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病院を知ろう

この街の笑顔のために、
<医育>の場に種を蒔く。

 

 

中京病院


皆が、いきいき元気に過ごすことができる
コミュニティの実現に向けて――
次代の健康な地域づくりを牽引する医師を育てたい。

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平成26年4月、社会保険病院から独立行政法人地域医療機能推進機構(JCHO)に移行し、<安心して暮らせる地域づくりへの貢献>を大きなテーマに掲げる中京病院。そのなかで同院は、医師育成のための新たなカリキュラムを導入した。
国立長寿医療研究センターの協力のもとで実現した高齢者医療研修プログラム。
その背景には、地域を支え続けるという同院の強い決意があった。

 

 

 

 

 

患者の生き方や背景まで見据えた、
症例検討会。

 107050中京病院で開かれたある日の症例検討会。指導医の津下圭太郎副院長を若い医師たちが囲む。高齢患者の治療と病状について一通り検討が行われた後、津下副院長から医師たちに投げかけられたのは意外な質問だった。「患者さんとの意思疎通はできているか?」。「家族との話し合いはどうだった?」。「患者さんの住環境は?」。どれも直接治療に関するものではない。患者や家族の意思、生活環境、生き方や背景について、深く切り込む質問である。
 この問いに、ボディアクションを交えて懸命に答える一人の医師。後期研修医の川口頌平である。川口は、出身地である愛知県渥美半島が、医療資源の非常に乏しい地域であることから、地域の医療を何とかしたいと医師を志し、現在、1年目の後期研修医として同院の統合内科(※)で研修を受けている。「患者さんやご家族に、いかにこちらの思いを理解してもらい、真意や状況を聞き出すか。それが一番難しいですね」と話す川口。コミュニケーションにより信頼関係を築き、患者の人生にとって最適な治療をともに考える。こうした医療の提供をめざし、奮闘中なのだという。
 もともと、地域医療に関心のあった川口には、生活に根ざした医療を考える素地があった。しかし、医師として専門知識を大量に学ぶなかで、少しずつ埋没しかけたその思いを、川口は今、より明確な形で意識する。きっかけとなったのは、中京病院が国立長寿医療研究センターの協力でスタートさせた「高齢者医療研修プログラム」だった。

※ 統合内科は、内科系診療科を統合した組織。中京病院で内科系を志望する1年目の後期研修医は、すべて同科に配属され、内科医としての総合的な診断能力を磨いている。

 

 

高齢者医療の府で学ぶ、
新たな教育プログラム。

Plus顔写真 「高齢者医療研修プログラム」は、1年目の後期研修医を対象とし、希望者は1カ月間、国立長寿医療研究センターで研修を受ける。同センターは、愛知県大府市にあり、日本の高齢者医療をリードする病院。今年で2年目を迎えるこのプログラムに、川口も平成26年12月に参加した。
 プログラムの責任者である津下副院長は次のように語る。「当院はJCHOへと組織を移し、地域への貢献とともに、<総合医の育成>が大きな使命として課されました。急性期病院である当院が果たすべき総合医育成のあり方とは。議論の末たどり着いた答えは、都市型高齢化が進むこの地域で、健康な地域づくりを牽引する<総合性を備えた専門医>の育成でした。幸運にも愛知県には、国立長寿医療研究センターがあります。ここで学ぶことができれば、高齢者医療の核心をつかむことができる。そう考えたのです」。
070_ChukyoKenshui_2015 研修プログラムの基本内容は、国立長寿医療研究センターに一任する形でスタートした。「同センターの長寿医療研修センター長である遠藤英俊部長に尽力いただき、非常に充実したプログラムになっています」と津下副院長。総合的な内科診療、薬物療養、救急対応などを学ぶ「高齢総合研修科研修」、認知症に気づくスクリーニング方法などを学ぶ「もの忘れセンター研修」、そして「在宅医療研修」。カリキュラムは非常に密度の濃い内容だ。
 他方、中京病院側では、研修に臨む前の「学ぶ意欲の土壌づくり」に工夫を凝らした。冒頭の症例検討会、統合内科の回診などで、指導医から「何が、高齢者の退院の障害となっているか?」「高齢者医療に苦労する原因は何か?」といった質問が次々に飛ぶ。研修前に高齢者特有の問題を知り、課題への気づきを促すのが目的だ。「どんな問題があるか、それをなぜ自分は解決できないかを理解した上で、国立長寿医療研究センターでの工夫に気づいてもらいたい。そのために、まずは問題意識を持ってもらうことを念頭に置き指導しています」(津下副院長)。
 研修を修了した研修医たちからは、一様に「行って良かった」という声が聞かれる。川口医師に続き、平成27年1月に研修を受けた和田卓也医師は、「はじめは、中京病院にいても高齢者医療を学べるのではないか? と思いました。ですが、実際来てみると、患者さんを生活に戻すための体制や、認知症への理解・評価の徹底など、日々学びの連続です。この経験を活かし、院内に広めていきたい」と語る。

 

 

