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病院を知ろう

がんと闘い続けた50年。
患者に勇気を与え続ける病院。

 

 

愛知県がんセンター 中央病院



臨床と研究が一体となり、がん征圧をめざす愛知県がんセンター。
50周年を迎えた今、次なる50年を見つめ、
ありとあらゆるがん診療にさらなる歩みを重ねる。

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愛知県がんセンターは、昭和39年に設立された、我が国初の県立がん専門施設だ。
今から50年前、がんが国民病となる未来を予見した、桑原幹根知事の英断によるものである。
同センターは病院と研究所を有している。前者は診療と臨床医学的研究を、後者は基礎医学的研究を担い、相互に高め合う両輪となって、飛び抜けたがん治療研究の府として存在している。

 

 

 

 

 

がん治療には不可分の臨床と研究。

demo_photo  愛知県がんセンターの目的は、がん征圧である。先人たちの英知を引き継ぎ、がんに立ち向かう。だが、がんを制圧すれば、同センターの存在意義は無くなる。極めて相矛盾する道を50年歩み続けてきた。現在の姿を診断、治療、そして、予防の面から見つめてみる。
●最新技術による専門診断
 まずは診断だが、これほど医学が進歩した現代でも、がんは血液検査一つで診断できるまでには至っていない。現時点では、生検、すなわち病変の組織(細胞)を採取し、顕微鏡検査による組織学的な証拠を基にして、はじめてがんであると確定診断される。その診断に至るすべての過程において、同センターでは精緻化、高度化を図っている。例えば、消化器内科の超音波内視鏡(先端に小さな超音波が伴った内視鏡)による生検。難治がんといわれる、膵臓や胆道にできた腫瘍の組織診断も可能にするなど、治療に結びつける専門的診断が的確な最新技術で行われている。
●融合的・集学的治療
 治療面では、外科的治療、化学療法、放射線療法を展開している。外科的治療では、腹腔鏡・胸腔鏡下手術などの低侵襲・機能温存手術、拡大根治手術まで幅広く対応。症例ごとに最善で安全な手術を実施している。化学療法においては、がん細胞の増殖を抑える分子標的薬による新しい治療法の治験などを果敢に展開。患者それぞれのがんに合わせた個別化治療への実現に全力を注ぐ。また、放射線治療では、線量集積性が高い高度変調放射線治療に主眼を置き、周辺の細胞を傷つけることなく、病変のみへの放射線照射による治療を行っている。
 以上の三つの治療に加え、新たな取り組みとして、免疫療法がある。これは、患者の免疫細胞を取り出し、増殖、強化して体内に戻し、がん細胞を抑え込む治療法。まだ緒についたばかりだが、がん治療の新たな可能性として、同センター研究所の腫瘍免疫学部を中心に取り組んでいる。
 いずれの治療においても、各診療科は放射線診断・IVR部、放射線治療部、薬物療法部など、他科・他部門、そして、研究所との連携に基づき、さまざまな専門知識・技術を融合させた集学的なアプローチで実施される。
IMG_8426●検診の改革をめざした予防
 がんの予防にも力点を置く同センターだが、なかでも研究所の疫学・予防部は、過去から積み上げたデータ、検体を基に、人間の生活習慣とゲノムの異常を合わせて、がん疾患になりやすさを判明させるための研究を推進。現在よく見られる広く浅くの検診ではなく、一人ひとりに対しての検診システムを組み立て、人それぞれが重点的な予防への行動をとることができる本来の検診、すなわち、特定のがんを早期に発見し、早期に治療へと結びつけるための検診システム構築をめざしている。
●データとネットワーク
 こうした診断、治療、予防に対して、同センターの総長である木下 平医師は語る。「我々には、これまで集積した膨大なデータがあります。それらが研究所での基礎医学的研究、すなわち、本体究明の礎であることはいうまでもありません。その上で、臨床への橋渡し研究を経て、病院での臨床医学的研究に入ります。臨床ではエビデンス(科学的根拠)の獲得、および基礎研究へのフィードバックを行い、そこからまた基礎医学的研究がなされる。この循環が先進的な医療へと繋がっています。こうしたセンター内での連動に加え、各診療科は、データセンター機能を持つ国内でも有数の臨床試験グループに参加。エビデンスの構築、さらには新たな治療ガイドラインの構築に寄与しています」。

 

 

