6,992 views

アーカイブTOPタイトル18

若い医師たちが活躍する未来は、未曾有の超高齢社会。

前号のLINKEDでは、超高齢社会における地域包括ケアシステム(※)と地域医療にスポットを当て、現状と課題をレポートした。そのなかで、病院のあり方も大きく変わりつつあることを認識した。すなわち、病院は従来のように、患者を迎え入れて治療をするだけでなく、在宅医療の担い手を積極的に支えていく方向へと転換しつつあるのだ。病院が地域との関わりを強化するなかで、これからの医師のあり方や教育も変わっていくべきではないだろうか。今回は、医師の教育について考えていく。

※地域包括ケアシステムは、高齢者が住み慣れた地域で生活を継続できるように、住まい・医療・
 介護・予防・生活支援などのサービスを包括的に提供する仕組み。

医師たちパス

LINKED本編_小見出し1

高齢者を知らない若者たち。

 「どんなふうにお年寄りと話せばいいかわからない」「今までお年寄りの体に触れたことがない」−−−。若者の中には、高齢者との接点を全く持ったことのない人も少なくない。その背景には、核家族化の影響がある。親、子、孫が一緒に暮らす大家族が減少したことにより、若者と高齢者の繋がりは希薄になっている。
IMG_9526 しかし、これから医療界を背負って立つ医師は、〈高齢者を知らない〉では通用しない。なぜなら、現在、医学部で学んでいる学生、あるいは、医師免許を取ったばかりの研修医(※)が将来、活躍する場は、世界がかつて体験したことのない未曾有の超高齢社会。内科系・外科系を問わず、医師はたくさんの高齢患者と向き合っていかねばならないからだ。ちなみに、医師が一人前になるには10年かかるといわれるが、今年医師としてデビューした人が10年後を迎えるのは、ちょうど〈団塊の世代〉が75歳以上となる 2025年である。内閣府の発表によれば、その年、日本の高齢者人口は3,657万人になり、その後も増加を続け、2042年に3,878万人で高齢化のピークを迎えると推計されている。これから医師になる人は、医師としてたくさんの経験を積み、熟練していく年代を、超高齢化の真っただ中で過ごすことになるのだ。

※研修医:卒業後(医師免許取得後)、臨床研修病院で研修する医師。平成16年4月から新医師臨床研修制度が導入され、2年間の初期臨床研修が義務化されている。

超高齢社会の医師の役割は何だろう。

 では、超高齢社会に貢献する医師の育成には、何が必要だろうか。従来の医師教育、すなわち、臓器別専門医を育てることに主軸を置く教育とは明らかに違うアプローチが必要なのではないだろうか。そのことを探るために、まずは、一人前の医師をめざして日々、学びを深めている医学生と研修医の7人に意見を聞いた。
 はじめに、超高齢時代の医師の役割についてどう考えるか、聞いてみた。「今後は、在宅で療養する高齢患者さんが急増する。入院しても患者さんをうまく在宅に帰し、地域全体で患者さんを診ていくように医師がリードすべき」「治すだけが医師の仕事じゃない。お年寄りの残りの人生を考え、より良い生活ができるような治療法を提示することも重要になる」「高齢患者さんが急増すれば、病院はパンクしてしまう。入院に至らないように、予防医療も大切になるのではないか」。どの意見も、高齢社会における患者への目線、地域医療に対する見識がしっかりと感じられる。
 続いて、「あなたは10年後、どんな医師になっていると思うか」と尋ねたところ、大半が「進むべき診療科や専門分野をまだ決めていない、迷っている」という答え。ただし、専門医の資格を取った上で「総合的に何でも診る医師になって、地域のニーズに応えたい」「患者さんの日常生活に踏み込んだ診療ができる医師になりたい」など、全人的医療の実践をめざす意見が聞かれた。

