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病院を知ろう

地域で完結できる医療を守るために、
地域の病院・診療所との「連携力」を強化していく。

春日井市民病院


病院メイン_10春日井

めざすのは、シームレスな医療体制。
医療の断層を起こさないための不断の努力。

人口30万人の春日井市を主な診断圏として、すべての救急患者・紹介患者を受け入れることを使命とする、春日井市民病院。前回の「病院をしろう」では渡邊有三院長が推進した院内改革に焦点を当ててレポートした。今回はさらに視野を広げ、春日井市民病院を中核とした病病・病診連携の取り組みを紹介しよう。

二次医療圏ではなく、診療圏というくくりで地域医療を考える。

img_5168 愛知県北部の5市2町からなる尾張北部医療圏。ここでは春日井市民病院、小牧市民病院、江南厚生病院といった基幹病院があり、各病院がそれぞれの地域医療の中核的な機能を果たしている。春日井市民病院の守備範囲は、人口30万人の春日井市を中心に円形に広がり、小牧市や隣接する岐阜県多治見市、名古屋市守山区・北区からの来院者も受け入れている。二次医療圏という枠組みではなく、責任診療圏、実質診療圏として、「春日井市を中心としたエリアで地域完結型医療体制を作り、市民生活の安心を守ることがわれわれの使命」と渡邊有三院長は語る。
 その強い使命感は、救急医療にも表れている。救急搬送数は年間9000台を越え、尾張でナンバーワン、愛知県内でも屈指の実績を誇る。「救急の依頼は決して断らない」を原則に、地域の救急医療の生命線として機能している。「当院は医師の数も多く、病床数、診療科もそろっています。すべての救急患者さん・紹介患者さんを受けるのが、基幹病院の当然の役割だと考えています」と渡邊院長は話す。一般的な急性期疾患にはオールラウンドに対応し、特殊な疾患は大学病院や専門病院へ紹介したり、あるいは基幹病院同士の分野別連携によりカバーしていくのが同院の基本的な方針だ。

地域医療は、一つの施設では完結しない。

img_4983 地域の急性期疾患に最大限対応するには、ベッドの確保が鍵を握る。同院では、いつでも緊急入院に対応できるように、冬場のピーク時を除いて、病床利用率を90%前後に抑え、10%程度の空床を確保するよう必死の努力を続けている。しかし、それでも次々と押し寄せる救急患者でベッドはすぐに足りなくなる。
 そうした状況の打開策の一つとして、救急の入り口を広げる計画が進んでいる。昨秋(平成24年)、同院の隣接地に、一次救急を担う急病診療所の建設が着工した(詳しくはコラム参照)。地元医師会の協力を得て、ウォークイン患者などの初期診断を委ねることで、二次救急に特化できるシステムを作るとともに、救急病床を併設し、一泊観察入院もできるようにする計画だ。渡邊院長は医師会との関係強化にも期待を寄せる。
 「医師会の先生方と救急の入り口業務を共有することで、顔の見える関係が作れます。そうなればもっと連携の絆が深まるし、本当の意味でのリンケージ(繋がり)ができると期待しています」。
 救急の入り口対策と同時に、ベッドの回転率を上げることも重要だ。ただし、政策的に在院日数を短縮するのは反対というのが渡邊院長の持論である。「平均在院日数を短くするために、術後の抜糸もせずに家へ帰すのは正しい医療と言えるでしょうか。ある一定の“治った”というレベルまで治療し、退院してもらうのが本来の医療ですし、そこに主眼を置いています」。
 もちろん、それは最終的な治癒までを全部、同院が行うという意味ではない。たとえば急性期リハビリテーションの終了後は回復期病院へ送る、外科の手術が終わり、退院の目処がついたら、術後管理は診療所に任せるなど、役割分担を明確にした病病連携・病診連携に力を注ぐ。一つの施設で完結する医療ではなく、救急の入り口、出口の双方において強固な連携体制を築くことで、連続した医療を提供していこうとしている。

