前進してきました。平成25年に開設した高精度放射線治療センターも、がん治療の中核として設置したものです。この当院にあるすべての機能を、広域圏の皆さまにいかに活用していただくか。それがこれからの大きな課題です」。
 ノバリスは高価な医療機器である。どこの病院もが整備できるわけではない。また、林医師が言うように、機器だけがあっても意味はない。「私は、放射線治療という医学の進歩を、当院のためだけにという発想ではなく、地域に必要という観点から取り入れてきました。なぜなら、当院には広域から患者さんが訪れますが、その一方で、特殊な治療は名古屋市へという流れもあるのです。しかし、がんは継続治療であることを考えると、やはり地域で完結する医療体制を築きたい。そのためには地域連携の強化を図らなくてはなりません。うれしいことに、当院のがん治療に関わるすべての医師、職員は、真剣に地域を見つめています。他の医療機関の皆さんもきっと同じでしょう。その力を結集し、さまざまな医療資源を地域で賢く、上手に、効率よく活かす。その知恵を、地域の皆さんと絞っていきたいと考えます」。原田病院長は熱い思いを語った。

 

 


 

column

コラム

●多治見病院のがん治療を紹介する上で、欠かせない存在が二つある。

●一つは、緩和ケアチームである。緩和ケアとは、がん患者とその家族の持つ身体的・精神的・社会的な苦痛に対して、その痛みや症状を和らげるためのもの。チームは医師、看護師、薬剤師をはじめ、多職種で編成されており、支援活動は診断後すぐにスタート。患者と家族の生活の質の向上と、より良い治療をめざし、多様な面でのサポートがなされる。

●もう一つの存在は、地域医療連携センターや地域の診療所である。がん治療は、同院での治療が終了しても、継続的な医学管理を必要とする。そのため、在宅医療への橋渡しを地域医療連携センターが丁寧に行っている。この地域の診療所のレベルは高く、日常的な管理は高水準に保たれている。もちろん、急変、あるいは重篤な状態になったときは、同院が対応。チームプレーでがん患者を守り続けていく。

 

backstage

バックステージ

●今日、がん治療の進化は著しい。早期で発見できれば完治が望めるもの、また、生存率が大幅に伸びたものもある。そうした医学の進展による成果を、いかに地域医療に取り入れるかが大切だ。

●しかし、その成果をすべての地域で得ているかというと、必ずしもそうではない。医療過疎地、また、病院はあっても医師をはじめとする医療従事者不足の地域もある。東濃医療圏もその一つであろう。

●その問題をどう解決するかというと、原田病院長が語るように、個々の医療機関が単独で頑張るだけではなく、地域の医療資産として、すべての医療機関の能力を繋ぐこと。すなわち、多治見病院と地域の病院と診療所という組み合わせで、広域圏をカバーすることが必要になろう。

●現在は、東濃可児地域にある8病院での対話も始められた。みんなで知恵を絞り、いかに有効に医療資源を活かすか。東濃医療圏の連携がより強化されることを願う。

 


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