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病院を知ろう

もっと地域のなかへ。
患者の人生の時間軸に沿って
支える病院をめざして。

 

 

稲沢厚生病院


地域包括ケア病棟を新たに開設。
急性期から在宅まで一気通貫の体制で
地域住民に<大きな安心>を届けていく。

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平成26年11月、尾西病院から名称を改め、新たなスタートを切った「稲沢厚生病院」。
次の一手は、病床機能の再編である。
平成27年夏をめどに、一般病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換する計画を持つ。
地域の人たちの生活を支え、「安心できる地域づくり」への貢献をめざす同院の決断と今後のビジョンをレポートする。

 

 

 

 

 

近隣の介護福祉施設の
メンバーが一堂に集う。

 春本番の陽気に包まれた平成27年3月17日、稲沢厚生病院の南館・講義室で、第一回目となる「施設相談員連絡会(仮称)」が開かれた。集まったのは、地域の老人保健施設、特別養護老人ホーム、グループホーム、有料老人ホームの施設長や生活相談員、ケアマネジャー、そして同院の医療ソーシャルワーカーたちである。
 最初に挨拶に立ったのは、同院の副院長 兼 地域医療福祉連携Plus顔写真1部長の加藤哲司。来場への感謝の言葉に続いて、加藤副院長は、これから病院が進むべき方向性について簡単に説明した。「実はこの夏から、一般病棟の一部を地域包括ケア病棟に転換し、在宅療養中の方々を支える機能を強化していきます。それに伴い、施設の皆さまとも今まで以上に連携を深めていきたい。まずは皆さまと顔の見える関係を築いていきたいと考え、この会合を企画しました」。
 加藤副院長の決意表明を、集まったメンバーは概ね、好意的に受け止めた様子だった。地域の急性期医療を担う病院が本腰を入れて、在宅医療支援に乗り出したことは、地域の介護福祉施設にとって喜ばしいトピックスである。なぜなら、施設の職員にとって最大の不安は、利用者の容態の急変だからだ。高齢者の場合、心臓や肺機能など体のどこかに病気を抱えており、適切な医療処置の遅れが命取りになるケースもある。急変時にすぐSOSを出せる医療機関の存在は、施設にとって心強いパートナーだ。これまでも同院では、施設利用者の救急を受け入れたり、逆に退院患者を紹介したりしてきたが、その連携のパイプをより太くするための第一歩を踏み出したのである。

 

 

「地域包括ケア病棟」
転換の決断。

 IMG_8254 地域包括ケア病棟とは、平成26年度の診療報酬改定で亜急性期(※)病棟の廃止に伴い、新設された病棟区分。急性期病床から患者を受け入れ、在宅復帰を支援するとともに、在宅などで療養中の患者の緊急時の受け入れを担う。同院の病床数は300床。急性疾患の患者を対象とする一般病床(199床)、精神疾患を対象とする精神病床(51床)、長期の療養を必要とする患者のための療養病床(50床)である。このうち、一般病床の46床を、今夏から地域包括ケア病棟へ転換する。
 今回の病床再編の狙いはどこにあるのだろうか。「やはり地域の患者さんの安心を第一に考えた結果ですね」と加藤副院長は言い、こう続けた。「自宅や施設で療養中に肺炎や熱発などを起こした方を、24時間いつでも受け入れる病院が地域には必要です。また、急性期治療を終えてすぐに退院できない患者さんのためのベッドも必要です。急性期と在宅を繋ぐ中間的な機能を、院内に備えるべきだと考えたのです」。
IMG_8273 しかし、当初はこの決定に対し、職員の反応はまちまちだった。とくに、急性期医療の第一線で活躍する医師たちの間には、亜急性期医療に対する懸念や当惑があった。「職員たちには、<超高齢化の進展と当院の役割を考えたとき、どうしても急性期に加えて、亜急性期をカバーする必要があること>を丁寧に説明しました。もともと当院は<安心の地域づくり>という理念を掲げる、地域のための病院です。説明を重ねた結果、今は、この決断が正しいことを、みんな理解してくれていると思います」と、加藤副院長は振り返る。

※ 亜急性期は、急性期は過ぎたものの、病状がまだ不安定で濃厚な医学管理が必要な時期。

 

 

