3,137 views

シアワセをつなぐ仕事

病院の「看護力」を、
地域を支える「力」に。

細野美穂子(皮膚・排泄ケア認定看護師)/春日井市民病院 ナーシングサポート室・師長


 

main

 

リソースは資源、ナースは看護師。
二つの単語を組み合わせて、専門性の高い知識・技術を持ち、看護実践を支援する人的資源を「リソースナース」と呼ぶ。
春日井市民病院では、リソースナースを院内だけでなく、地域で積極的に活用する体制づくりを進めている。
その先頭に立って活動する、ある看護師の取り組みを追った。

 

 


病院の中だけではなく、地域のリソースナースになろう。
看護の力で地域を支える新たな挑戦。


 

 

 

訪問看護ステーションに出向いて勉強会を開催。

 太陽・カンファレンス_28 「ストーマにかぶせる画板はどんなふうにカットすればいいですか?」「皮膚がかぶれやすい方にはどんな皮膚保護材がいいでしょう?」
 春日井市にある訪問看護ステーション太陽・高蔵寺では、訪問看護師たちが集まり、ストーマ(手術で腹壁に作られた便や尿などの排泄口)ケアの勉強会が開かれていた。彼女たちの質問に一つひとつ丁寧に答えるのは、春日井市民病院の皮膚・排泄ケア認定看護師、細野美穂子。 一人で患者宅を訪問する訪問看護師が、自信を持ってストーマケアを行えるように、実践的なアドバイスを提供していた。
Plus顔写真_細田 この小さな勉強会が開催されるようになったのは、細野のアプローチがきっかけだった。1年ほど前、同院を退院した患者が訪問看護ステーション太陽・高蔵寺を利用することになり、細野が太陽・高蔵寺の丹波ちひろ管理者に「訪問看護に同行しましょうか」と声をかけたのである。以来、細野は、同行訪問や勉強会を通じて、太陽・高蔵寺のスタッフたちを積極的に支援している。「訪問看護師は、患者さんのもとでは一人で何でも解決しなくてはなりません。その意味では、訪問看護師それぞれの力量で患者さんの幸せ度が決まる、責任重大な仕事です。だからこそ、私でできることがあれば、応援していきたいと思いますし、こうした活動を通して私自身も在宅を学ぶことができます。これからは診療所の先生方からも信頼され、協働できるように発展させていきたいですね」と細野は意欲を見せる。
 そんな細野のサポートを、丹波は「非常に心強い」と評価する。「細野さんに刺激を受けて、スタッフも生き生きと学んでいます。細野さんのように在宅と病院を繋ぐ人がいることで、在宅の患者さんも安心して療養できると思います」。

 

在宅患者の情報を把握しタイミング良く必要な治療を提供。

菱田医師との業務シーン_11 看護部長の勧めで、細野が皮膚・排泄ケア認定看護師の資格を取ったのは今から7年ほど前。以来、同院で初めての「ストーマ外来」の立ち上げに奔走するなど、自らの活躍領域を積極的に広げてきた。現在は、ナーシングサポート室(詳細は後述)の師長として、病院の内外で幅広く活動している。
 皮膚・排泄ケア認定看護師の専門分野には、ストーマ・失禁などの排泄管理と、褥瘡(じょくそう:床ずれ)などの皮膚のトラブルがある。この褥瘡ケアについても、細野は在宅と病院を繋ぐ取り組みに力を注ぐ。たとえば、定期的にレスパイト入院(※)を利用する在宅患者のうち、褥瘡で困っている患者の情報をPlus顔写真_菱田、かかりつけ医、訪問看護師、あるいは家族などから事前に収集し、形成外科の医師に診療を予約。その患者の入院期間中に「壊死組織の除去」といった専門治療を行い、症状の改善を図っているのだ。「レスパイト入院はご家族の負担軽減が目的ですが、それだけに使うのはもったいない。病院でしかできない治療を提供する絶好の機会です」(細野)。そんな細野の仕事ぶりを、同院の形成外科部長・菱田雅之医師は「常に患者さんの生活の質を支えようと考える人。生活する患者さんの情報を私たち医師に伝え、きちんと適切な治療に繋いでくれるありがたい存在」だと信頼を寄せる。細野自身、「患者さんの生活を支えるのが看護の本質」だと言い切る。「人は誰でも日々の生活があり、たとえ病気を患ったとしても、その人がその人らしく快適に生活できるように支援するのが看護の仕事だと思います」。
※ レスパイト入院とは、家族の介護負担軽減を目的とした短期間の入院。

 

 

