2,402 views

病院を知ろう

夜明け前の闇が一番暗い。
何があっても
歩みは止めない。

 

 

西尾市民病院


禰宜田ビジョンのスタートから丸2年。
西尾市民病院の出口の見えない苦しみ、
そのなかで生まれた一つの突破口。

main

自治体病院の再生は、これほどまでに困難なことか――。
医師不足、赤字体質を改善するべく、職員たちは立ち上がり、そして、歩み続ける。
少しの明かりを集めながら、前を見つめて毎日を続ける。
「市民のための、本当の市民病院になるために、何があっても歩みは止めない」。

 

 

 

 

 

病院再生をめざし、
禰宜田ビジョン、動く。

 Plus顔写真禰宜田(ねぎた)政隆が西尾市民病院の院長に就任して、平成27年の4月で3年目に入る。彼の就任以前から同院には経営的な問題が多く、前途多難な出発であった。そのため禰宜田は就任とともに、西尾市民病院再生への取り組みを院内外に宣言。そこから<禰宜田ビジョン>は生まれ、禰宜田自身が先頭に立ち、実現に向け動き出した。
 同院における大きな問題は二つ。絶対的な医師不足と慢性的な赤字体質である。この二つは表裏一体であり、根源的にいえば医師不足に起因する。つまり、医師が不足すると外来診療・入院診療に限界が生じ、診療科や病棟の縮小、入院患者の減少を生む。また、24時間の救急対応にも支障を来して受入数が減り、結果、病院収入は下降するのだ。
 そのためのビジョンは、医師確保と病床フル稼働、断らない救急、資源の選択と集中による医師機能再編である。
23005 医師確保に対して、禰宜田は就任直後から大学医局訪問を重ねた。医局教授への医師派遣要請である。同時に、院内の医師には奮起を促し、何より市民の要望が強い<断らない救急>の実践を求めた。併せて、若手医師育成に注力し、現在も続く大学教授による研修会もスタートさせた。
 慢性的な赤字体質の改善には、病床の種類を急性期だけではなく、回復期や療養期に分け、隣接する基幹病院からの退院患者を受ける戦略を考えた。その布石として、今後の医療動向への理解を深めることを目的に、院外から講師を招いての講演会を実施した。
 市民へのアプローチもある。市民をはじめ17万人分を集めた署名活動。これは愛知県知事への同院への医師確保の陳情が目的だ。入院環境の向上を図った病棟改修、市民との意見交換会開催、今後の地域医療に関する講演会開催など、禰宜田はさまざまな活動を起こした。

 

 

踏ん張りのなかで、
射した薄日と遠のく光。

402112 こうした結果、平成24年度に年間約3700件だった救急搬送受入数は、平成25年度には約4300件に上がった。また、市長のマニフェストにより、西尾市には医師確保奨学金制度も創設され、平成27年度からは3名の初期臨床研修医を迎える。
 診療活動では、がん領域で新たな展開が生まれた。乳腺、肝臓・胆のう・膵臓、上部消化管(胃・食道)のそれぞれを専門とする3名の医師により、がんの診断から手術、放射線治療、化学療法まで、高度専門的な診療体制が整えられたのである。
 全体のバランスを取りながら、それでも何とか歩を進めている。そう禰宜田が考えた矢先、新たな問題が生じた。泌尿器科、形成外科、婦人科の医師が、退職、また、大学からの引き上げにあったのだ。少ない医師がさらに少なくなった。なかでも泌尿器科は一番堪えた。なぜなら、前立腺がんをはじめ、泌尿器系の疾患を抱える患者は多い。だが、医師不足では手術ができず、外来診療だけに留まらざるを得ない。また、救急において泌尿器系疾患が疑われる場合、リスクを考え、最初から受入不可能とするケースが増えてきた。当然ながら病院収入は下降する。
23019 17万人の署名による県の陳情は、西尾市民病院が、地域枠学生1期生の就職先としての病院に位置づけられる成果を生んだ。しかし、この2年間、大学からの医師供給増はなく、禰宜田は、自力で医師を招聘する一方、院内の医師のモチベーションの維持に、注意を払ってきた。それに応え、各診療科の医師たちは、部長医師をはじめ、少ない人数でローテーションを組み、救急にも対応、他科のカバーにも対応、研修医や若手医師の教育にも対応。まさに頑張ったのである。そこには、看護師をはじめとする職員の存在もある。病院挙げての頑張りが、冒頭に述べた救急搬送受入の増加にも繋がった。
 しかし、援軍が来ない。医師たちの疲れは積み重なる。彼らが、どこまで頑張り通せるだろうか。そして、4月に迎える研修医たちに、魅力ある教育を行うことができるのか…。

 

 