周辺に後方支援病院がない、
という稲沢市の地域特性。

IMG_8308 一般病棟から、地域包括ケア病棟への転換。この一大決心を促した背景には、稲沢市特有の地域特性もある。同院が位置する尾張西部医療圏(稲沢市・一宮市)では、一宮市に二つの三次救命救急センターがある。さらに医療圏は異なるが、稲沢市から南に足を伸ばせば、医療資源の豊富な名古屋市もあり、周辺に高度急性期医療を提供する病院が充足している状況だ。しかし、地域の二次救急やコモンディジーズ(頻回に発症する疾患)に対応できる急性期病院は、稲沢市内では同院と稲沢市民病院の二つしかない。加えて、同院で急性期治療を終えた患者を送り出すべき後方支援病院(回復期、療養期などを担う病院)も数えるほどしかない。
 こうした地域特性を踏まえ、自らの立ち位置を見つめ直したとき、自ずと今後の方向性が見えてきた。それは、これまで同様に急性期医療に力を注ぐとともに、急性期を脱した患者IMG_8314に対し、在宅復帰に向けた医療を提供していく病院。すなわち「急性期から亜急性期、療養期、在宅支援、さらに精神医療も含め、地域に必要とされるトータルな医療機能を持とう」というのが同院の決断だった。言い方を変えれば、急性期医療という「点」ではなく、急性期から在宅支援に至る「面」で医療サービスを展開し、患者を支えていこうとする考え方である。

 

 

超高齢社会において
本当に必要な医療を追い求めていく。

 同院では平成25年から大規模な改修工事に着手。現在は北館の外来部門の改修工事を進めており、平成27年7月末にすべての工事が完了する予定だ。その時期に前後して、地域包括ケア病棟が開設され、急性期から在宅までを結ぶ、いわば一気通貫の体制が始動する。
Plus顔写真2  同院の眞下啓二院長に、今後のビジョンを聞いた。「北館の改修工事で救急外来を拡張し、救急患者さんをよりスムーズに受け入れる体制を作ります。救急・急性期医療機能をさらに高めつつ、亜急性期、療養期、在宅医療支援まで担うことで、患者さんの人生の時間軸に沿ったシームレスなサービスの提供をめざしていきます。また、そのために重要なのは、地域の医療機関や介護福祉施設との連携強化です。地域の医療・介護福祉に関わる方々と顔の見える関係づくりに力を入れていく方針です」。
 地域連携をベースに、地域に必要な医療を過不足なく提供していく。眞下院長が描く病院の将来像は、まさに地域の超高齢化のニーズに応えたものといえるだろう。超高齢社会が求めるのは、臓器別の専門医療に特化した病院だけではない。病気と共存しながら生活する高齢患者を「治し支える病院」こそ、身近に必要とされている。そして、そうした全人的な医療を主体的に担うのは、内科医にほかならない。「当院の内科医たちは、患者さんのQOL(生活の質)の維DSCF0398持・向上を念頭において、専門医として、また総合的な診療医として、日々たくさんの症例に対応しています。ただ、慢性的な医師不足から、個々の業務量が増大しており、これ以上の負担はかけられない状況です。たとえば、事務作業を補助するなどの負担軽減策を真剣に考えていくつもりです」と眞下院長は話す。ハード面での改修工事の次は、ソフト面の充実。職員みんなが高いモチベーションを持って輝ける病院をめざし、同院はさらなる改革を続けていく。

 

 


 

column

コラム

●地域密着路線を貫く稲沢厚生病院では、早くから在宅医療のニーズに応え、「訪問看護ステーションそぶえ」「ヘルパーセンターえがお」「介護保険事務所」「祖父江地域包括支援センター」などを併設。地域で暮らす高齢者や家族の相談にきめ細かく応え、必要な看護・介護サービスを届けてきた。

●このうち、在宅医療の要を担う訪問看護ステーションでは、病院併設の利点を活かし、継続した看護サービスの提供に努めている。さらに昨今、その機能を充実させ、24時間365日の緊急対応体制を構築。平成26年度の診療報酬改定で創設された「機能強化型訪問看護ステーション」の指定を受けた。同ステーションは今後、地域の訪問看護ステーションと連携しながら、医療依存度の高い患者やターミナル期の患者をしっかりと支えていく方針である。

 

backstage

バックステージ

●超高齢社会に必要なのは専門医だけではない。むしろ、高齢者の生活の伴走者として「治し支える医療」を実践できる医師こそ求められている。その意味で、急性期から在宅支援までの医療サービスを包括的に提供する稲沢厚生病院は、まさに「次代の医師育成の場」として最適な条件を備えている。ここで身につけた幅広い診療能力や、退院患者を在宅医療へ繋ぐコーディネート力などは、これからの時代に必要不可欠な能力になるだろう。

●だが、同院のような「治し支える病院」は、常に深刻な医師不足に直面していることも事実。少し発想を転換し、治し支える病院を「医師教育の場」として活用し、若い医師を継続的に配置するようにすれば、「医師教育の充実と医師不足の解消」という両方のニーズを満たすことができるのではないだろうか。医師の教育と配置について、より柔軟な施策が生まれることに期待したい。

 


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