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病院を知ろう

地域包括ケア拠点病院での
医師研修を通じて、
中京病院がめざすもの。

 

 

中京病院



「中京病院にいるだけでは見えないものが知りたい」。
退院後を見据えた医療を志す研修医2人が、
地域包括ケア推進事業の最前線で学ぶ。

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独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院では、平成26年10月から、同じ名古屋市南区にある笠寺病院で研修医教育を行う新たな研修プログラムをスタートさせた。
来るべき<2025年問題>を見据え、時代に即した医師教育に取り組む同院。
今回の研修は、総合性を持つ医師の育成の場となるだけでなく、地域包括ケアの実現に向けた大きな試金石となりそうだ。

 

 

 

 

 

在宅の現場を学びたいという、
研修医2人のそれぞれの思い。

 Plus顔写真2「院内の研修だけでは、患者さんの退院後の姿が見えてこない。それが、今回の研修に手を挙げた動機です」。こう話すのは、初期研修2年目の小野田 統医師だ。
 独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)中京病院では今年(平成26年)秋から、医師研修プログラムの研修先の一つとして、同じ名古屋市南区にある笠寺病院を組み入れ、新たな地域医療研修を開始した。笠寺病院は、愛知県が進める在宅医療連携拠点推進事業(詳しくはコラム参照)の拠点病院の一つ。中京病院など高度急性期病院を退院した患者を受け入れ、継続治療を提供するとともに、在宅療養支援病院(24時間体制で在宅療養を支える病院)として、訪問診療にも力を注ぐ病院である。この院外研修(期間は4週間)に希望者を募ったところ、自ら手を挙げたのが小野田医師と、もう一人、加藤さや佳医師だった。
 小野田医師の将来の希望は、神経内科医として認知症に関わることだ。すでに初期研修の一環として福井県高浜町にあるJCHO若狭高浜病院と和田診療所へ赴き、患者の退院後を理解するため在宅医療の現場を見学した。「診療部分だけでなく、住環境やご家族を含めた患者さんの生活を見る大切さに気づかされました。今回の研修を通じ、その気づきをさらに深めたい」と期待を寄せている。「当院を退院した患者さんがその後、どういう治療を受け、自宅に戻った後、どのように生活しているのかを学びたい。ご家族や周囲の方々との関係性を含めて、広い視野で医療を提供するための基盤を作りたいと考えています」。
140030 一方、加藤医師が希望するのは呼吸器内科だ。大学時代に緩和ケア病棟での研修があり、「点滴をできるだけ少なくした方がいい」など、急性期とは違う治療の考え方に触れ、強い興味を持った。「緩和ケア病棟での研修の影響もあり、急性期から慢性期まで幅広く関わることができる呼吸器内科がいいと思いました」。今回の研修では、在宅における緩和ケアの治療方法などを実際に見てみたいと話す。「病院内の疼痛管理では、薬が飲めなくなった場合、持続的に注射を行いますが、おそらく持続的な皮下注射や点滴は自宅では難しい。このあたりを何で代用して対処しているのかを知りたいです」。

 

 

時代が求める医師を育てるため
改革を進める研修プログラム。

Plus顔写真1 南区の在宅医療連携拠点推進事業における研修を企画したのが、中京病院の臨床研修センター長・生涯教育センター長の露木幹人医師である。同院ではこれまで、研修医が地域医療を学ぶ場として、遠方の過疎地域であるJCHO秋田病院やJCHO若狭高浜病院を研修先として用意してきたが、さらに今回、地元・南区での地域医療研修をスタートしたのである。「研修においては、院内だけで学ぶのではなく、<場を変えた学び>が重要です。とくに当院を退院した患者さんのその後の治療過程を知り、ご自宅での療養生活や多職種連携を学ぶ意義はとても大きいと考えました」と露木医師は話す。その狙い通り、同院の研修医は、笠寺病院において訪問診療を体験し、在宅療養について理解を深めると同時に、訪問薬剤師や訪問リハビリテーションスタッフなどとのチーム医療に参加。また、笠寺病院の医師としてカンファレンスに参加し、中京病院から患者を受け入れる側の立場をも考える。「高齢患者が増えるこれからは、退院後の<患者の生活>をイメージできないと、高度急性期においても適切な治療を提供できないと考えています。今回は限られた希望者だけを対象にしましたが、来年(平成27年)度からは研修医全員が参加できるプログラムにしたいと考えています」(露木医師)。140004
 名古屋市南区は、市内でもとりわけ高齢化が進んでいる地域だ。そのため、中京病院では、慢性疾患を抱える高齢者に柔軟に対応できる医師を育てようと、専門性を高めるだけでなく、総合的な視点を養うための医師教育に早くから力を注いできた。「研修医は各診療科を回りますが、科の指導医たちには『特殊な技術ではなく、医師として知っておくべき基本を教えてください』とお願いしています。初期研修の2年間を修了したとき、基本的な診療能力が身についているように、と考えているからです」と露木医師。今回、笠寺病院での研修を決めたのも、こうした総合性を持った医師育成の絶好の場だと考えたからだ。「研修期間中は私も笠寺病院へ足を運び、状況を確認しながら一緒に学び、研修内容をより良いものに発展させていきたい。また、今回参加する2人には、自らの経験に留めるのではなく、院内の多くの人たちにフィードバックしてもらうつもりです」。超高齢社会を支えるための総合性を持った医師育成に向けて、同院では研修プログラムの改革を進め、より良い医師を輩出していこうと熱心に取り組んでいる。

