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病院を知ろう

がん治療の進化と、
患者支援の深化と。
両極にある課題に挑む。

 

 

名古屋医療センター


がん治療の先導的な役割を担いつつ、
患者を生活に戻す仕組みを構築する。

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地域がん診療連携拠点病院として、あらゆる種類のがんに対して包括的ながん診療を推進する、独立行政法人 国立病院機構 名古屋医療センター。
臨床研究機能を持つ強みを活かし、最先端のがん治療を追求する一方で、緩和ケアを含む全人的なアプローチで、急性期治療から退院後の在宅療養までの道筋を支援している。
がん治療の進化と、患者支援の深化という、両極にある課題に挑戦する同院の取り組みを追う。

 

 

 

 

 

がん治療の進化を
牽引していく。

064_NagoyairyoCenter_2014 平成26年12月14日、国立病院機構 名古屋医療センターの講堂で、市民公開講座が開催された。タイトルは「進化するがん治療〜臨床研究から最新治療まで〜」。同院の医師3名が壇上に立ち、それぞれの専門分野のがん治療について講演を行った。
 演者の一人、副院長の近藤 建は「大腸がんにおける個別化治療」について講演した。個別化治療とは、患者一人ひとりが持つ遺伝子特性に着目し、それぞれの個性に合わせて、有効な抗がん剤を選択するという最先端の治療法の一つだ。不適切な治療法や重い副作用が現れる薬剤を避けることができ、患者にもたらす恩恵は大きい。同院には臨床研究センターがあり、患者の臨床検体からゲノム解析(遺伝子情報の解明)を行い、遺伝子タイプに応じた治療法を選ぶ研究も進行している。「がん治療の革新は、臨床研究中核病院(※)としての当院の使命です。当院では、新薬開発にかかわる治験にも積極的に参加していますし、臨床研究部門を持つ強みを活かし、新しい治療法をいち早く患者 さんに届けていきたいですね」と近藤副院長は話す。
 このほか、市民公開講座では、今注目されているがん免疫療法である「肺がんのNKT細胞療法」「臨床研究による血液がん治療の進歩」と題した講演が行われた。こうした公開講座は、地域がん診療連携拠点病院に課せられた役割の一つ。同院では定期的に公開講座を開催し、日進月歩で進化するがん医療の最前線の動きを報告し、市民への啓発と情報提供に努めている。

※ 同院は厚生労働省から、新しい医薬品・医療機器の創出をめざす<臨床研究中核病院整備事業の対象機関>に選定されている。

 

 

組織を横断し、
包括的ながん医療を提供。

IMG_4726 同院は現在、呼吸器、消化器、乳腺、婦人科、血液など多様な領域でがん診療を展開。特色としては、希少がんである眼の腫瘍、全国統一の臨床研究の中心施設として、施設および患者さんの情報管理センターを担っている小児血液がん、乳がんの診断治療などが挙げられる。
 そもそも同院ががんに携わるようになった原点は、血液がんである。古くから血液病の研究に力を注いできた同院は、前身の国立名古屋病院の時代、血液・造血器疾患において高度医療専門施設(準ナショナルセンター)の指定を受け、なかでも全国の小児血液がんの臨床研究拠点として機能してきた。
 その後、血液以外の分野でも着々とがん治療の実績を積み重ね、平成8年、全国がん(成人病)センター協議会(通称:全がん協)に加盟。これは、がん予防・診断・治療などの向上をめざして活動している組織で、東海エリアでは、愛知県がんセンター中央病院と同院のみが所属している。その後、平成15年、愛知県がんセンターとともに地域がん診療連携拠点病院の指定を受けた。
ピアサポート 化学療法の取り組みも早かった。有効で安全な薬物療法を実践する腫瘍内科専門医を揃え、平成15年、名古屋市で初めて外来化学療法室を開設した。そのほか、緩和ケアチームも早くから立ち上げるなど、国内最高水準のがん治療体制の構築をめざし、がん診療に総合的に取り組み、全人的にがん患者を支える仕組みを作ってきた。そして、その組織づくりを牽引してきたのが、「がん総合診療部」の初代部長を務めた近藤だった。「手術、放射線治療、化学療法を組み合わせた集学的な治療を実践するために、各診療科を組織横断的に繋ぐ必要性がありました。そうやって長年培ってきたチーム医療は、当院の財産です」と近藤副院長はほほえむ。その取り組みは今日、院内に組織された名古屋がんセンター(詳細はコラム参照)に継承されている。

 

 

