4,315 views

病院を知ろう

最先端の遺伝子研究と、
地域の中での多職種ネットワークで
生活習慣病に立ち向かう。

 

 

岐阜大学医学部附属病院


生活習慣病のフロンティアを開拓し、
地域全体のチーム医療で
患者を支えていく。

main

働き盛りの人に多い糖尿病の悩み。
その原因は、不適切な生活習慣と遺伝的な体質にあることが、最新の研究で明らかになってきた。
実は、その分野で世界をリードしている研究拠点が、ここ岐阜大学医学部附属病院(以下岐大病院)である。
一歩先を行く糖尿病研究をベースにして、「オール岐阜体制」で糖尿病診療に取り組む地域ネットワークづくりを進めている。

 

 

 

 

 

糖尿病の遺伝子研究のメッカとして。

 生活習慣病の代表格である糖尿病。すい臓で作られるインスリン(血糖値を下げるホルモン)の働きが不足することで、血液中のブトウ糖(血糖)が多くなる病気だ。進行すると、網膜症、腎症、神経障害などを合併し、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こす原因にもなる。
Plus顔写真 この糖尿病の遺伝子研究における第一人者が、岐大病院の糖尿病代謝内科 科長、武田 純医師(岐阜大学大学院医学系研究科 教授)である。武田医師は、ヒトゲノム(人間が持つすべての遺伝情報)の解析が始まる前から糖尿病になりやすい「体質」に着目し、手探りで遺伝子研究に取り組んできた。彼が着目した点は、日本人は欧米人に比べて痩せていて、インスリン分泌が不足しているケースが多いこと。その背景を探るために、日本人特有の原因遺伝子を見つけようとしたが、当時、留学先の米国で提案したアイデアは奇抜で相手にされなかったという。しかし、武田医師は独自の工夫でこつこつ研究を重ね、平成4年、世界で初めて、若年糖尿病(強い遺伝で発症するタイプ)の原因遺伝子を発見。英国の科学雑誌『ネイチャー』に発表し、一躍世界から注目を集めた。その後も多くの遺伝子異常を発見し、武田医師の研究は日本のIMG_8935「戦略的創造研究推進事業(※)」に採択され、本格的な研究が進められた。その結果、一連の国際的な研究成果に対し、平成27年、日本糖尿病学会の学会賞が授与された。大学の研究室は全国からの遺伝子診断の依頼を受けており、昨年病院に設立された遺伝子診療部を窓口にしている。糖尿病に「なりやすい体質」があらかじめわかれば、食生活などを改善して予防でき、また、体質に応じた新しい薬の開発も可能になる。「まだ一般の2型糖尿病の原因にたどりつけていない」ということだが、その研究に大きな期待が寄せられている。

※戦略的創造研究推進事業(CREST)は、日本の社会的・経済的ニーズの実現に向けた国策の戦略目標に対して設定されるチーム型研究。

 

 

糖尿病のチーム医療を県全域に展開する。

 IMG_8910 糖尿病の原因を解明したい。高い志を持って基礎研究に取り組んだ武田医師が、岐大病院の臨床現場に移ってきたのは、平成13年。武田医師は、前述のCREST事業に取り組むかたわら、同院の糖尿病代謝内科で先進的な糖尿病診療の実践に着手した。
 ここでいう「先進性」とは、いわゆる高度機器を駆使する医療を意味しない。幅広いチーム医療と質の高い療養指導の「調和の提供」である。たとえば、毎年のように登場する新薬の中から、病状に応じた最適な薬物療法を考える。関連する診療科と連携し、早い段階から合併症の予防と治療に取り組む。同時に、他の医療スタッフと協力して食事や運動療法を適切に指導していくことにも重点を置いている。
 院内連携の延長線上で、武田医師が力を注ぐのが地域連携だ。具体的には、日本糖尿病協会(日糖協)の岐阜県支部として、県全域で非専門のホームドクターを対象に、専門診療を補完する「登録医・療養指導医」を育成する事業を推進。同時に、看護師、栄養士、薬剤師、保健師、介護士など、幅広い職種を対象に、岐阜県糖尿病療養指導士(CDE岐阜)の育成も行っている。
 ちなみに、武田医師を初代編集長としIMG_8718て創刊された、療養指導に特化した日糖協の機関誌のタイトルは、『DM Ensemble(ディーエム アンサンブル)』という。DMは糖尿病、アンサンブルは音楽では<緒に演奏する>という意味。糖尿病診療に関わる医療スタッフが個々のパートをしっかりこなし、全体として理想的なハーモニーを奏でていこうという趣旨が、そのネーミングから強く感じられる。

 

 

