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病院を知ろう

健康な地域を守る。
キーワードは自立した生活。
西尾市民病院整形外科のアプローチ。

 

 

西尾市民病院


骨折などのケガや関節痛で苦しむ
高齢者に負担の少ない手術を行い、
患者一人ひとりの<人生の質>を守っていく。

main

西尾市民約17万人の命と生活を守る。そのために西尾市民病院は、自院の持つ医療資源を最大限に活かし、がんをはじめ、地域で頻回に発症する一般的な疾患(コモンディジーズ)の治療に幅広く取り組んでいる。
そのなかで今回は、整形外科を取り上げ、高齢者の自立度を高め、患者一人ひとりの人生の質を高めようとする取り組みを追った。

 

 

 

 

 

膝・肩の関節鏡下手術に
積極的に取り組む。

Plus顔写真1 「膝が痛くて歩行がつらい」「肩が痛くて腕を上げられない」。西尾市民病院の 整形外科には、膝や肩、あるいは腰などの痛みを訴える患者が多く来院する。その大半は、中高年から高齢者だ。
 このうち、肩の痛みについて詳しく見てみたい。中高齢者の肩痛の多くは、肩関節周囲炎(いわゆる五十肩)である。だが、なかには肩の使い過ぎや老化によって、骨と骨の間にある腱板が断裂していることもある。腱板断裂と診断されると、まず保存的治療(投薬や注射など)を行い、それでも改善が見られないときは手術が適応される。手術では、以前は肩を大きく切開して断裂部分を縫合していたが、今では関節鏡下手術が主流になってきた。関節鏡下手術は、肩の数カ所を小さく切開し、そこから小さなカメラなどを挿入して関節の内部を見ながら手術をする方法。術後の痛みが少なく、傷跡が小さく目立たない、などのメリットがある。
23037 同院では以前から膝の関節鏡下手術を数多く行ってきたが、近年、肩の関節鏡下手術を積極的に行っている。「大きく切開して手術すると、筋肉や関節がダメージを受けます。また、術後の痛みが強いので、リハビリテーションの開始も遅れ、関節が硬くなったり、筋力が落ちてしまうリスクがあります。その点、関節鏡下手術は痛みが少ないので早期からリハビリテーションを開始できて、術後の回復スピードが劇的に向上します」。そう語るのは、整形外科の犬飼規夫医師(医長)である。犬飼医師は整形外科全般に対応すると同時に、膝・肩関節の手術を専門として研鑽を重ねてきた。同院では、肩の関節鏡下手術を行った患者については、術後7〜14日目から肩を動かす訓練をスタートし、患者の早期退院を実現している。

 

 

複数の疾患を持つ高齢患者を
チーム医療で支える。

Plus顔写真2 同院の整形外科は、犬飼医師をはじめとした専門医5名体制。さらに、関節外科に熟練した医師、関節リウマチに精通した医師の2名を非常勤医師として迎えている。「西尾市民の生活を守る病院として、外傷から慢性疾患まで整形外科全般に幅広く対応できる体制を整えています」と説明するのは、整形外科の齋藤晴彦副院長。平成8年の赴任以来、ずっと同院の整形外科を支えてきた人物である。
 来院患者の特徴は、圧倒的に高齢者が多いことだという。「昔から高齢患者さんが多かったんですが、近年ますますその傾向が強まっています。交通事故や転倒などによる骨折も圧倒的に高齢者が多く、80代、90代はざらですね。70代だと若いなと感じるくらいです」と齋藤副院長は言う。高齢患者を診療する難しさはどこにあるのだろうか。「やはり持病を持つ方が多いところですね。私たちは整形外科医ですが、患部だけを診ればいい、というわけにはいきません。内科的視点を持って全身の症状を23058把握し、必要に応じて内科医に相談しています」と齋藤副院長は言う。また、手術後の管理にも細心の注意を払う。「持病のある方が骨折などで入院してずっとベッドに寝ていると、持病の悪化だけでなく、合併症(床ずれや肺炎、認知症など)を起こすリスクが高まり、ADL(日常生活動作)が著しく低下してしまいます。そうならないように、緊密なチーム医療体制で術後管理を行っています」。たとえば、嚥下機能(飲み込む力)の弱っている患者が入院する場合、同院では言語聴覚士がすぐに介入し、誤嚥性肺炎(※)の予防に努める。医師をはじめ、セラピスト、看護師、栄養士など多職種がチームを組んで、高齢者が合併症を引き起こして寝たきりにならないように全力を注いでいる。

※ 誤嚥性肺炎とは、飲食物が間違って肺に入り、細菌が繁殖して炎症を起こす病気

 

 