病院と在宅を隔てる
大きな段差。

 がん専門病院に匹敵する体制を整え、包括的ながん診療を進める名古屋医療センター。しかし同院は、がん患者だけを対象とする病院ではない。合計30科の診療科を備え、高度急性期医療を提供する地域の中核病院であり、救急患者をいつでも受け入れるためにベッドコントロールに力を入れ、懸命に空床を確保している状況がある。がん患者についても、長期の入院治療は難しい。治療Plus顔写真3後は速やかに在宅医療へと継続治療のバトンを繋いでいかなくてはならない。疾患によっては、高度急性期治療を終えて、亜急性期や回復期などの病院に転院するケースもあるが、がん疾患の治療は外来中心に移行しつつあり、転院せずに在宅に戻るケースが多い(詳しくはバックステージ参照)。したがって、高度急性期病院として、在宅医療への目線が必要不可欠なのである。
 だが、同院のある地域は、独居高齢者が多い土地柄でもあり、在宅への流れを作るのは、それほど簡単なことではない。「病院の医療と在宅の医療の間には大きな段差がある」と指摘するのは、同院の相談支援センターの責任者である山田悦子(医療ソーシャルワーカー)だ。山田は、治療や経済的な問題Plus顔写真2など、がん患者と家族が抱えるさまざまな相談に応え、退院後も安心して療養できるような体制づくりに力を注ぐ。そのなかで、「たとえば、医療保険制度のなかでも、入院医療と在宅医療の仕組みの違いから、入院中に処方していた疼痛の点滴が、在宅で処方できないケースもあります。そうした制度の壁もあります」と話す。
 山田と同じく相談支援センターに所属する花木佳子(がん性疼痛看護認定看護師)も、同意見だ。「退院後も、いろいろな医療行為を必要とする患者さんの場合、スムーズに自宅に戻りにくい傾向があります。ですから、入院中に主治医の先生方と相談して、点滴処置など医療行為のシンプル化や、早期からの在宅医療との連携を検討しています」。

 

 

生活への目線を持ち、
最先端のがん治療を提供したい。

IMG_4770 退院後の生活を見据えたがん患者の支援。それは、これからも同院の大きなテーマである。すでに同院では、退院する患者の快適な在宅療養を支援するために課題を話し合う<退院調整小委員会>を設置。月に一度、医師をはじめとした多職種が参加し、熱い議論を交わしているという。さらに山田は、「当院では、平成13年より看護部と相談支援センターが共同で立ち上げた在宅医療看護研究会があり、毎年、定期的に地域の訪問看護ステーションやケアマネージャーの方々と共に、症例検討会や講演会を開催している。今後も、それらの会のさらなる発展、充実をめざしていきたい」と意気込む。また、右記の研究会の他に、看護部単独でも、病棟の看護師と地域の訪問看護師が集まり、がん看護ケアや退院後の療養支援を学び合う勉強会を始める計画を持つ。その一番の狙いは「私たちが在宅医療を学ぶことで、患者さんに提供する看護を、当院から在宅へソフトランディング(軟着陸)できるような看護へ近づけていくこと」だと花木は言う。「病院で働く看護師は、在宅医療をなかなかイメージできません。でも、それでは、退院されても治療を続ける必要がある患者さんに対して、本当の意味でいい看護は提供できません。当院の看護師の役割は、最先端の医療や看護の提供だけではありません。退院後の生活を想定した看護を実践して、在宅へスムーズに繋ぐことが非常に大切になってきました」。
Plus顔写真1 近藤副院長もまた、「自分らしい日常生活への目線は重要な課題」だと語る。「当院のがん診療には、二つの課題があります。一つは、臨床研究機能を持つ当院の使命として、がん治療の進化に挑戦していくこと。もう一つは、地域がん診療連携拠点病院として、地域の医療機関と連携し、在宅まで切れ目のないがん診療を提供していくこと。この両極の課題に取り組んでいくことが、これからも私たちの目標です。その視点に立ち、<新しい治療への目線と日常生活支援への目線>を両方備えた医師を育てていくことが責務だと感じています」。
 がん患者を中心に、院内の多職種のスタッフが気持ちを一つにして、最良のがん診療と支援をめざす。その飽くなき取り組みは、これからも続く。

 

 


 

column

コラム

●名古屋医療センターでは、がん診断と治療部門を統括するために、院内に<名古屋がんセンター>を組織している。ここでは、がん診療にかかわる医師、看護師、薬剤師などが診療科、職種の垣根を超えて連携し、がん患者の治療と支援にあたる包括的な取り組みに力を注いでいる。

●名古屋がんセンターを象徴する活動として、月1回の症例検討会<キャンサーボード>がある。これは、がん診療に携わる内科・外科・放射線科・病理診断科の医師、看護師、薬剤師、検査技師など各専門領域の医療スタッフが一堂に集まるカンファレンス。それぞれの専門的な立場から意見交換を行い、標準治療が困難ながん患者の診療方針について検討している。また、診断時より患者や家族の苦痛緩和に向けて、多職種による<緩和ケアチーム>も活躍している。このほか、<相談支援センター>や<やすらぎサロン(がん患者と家族のくつろぎの場)>の運営など、がん患者と家族の支援活動に力を入れている。

 

backstage

バックステージ

●がんは、一昔前まで「死に至る病」というイメージがあったが、現在は「慢性疾患」の一つに数えられるようになった。同時に、有効な抗がん剤をはじめとした薬剤の進化により、がん治療は、入院中心から外来治療中心へ移行しつつある。治療方法が変化していくなかで、名古屋医療センターは、他の医療機関に先駆けて外来化学療法室を開設した。

●がんは、病院に通いながら自宅で治していく時代に向かっているが、はたして在宅医療の担い手である診療所や訪問看護ステーションは受け入れ準備ができているのだろうか。たとえばがんの疼痛管理については、医療用麻薬の取り扱い管理の点などで、二の足を踏む診療所も多い。病院の医療と在宅の医療の<段差を埋める>には、在宅サイドの医療機能の強化とサポートも重要な課題なのではないだろうか。

 


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