 

 

2025年に向けて、
大きく変わろうとしている日本の医療のあり方。

140034-2 超高齢社会に突入した日本の医療において、大きな潮目となりそうなのが<2025年>である。団塊の世代が75歳以上の後期高齢者となり、およそ2200万人、国民の約4人に1人が後期高齢者となる時代が間近に迫っている。これまで国を支えてきた団塊の世代がすべて給付を受ける側に回り、医療、介護、福祉サービスへの需要が急増。社会保障制度崩壊の危険性が強く叫ばれている。
 そこで、国が推進するのが<地域包括ケアシステム>の構築だ。これは、それぞれの地域を中学校区ほどの小さな単位に分け、住まい・医療・介護・予防・生活支援を一体的に提供するシステムを作り上げること。重度の要介護者となっても人生の最期まで住み慣れた地域で暮らせる社会を実現させるのが目的だ。
 地域包括ケアシステムの構築をめざし、医療制度のあり方もドラスティックに変化しようとしている。病院完結型から地域完結型へと医療提供の仕組みが変わり、さらに、在宅医療・介護を連携させる仕組み作りが急務の課題である。その仕組みを面的に整備するため、愛知県が進めているのが在宅医療連携拠点推進事業なのである。

 

 

単に医師を育成するだけでなく、
地域との強固な連携をめざして。

140081 地域包括ケアを推進する事業の最前線で地域医療を学ぶ研修プログラム。これは、医師教育において非常に有意義な試みだが、「単に医師教育だけを目的にしているのではない」と、露木医師は語る。「どの医療機関においても決して医療資源が潤沢にあるわけではありません。当院の医師が地域という場に出ることによって、地域の医療全体を直接的に支援できる可能性が生まれます」。
 今後もこういった研修が継続的に実施されれば、研修先の病院にとっても安定して医師の供給を受けることができる。それは、慢性的な医師不足に悩む中間的な病院(急性期以降、回復期、療養期までを担う病院群)にとって頼もしい援軍になることは間違いない。さらに中京病院は、地域包括ケアの推進事業に関わることで、地域の病院や診療所との連携強化も図っていく考えである。高度急性期病院と中間的な病院の医師が交流し、B1012お互いの理解を深めていけば、顔の見える地域医療を作り上げる大きな原動力となっていくはずだ。
 平成26年4月、JCHOを母体に新たなスタートを切った中京病院。その使命は、地域医療の要となることである。地域に根差した基幹病院が、地域包括ケアシステムの推進事業とともに歩み、そして地域医療を繋いでいく。そんな全く新しい試みが、これから本格的に始まろうとしている。

 

 


 

column

コラム

●愛知県の在宅医療連携拠点推進事業は、在宅医療の領域で多職種連携を進める取り組みである。市町村や地区医師会を拠点とし、地域の医師、薬剤師、看護職員、ケアマネジャーなどの協業により、在宅医療・介護を連携させる仕組みの整備をめざす。名古屋市内では南区・東区・昭和区の3カ所で、それぞれ医師会が主体となって事業を推進している。

●地域医療連携は、急性期の領域でも進められている。名古屋市南区では、「南区病病連携会」が発足。地域の病院の院長をはじめ、事務長や看護部長などが集まり、地域包括ケアシステムを実現するため、病院同士がいかに連携するか話し合いを始めている。この会議、実は中京病院の絹川常郎院長が近隣の病院に働きかけて実現したもの。絹川院長は「良い結果が出れば周辺の地域にも声をかけていきたい」と意欲を燃やしている。

 

backstage

バックステージ

●今後の日本の医療のあり方について近年、アメリカ発の<Choosing wisely>という概念が注目を集め始めている。これは日本語で<賢い選択>を意味し、当たり前のように行われてきた医療行為を見直し、無駄を排除しようという考え方のことだ。平成23年頃からキャンペーンが始まったアメリカでは、すでに多くの医学会や団体が参加を表明している。

●今後も増大し続ける医療費を削減するためには、無駄な医療行為をなくすことは必要不可欠だ。また、超高齢社会を迎え、<病ではなく、人を診る>全人医療の必要性も増している。退院後の患者のQOL(生活の質)を考えたときには、あえて別の選択肢を選ぶことが正しい方法かもしれない。必要な医療を取捨選択していく。<Choosing wisely>の概念には、日本の医療が考えていくべき事柄が集約されている。

 


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