禰宜田が焦点を絞る、
国が作った新たな病床。

103043 厚生労働省は、平成26年度の診療報酬改定で、<地域包括ケア病棟>という新たな区分を設置した。この病床は、三つの目的を持つ。高度急性期病院での急性期治療を終えた患者を受け入れ、濃厚な医学管理による継続治療の提供。二次救急患者の受け入れ。そして、在宅療養中の患者の急性増悪時の受け入れ。いずれのケースにおいても、より速やかな在宅復帰への支援が必要とされる。
 病床が生まれた背景には、累積する医療費削減を睨みつつ、一方で、超高齢社会への対応がある。高齢者の場合、例えば脳卒中を発症し、緊急手術を行って生命の危機は回避したとしても、その後の回復は迅速には進まない。また、高齢になると複合的に疾患を抱えているケースが多い。そうした高齢患者を、いかに速やかに適切に、総合的な治療を行い在宅に戻すか。それには、一定水準の急性期治療能力を有した病院であることが必要であり、その上で、高度急性期病院との連携、在宅医療機関や介護施設・事業所との連携を進めるなど、その名称どおり、高齢社会での地域医療を包括した病床として誕生したのである。
 今後の人口動態を考えるならば、本当に高度な急性期医療を提供する病院は、二次医療圏に一つ程度あればよい。それ以外の病院は、自院の急性期能力を活かし、社会が必要とする病床に移行する。今、我が国の医療界は、こうした大きな流れのなかで再編成されようとしている。

 

 

院長直轄の
新たな教育ステージ。

701094 地域包括ケア病棟が誕生したとき、禰宜田は、病床フル稼働というビジョンの具体論が、ここにあると思った。すなわち、自院の急性期能力を活かしつつ、地域の高齢者に対応できる病床である。それこそが市民から今後求められる姿なのではないか。
 だが、新しい病床だけに、さまざまな病院がまだ模索状態にあり、手本はない。ならばいっそ、この病床を研修医の教育ステージに活用してはどうか、と禰宜田は考えた。 
 超高齢社会では、一部に特化した専門性を持つだけではなく、総合性の観点から患者を診て、一人ひとりにふさわしい治療を、組み立てる能力のある医師が必要となる。各専門を学ぶには、院内に専門医というリソースはある。その上で、高齢者の医療に必要な能力を、病院とともに研修医自らが創り出す機会を、この病床で提供するのだ。
 考えれば、現在の研修医や若手医師たちは、団塊の世代が後期高齢者(75歳以上)となる2025年、地域医療の最前線に立つ。まさに格好の教育ステージであり、高度急性期病院ではできない新しい医師教育。ここで研修医が鍛えられ、彼らが病院に残ってくれれば、西尾市民病院にとって、大きなプラスをもたらす。
109099 禰宜田は、院内で試験的な稼働をスタート。さらに、平成27年4月を見つめて、地域包括ケア病棟を、院長直轄とすることも決めた。これからは、医師、そして、看護師をはじめとする医療スタッフや職員を巻き込むこと。禰宜田は、新たな病棟と研修医教育への動きを、院内に広げていく決意である。
 西尾市民病院は、まだ夜明け前にいる。禰宜田ビジョン、つまり目標を諦めたら、それはそれでよいかもしれない。しかし、自分たちの志を下げたとき、西尾市の医療は衰退する。それが解っているからこそ、同院の職員たちは諦めない。
 禰宜田ビジョンの新たな展開が、同院の本当の夜明けを予感させる。

 

 


 

column

コラム

●西尾市民病院では、平成28年度以降の稼働予定で、HCU(ハイケアユニット)の整備を進めている。HCUは、直訳すると高度治療室であり、ICU(集中治療室)と普通の病棟との中間に位置するもの。手術直後の患者をはじめ、通常よりも濃厚な経過観察を必要とする場合に使用される。

●また、平成27年1月には、新型の血管造影装置を導入。これにより、同時に2方向から透視・撮影を行うことが可能となり、検査時間の短縮・造影剤量の低減などを果たしている。

●こうした治療環境の強化に加え、地域とのネットワーク強化に向けた動きもある。ITを活用しての地域医療ネットワークシステムの構築だ。

●同院がめざすシステムは、自院と地域の医療機関を結び、患者診療情報を安全に共有するというもの。地域における一貫した医療体制整備に、大きく貢献する。

●院内、そして、地域を見つめて、禰宜田のさまざまな挑戦は続いている。

 

backstage

バックステージ

●医療は社会には不可欠な存在であり、患者とその疾患に対峙したとき、医師の責務は例えようもなく大きい。だがそれが一方では、医師としてのやり甲斐へと繋がっているのだろう。

●責務とやり甲斐。そこには意志とある種の自己犠牲が伴う。そのバランスをどうつけるか。換言すると、モラルと負担感のせめぎ合いである。

●そのせめぎ合いを、西尾市民病院の医師たちは続けている。今ここで自分が持ち堪えなければ、と。

●そうした全病院挙げての取り組みに、なかなか光が射さない。それでもなお頑張ってくれと言わなければならないところに、禰宜田院長の苦しみはある。

●地域包括ケア病棟の導入と、そこをステージとした新たな教育の場創出。軌道修正を重ねながらも、禰宜田院長の地域を見つめる目は、決して間違ってはいない。

 


2,402 views