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シアワセをつなぐ仕事

尾張温泉かにえ病院の再生が、
地域医療の再生に繋がる。

明村絢美/尾張温泉かにえ病院 回復期リハビリテーション病棟


 

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今日の医療は、集中的かつ効率的に急性期病院で治療し、あとは回復期や在宅で、という流れになっている。
なかでも回復期から在宅に向かう道筋には、患者それぞれに形が違い、一人ひとりにふさわしい復帰の姿がある。
患者と家族、そして、看護師。
みんな一つになって模索を続けながらも、患者のその次の生活を見つめた挑戦が行われていることを、尾張温泉かにえ病院の一つの病棟に見た。

 

 

 


患者をいかに自宅復帰させるか。
その一点に的を絞り、病院も、管理者も、
そしてスタッフも、その力を結集する。


 

 

 

 「自宅に戻る」という共通目標。

 047 明るい笑い声がフロアに響いた。笑い声の主は明村絢美看護師。「元々明るい性格ですが、患者さんと一緒のときは、より明るくなります。誰でも、笑い声や笑顔に包まれた方が、元気になるでしょう!」と明村は微笑む。
 彼女が勤務するのは、尾張温泉かにえ病院(以下、かにえ病院)回復期リハビリテーション病棟。回復期リハビリテーション病棟とは、脳卒中や大腿部骨折などで急性期治療を終えた患者を受け入れ、集中的なリハビリテーション(以下、リハビリ)により心身両面での回復を図り、在宅復帰へと繋ぐことを目的としている。
 この病棟での看護師の役割は何だろう。「機能訓練と日常生活を結ぶこと」だと明村は言う。「リハビリでの訓練で身体機能が改善したならば、それを日常的な生活動作として、使えるようになることが大切です。自分で服を着替える、顔を洗う、食事をとる、お風呂に入るといったことですね。その能力を入院期間中にいかに向上させるか。それが患者さんの生活を看る看護師の役割だと思っています」。換言すると、身体機能として<できる>ことを、生活動作として<使える>ことに繋げること。明村は、リハビリスタッフはもちろん、介護職、ソーシャルワーカーらと、患者について日々情報交換し、そして協働し、より早い自宅復帰に向け取り組んでいる。
070 そうした彼女が一番心がけているのは、「患者さんやご家族との信頼関係づくり」だ。「私は、良いことも悪いことも、患者さんやご家族にお話しします。その上で質問や返事を双方でし合う。患者さんは、みんな<自宅に戻る>という明確な目標をお持ちですから、それを実現するには、物事を曖昧にしてはいけないと考えています」と明村は言う。

 

 

視点の違いに戸惑いを。

Plus顔写真 「当院に来て、まずは戸惑いました」。そう語るのは、平成26年7月、同院の看護部長に就任した岩田広子看護師である。彼女の戸惑いの理由を知るには、その経歴を紹介する必要があるだろう。
 岩田看護部長は、名古屋市立大学病院の看護師長を皮切りに、名古屋の市立病院の看護部長、名古屋市立大学病院の副院長 兼 看護部長、総合大雄会病院(愛知県一宮市)の看護局長を歴任。いわば、高度急性期の看護畑でキャリアを積んできた。その彼女がかにえ病院に職を移し、そこで初めて、急性期以外の領域での看護を目の当たりにしたのである。
 「看護の本質や技術は、どの領域でも変わりません。しかし、患者さんをご家庭に戻すという考え方がまったく違いました。高度急性期病院はとにかく患者さんの生命を救い、そしてその次の領域に、より早くバトンタッチすることが命題。いわば短期集中的な視点です。でも、急性期以降の領域では、患者さんを、どのように在宅に戻っていただくか、そのために必要な地域の在宅医療・介護資源は何かという、長い視点と広い視野が大切なのです」と岩田は語る。
 戸惑いながらも一方で、反省もしたという。「患者さんが転院するとき、看護サマリー(要約)を次の医療機関に提供するのですが、高度急性期病院のサマリーには、その病院で治療した主疾患の看護内容しか書きません。高齢者の多くは複数の疾患を抱えているにもかかわらず、その情報は書かない。それが次の病院にどのような問題を与えるのか…。ここに来て大反省しました」。
 地域の病院は、病気を持っていても家庭で生活できることを、患者や家族に理解させなければならない。そのためには患者の病気に関わるあらゆる情報が必要であり、そこから自院での治療や看護を組み立て、在宅への道筋を創る。高度急性期病院の看護サマリーは、その手がかりにはならなかったのだ。

 

 