急性期病院の看護師が地域に出ていく必要性。

市民病院・カンファレンス_06 同院では、細野のほかに、がん性疼痛認定看護師も地域に出て、在宅で療養する末期がん患者を積極的に支援している。こうした地域での取り組みに同院が力を入れている背景には、「病院完結型」から「地域完結型」へと地域医療の提供体制が変化してきたことがある。
 これまで日本の医療は、主に青壮年の患者を対象に、一つの病院で治療・療養を行う「病院完結型」だった。しかし、超高齢社会を迎えた今、患者の中心は高齢者に移り、主疾患だけでなく、慢性的に複合疾患を抱えるなど、疾病構造の変化に伴い、必要とされる医療も変化してきた。これからは病院完結型の医療ではなく、急性期・回復期・慢性期の医療を担う病院が連携して切れ目なく医療を提供看板し、さらには患者が在宅=生活の場に戻った、そこでも医療を提供する仕組みを構築。高齢患者が病院と在宅を行き来しながら、安心して治療・療養できるように、地域全体で治し支える「地域完結型」への転換が求められている。そして、地域完結型医療を実現するには、病院に集約している医療資源を地域に役立て、病院と在宅がシームレスに協働して、在宅患者をしっかり支えていく体制づくりが必要となってきたのである。

 

 

病院の看護力を活用し、在宅医療の質を高めていく。

Plus顔写真地域全体で患者を治し支えるために、地域での看護支援活動を強力に推し進めているのが、同院の看護部長・鈴江智恵である。平成24年、看護部長に就任した鈴江が真っ先に取り組んだのは、「ナーシングサポート室」の開設だった。ナーシングサポート室は、その言葉通り、看護実践の支援を担う部署。細野をはじめとした各領域の認定看護師が所属しており(※)、院内では病棟の看護師たちを支援し、院外では訪問看護師たちの看護実践を支援している。「市民の健康を守る市民病院の使命として、在宅療養する人々を支えていくために何ができるだろう。そう考えたときに、認定看護師のような深い専門知識・技術を備えた人たちを、リソース(資源)として在宅医療に役立てることが有効だと考えたんです」。鈴江看護部長の認定看護師に対する口癖は「病院の中だけでなく、地域のリソースナースになりなさい」。その言葉に背中を押され、認定看護師たちは精力的に地域へ活動を広げている。
 リソースナースの活用の次に、今、鈴江看護部長が進めているのが、地域に点在する看護師と繋がるための<相談窓口>の開設だ。たとえば、介護老人保健施設などでは、看護師の人数が非常に少なく、そこで働く看護師はまさに孤軍奮闘している。そんな看護師が気軽に相談できる窓口を設け、専任の職員が対応。看護師たちがそれぞれの現場でより良い看護を実践できるよう強力にバックアップしていく考えだ。
 また、一方では、地域の病院の看護部長が一堂に集まる懇話会も発足しており、鈴江看護部長はトップ同士の対話にも期待を寄せる。「お互いに困っていることを本音で話し合い、病院間で看護師の人材交流を行ったり、教育面でもいろいろ協力していきたいですね。看護師教育について言えば、ゆくゆくは、当院で育てた看護師を地域へ輩出していくことも必要だろうと考えています」。<市民の病院>だからこそ、施設を超えた広い視野で、地域の看護を考えることが大切。鈴江看護部長の胸中には、「超高齢時代を乗り切るには、地域の看護力を総動員して、地域の患者さんを支えていかねばならない」という大きな覚悟がある。
※ ナーシングサポート室には、認定看護師のほか、来院者の相談に応えるコンシェルジュ、リンパ浮腫に対するマッサージを行う療法士も配置されている。


 

 

columnコラム

●春日井市民病院では、リソースナースの専門知識を患者の療養や家族の支援に役立てるために、医師の協力のもと、看護師による専門外来に力を入れている。たとえば、皮膚・排泄ケア認定看護師による「ストーマ外来」や「排泄ケア外来」、糖尿病看護認定看護師による「フットケア外来(糖尿病センター)」などが開設されている。

●また、多岐にわたり相談に応える「看護相談外来」も開設されている。相談の内容は「がん化学療法相談」「急性期ケア相談」「慢性呼吸相談」「脳血管疾患・リハビリテーション相談」「スキンケア・失禁相談」「糖尿病看護相談」「感染予防相談」「嚥下(えんげ)相談」「リンパ浮腫相談」「認知症相談」「育児相談」と多種多様だ。

●さまざまな角度から患者や家族を支援するこれらの取り組みもまた、同院のリソースを少しでも地域に広げようとする、同院看護部の姿勢を表している。

 

backstage

バックステージ

●厚生労働省によると、団塊の世代が75歳以上の後期高齢者になる2025年には、在宅医療を必要とする患者数は29万人に増えると推計されている。そうなれば、ますます在宅での医療・看護の需要が増大していくことは間違いない。

●春日井市民病院の地域での看護支援活動は、2025年を見据えた先進的なものである。病院が持つリソースを積極的に地域に投入し、点として存在する訪問看護ステーションや介護施設といった地域の在宅医療機能を繋いでいこうとしている。その取り組みは地域全体の在宅医療の質を高め、最終的には、在宅療養する患者のQOL(生活の質)の向上に資することは言うまでもない。春日井市民病院は、市民の健康と命を守るという市民病院の使命を胸に、今後ますます地域の在宅医療との結びつきを強め、地域医療へのさらなる貢献をめざしている。

 

 


3,137 views