8,431 views

病院を知ろう

地域に必要な医療を見つめ、
自らの姿を変えた渥美病院。

 

 

渥美病院



渥美病院のなかに生まれた「3つの空気感」。
そこには、地域が求める新たな医療のカタチがある。

main

渥美半島唯一の急性期病院として、地域に暮らす住民の命を支えてきた渥美病院。
そんな地域医療の砦が今、大きくその姿を変えようとしている。
平成26年10月に「地域包括ケア病棟」、11月には「療養病棟」と、新たな病棟を2つ開設したのだ。
長らく急性期病院としてあり続けてきた渥美病院の自己変革の裏側には、
地域に必要な医療を担い続けるという強い意志があった。

 

 

 

 

 

病棟ごとに雰囲気が一変。
従来とは違う「3つの空気」。

  渥美半島のほぼ中央に位置する半島唯一の急性期病院、渥美病院。入院病棟を歩いてみると、フロアによって流れる空気が異なることに気づく。
 まずは積極的な治療が必要な患者が入る<急性期病棟>。病棟内を医師や看護師が病状確認、採血や点滴などの処置、家族への病状説明等々。すべてが迅速、的確に行われ、病棟全体が、張りつめた緊張感ある空気に包まれているようだ。Unknown
 次に向かったのは<地域包括ケア病棟>。何やら活気づいた雰囲気があり、よく見ると患者が病室とリハビリ室を行き来し、懸命にリハビリを行っている。そして、その様子を注意深く見つめる看護師、理学療法士や作業療法士たち。患者と、それを支えるスタッフの熱気に満ちた空気があふれている。
看護・病棟_40 そして、三つ目の<療養病棟>は、空気が一変する。足を踏み入れただけで、穏やかに漂う空気を感じるのだ。ゆったりとした口調で患者にやさしく声をかける看護師。その言葉に笑顔でうなずく高齢の患者。和やかで落ち着いた時間が流れている。
 渥美病院のなかに流れる「3つの異なる空気」は、どうして生まれたのか。この疑問を解くカギは、地域の要求に応えるべく進められてきた、渥美病院の院内変革にあった。

 

 

平成26年秋に誕生した
地域包括ケア病棟と、療養病棟。

 渥美病院は、地域の中核病院として地域医療を守り続けてきた急性期病院だ。急性期とは、病気を発症した直後で、手術をはじめとする積極的な治療が必要な時期を指す。同院は救急車搬送件数1914件、全身麻酔手術件数321件(平成25年実績)を数えるなど、二次救急への対応とコモンディジーズ(地域に頻回に発症する一般的な疾患)への対応能力を有し、316床すべてを急性期病床として、田原市全域と豊橋市南部の生命の砦の機能を果たしてきた。Plus顔写真1
 そんな同院に平成26年秋、新たに<地域包括ケア病棟>と<療養病棟>が開設された。
 まず地域包括ケア病棟とは、平成26年度から採用された新しい病棟区分である(詳しくはコラムを参照)。急性期を脱し回復に向かう患者の在宅復帰を促すほか、自宅や施設で急性増悪した患者も受け入れる。地域包括ケア病棟を統括する星野幸枝看護課長は、「スタッフの視点は、患者さまの家庭復帰にあります。ご自宅はどうなっているのか、家庭環境がどうなのか。そんなことを常に意識して、ご自宅に戻るために必要な<患者さまが自分でできる方法>を、患者さまと一緒になって考えていきます。患者さまに寄り添うという言葉がぴったりの病棟ですね」。
Plus顔写真2 一方、療養病棟は、急性期の治療は終えたものの、依然として医療依存度が高く、退院が難しい患者を受け入れる。多くは高齢者であり認知症を抱える人も少なくない。こちらを担当する横村和博看護課長は、「患者さまのご家族のなかにも、毎日のように訪問される方もいれば、さまざまな事情から足が遠のいてしまう場合もある。患者さまとそのご家族、それぞれの背景や要望を踏まえた関わり方が重要だと痛感しています」と語る。
 病棟を再編し、病院のありようを変えた渥美病院。副院長の三谷幸生医師は言う。「地域の特殊性から、これまで当院は、急性期病床に、急性期を過ぎた患者さまも混在させざるを得ませんでした。それを今回、病床の種類を明確に分けたことで、急性期病床は従来からの能力を充分に発揮できるようになりました。また、回復期や療養期の患者さまにも、その時期に必要な医療を適切に提供することが可能となったのです」。

 

 

