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シアワセをつなぐ仕事

地域の先頭に立って
病院と生活を繋ぐ
仕組みを作っていきたい。

堀 みどり/名古屋掖済会病院 地域医療支援センター・退院調整室


 

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在宅の現場での豊富な経験を買われて、名古屋掖済会病院に転職。
地域医療支援センターの退院調整室で活動する堀 みどり看護師。
訪問看護師、ケアマネジャー、地域包括支援センター相談員などで培ったノウハウをベースに、退院する患者を適切な生活へ繋ぐ仕組みづくりに全力投球している。

 

 

 



在宅の現場で積み重ねてきた
さまざまな経験を活かし
急性期病院と在宅生活の架け橋になる。


 

 

 

退院調整のキーパーソンとして。

 掖済会20150311¥IMG_5947 「退院調整で難航しても、堀さんがいるから心強い」——各病棟の看護師から、絶大な信頼を寄せられているのが、堀 みどり看護師(地域医療支援センター・退院調整室)。退院調整とは、入院患者の<退院後の生活>に対する困りごとをいち早く察知し、適切な退院先の確保や、必要な医療・介護サービスの活用を支援する業務である。
 堀のもとに集まる退院調整の案件は、実にさまざまだ。「家族の介護力が不充分で、在宅復帰の目処が立たない」「退院後も濃厚な医療処置が必要だが、在宅医が見つからない」など…。堀はそうした難問に一つひとつ根気よく対応し、医療ソーシャルワーカーをはじめ、院内外の多職種と連絡を取り合い、患者を丁寧に生活の場に戻していく。堀の強みは、長年にわたり在宅の現場で培ってきたノウハウと人脈だ。患者や家族との会話を通じて、退院後、どのような支援が必要になるか、という見通しを立て、長期的な視野で的確な助言をする。また、必要に応じて、顔見知りの訪問看護師や介護事業者に相談して問題解決にあたる。急性期病院の平均在院日数が短くなり、思っていたよりも早く退院を打診され、とまどう患者や家族も多い。退院後の不安を抱えた患者と家族にとって、堀は頼もしいアドバイザーの役目を果たしている。
IMG_0282 そんな堀が今、奔走しているのが「患者の家探し」だという。「救急搬送されて良くなったものの、住環境が整っていなくて帰れないケースがあります。そういう場合に連携できる施設、たとえば生活保護の受給者でも入居できる施設はないかと探しているんですが、なかなか見つかりません」と頭を抱える。高度急性期病院の看護師が、そこまで介入するのかと驚かされるが、「患者さんを支えるのが、看護師の仕事ですから」と、堀はさらりと答える。

 

 

介護保険制度の黎明期から
在宅の仕事に携わってきた。

Plus顔写真1 堀が現職に就いたのは、平成26年4月。それまでは在宅の現場で活躍してきた。堀の経歴を簡単に振り返ってみよう。看護師の養成学校を卒業して最初に入職したのは、名古屋掖済会病院。そこで約3年間、ICU(集中治療室)に勤務した後、結婚を機に退職。子育てが一段落して復職を考えたとき、堀が選んだのは、まったく新しい訪問看護の世界だった。折しも介護保険制度が始まる1年ほど前のこと。当時はまだ、訪問看護師の認知度が低く、訪問介護員(ホームヘルパー)に間違われることも珍しくなかったという。「患者さんのお宅を訪問しても『ご飯作って』と言われたりしましたね」と、堀は苦笑する。訪問看護と訪問介護は役割が違う。訪問介護員が食事、排せつなどの身体介護・生活援助を行うのに対し、訪問看護師は利用者の身体的な変化を観察し、必要な医療処置を行い、さらに必要に応じて適切な医療・介護サービスに繋ぐ役割を担う。しかし当時は、そうした訪問看護の機能が医療従事者の間でも認知されておらず、「僕が往診に行くから訪問看護はいらない」というかかりつけ医もいたという。
 堀はそれからほどなくして、当時創設されたばかりのケアマネジャー(介護支援専門員)の資格を取得。自分でケアプラン(居宅介護計画)を作り、利用者にサービス内容を提案するなかで、訪問看護の必要性を地道に説明していった。こうして訪問看護師とケアマネジャーの兼務を10年以上続けた後、縁あって、高齢者の相談窓口である名古屋市の「いきいき支援センター(地域包括支援センター)」に転職。高齢者の相談に応えると同時に、在宅医療・介護に関わる人たちのサポート業務に携わった。
 振り返ると、堀の職歴は実に多彩だ。あるときは医療や看護の視点から、あるときは介護や福祉の視点から、在宅生活の支援に多面的に携わってきた。その豊富な経験から、在宅の現場で何が必要なのかを知り尽くしているといえるだろう。

 

 