最先端の地域ネットワークで
糖尿病治療に取り組む。

IMG_8823 武田医師が糖尿病診療において、チーム医療の輪を地域に広げていこうとするのはなぜか。「長年、研究を進めるなかで実感したのは、糖尿病は新しい診断や治療法の開発だけでは充分でない、ということでした。生活習慣が深く関わる糖尿病治療で大事なことは、患者自身の治療に対する意欲を引き出し、多職種がチームを組んで一人ひとりに質の高い療養指導を提供することです。そうした思いから、ここ岐阜県で、どこよりも進んだ連携ネットワークを作ろうと考えました」。
 一般に、糖尿病の初期には自覚症状が乏しいため、受診をやめてしまう人が多い。かなり進行してから再受診し、深刻な合併症と向き合う人も少なくない。そういうことがないように、地域のネットワーク力で工夫を巡らす。「たとえば、治療を中断した人が風邪薬を受け取りにに調剤薬局へ足を運んだとします。そのとき、薬剤師がその人の処方履歴を確認して、『最近、○○先生のところに行っていないようですね…』と声をかければ、通院の再開や継続につながると思うのです」。
 医療機関という「点」ではなく、地域医療という「面」で患者を支え、継続的に指導していこうというのが、同院の作戦。ちなみに「登録医・療養指導医」の育成において、岐阜県内の登録数は全国2位を達成している(日本糖尿病協会・平成27年1月現在)。研究分野だけでなく、地域連携のインフラ整備においても、同院は最先端を突き進んでいる。

 

 

地域連携を強め、
地域住民に最新で最善の医療を届ける。

IMG_8941 地域のホームドクターや多職種と連携し、病気の治療に取り組む。こうした同院の取り組みは、糖尿病の領域に限ったことではない。
  同院は特定機能病院として、先進医療の研究開発を推進する一方で、<地域との医療連携強化>を基本方針に掲げ、地域の医療機関と垣根のないネットワークづくりを進めている。たとえば、脳卒中、心筋梗塞、がん、糖尿病など、主要な疾病ごとに地域連携クリティカルパス(※)を運用し、地域の診療所と協力して、地域の患者に効率よく切れ目のない医療を提供している。
IMG_8741 同院の医療連携センターの副センター長である堀川幸男医師は、「先端医療を追求する病院だからこそ、地域連携が重要」と強調する。「私たちがどれほど優れた研究成果をあげたり、新しい医療技術を開発したとしても、それを生活者に届けることができなければ意味がありません。患者さんにとって最も身近なホームドクターとしっかり連携することで、最先端の医療を確実に患者さんの元に届けようと考えています」。 
 「診療・教育・研究」という特別な使命を担う大学病院は、地域の医療機関や住民にとって敷居が高い存在に思われがちだ。しかし、同院はそのイメージを払拭すべく、地域ニーズに耳を傾け、多くの医療機関とフラットな関係づくりに邁進している。その根底にあるのは、地域住民に「最新で最善の医療を提供したい」という並々ならぬ情熱である。

※「地域連携クリティカルパス」は、病院や診療所の医師が連携し、患者が退院後も継続して質の高い医療を受けられるように作成する診療プログラム。

 

 


 

column

コラム

●岐阜県にある大学病院は、岐大病院ただ一つ。県内に一つしか大学病院がないことから、行政や医師会との連携もスムーズであり、同院は県の医療施策を積極的に推進している。

●たとえば救急医療においても、岐阜県と同院がタッグを組んで、高度な体制を構築している。平成16年に多発外傷や熱傷などの三次救急患者を受け入れる高次救命治療センターを開設。他の医療機関・救命救急センターで対処できない患者も積極的に受け入れ、24時間体制で高度な診断・治療を行っている。また全国に先駆けて岐阜県と協定を締結して、岐阜県消防防災ヘリによるドクターヘリ的運用を開始。平成23年2月から、岐阜県のドクターヘリ事業の基地病院として本格運用を開始し、岐阜県全域からの救急患者を受け入れる命の砦として機能している。

 

backstage

バックステージ

●糖尿病患者の数は、予備軍を含めると、全国で約2050万人と推計されている(平成24年度国民健康・栄養調査:推計)。岐阜県においても患者数は増えており、予備軍も含めると約30万人にのぼる。それだけ多くの患者に対応するには、限られた専門医だけでは到底マンパワーが足りず、専門診療を補完する仕組みが必要である。

●岐阜県糖尿病協会(院内に事務局、武田医師が会長)は、非専門医を対象とした「登録医・療養指導医」の制度と同様に、非専門の地域コメディカルを対象とした「CDE岐阜」を育成し、県内の病診連携を深めている。

●岐大病院が、チーム医療の輪を地域に広げていこうと考えた理由の一つも、そこにある。岐阜県の全域で糖尿病に精通した医療スタッフを育成し、地域全体の診療スキルを底上げすることで、県内の医療の質の均てん化を図っている。病院が地域の人材を育てる取り組みは、これからの超高齢社会の医療ネットワークを考える上でも、大きなヒントになるのではないだろうか。

 


4,315 views