連携先の一つ、東海記念病院の強力な後方支援。

img_5585 病病連携のケーススタディとして、春日井市にある医療法人社団喜峰会・東海記念病院との連携がある。両院は4年ほど前から病病連携会議を通じて関係強化を図り、トップ同士の交流を深めてきた。その距離を一気に縮めたのが、東海記念病院の岡山政由理事長の表明だった。「昨年1月、有三さん(渡邊院長)の自宅に電話して、病院の方針として、基幹病院の後方支援の役割、そして診療所や施設の駆け込み寺的な役割を担うことを発表しますので、どうぞよろしくお願いします、とお伝えしました」。
 岡山理事長がこのように決意表明をしたのは、「今ある病院機能を最大限に発揮して基幹病院を支えることで地域に貢献していこう」と考えたからだ。同院は18診療科と総合リハビリテーションセンターを備え、病床199床を有している。もともと救急医療に力を入れていたが、大学医局の引き上げなどから医師不足に陥り、縮小せざるを得なくなった。しかし、常勤医は潤沢ではないものの、大学病院のバックアップによる非常勤医師が各診療科にそろっている。24時間365日の救急医療はできないが、一般的な疾患に対応できる能力を備えていることが、岡山理事長の決断を引き出したのだ。

 

img_5132 「昼間帯であれば、高齢者の大腿骨頸部骨折など当院で対応できる症例については、市民病院で診断した後、即日転送していただいています。夜間であれば、市民病院で一晩泊まり、翌日うちへ送ってもらうといった連携もできます。今後は、人工関節や消化器など当院の得意分野においても、患者さんを引き受けていきたいですね」と岡山理事長は話す。また、救急の出口においても、市民病院の退院患者を亜急性期・回復期の病棟で積極的に受け入れている。こうした連携病院がさらに増えれば、基幹病院という「点」ではなく、「面」で医療を支えていく体制が構築されるだろう。

病診・病病連携に加え、研修医の派遣を通じて地域と繋がる。

img_5219 休日夜間診療所の建設など医師会との連携、そして東海記念病院をはじめとする地域医療機関との連携。この二つに加え、もう一つ、春日井市民病院が力を注いでいるのが、研修医の派遣を通じたネットワークづくりだ。
 同院では研修協力施設として、心身障害児の医療機関、精神科病院、回復期リハビリテーション病院、訪問看護ステーションなどを設定し、1〜2週間ずつ研修医を派遣している。この狙いは「障害者の治療や在宅療養など、急性期以外のことを、研修医に勉強させるため」であり、「後方のことを知らなくては急性期病院は生き残れない」という渡邊院長の強い信念からだ。研修医教育の舞台を地域へと広げることで、在宅療養分野のスタッフとの「顔の見える関係づくり」にも役立っているという。
 病診連携と病病連携、研修医教育という三段構えで、春日井市民病院は地域の医療機関や施設としっかり繋がり、シームレスな医療提供をめざす。その先には、地域住民が安心して暮らせる地域完結型医療の構築という大きな目標がある。

 


 

column

-83r83898380●平成26年の開設をめざし、春日井市民病院の隣接地に建設の進む「春日井市総合保健センター(仮称)」。もともと春日井市役所の近くにあった休日・平日夜間急病診療所(健康管理センター)を新築移転し、休日・平日夜間急病診療と市民の保健予防を両輪とする総合的な健康づくりのための新たな拠点施設である。

●この建設により、一次救急を担う急病診療所と二次救急を担う市民病院の連携体制はいっそう強固になる。具体的には、ウォークイン患者については医師会の医師が急病診療所で診察。そのなかで入院の必要な患者を迅速に病院へと運ぶシステムを作る計画だ。市民病院の救急医療の負担軽減だけでなく、患者にとっても、症状が悪ければ、すぐに診てもらえる安心感は非常に大きいと言えるだろう。

 

backstage

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●「救急を断らない病院」として地域住民の信頼を集める春日井市民病院。その評判を裏付けるように、救急外来には連日のように、数多くのウォークイン患者が訪れる。そのなかには、症状が軽いにもかかわらず通常の診療時間外に受診する「コンビニ受診」も含まれており、さらに救急車の不適正な利用も問題視されている。

●病院は地域の限られた医療資源を活用すべく、病病連携・病診連携を強力に推進し、すべての救急患者、紹介患者を受け入れる努力を続けている。しかし、どれほど充実した受療環境を整えても、地域住民の適切な受診行動がなければ、地域の救急医療は成り立たない。かかりつけ医を持つなど、住民一人ひとりが病院の正しい利用方法を認識することが、地域完結型医療体制の構築に欠かせない前提条件と言えるだろう。

 


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