整形外科の診療所が少ない地域で、
ゲートキーパーの役割を担う。

23024 同院のある西尾市は、人口に比べ、整形外科医が不足しており、整形外科を標榜する診療所の数が限られている、という地域特性がある。近くにかかれる診療所が少ないため、慢性疾患を抱えた患者も大勢、同院を訪れる。同院は急性期病院だが、「地域で患者さんが困らないように、当院が受け皿となって、しっかり支えていかなくてはならない」というのが齋藤副院長の考えだ。同時に、限られた医療資源を繋ぎ、有効に活用するために、同院では早くから整形外科単独の病診連携ネットワークを作ってきた。数少ない整形外科医が一致団結して、地域全体で患者を支えようという取り組みである(詳しくはコラム参照)。「整形外科疾患は、命に関わる病気は多くありません。しかし、高齢者の自立した生活を守るには、骨や関節の障害を減らすことが23048大変重要です。地域の高齢者が元気に暮らしていけるように、私たちが中心になって頑張っていきたい」と齋藤副院長は語る。
 また、同院で治療できない疾患、たとえば手の外科や整形外科領域の腫瘍(骨・軟部腫瘍)などについては、近隣市の高度急性期病院に速やかに紹介する連携体制も築いている。一方、同院で治療を終えた患者を、回復期リハビリテーション病院へ繋ぐ連携体制も確立している。地域にある複数の病院と緊密に連携することで、頻度の高い整形外科疾患を幅広く診て、必要に応じて適切な医療機関に繋ぐゲートキーパーの役割を積極的に果たしている。

 

 

ますます増える高齢者の
自立した生活を守っていくために。

IMG_7777 整形外科が対象とする骨・関節・筋肉などの運動器は、心臓・血管系の次に老化の早い器官といわれている。今後、高齢化が進むにつれ、同院の整形外科の高齢患者もさらに増えていくことが予想される。それにどう対応していこうとしているのか。「やはり一つは、高齢者にとって身体の負担の少ない手術を増やしていくことですね。これまで培った関節鏡の技術をさらに高めて、肘や足首、股関節へと広げていきたい。また、高齢者の自立のためには、人工関節手術への取り組みも必要だと思います」と犬飼医師は攻めの姿勢を見せる。
 治療の高度化を追求する一方で、齋藤副院長は地域との繋がりに目線を向ける。「これは病院全体の取り組みになりますが、今後は退院した患者さんの活動性を下げずに、生活や人生の質(QOL)を高めていくために、どうやって支えていくか、ということが重要なテーマになると思います。そのために当科においても、地域の診療所の先生方と連携を強めて、在宅療養する患者さんをしっかり支援していきたいと考えています」。
 また、齋藤副院長は、<健康寿命(寝たきりにならず、自立して生活できる期間)を伸ばすための予防医学的なアプローチ>も、今後の大きな課題だと言う。考えてみれば、人間は運動器に支えられて生きている。高齢者が寝たきりになることなく、健やかな人生を過ごしていくために、整形外科が果たしていくべき役割は非常に大きい。同院はこれからも、西尾市民の健康を守る病院として、高齢者の自立した生活を支え続けていく決意である。

 

 


 

column

コラム

●西尾市の<西>と、整形外科の<整>の字をとって、<西整会>。これは、西尾市民病院・整形外科と、地域にある4つの診療所(整形外科)から構成される病診連携の組織である。西整会の結成は古く、<病診連携>という言葉がまだ一般に定着する以前からずっと活動を続けているという。現在も月に1回は必ず各院の医師が顔を合わせ、紹介患者(診療所から西尾市民病院に紹介された患者)のその後の経過について情報共有したり、難しい症例などについて検討を重ねている。

●西整会の取り組みは、地域に整形外科を扱う診療所が少ないからこそ、限られた人数の整形外科医が結束して地域の患者を守ろうという高い志に基づく。毎月必ず、情報交換することで、地域の医療ニーズの変化もいち早く察知しつつ、地域全体で安心・安全な医療提供の実現をめざしている。

 

backstage

バックステージ

●近年、ロコモティブシンドローム(運動器症候群。略称:ロコモ)という言葉が普及しつつある。これは、日本整形外科学会が提唱したもので、運動器の障害により、要介護になるリスクの高い状態になることを指す。高齢者が<要介護>と認定される原因はいろいろあるが、そのなかでも<転倒などによる骨折>がきっかけで寝たきりになり、認知症などが進行してしまうケースが極めて多いのだ。

●運動器の疾患は直接、生命の危険に至ることは少ないが、実は<生活や人生の質>を左右する重要な領域である。西尾市民病院の整形外科はその視点に立ち、たとえ、運動器の障害が起きても、適切な治療によって早期離床を実現し、高齢患者が決して寝たきりにならないように全力を注いでいる。高齢者の自立した生活を守ろうとする同院の取り組みに、今後も注目していきたい。

 


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