苦難の10年。支えたのは、職員のモチベーション。

 平成10年、愛知県では「愛知県第三次行革大綱」を策定。以来、最少の経費で最大の効果を発揮できる行財政システムの構築をめざし、関連機関にメスが入れられた。「県立」である愛知県がんセンターも例外ではなかった。
Plus顔写真 「平成24年に総長に就任して知ったのですが…」と、木下総長は語る。「今日、発展している医療機関を見ると、いずれも先行投資を行い、人や医療機器を増やし、新しい医療提供にふさわしい先進的な医療体制を創り上げています。それが当センターでは、10年以上、なされていませんでした。限られた人数で高度化・複雑化・急増した業務を担っていたのです。行革は県の政策とはいえ、当センターには辛い年月だったと思います」。木下総長は苦しげな面持ちで語る。
 「ところが、医師をはじめスタッフは、とても高いモチベーションを持ち続けていました。疲弊していてあたり前なのに、みんなが『がんセンターがどうやったら良くなるのだろう』と考えていたのです。元来、当センターはホスピタルボリューム、つまり、プロがたくさんいて、症例数が多い。ただそれだけで互いを高め合う構図を持ち、IMG_8409医療の質が留まることなく向上していました」。
 そこから木下総長の歩む道は決まったという。ソフトを中心とした基盤整備である。総長は、宝のような職員のモチベーションを保つために、できることから手をつけた。まずは職員の働く環境の整備、人材募集、進化する医療機器の導入…。一つひとつの実現に向け、県や地域住民にセンターの機能や役回りへの理解と協力を求めるなど、木下総長は精力的に取り組んでいる。
 職員たちが求めていた、高度先進的な医療の実体にふさわしく、そして、次世代が苦しまない環境づくりが、今、動き出したのである。

 

 

諦めない治療を地域とともに。

704102 「今後はもっと地域との結びつきを強化したい」と木下総長は言う。「これからは、多くの人々ががんとともに生きる時代です。であるにもかかわらず、がん患者を支える医療資源があまりに少ない。急性期治療は当センターが担いますが、ここでの治療後の在宅医療を担う、診療所の医師や訪問看護師を支えることもまた、私たちの役割であると考えます。そのため、医療連携、緩和ケア、相談窓口を一カ所に集約しました。また、社会保険労務士による就労に関する相談を行っており、がん患者が治療を受けながらも働くことができるよう支援しています。将来的にはハローワークとも連携できればと考えています」。
 こうした動きとは別軸で、愛知県がんセンターは、都道府県がん診療連携拠点病院として、県下23カ所のがん診療連携拠点病院の中核的な機能を担っている。拠点病院として配置が義務づけられているがん登録、緩和医療などのスタッフ教育、研修会を実施するなど、がん診療の大きなネットワークの要なのだ。
 センターにおいては、最高水準の医療をバックボーンに、地域と繋がる。一方、がん診療の均てん化をめざし、がん拠点病院とは水平軸での関係を構築する。それは、どこにいても、最高のがん診療を受けることができる地域医療づくりに他ならない。IMG_8380
 木下総長が描くのは、がんを患っても諦める必要がない社会だ。あらゆるがんの、あらゆる治療が、ここ愛知県がんセンターにあるからこそ、がん患者に勇気を与え続ける病院として、追い求めて止まない社会である。
 誕生50周年を迎えた愛知県がんセンター。臨床と研究のレベルの高さゆえ、孤高の存在であった50年。これからは、地域とともに歩む50年が始まろうとしている。

 

 


 

column

コラム

●愛知県では、平成24年9月の県議会で「愛知県がん対策推進条例」を制定。翌10月に公布、施行している。これは県民の死亡原因第一位が、全国統計と同じくがんであることから、県として、がん対策に関する施策を総合的、計画的に推進させることを目的としたものである。

●大村秀章知事は、愛知県がんセンター開設50周年記念式典のあいさつで「愛知県がんセンターは、愛知県のがん診療および研究の中核として、高度で先進的ながん医療を提供し、がん患者さんおよびご家族の方の苦痛の軽減および療養生活の質の向上に全力で取り組んできた。今後も県民の期待に応えるため、この地域のがん拠点病院であり続けること、そして日本のがん治療をリードしていくという使命を帯びているということを認識して、病院と研究所の連携により、早期診断、早期治療、研究を推進していく」と述べた。

 

backstage

バックステージ

●苦難の10年。この意味を私たちは正しく理解する必要があるのではないだろうか。

●それは国の施策としての行革についてではなく、英知を集めがんと闘う基礎研究と臨床研究の府が、職員のモチベーションだけによって支えられていた事実についてである。

●公の組織において、その活動の意義、目的を考えたとき、そうした極めて小さな個の努力を集めて耐え続けるのは、あまりに残酷といえよう。

●近年、国立や県立の病院が独立行政法人化している。その多くが、それまでの公の縛りから離れ、自由度を確保。自らの裁量によって、経営戦略を果敢に推し進め、結果、地域に大きな成果を還元している。

●愛知県がんセンターの場合、木下総長を迎え新しい時代に入ることができた。そこに働く職員の高度な専門能力を、より発揮できる環境づくりが進むことを願って止まない。

 


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