現場で学んだこと
これから学びたいこと。

 医学生や研修医たちの、地域医療へのまなざしはどのような教育で養われたのだろう。彼らが第一に挙げるのは、〈現場〉での発見や驚きだった。「訪問診療に同行して、自分の想像力不足を思い知った。生活の場で話を聞いて初めて、患者さんが何を求めているかわかった」「救急車同乗実習で、家事が行き届かず、荒れ放題になった老夫婦の住まいを訪問。厳しい老々介護の現実を知った」「病院実習で、住民が自分の生まれ育った土地に愛着があり、そこで生涯を終えたいという思いが強いことを実感した」など。百聞は一見に如かず。山間部での研修、訪問診療の同行実習などを通じD27_0726、彼らは病気を抱えながら暮らす「患者の思いや生活を知る」ことが、医師にとって何よりも重要であることを学んできたのである。
 その上で、彼らは今後、どんなことを学ぼうと考えているのか。今春、研修医として新たな一歩を踏み出した医師は「まずは、救急科と内科をしっかり学び、幅広い疾患に対する診療能力を身につけたい」と意気込む。その他、「内科一般は当然のこととして、運動機能が衰える高齢者を支えるために、整形外科の知識も学びたい」「産婦人科を志望しているが、高齢女性の疾患にも対応できる幅広い力をつけたい」など、それぞれが高齢社会のニーズを見据え、医師としてのキャリアを磨いていこうとしている。

 

LINKED本編_小見出し2
「地域枠」の人材はなぜ
地域医療への貢献意欲が高いのか。

大原先生キャプション入り 今回、取材した医学生と研修医は、〈超高齢社会〉や〈地域医療〉に対し、高い意識を持っていた。その理由の一つとして、取材対象者7人のうち4人が、「地域枠」で入学選抜されたことが大きく関わっているのではないだろうか。
 地域枠とは、国の政策に基づき、地域医療に従事する意欲のある学生を対象とした入学者選抜枠。平成25年4月現在、68大学で1,425人の地域枠が設定されている(文部科学省)。東海三県では、名古屋大、名古屋市立大、愛知医大、藤田保健衛生大、岐阜大、三重大の合計6大学の医学部で、地域枠入試を実施。地域枠で入学した人には、県が修学資金を貸与(私立大学の場合、県と大学が貸与)。卒業後、県内の病院(医師不足に悩む公立・公的病院、独立行政法人が開設する病院)に一定期間勤務すると修学資金の返還が免除される仕組みだ。
 この地域枠制度を軸に据え、これからの医師教育について、名古屋市立大学大学院の大原弘隆教授(地域医療教育学)に話を聞いた。まず、地域枠学生・医師の意識の高さは、どのように培われるのだろうか。
 「それは、入学前から個々が持つ価値観が大きいと思います。というのも、地域枠入学試験では面接を非常に重視します。本学では、愛知県の担当者も同席し、将来の赴任に関する条件も伝え、本人が本当に地域医療をやりたいかどうかを見極めます」と、大原教授。たとえば、将来、内科、外科、整形外科、産婦人科、小児科など期待される診療科に進むこと、そして、県知事の指定する病院への赴任が条件になる。決して生半可な気持ちで入学することは許されない。
 その上で、大学6年間の教育については、「県や大学によって異なりますが、本学では地域枠学生のカリキュラムは一般学生とほとんど同じです。愛知県の地域医療セミナーに参加したり、3年生のとき4カ月間、地域医療学の研究室に配属したりしますが、それ以外はあまり変わりません。また逆に、一般学生の中にも、地域医療に興味があり、地域医療学を学ぶ学生もいます」と、大原教授は語る。