地域に根ざした病院
だからこそ在宅との繋がりが重要。

Plus顔写真2 同院の看護部が、在宅に精通した堀を招き入れたのはなぜだろうか。
 そもそも同院は、重篤な疾患を持つ患者に、短期間で高度な医療を提供する高度急性期病院。救命を第一に治療を行い、病状が落ち着いた患者は、速やかに次のステージの病院や施設、在宅へと繋ぎ、また次の患者を受け入れる役目を担う。病気の発症から治療、社会復帰までの時間軸に沿って見れば、在宅医療からもっとも遠い位置にある病院のように見える。だが、「決してそうではない」と話すのは、同院の伊藤安恵副院長 兼 看護部長だ。「当院は地域に密着した病院として、重症度に関わらず、さまざまな患者さんも受け入れています。地域の患者さんが安心して在宅に戻れるようにするには、ぜひとも堀さんの力が必要だと考えました」。
掖済会20150311¥IMG_6076 伊藤副院長は、院内で退院調整の仕組みづくりを牽引してきた人物。今日までの経緯を次のように言う。「平成20年に、退院調整室が立ち上がり、21年より退院支援・調整の勉強会が開始されました。2年後には、各病棟や外来に、退院調整の必要な患者の情報を抽出して早期介入していく退院調整リンクナース担当が置かれ、病院全体に退院支援機能が広がったのです」。
 患者をスムーズに生活の場に戻すには、入院中から退院後の生活を視野に入れた看護をすることが求められる。しかし、急性期の現場ではどうしても<病気を治す>ことが優先され、院内では退院支援に対する考え方に温度差があるのも事実だ。「院内の温度差を埋めるために、堀さんは<在宅を学ぶ>勉強にも力を入れてくれています。堀さんの活動によって、徐々に病棟看護師の意識が変わり、退院後を想定した看護の実践力が上がってきました」と伊藤副院長。経験に裏打ちされた堀の仕事ぶりに触発される看護師もおり、なかには「退院調整室の専属ナースになりたい」と志願する者も現れているという。

 

 

病院と在宅の垣根を壊し、
地域の多職種と協働していく。

掖済会20150311¥IMG_5954 退院調整室に勤務して、丸1年。堀にこれからの目標を聞いた。「私たちの地域は、地域包括ケアシステム(※)の実現に向けて大きく動き出しています。その時代の流れに乗っていくというよりも、当院がその流れを先取りして、急性期医療と在宅生活を繋ぐ仕組みを作っていきたいですね。当院が<高度急性期病院が果たすべき役回り>を示すロールモデルとなって、地域全体の多職種連携をリードできれば理想的です」。
 伊藤副院長はその言葉にうなずき、さらにこう続けた。「地域包括ケアシステムの実現に向けて、当院が貢献できることの一つに、院内の豊富な人的資源を地域で共有・活用していただくことがあります。たとえば、当院にはさまざまな専門知識を持った専門・認定看護師がいます。地域のニーズに応じて、適切な看護師を送り出すナビゲーター役を堀さんに担って掖済会20150311¥IMG_5896ほしいと考えています」。伊藤副院長は堀にその役割を期待するのは、堀が地域の在宅医療・介護事業者と顔の見える関係を築いているからだ。「<病院は敷居が高くて相談しにくい>とよく言われますが、堀さんなら、その敷居の高さを壊せます。病院と在宅の壁、さらに医療と介護の壁、そして何よりも院内の意識の壁をどんどん壊してくれると楽しみにしています」。病院と在宅の架け橋となり、堀の新しい挑戦は続く。

※ 地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるように、住まい・医療・介護・予防・生活支援などのサービスを包括的に提供する仕組み。


 

 

columnコラム

●名古屋掖済会病院は東海地区で最初の救命救急センターを開設。重症度に関わらずあらゆる患者を診る「北米型ERシステム」を確立した、ERのメッカである。「救急を断らない」信念は、初代院長から受け継がれてきたもの。創設以来、一貫して、突然の病や怪我で苦しむ地域住民に必要な医療を提供してきた。

●すべての救急を受け入れることは、同時に、すべての患者を退院へ導くことを意味する。だが、本文で記したように、住環境の不備などさまざまな理由で退院が困難を極めることは多い。同院はかねてよりその難題と向き合い、苦労を重ねて、退院後の療養を担う地域の医療・介護機関との連携を一歩ずつ築いてきたのである。地域の救急医療を守り続けるためにも、同院はこれからも地域連携の絆を一層深めていく決意である。

 

backstage

バックステージ

●今回の主人公である堀 みどり看護師は、名古屋掖済会病院を出発点として、その後、在宅での看護や介護に携わり、今再び、同院に戻って活躍。若手看護師の指導者・教育者としても重要な役割を果たしている。

●病院と地域を行き来することで、看護師はひと回りもふた回りも大きく成長する。同時に、さまざまなステージで人脈を広げた看護師は、病院と在宅を結ぶ潤滑油の役目も果たす。

●地域の医療・介護機関のさらなる連携が望まれる地域包括ケア時代、堀看護師のように、地域の多様なステージで職歴を重ねることが、今後ますます必要になるのではないだろうか。看護師を<地域の財産>ととらえ、病院、診療所、訪問看護ステーションなどが手を結んで、共通のキャリアパスを作り、地域で活躍する看護師を育てていく。そんな看護師育成の新たな仕組みができることに期待したい。

 

 


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