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病院を知ろう

東濃医療圏の将来を見据えて
新しい医育モデルが
生まれようとしている。

 

 

岐阜県立多治見病院


求められるのは研修医時代から、
地域の医療や生活を理解すること。

main

岐阜県立多治見病院での後期研修医は今年7人。
彼らは2年間の初期研修を終え、後期研修も学びの場としてここを選んだ。
その理由は少数精鋭の伝統ある医師教育に加え、高機能病院にふさわしい学習環境が整っているからだという。
しかし、県立多治見病院はこれまでの研修を見直し、研修プログラムの改訂にとどまらず、新しい医育モデルをつくりあげようとしている。それはなぜか。また、どのような中身になるのだろうか。

 

 

 

 

 

地域の基幹病院として、
ハード&ソフトが充実。

●高次急性期医療の現場を知る
Plus顔写真1 「初期研修の病院選びのとき、県立多治見病院は高機能病院なのに研修医が少なめで濃密な研修が受けられると思い、ここを選びました」と外科医志望の伊藤雄貴は言う。確かに世界最高レベルの放射線治療装置ノバリスをはじめ、高次の急性期病院として高度な医療機器が装備されている。さらに続けて「僕の同期は10人でコンパクトでした」。研修医が20人もいる大病院では、手術現場を見るときも人数が多過ぎてよく見られないが、ここでは間近で見られる。「麻酔科の研修期間も長く、難しい麻酔のかけ方も学べて度胸もつく」。研修医にとって欠かせない電子カルテを見る端末も、研修医室だけで4台用意されている。「いつでもストレスなく検索できるのはうれしかった」とハード面の充実ぶりを強調する。そして「研修医室はじめ研修医寮もとてもキレイです」とつけ加えた。
●指導医の先生が厳しくも親身に
 鬼頭佑輔の初期研修の病院選びは、医学部の先輩医師から「消化器内科なら県立多治見病院がいい」と言われたことだった。「厳しくも親身になって教えてもらえる」ところが気に入ったとか。例をあげれば、がん患者への告知とインフォームド・コンセント(※)。「自分の伝えD27_0773たいことだけを一気に話してしまい失敗だった」と反省する。指導医に「今のは40点」とダメ出しされた。「患者さんを診て一つひとつ確認しながら次へ」と教えられ、納得。「まさに『病気を診て人を診ず』をやってしまいました」。
 大抵の場合、指導医の採点は辛い。「しっかりと準備ができていなかったり教えられたことを守っていなかったりすると叱責されます」。しかし「次はこうしろ」「ここがポイントだ」と的確な助言があるため、「努力すれば成長できる」と実感している。

※ 医師が患者に対して疾患や治療方法などを説明し、患者から充分な理解と合意を得ること。

 

 

オーソライズされた
医育プログラムをつくりあげる。

 Plus顔写真2 後期研修の只中にいる二人から初期研修時の話を聞いた。そこから、県立多治見病院が、研修病院としてハード&ソフトの両面で充実していることが分かった。また、指導医が親身になって教えてくれることも。「県立多治見病院にしてよかった」という満足度も見える。そんな二人の感想に対し、近藤泰三臨床研修センター長(以下、近藤センター長)は「ははは」と高笑いしながら、研修医教育の昔と今についてこう話す。「これで厳しいとは言えないね。僕らの頃は本当に厳しかった。指導医についてこいというやり方でした」。その育て方で医師はたくましく育ち、そのなかから優秀な医師をたくさん輩出してきた。「昔に比べればマイルドになったほうだが、伝統的なやり方は残っている。ただ、これからもそのやり方でよいものだろうかという疑問が残る」と近藤センター長。問題は厳しさゆえについてこられない研修医をどうするか。つまり落ちこぼれを出さない研修プログラムが必要になってきた。
 「まずは、卒後臨床研修評価機構の認定取得をめざす」と言う。しかし、それが目的ではない。近藤センター長はもっとその先を見ている。「これまで積み上げてきたスタンダードに何か新しい独自のものを加味した内容が要る。これからの医師教育モデルを当院だけの力ではなく、東濃医療圏の病院とともにつくりあげたいと考えている。それができたとき、オーソライズ(公認)された新しい医育モデルとなる」と自信をのぞかせる。近藤センター長の発想の根幹には東濃医療圏が抱える医師不足の問題があった。

 

 