地域枠医師は、
超高齢時代の医師のロールモデルになる。

 一般学生と同じように学ぶ地域枠学生だが(名市大の場合)、卒業後の進路については明確な違いがでる。愛知県における地域枠医師のキャリアパスを見てみよう(下記参照)。
グラフ 卒業して医師免許を取得した地域枠医師は、まず厚生労働省の指定を受けた県内の臨床研修病院(主に治す機能を持つ病院※1)で、2年間の初期研修を受ける。ここで研修医は幅広い急性期疾患に触れ、基本的な診療能力を養う。修了後、自分の進みたい診療科を選択し、県内の臨床研修病院で2年間、専門的な知識と技術を修得(後期研修)。充分な診療能力を身につけた上で、県内の医師不足の中小病院(治す機能を持つ病院や治し支える機能を持つ病院※2)に5年間勤める。
 赴任先病院の選定については、愛知県が医師不足の状況などから候補となる病院を提案し、有識者会議(※3)で検討。同時に、各大学で地域枠医師の意向を確認、さらに大学間で合意を図るための協議会を開催する。一方、赴任先病院では、関連大学と相談しながら、キャリアパスを作成する。
 このように見ていくと、県、有識者、大学、病院と、さまざまな人が関わり、地域枠医師の養成・配置計画が作成されることがわかる。「10年先までを見据え、吟味されたキャリアパスが提示されるわけですから、本人にとって非常に安心できると思います。おそらく、新しく創設される総合診療専門医(※4)の育成プログラムと同じような実力が養われると考えています」と大原教授は言う。
 そもそも地域枠制度は、地方の医師不足や偏在の解消を目的に作られたものだ。しかし、大原教授の話を聞くと、この制度の意義はそれだけではないことに気づく。赴任先病院では、医師が潤沢に揃っていないため、そこで働く医師は当然、専門分野にかかわらず、全身を診る能力が求められる。また、〈治し支える病院〉だけに、在宅療養に関わるさまざまなニーズにも対応していかねばならない。まさに、超高齢社会の地域医療の最先端で、医師の技量を高めていくことになる。「9年間の勤務で、医師としての引き出し(知識)がすごく蓄えられるはずです」と大原教授は太鼓判を押す。
 ただ、こうした地域枠の意義は、医学生の間でもあまり認知されていない。一般学生からすれば、「地域枠医師=田舎で働く医師。9年間の義務を果たして、そこからようやく、自分の好きな分野に進める」と誤解する向きもあるという。しかし、そもそも地域枠医師は自らの意志で、地域医療をめざすわけで、その道は、超高齢社会に必要な医師の育成に合致するものだ。
 愛知県では、地域枠医師の1期生が今春、研修医として巣立つ。10年後には、県内各地に赴任する地域枠医師は100人ほどに達する予定だという。彼らがパイオニアになって、超高齢社会の医師のあり方を指し示していくに違いない。

※1急性期の治療を行う病院。その中でも、とくに重症な疾患に対応する高度急性期病院を、LINKEDでは〈治す病院〉という。
※2発症頻度の高い一般的な疾患に対応しつつ、高度急性期治療を終えた患者を受け入れ、日常的な生活への復帰を支援する病院。LINKEDでは〈治し支える病院〉という。
※3地域医療連携のための有識者会議。県内の大学病院院長、県職員、県医師会長などで構成される。
※4総合診療医は、総合的な診療能力を持つ医師。専門医制度の改革(平成29年度から実施予定)が進むなか、新たに「総合診療専門医」が創設されることになった。

地域枠を発展させ、
二次医療圏で医師を育てる仕組みづくりを。

 ここまで地域枠を中心に語ってきたが、一般の医学生や研修医が、地域医療を学ぶ機会がないかといえば、決してそうではない。初期研修の期間中、1カ月以上の「地域医療」が必修となっており、研修医は、地域の診療所や病院などで研修を受け、貴重な学びを持ち帰る。その中には、医師不足のへき地や離島の医療を支援するケースもある。
 だが、今後の人口構成の推移を見ると、高齢化の主舞台は地方から都市部へ移ると想定されている。高齢化問題は、都市部にこそ顕著に現れる。とすれば、これからは地方ではなく、都市部においても、地域医療を研修する機会を設けていくべきではないだろうか。大原教授は、「同じ医療圏の中で、〈治す病院〉〈治し支える病院〉の両方で研修することは非常に望ましい」と話す。「たとえば、〈治す病院〉で担当した患者さんが、〈治し支える病院〉でどのように回復していくかを見ることができ、自らの診療を振り返る絶好の機会になると思います」。
 さらに、大原教授が同じ医療圏で研修する利点として挙げるのが、研修医が抱く「地域への愛着」だ。「同じ地域にあるさまざまな病院で研修することにより、研修医は、その地域に育ててもらったという愛着を感じます。それが、その後の仕事の姿勢にもいい影響を与えると思います」。
 〈治す病院〉〈治し支える病院〉の両方で研修し、地域医療をより良くしていくために何が必要かを、医師一人ひとりが考える。地域完結型医療体制を構築する上で、地域の医師がさまざまなステージを経験していることは、非常に心強い財産になるのではないだろうか。実現の鍵を握るのは、地域にある病院、大学各診療科医局、医師会などがいかD27_0740に医師教育に理解を示し、一つにまとまっていくか。たとえば、〈治し支える病院〉において、研修医の教育を担う指導医が不足していれば、近隣の〈治す病院〉から派遣するなど、フレキシブルな協力体制が必要となる。
 医師教育は、地域医療を支える要である。地域で優秀な医師を育てるために、地域の医療機関があたかも一つの病院のように強く連携することを、LINKEDは期待感を持って注視していきたいと考える。