本来めざした姿に、再生する。

 かにえ病院は、以前は尾張温泉リハビリかにえ病院と称していた。その名のとおり、リハビリを中心とした病院であったのだ。だが、蟹江地区には、高度急性期治療を終了した後の患者を診る一般急性期、療養期といった病院がない。気がつくと同院は、持てる医療能力を活かし切れず、地域では高齢者をお預かりする病院というイメージが先行。一般病床において、一般的な病気の治療や、急性期後の手厚い医学管理、看護を提供しているにもかかわらず、高齢者のための病院として位置づいてしまっていた。
 だが、平成22年、現在の理事長である真野寿雄医師が着任。同院の存在意義をかけて、<病院再生>への大改革がスタートした。同院の存在意義とは、一つには、創設者である勅使河原順三前理事長が掲げた、日本名泉百選の一つ尾張温泉の源泉を利用した温泉健康増進(※詳細はコラム参照)。
IMG_3484 そして二つには、蟹江地区を含む海部医療圏で不足している医療機能を補い、地域医療を支える病院であること。具体的には、蟹江地区で唯一となる、一般病棟・回復期リハビリテーション病棟・医療療養型病棟を合わせ持つケアミックスを導入した。いずれもこれまでと病院コンセプトを変えるのではなく、本来めざしたものへの<再生>である。
 再生への第一弾は、回復期リハビリテーション病棟の開設だ。従来、同院が行っていたリハビリとどう違うかというと、期間を限定し<患者を自宅に戻す>という明確な目標設置である。開設当初は、病院の方針と患者側の要望との間にギャップがあった。しかし、患者本来の生活を取り戻すことの大切さと、その道筋をつけることで、現在では、いずれの患者も自宅に戻るという、明確な目標を病院と共有するに至っている。
 大改革の第二弾は、新病院建設である。平成26年秋にオープンした新たな病院は、明るくゆったりとした各フロアに加え、天然温泉を使用した治療用プールも設置されている。

 

 

必然的に生まれる次なる挑戦。

IMG_8868 同院の<再生>への改革は、まだこれからも続く。この秋、一般病床の一部を<地域包括ケア病床>に移行させるのだ。この病床は、平成26年に新設された病床区分。急性期病床からの患者を受け入れ、在宅療養する患者の緊急時の受け入れ、そして、在宅への復帰支援という三つの役割を担う。
 同院が地域包括ケア病床を設置するのは、<必然>だと看護部長の岩田は言う。「回復期の病床は、急性期病院から患者を受け入れる一方通行です。地域医療全体を支えるという当院の方針に立てば、在宅で調子を落とした患者さんを受け入れ、良くなったらまた在宅へという、双方向の機能を有する病床を持つことが必要となります」。
 さらに、同院は病院という施設での医療提供だけではなく、<出ていく医療>にも力を入れていく。それは、新たに設置を予定している訪問看護ステーションである。岩田は語る。「先程述べたとおり、在宅との双方向の関係を築くには、当院を退院した患者さんを、在宅で支える=看るという機能も必要です。院内のすべての病床、そして、在宅医療・看護など、すべてを<継続ケア>という視点で繋いだ、新たな看護の形を作り出したいと考えます」。
 同院に訪問看護ステーションが誕生すれば、すでに活動している訪問リハビリ、通所リハビリなど、法人内の介護関連事業と連結され、より一層、地域全体を包括する機能へと拡大する。最後に、「クリアすべき課題はありますが、私たち看護部は、いつのときも患者さんや住民の皆さんのより良い生活を支えるために、全力を注いでいきます」と、岩田は固い決意を語った。


 

 

columnコラム

●天然温泉を活用した温泉健康増進。温泉というこの地域の大きな資産を、観光ではなく医療に活かし、地域住民の健康的な生活を守ろうという着眼点は、勅使河原順三前理事長にある。

●温泉療法は、世界のさまざまなところで展開されている。ドイツのバーデンバーデンは、その代表。ヨーロッパ屈指の温泉保養地として世界に名を馳せる。

●だが前理事長がめざしたのは、そうしたリゾート的なものではなく、あくまでも生活に根ざしたもの。天然温泉が持つ効能を活かし、日々の健康増進に役立てようとする、科学者としての選択である。

●一つ、残念なことは、温泉療法のエビデンス(科学的根拠)は、日本だけではなく、世界でも明確に解明されていないことだ。しかし、地域の人々は、肌身を通して効果を実感する。

●かにえ病院に整備された歩行訓練、軽い運動用のプールは、地域の人々にとって大切な財産になっていくだろう。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会にふさわしい医療を創り上げるために、医療制度や診療報酬体系が長い時間をかけ姿を変えようとしている。そうした時代の動向のなかで、<一般病床>という入院施設の定義、区分も大きな変化を遂げてきた。

●誤解を恐れず記すならば、急性期機能を有しながらも、制度の狭間に陥り、明確な方向性あるいは人材確保の力を持たず、漂い続ける一般病床もある。

●だがしかし、尾張温泉かにえ病院のように、明確なビジョンと、強力なリーダーシップがあれば、生まれ変わることはできる。

●きちんと地域と向き合いながらも、自らの存在意義を貫く。真野寿雄理事長の決断は、岩田看護部長という強力な援軍を得て、さらに弾みをつけようとしている。あくまでも創業の意思を反映させた、<再生>への挑戦。その動きをこれからも見つめていきたい。

 

 


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