2025年に向けた、
医療の激変のなかで。

095_ChukyoKenshui_2015 団塊の世代が後期高齢者となる2025年。国民全体のおよそ4分の1が75歳以上、という超高齢社会が10年後に迫り、今、我が国の医療は激変期にある。高齢者医療への対応を見据え、病院完結型から地域完結型へ、入院中心の医療から在宅中心の医療へ、という大きな流れのなかでシステムを作り変え、再び社会に定着させる。そのためには、さまざまな試行錯誤を繰り返しつつ、これまでの常識も変化させなくてはならない。
 患者の大半を占める高齢者は、複数の疾患や認知症、生活上の問題を抱えている場合が多い。急性期病院にあっても、今までのように医師が自分の専門分野に留まり、病気だけを治すという訳にはいかない。急性期の治療の段階から、患者のその後の生活までを視野に入れ、「患者にとって幸せな人生は何なのか?」という、総合的な視点から個々の患者にふさわしい治療法を選択することが必要だ。だがそのためには、医師の価値観、感性そのものをパラダイムシフトさせなくてはならない。
107061 中京病院で始まった、国立長寿医療研究センターでの研修プログラムは、高齢化社会に対応する医師の育成プログラムとして、今後のモデルとなる可能性を持つのではないか。津下副院長は言う。「まずはプログラムの効果と具体的内容について検証し確立する。そして、そこで得た知見を、将来的には他の病院でも活用していただけるものにできたらと考えています」。
 誰も経験したことが無い社会に向けて、新しいスタンダードを作り出すことは容易ではない。現状に安住せず、絶えず挑戦を続けていく必要がある。医師の育成において、前例が無いなか、どのように総合的な視点を持つ医師を育成していくのか。その手法の構築が大きな課題となる。

 

 

医育の場に蒔く、
一粒の種。

 JCHOへと組織を移し、新たなアイデンティティを獲得した中京病院がめざすもの。それは、地域の人々がいきいき元気に暮らすための健康な街づくりと、それを牽引する総合的な視点を持った医師の育成である。
 高齢化に伴い急増する医療需要を、限られた医療資源で地域を支えていく。そのためには地域のなかで、最も医療リソースを抱える急性期病院が、しっかりと地域医療に目線を向け、いかに足らざる部分を補っていくかが鍵となる。「当院には名古屋市南区の医師全体の45%が在籍しています。だからこそ、医師教育を当院だけの課題とするのではなく、地域全体を変えていくパワーを、もっと発揮しなければなりません。メディカルではなくヘルスケアという発想で、地域を支える。そのための医師育成を行っていきたいと思っています」(津下副院長)。
 新たにスタートした「高齢者医療研修プログラム」は、中京病院が、自らの使命の実現に向けて蒔いた、一粒の種といえるだろう。
107053 最後に一つ、川口医師の印象的な言葉を記したい。「認知症や高齢で、うまく話ができない人はたくさんいます。でも、心や感情はしっかりとある。ただ伝えることができないだけなんです。だから、若い先生にはできるだけその心の部分を見るようにしてほしい。その上で診療をすることが本当に大事だと思います」。中京病院が蒔いた種は少しずつ花開こうとしている。

 

 


 

column

コラム

●独立行政法人地域医療機能推進機構とは、東京都港区に本部を置く厚生労働省管轄の独立行政法人である。全国社会保険協会連合会、厚生年金事業振興団、船員保険会などが運営してきた全国の医療施設を継承するために設立されたもので、通称「JCHO」と呼ばれている。このJCHOが運営する施設は、57カ所の病院をはじめ、健康管理センター、介護老人保健施設など、全国100カ所以上を数える。

●JCHOとは、「Japan Community Health care Organization」の略であるが、その特徴を端的に示しているのが、「Community」と「Health care」の2つの言葉である。JCHOの理念には、「地域の住民、行政、関係機関と連携し、地域医療の改革を進め、安心して暮らせる地域づくりに貢献します」とある。地域住民の健康に貢献していくというJCHOの姿勢が、「Community(地域社会)」、「Health care(健康管理)」という2つの言葉にもしっかりと表れている。

 

backstage

バックステージ

●従来の医師育成は、診療科ごとに高度に専門化された知識や技能を習得することに主眼が置かれてきた。ところが、超高齢化社会では、主疾患だけではなく、複数の慢性疾患を抱える患者が大多数を占めるようになる。こうした医療ニーズの大きな変化のなかで、今後の医師育成のあり方も、実情に即したものに変えていかなければならないだろう。

●中京病院は、今回紹介した国立長寿医療研究センターでの研修、また、地域包括ケアシステムの拠点となる中規模病院に出向させ、その病院の医師として、患者を、そして、急性期病院としての中京病院を考えさせる研修など、急速な高齢化に呼応する形で実現させている。

●もちろん高度急性期病院をめざす同院では、専門的な知識や技能の習得に向けて、さらなる教育体制の強化も図っていく。他方、地域の実情にあわせ、地域のなかで医師を育てていく。こうした取り組みは今後ますます広がっていくだろう。

 


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