 


LINKED本編_コラム

内海先生キャプション入り 地域枠医師の派遣調整と地域の医師不足の是正に関わる体制が、今後さらに強化される見通しだ。そのコントロールタワーとなるのが、厚生労働省の呼びかけにより、全国の都道府県で設置が進む「地域医療支援センター」である。愛知県では、平成27年4月から「愛知県地域医療支援センター」の運営がスタート。初代センター長に、内海 眞氏が就任した。内海センター長は「当面は、医師不足の現状を把握し、各大学や有識者会議と協議しながら、医師の足りない病院へ地域枠医師を中心に派遣していく計画。ゆくゆくは、医師のキャリア形成に踏み込んで支援していきたいと考えています」と話す。医師の派遣調整においては、「医師不足に悩む病院のため、というよりも、その先の患者さんのことを第一に考え、取り組んでいきたい」と意欲を燃やす。そのためには、「大学や病院など、医師教育に関わる全員が、大きな視野に立ち、愛知県全体の医療を底上げしよう、という意識を持って取り組んでいくことが重要」だと指摘する。
 地域医療支援センターの機能は、かつて大学の医局が担っていた医師派遣調整・あっせん機能をより進化させたものともいえる。将来的には、愛知・岐阜・三重県の地域医療支援センターの職員が意見交換できる機会を設け、東海エリアにおける医師の供給体制について検討するような広域のネットワークづくりも期待されている。



 

HEYE

名大総長 松尾清一/
教育は、未来を創り出す最大の道具。

元厚生労働副大臣 大塚耕平/
地域医療の生命線

EEYE

地域の中を循環させながら医師を育てる必要性。

 


SPECIAL THANKS(編集協力)

「PROJECT LINKED」は、本活動にご協力をいただいている下記の医療機関とともに、運営しています。
(※医療機関名はあいうえお順です)

愛知医科大学病院
愛知県がんセンター 中央病院
足助病院
渥美病院
安城更生病院
伊勢赤十字病院
稲沢厚生病院
稲沢市民病院
鵜飼リハビリテーション病院
大垣市民病院
岡崎市民病院
尾張温泉かにえ病院
海南病院
春日井市民病院
蒲郡市民病院
刈谷豊田総合病院
岐阜県総合医療センター
岐阜県立多治見病院

岐阜市民病院
岐阜大学医学部附属病院
江南厚生病院
公立陶生病院
公立西知多総合病院
小林記念病院
市立伊勢総合病院
総合犬山中央病院
総合大雄会病院
総合病院中津川市民病院
大同病院
知多厚生病院
中京病院
津島市民病院
東海記念病院
常滑市民病院
豊川市民病院
トヨタ記念病院

豊田厚生病院
豊橋市民病院
名古屋医療センター
名古屋掖済会病院
名古屋市立大学病院
名古屋大学医学部附属病院
名古屋第二赤十字病院
成田記念病院
西尾市民病院
はちや整形外科病院
半田市立半田病院
藤田保健衛生大学病院
増子記念病院
松阪市民病院
松波総合病院
みよし市民病院
八千代病院

 

※読者の皆さまへ
<LINKED>は生活者と医療を繋ぐ情報紙。生活者と医療機関の新しい関係づくりへの貢献をめざし、中日新聞広告局広告開発部とPROJECT LINKED事務局・HIP(医療機関の広報企画専門会社)の共同編集にてお届けします。

企画制作 中日新聞広告局

編集 PROJECT LINKED事務局/有限会社エイチ・アイ・ピー

Senior Advisor/馬場武彦 
Editor in Chief/黒江 仁
Associate Editor/中島 英
Art Director/伊藤 孝
Planning Director/吉見昌之
Copywriter/森平洋子
Photographer/越野龍彦/加藤弘一/ランドスケープ/空有限会社
Editorial Staff/伊藤研悠/村岡成陽/吉村尚展/佐藤さくら/黒柳真咲/國分由香
      /加藤徳人/安藤直紀/小塚京子/平井基一
Design Staff/山口沙絵/大橋京悟
Web制作/G・P・S/Media Pro

 

 

 


6,992 views