東濃医療圏が抱える
医師不足の解決策とは。

D27_0726 「東濃医療圏は岐阜医療圏に比べて医師の数が足りない。医師不足なのに医療圏は広い。東濃医療圏のそれぞれの病院が持つ機能を補完しあい、高度に連携した体制を整えることが不可欠。それができなければ、ここでの医療を守れない」と近藤センター長は言う。
 具体的に見てみよう。平成26年のデータでは人口10万人に対して岐阜医療圏の医師数は244人、東濃医療圏は169人。人口比率でいえば単純計算で東濃医療圏は岐阜医療圏に比べて75人も少ない。また、医療圏面積についても、岐阜医療圏の面積が993㎢に対し、東濃医療圏はその1・6倍に相当する1563㎢。近藤センター長の言うとおり、岐阜医療圏に比べ、東濃医療圏は広いのに、医師が少ない実態がこの数字からも分かる。
 「医師不足という根本的な問題を解決するためには、東濃医療圏で医師を育てるしかない。そのためには医師を集めること。どのようにして集めるか。それは初期研修の教育の魅力にかかっている」と近藤センター長の言葉に力がこもる。

 

 

東濃医療圏全体で
医師を育てる仕組みづくりを。

D27_0765 東濃医療圏ならではの状況、すなわち「医療圏は広く、医師数は足りない」という現実を逆手に取った、オリジナリティ溢れる医育モデルをつくれるのではないか。近藤センター長はそう考えている。補足すれば、東濃医療圏内の限りある医療資源を有効に活用するには、異なる機能を持つ病院同士が強固に連携する必要がある。そこには急性期病院や地域包括ケア病床を持つ病院などがあり、学びの場としても、一つの大きなステージができあがる。この環境下に研修医を置くなら、おのずと地域医療を意識し、「ここで医師になる」という自覚も生まれよう。これからの研修医は、一人の患者の入院から在宅までの流れを考えたとき、自院のことを含めて病院同士の病病連携や、かかりつけ医などとの繋がりがすぐに想起されなければならない。
 近藤センター長は東濃医療圏が必要とする医師像についてこう述べる。「医療のことだけでなく、社会的問題やその背景を考えられる頭が必要だし、多職種連携も重要だ。実際に動くのは看護師や支援相談室の人だが、彼らが医師の助言を求めたとき、どんな方針を打ち出すのか。多職種とのカンファレンスのなかで最終的に判断するのは医師。これができなければいけない」。
 そこで求められるのはリーダーシップとコミュニケーション能力。地域包括ケア時代のなかで、他の医療機関と連携し、多職種との間では中心的役割を担う、そんな医師を育てたいという近藤センター長の熱い思いが伝わってくる。

 

 


 

column

コラム

●原田明生院長は「自院のことに加えて東濃可児地域全体のことを考えなければ」と常々語る。地区全体でもその機運が高まり、平成26年6月に「東濃・可児地域病病連携推進会議」がスタートした。

●構成病院は、岐阜県立多治見病院、多治見市民病院、中津川市民病院、土岐市立総合病院、市立恵那病院、東濃厚生病院、国保坂下病院、可児とうのう病院の8病院。半年に1回のペースで会議が開かれ、平成27年5月に第3回の会議が実施される予定だ。

●8病院の院長が集まり、医療圏全体が抱える問題を検討し、解決策を見出す、あるいは今後の展望を話しあうなど、さまざまな議題を活発に議論しあう場である。

●原田院長は「地域の医療圏に即した医師教育が必要だと思う。医療圏の病院が協力しあい、新しい医育モデルができるといい。まずは病院長会議での提案から」と言う。「地域の医療圏で医師を育てる」というモデルができれば、同様に医師不足で悩む他の地域に対して、一つの指針を示すことになるのではないだろうか。今後の「東濃・可児地域病病連携推進会議」の行方に注目したい。

 

backstage

バックステージ

●サケは稚魚のうちに生まれた川を下り北の海へ向かう。やがて大きく成長したサケは生まれ故郷の川へ戻ってくる。県立多治見病院がつくりあげようとしている医育プログラムは、これに近いものになるかもしれない。

●医師にとっての初期研修・後期研修は稚魚から成魚となる成長期。多くを学び、貴重な経験を積み、基本を叩き込まれた若い医師は、研修病院を離れ、医療という大海へ向かって泳ぎだす。

●赴任した病院で、さらに研鑽し、技術を高め、経験を積む。成長したサケが生まれ故郷の川へ戻るように、県立多治見病院で育てられた医師はいつか地域に戻ってくる…ことを県立多治見病院は望んでいる。

●LINKEDはポジティブに理解したい。ここで学んだ医師たちは思う。「自分はここで育てられた。この地域で何かしたい」と。そんな恩返しの気持ちと愛着が、帰巣本能を刺激するのではないだろうか。我々も、実際にそうなることを願っている。

 


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