改革へと歩を進めた
渥美半島の特別な事情。

 三谷医師が言う「地域の特殊性」とは何か。Plus顔写真3
 前述の通り、渥美病院は渥美半島唯一の急性期病院である。足下の田原市の人口は約6万5千人。豊橋市南部を含めれば診療圏の人口は約10万人に及ぶ。もし心肺停止や脳卒中など一刻を争う事態が発生した場合、渥美病院が救急患者を受け入れられなければ、さらに車で20分以上先にある豊橋市民病院に行くしかない。渥美半島に暮らす住民にとって、渥美病院の急性期の機能は、文字通りの生命線だ。
 また、同院の西に延びる渥美半島の先に目をやると、そこには入院病床が一切ないという「空白地帯」が続いている。すなわち、患者が渥美病院で急性期を脱しても、回復期や療養期を任せられる病院がないという厳しい現実だ。加えて、医療依存度の高い患者を受け入れられる介護施設も非常に少ない。そのため、住民からは、「できるだけ長く入院させてほしい」という同院への要望が根強く存在する。
手術_36 この地域に急性期機能を存続させるためには、集中的な治療によって在院日数の短縮化を図り、急性期病床を効率的に活用することが必要だ。だが一方で、渥美病院では「出口のない患者」のために、急性期病床で回復期や療養期の患者を診続けねばならなかった。このジレンマを解決するためには、今回の渥美病院の変革は、いわば必然の成り行きだった。

 

 

地域の求める医療をめざし
新境地へと歩みを始める。

Plus顔写真4 渥美病院では、新たな機能の病棟を設置する準備のために、一時期、病棟の一部を休止したが、他にも無視できない理由があった。医師確保が進まず、一部診療科で入院制限をかけざるを得なくなったために入院患者数が減少したことと、急性期7対1看護体制を維持する上で、看護師の夜勤要員の確保が難しくなったためである。
 そうしたなか、平成25年8月、渥美病院で<病床再編検討会議>プロジェクトが始動した。プロジェクトの議長であり、変革の指揮をとったのが三谷医師だ。彼は、急性期病床だけではなく、病院の実情に合わせ、急性期、回復期、療養期の患者を広く受け入れる、<ケアミックス病院>へと舵を切るべきだと主張した。「病院のあり方を見つめ直そうという機運は、院内で自然発生的に生まれていました。そのきっかけを、院長がプロジェクトとして与えてくれたのです」と三谷医師は言う。
看護・病棟_68 院長の長谷 智医師は語る。「プロジェクトチームは、地域から我々が何を求められているのか、真剣に考え抜いてくれました。その結論に、職員から批判的な意見はほとんど出ず、充分に理解してもらえたと思っています」と微笑む。さらに、「病棟を再編するにあたり、当初は、回復期リハビリ病棟にしようと考えていました。しかし、地域の状況をリサーチすると、地域包括ケア病棟が担うとされている医療の方が、より地域に必要とされているのではないか、という結論に至ったのです。同じ回復期の患者支援でも、当院の使命に合致しているのは地域包括ケア病棟だ、と。地域の要望をしっかり見つめた、我々の答えです」と言葉を続けた。
 渥美半島の住民が求める医療を提供するため、自らを変えた渥美病院。すでに豊橋市民病院や名古屋市の病院などから、同院への転院を予定している患者もいるという。そうした他病院との連携強化、医療の質の担保、さらに、地域の在宅医療を支えるための訪問看護の強化など、すでに今後の課題も明らかになってきた。
 この地域にあるべき理想の病院像を見据え、渥美病院はこれからも自己変革を続けていく。

 

 


 

column

コラム

●「地域包括ケア病棟」とは、平成26年度の診療報酬改定で亜急性期病棟の廃止が決定したのに伴い、これに代わり新設された病棟区分。その役割には、①急性期病床からの患者の受け入れ、②在宅等にいる患者の緊急時の受け入れ、③在宅への復帰支援、の3つがある。

●病棟内では、あらかじめ作成した在宅復帰支援計画に基づき、医師、看護師、リハビリスタッフなどが協力し、医学管理、看護、リハビリのほか、在宅復帰に向けた相談や準備などが実施される。

●リハビリを行う病棟には他に「回復期リハビリテーション病棟」がある。両者の大きな違いは、「回復期リハビリテーション病棟」が、入院できる疾患が、脳卒中や大腿部骨折などに限定されていることと、「地域包括ケア病棟」が、在宅療養中の患者が重篤な状況に陥った場合に対応できる、二次救急相応の急性期治療能力を有していることにある。

 

backstage

バックステージ

●都市を離れた郊外地域では、特殊な事情が多々見られる。本文で紹介したとおり、渥美半島にもそれがあり、渥美病院は、やむを得ず、急性期病床のなかに、回復期や療養期の患者が入り交っているという「混然一体」の状況が続いてきた。

●この状態は医師の能力発揮にも影響を与える。急性期の医師でありながら、急性期に特化することができないのだ。例えば、循環器科医師は、心臓カテーテル検査・治療を高度なレベルで行う能力を有するが、それだけに集中できないでいた。

●折しも地域包括ケア病棟が新設され、地域における医療提供の幅が拡がった。そこで渥美病院は、急性期と慢性期患者が混在する「ごった煮状態」を整理すべく、大きな舵を切ったのである。医師も急性期担当と慢性期担当とが分かれ、それぞれが自らの能力を充分に発揮できる環境になった。

●この変革は、患者にとっても、家族にとっても、そして渥美病院にとっても最善の選択といえよう。

 


8,431 views